自転車事故は本当に減っているのか 交通事故統計と移動データで見る日本の足元
自転車事故は、直近では減っています。警察庁によると、自転車関連交通事故は2023年の7万2,339件から2024年は6万7,531件に減り、2025年も6万7,470件とわずかながら減少しました。
ただし、これで「自転車の危険が大きく後退した」とまでは言えません。交通事故全体が縮むなかでも、自転車関連事故の比率は2024年に23.2%と高水準で、都市の移動データを見ると自転車の利用シェア自体はむしろ下がっているからです。
- 直近の結論: 件数は減少、存在感はなお大きい
- 2023年から2024年: 自転車関連事故は7万2,339件から6万7,531件へ減少
- 2025年: さらに6万7,470件で、2024年比ではほぼ横ばい
- 利用動向: 公表済みの全国都市交通特性調査では、2021年時点で自転車の交通手段分担率は2015年より低下
使用データと比較条件
今回見たのは、次の2種類の公的データです。
- 警察庁の交通事故統計
- 対象: 全国
- 主に使用した年: 2023年、2024年、2025年
- 見た指標: 自転車関連交通事故件数、全交通事故に占める割合、事故類型、違反状況
- 国土交通省「全国都市交通特性調査」
- 対象: 全国の抽出都市
- 比較年: 2015年度と2021年度
- 見た指標: 交通手段分担率、都市圏別の移動手段、在宅勤務実施割合
ここで注意したいのは、事故統計は毎年集計される一方、移動手段の調査は概ね5年ごとのサンプル調査だという点です。つまり、事故件数の年次変化と、移動行動の変化は、同じ精度・同じ周期では並びません。
まず答え 自転車事故は減ったが、強く減ったとは言いにくい
数字だけを先に並べると、流れははっきりしています。
- 2023年の自転車関連交通事故: 7万2,339件
- 2024年の自転車関連交通事故: 6万7,531件
- 2025年の自転車関連交通事故: 6万7,470件
2023年から2024年には4,808件減りました。減少率は約6.6%です。2024年から2025年は61件減で、ほぼ横ばいでした。
一方で、交通事故全体は2023年の30万7,930件から2024年は29万895件へ減っています。自転車関連事故の構成比は2023年の23.5%、2024年の23.2%でした。件数は減っても、全体の4件に1件近くで自転車が当事者になっている状態は続いています。
ここがポイント: 自転車事故は「増え続けている」とは言えません。ただし「かなり減ったので心配が薄れた」とも言いにくく、全事故に占める比重は依然として高いままです。
主要な数値
全体事故と自転車事故を並べるとどう見えるか
- 全交通事故件数
- 2023年: 30万7,930件
- 2024年: 29万895件
- 自転車関連交通事故件数
- 2023年: 7万2,339件
- 2024年: 6万7,531件
- 2025年: 6万7,470件
- 全交通事故に占める自転車関連事故の割合
- 2023年: 23.5%
- 2024年: 23.2%
2024年は全体事故も自転車事故も減りました。ただ、自転車だけが大きく改善したという形ではありません。事故総数が縮むなかで、自転車事故はなお6万件台後半に残っています。
事故の中身はどうか
2024年の自転車乗用中の死亡・重傷事故では、自転車側に何らかの法令違反があったケースが5,375件、違反なしが1,750件でした。警察庁は約75%に自転車側の違反があったとしています。
また、警察庁の自転車ポータルでは、自転車と自動車の事故が年間約5万件で自転車関連事故の約8割を占めると整理しています。自転車と歩行者の事故では、歩行者が死亡または重傷となった事故の多くが歩道上で起きています。
この数字が示すのは、自転車事故の論点が単なる件数の増減ではなく、交差点、歩道、車との接触、ルール違反に集中していることです。
移動手段はどう変わったか
事故だけを見ると、自転車が増えたから事故が増えたのか、減ったから事故も減ったのかは分かりません。そこで、移動手段のデータを重ねます。
全国の都市では、自転車シェアはむしろ下がっている
国土交通省の全国都市交通特性調査の速報版では、全国の都市における平日の交通手段分担率は次のように変わりました。
- 自転車・二輪車
- 2015年度: 16.2%
- 2021年度: 14.4%
- 自動車
- 2015年度: 45.0%
- 2021年度: 46.3%
- 鉄道
- 2015年度: 16.4%
- 2021年度: 14.2%
休日も、自転車・二輪車は11.7%から10.6%へ下がっています。
つまり、少なくとも公表済みの最新都市データでは、自転車の利用シェアが大きく伸びた姿は見えません。むしろ、鉄道が減り、自動車が少し増え、自転車も下がった年です。
地方都市圏の落ち込みが大きい
都市圏別に見ると、平日の自転車・二輪車分担率はこうです。
- 三大都市圏
- 2015年度: 16.3%
- 2021年度: 15.5%
- 地方都市圏
- 2015年度: 16.1%
- 2021年度: 13.2%
差が大きいのは地方都市圏です。自転車のシェアが約3ポイント下がる一方、自動車は58.6%から61.0%へ上がっています。
この変化は、単に「自転車離れ」と決めつけるより、2021年度調査の時点で移動総量そのものが落ちていたこと、自動車への回帰が地方で強かったことと合わせて読む方が自然です。
在宅勤務も無視できない
同じ調査では、平日の就業者の在宅勤務実施割合は三大都市圏で15.7%、地方都市圏で5.2%でした。
通勤そのものが減れば、鉄道も自転車も歩行も一緒に減りやすくなります。2021年度の交通手段分担率は、コロナ禍後の働き方の変化を強く含んだ数字として読む必要があります。
ここから何が言えるか
事実として言えることと、言い過ぎになることは分けておきたいところです。
事実として言えること
- 自転車関連事故は2024年、2025年と減少または横ばいになっている
- ただし件数は依然6万7千件前後あり、水準は低くない
- 2024年も全交通事故の23.2%を自転車関連事故が占めた
- 公表済みの都市交通データでは、自転車の分担率は2015年度より2021年度の方が低い
- 自転車事故の中心は、自動車との接触や交差点周辺の事故である
そこから慎重に読むべきこと
- 「自転車利用が減ったから事故も減った」とまでは断定できない
- 「自転車事故が減ったから安全性が大きく改善した」とも言い切れない
- 事故件数の横ばい感は、利用量そのものより、走行環境や交差点での接触リスク、違反行動の残存を映している可能性がある
特に重要なのはここです。もし利用シェアが下がっているのに事故の存在感が高いままなら、課題は「自転車に乗る人が多すぎること」より、どこで、誰と、どうぶつかっているかにあります。
誤読しやすい点と限界
事故統計だけでは「利用量」は分からない
交通事故統計は、事故が起きた結果を集計したものです。自転車の延べ走行量や走行距離そのものは分かりません。事故件数が減っても、利用量がもっと大きく減っていれば、相対的な危険度は別の見え方になります。
移動データは2021年度が最新の公表済み基準
全国都市交通特性調査は概ね5年ごとの調査で、現時点で公表済みの比較データとして使いやすいのは2015年度と2021年度です。2025年度調査は実施されていますが、この記事執筆時点では、その集計結果を前提にした比較はできません。
「自転車」と「二輪車」がまとまっている表がある
全国都市交通特性調査の速報版では、一部の分担率が「二輪車」とまとまって表示されています。厳密には自転車だけを完全に切り出した比較ではない点に注意が必要です。
これから見るべきポイント
今後の見どころは、件数の増減そのものより、次の3点です。
- 2025年度の全国都市交通特性調査が公表されたとき、自転車分担率が2021年度から戻ったのか
- 自転車と自動車の事故が多い交差点や右左折場面で、件数がどこまで下がるのか
- 2026年4月1日に始まった自転車の交通反則通告制度が、違反行動と事故件数の両方にどう表れるのか
自転車事故は、足元では減っています。けれど、数字を丁寧に追うと、問題の中心は「件数が増えたか減ったか」だけではありません。利用シェアが下がっても事故の比重が高いままなら、次に見るべきなのは走行環境と接触場面の改善です。
