歩行者事故はどこで起きやすいのか 年齢別データで見えた「横断中」と「横断歩道外」の危険
歩行者事故が起きやすい場所を公的データで追うと、答えはかなりはっきりしています。最も事故が集中しているのは、歩行者が道路を横断している場面で、しかも横断歩道の外が目立ちます。
年齢で見ると、傾向は一つではありません。小学生は低学年ほど歩行中の事故割合が高く、下校時の事故が多い一方、高齢者は死亡事故が横断中に偏り、自宅近くでの横断歩道外事故が大きな比重を占めています。
- 2025年の歩行中死者は867人で、約7割の608人が65歳以上
- 警察庁による過去5年集計では、歩行者死亡事故4,158件のうち約7割の2,843件が横断中
- その横断中事故のうち、約6割の1,784件は横断歩道以外で発生
- 子どもでは、歩行中の死傷が低学年に偏り、児童の歩行中事故は下校時が最多
ここがポイント: 歩行者事故は「歩いているだけの全場面」に均等に起きているわけではありません。危険は、子どもなら下校や飛び出し、高齢者なら横断歩道外の横断と自宅近くに、かなり集中しています。
使ったデータ
今回使ったのは、主に次の公的・準公的資料です。
- 警察庁「令和7年における交通事故の発生状況について」 2025年(令和7年)の年間確定値ベースの死者・重傷者データ
- 警察庁「令和8年春の全国交通安全運動を見据えた交通事故分析」 2021年から2025年までの合算で、幼児・児童・生徒の死者・重傷者を分析
- 警察庁「横断歩道は歩行者優先です」 2021年から2025年までの歩行者死亡事故の横断中・横断歩道外の状況
- ITARDA「高齢歩行者の横断中事故はどう変わったのか」 2015年と2024年の高齢歩行者死亡事故を比較
- ITARDA「夜間に横断歩道のない場所を横断中の事故の特徴」 2018年から2022年の合算で、横断歩道のない場所での事故形態を分析
ここで注意したいのは、資料ごとに対象年と集計単位が違うことです。2025年の年間死者数と、2021年から2025年の死者・重傷者合算は、そのまま横並びにはできません。この記事では、最新年の全体像と、複数年集計で見た年齢別・場所別の偏りを分けて読んでいます。
まず全体像 事故は「横断中」に偏っている
警察庁の2021年から2025年までの集計では、自動車と歩行者が衝突した交通死亡事故は4,158件でした。このうち2,843件、約7割が歩行者の横断中です。
さらに重要なのは、その横断中事故の中身です。
- 横断中事故2,843件のうち、1,784件が横断歩道以外
- 横断歩道以外での横断中事故のうち、約7割で法令違反あり
つまり、「歩行者事故は交差点でも路肩でも均等に起きる」というより、道路を渡る瞬間、とくに横断歩道ではない場所での横断に危険が集まっていると読めます。
年齢別に見ると、危険な場面は違う
子どもは低学年ほど「歩行中」が多い
警察庁の2021年から2025年合算データでは、小学生は低学年ほど歩行中事故の割合が高くなっています。
- 小学1年生: 死者・重傷者559人のうち、歩行中415人(74.2%)
- 小学2年生: 632人のうち、歩行中438人(69.3%)
- 小学3年生: 618人のうち、歩行中360人(58.3%)
- 小学6年生: 528人のうち、歩行中167人(31.6%)
高学年になると自転車事故の比重が上がるため、歩行中事故の割合は下がります。逆に言えば、歩いて移動する比率が高い低学年ほど、歩行者事故の影響を受けやすいということです。
歩行中の事故場面も偏っています。児童の歩行中死者・重傷者1,842人の通行目的では、最多は下校477人(25.9%)でした。幼児では411人のうち遊戯98人(23.8%)が最多です。
法令違反等別では、児童は飛出し563人(31.3%)、幼児は飛出し150人(38.6%)が最も多くなっています。通学路だけでなく、住宅地の短い移動や遊びの延長で道路に出る場面が危ないことを示しています。
高齢者は死亡事故の中心にいる
一方、死亡事故で存在感が大きいのが高齢者です。警察庁の2025年データでは、歩行中死者867人のうち608人が65歳以上で、構成比は70.1%でした。
その608人の事故類型を見ると、危険はさらに絞れます。
- 横断中442人(72.7%)
- うち横断歩道横断中159人(26.2%)
- うち横断歩道以外横断中283人(46.5%)
高齢歩行者の死亡事故は、単に「歩いている高齢者が多い」のではなく、道路横断の場面、とくに横断歩道の外に集中しています。
「どこで起きやすいか」を場所で絞る
1. 横断歩道のない場所
ITARDAが2024年の高齢歩行者死亡事故を整理した資料でも、傾向は同じです。高齢歩行者の死亡事故608人の内訳は、その他横断中41%、横断歩道横断中26%、横断歩道付近横断中7%でした。
2015年と2024年を比べても、横断歩道以外の場所を横断中に死亡する割合は、約54%から約49%へ下がったものの、なお半数近くを占めています。大きく構図が変わったとは言えません。
2. 自宅近く
同じITARDA資料では、横断歩道以外を横断中に亡くなった高齢歩行者は、2015年も2024年も自宅から500メートル以下が最多でした。次いで50メートル以下、100メートル以下が続きます。
これは遠出の移動より、買い物、訪問、散歩など日常圏の短い移動で事故が起きやすいことを示します。生活道路の安全対策を考えるとき、幹線道路だけ見ていても足りません。
3. 夜間、信号なし、単路
ITARDAの別資料では、横断歩道のない場所を横断中の事故を2018年から2022年の合算で分析しています。1当が乗用車の直進事故に絞ると、事故発生場所は次の通りでした。
- 信号なし 96%
- 道路形状は単路51.6%
- みなし単路20.8%
- 交差点24.1%
しかも、横断歩道のない場所を横断中の事故は、夜間の直進車で死亡重傷事故率が特に高いとされています。
ここで見えてくるのは、歩行者事故の危険地点が「大きな交差点」だけではないことです。むしろ、信号がなく、車が減速しにくい直線的な道路で、歩行者が横断に入った場面が重くなりやすいと読めます。
データから読み取れること
このテーマでまず押さえたいのは、年齢別に対策の重点が違うことです。
- 子ども: 通学路だけでなく、下校時の住宅地移動や遊びの延長の飛出しが大きい
- 高齢者: 横断歩道外の横断と自宅近くの生活圏が核心になる
- 全年齢共通: 横断中が最大の事故場面で、横断歩道外が重い
- 夜間の特徴: 信号なし・単路・直進車の組み合わせで被害が大きくなりやすい
つまり、「歩行者を守る」という言葉を具体化すると、やるべきことはかなり絞れます。生活道路の横断環境、下校動線の見通し、夜間の視認性、横断歩道へ誘導する設計です。
誤読しやすい点と限界
この種のデータには、いくつか注意点があります。
- 2025年の年間資料は主に死者数の把握に強く、子どもの資料は死者・重傷者の合算です
- ITARDAの分析資料は、単年ではなく複数年合算や比較年限定のものがあります
- 「起きやすい場所」は件数ベースであり、通行量や横断人数で割った曝露リスクではありません
- 「横断歩道外が多い」ことは事実ですが、それだけで個人の不注意だけに原因を還元するのは無理があります。道路構造、照明、速度、視認性も大きいからです
特に、件数だけでは「その場所が危険」なのか「利用者が多い」から件数が多いのかを完全には分けられません。事故件数は入口であって、原因の断定まではできません。
次に見るべきポイント
歩行者事故を減らすうえで、今後の注目点はこの3つです。
- 小学校低学年の下校動線で、横断歩道まで回らず渡ってしまう場所がないか
- 高齢者の日常動線で、店・病院・住宅の近くに無信号横断が集中していないか
- 夜間の生活道路で、照明、見通し、速度抑制が足りない区間が残っていないか
歩行者事故は「道路全体」で同じように起きているわけではありません。横断中、横断歩道外、生活圏の短い移動という偏りを押さえるだけで、見るべき場所はかなり具体的になります。
