地方の鉄道利用はコロナ前の98%まで回復 九州・北海道が先行、四国はなお9%下回る
地方の鉄道利用は、全体としてコロナ前の水準にかなり近づきました。国土交通省の鉄道輸送統計を同じ地域区分で比べると、地方圏の旅客数は2019年度の約20億人から、2024年度には約19.6億人となり、回復率は約98%です。
ただし、すべての地方が同じように戻ったわけではありません。九州と北海道は2019年度の水準に到達した一方、四国は約9%、東北は約4%下回っています。
- 使用データ:国土交通省「鉄道輸送統計調査」2024年度年報、広域国土・対流報告
- 比較期間:コロナ前の2019年度と、最新年報の2024年度
- 対象:JR、民鉄、公営鉄道、軌道を含む鉄・軌道旅客数
- 主な結論:地方圏全体は約98%まで回復したが、地域別には約91~111%の開きがある
使用データと比較方法
今回は「駅の利用者数」ではなく、鉄道・軌道事業者が運んだ旅客数を比較します。
2024年度の数値は、国土交通省が2025年10月30日に公開した鉄道輸送統計調査の年報から取得しました。調査対象は、鉄道事業法や軌道法に基づく鉄道事業者・軌道経営者です。
コロナ前の2019年度については、同じ統計を基に地域別推移を整理した国土交通省の広域国土・対流報告を使っています。
この記事でいう「地方圏」
地方圏には、次の7地域を含めました。
- 北海道
- 東北
- 北陸信越
- 中国
- 四国
- 九州
- 沖縄
関東、中部、近畿は大都市圏として分けています。なお、国土交通省の地方運輸局区分では、新潟県と長野県は北陸信越、福井県は中部に入ります。
「旅客数」は延べ人数
旅客数は、1年間に鉄道を利用した延べ人数です。同じ人が通勤で何度も乗れば、その都度計上されます。また、乗り換えによる事業者間の重複も含まれます。
したがって、人口に占める利用者の割合を示す数字ではありません。「鉄道を使った移動がどの程度戻ったか」を見る指標です。
地方圏全体はコロナ前の約98%
地方の鉄道利用は「戻っていない」と一括りにできる状態ではなく、コロナ前まで残り約2%です。
地方圏の旅客数は、2019年度の約20億人から2020年度に約14.6億人へ減少しました。落ち込みは約27%です。その後は、2021年度約15.4億人、2022年度約17.3億人と回復が続き、2024年度には約19.6億人まで戻りました。
- 2019年度:約20.00億人
- 2020年度:約14.62億人
- 2021年度:約15.43億人
- 2022年度:約17.29億人
- 2024年度:約19.63億人
- 2019年度比:約98.1%
2023年度の地方圏合計は、今回参照した地域別長期推移資料には掲載されていないため、上の推移では省いています。2024年度の地方圏合計は、年報の各地域を合算した値です。
一方、関東・中部・近畿を合計した大都市圏は、2019年度の約222.5億人に対し、2024年度は約214.6億人。回復率は約96.5%でした。
今回の区分では、地方圏のほうが大都市圏よりコロナ前への戻りが約1.6ポイント進んでいます。ただし、地方圏は全国旅客数の1割未満です。比率が高くても、輸送量そのものは大都市圏と大きく異なります。
ここがポイント: 地方鉄道は全体でコロナ前の約98%まで戻りました。しかし、これは各路線の経営が一様に改善したことを意味しません。地域別、定期・定期外別、旅客人キロを分けて見る必要があります。
地域別では九州・北海道が先行
2019年度の旅客数を上回ったのは九州と沖縄で、北海道はほぼ同水準まで戻りました。
以下の回復率は、2019年度の公表値が百万人単位に丸められているため概算です。
| 地域 | 2019年度 | 2024年度 | 2019年度比 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 約3.73億人 | 約3.73億人 | 約100.1% |
| 東北 | 約2.99億人 | 約2.87億人 | 約95.9% |
| 北陸信越 | 約2.09億人 | 約1.98億人 | 約94.7% |
| 中国 | 約3.23億人 | 約3.07億人 | 約95.1% |
| 四国 | 約0.87億人 | 約0.80億人 | 約91.4% |
| 九州 | 約6.89億人 | 約6.96億人 | 約101.0% |
| 沖縄 | 約0.20億人 | 約0.22億人 | 約111.1% |
九州は地方圏で最大、コロナ前を約1%上回る
九州の2024年度旅客数は約6億9,606万人で、地方圏7地域の合計の約35%を占めます。2019年度の約6億8,900万人を約1%上回りました。
2024年度だけを見ても、九州は前年度比5.0%増です。地方圏の中では規模が大きく、増加分も地方圏全体の回復に強く効いています。
ただし、この統計だけで増加の理由を特定することはできません。通勤・通学、観光、出張、沿線開発、新線効果などが重なり得るためです。原因を調べるには、路線別輸送人員や定期・定期外の内訳を追加で確認する必要があります。
北海道はほぼ2019年度水準
北海道は2019年度、2024年度とも約3億7,300万人です。2020年度には約2億6,700万人まで減りましたが、2024年度にはコロナ前とほぼ同水準へ戻りました。
2024年度は前年度比5.6%増。定期旅客が4.1%増、定期外旅客が6.7%増となっており、日常利用より定期外の伸びが大きい点が特徴です。
東北・北陸信越・中国は95%前後
3地域は、いずれも2019年度比でおおむね95%前後です。
- 東北:約95.9%
- 北陸信越:約94.7%
- 中国:約95.1%
ただし、直近1年の動きには差があります。2024年度の前年度比は東北2.4%増、中国3.4%増に対し、北陸信越は4.7%増でした。
北陸信越では定期旅客が0.6%増にとどまる一方、定期外旅客は11.4%増えています。日常的な通勤・通学よりも、それ以外の移動が回復を押し上げた形です。
四国は回復率が最も低い
四国の旅客数は、2019年度の約8,700万人に対し、2024年度は約7,954万人。回復率は約91.4%で、地方圏7地域の中では最も低くなりました。
2024年度の前年度比も1.7%増にとどまります。定期旅客は0.3%増、定期外旅客は3.5%増でした。回復は続いているものの、コロナ前との差を1年で埋めるほどの伸びではありません。
沖縄の111%は規模にも注意
沖縄は2019年度の約2,000万人から2024年度の約2,223万人へ増え、回復率は約111%です。2024年度だけでも前年度比11.4%増でした。
伸び率は地方圏で最大ですが、対象となる鉄軌道は沖縄都市モノレールで、旅客数の規模は九州の約3%です。小さい母数では、同じ人数の増加でも変化率が大きくなります。割合だけで地域交通全体の回復度を判断するのは適切ではありません。
全国では23.4億人ではなく233.8億人
単位を取り違えると、鉄道市場の規模を10分の1に誤読します。
2024年度の全国旅客数は233億7,734万人です。年報の表は「千人」または「百万人」で表示されているため、数字を引用するときには単位の確認が欠かせません。
全国の推移は次の通りです。
- 2019年度:251億8,973万人
- 2020年度:176億6,966万人
- 2021年度:188億539万人
- 2022年度:210億5,353万人
- 2023年度:226億1,383万人
- 2024年度:233億7,734万人
2024年度は前年度比3.4%増ですが、2019年度比では約92.8%です。つまり、全国ではなお約18.1億人分がコロナ前を下回っています。
地方圏の回復率が全国より高いのは、首都圏の旅客数がまだ大きく下回っているためです。関東の2024年度旅客数は約150.3億人で、2019年度の約164.5億人に対して約91.4%。減少人数は約14.2億人に上り、全国の未回復分の大部分を占めます。
定期外が回復を先導している
2024年度は通勤・通学より、買い物、観光、出張などを含む定期外利用の伸びが大きくなりました。
全国の2024年度旅客数を前年度と比べると、定期は2.6%増、定期外は4.3%増でした。
- 定期:約128.9億人、前年度比2.6%増
- 定期外:約104.9億人、前年度比4.3%増
地方でも同じ傾向が目立ちます。北海道、東北、北陸信越、中国、四国では、いずれも定期外の伸び率が定期を上回りました。
一方、定期外には観光客だけでなく、普通乗車券や回数券などによるさまざまな移動が含まれます。「定期外が増えたから観光回復が原因」とまでは言えません。観光との関係を見るなら、宿泊旅行統計や駅別・路線別データを重ねる必要があります。
旅客数が戻っても地方路線の課題は消えない
地域全体の延べ旅客数と、個々のローカル線の持続可能性は別の問題です。
地方運輸局単位の集計には、県庁所在地の都市交通、新幹線、観光路線、地域鉄道など性格の違う路線が含まれます。利用が多い都市部の路線が伸びれば、利用の少ない区間が減っていても地域全体は回復して見えます。
さらに、旅客数は乗車距離を反映しません。1駅だけ乗っても、数百キロ移動しても「1人」です。輸送規模や収入への影響を考えるときは、人数に距離を掛けた「旅客人キロ」も重要になります。
全国の2024年度旅客人キロは4,070.7億人キロで、2019年度の4,350.6億人キロに対して約93.6%でした。旅客数の回復率約92.8%より少し高く、平均的な移動距離を含む輸送量は人数より戻っています。
それでも、運賃収入や収支は次の条件に左右されます。
- 定期と定期外の構成
- 利用者1人当たりの乗車距離
- 運賃改定
- 電力費、人件費、保守費の変化
- 災害や工事による運休
- 地域内で利用が集中する路線と減少する路線の差
旅客数が2019年度を上回った地域でも、すべての事業者や路線がコロナ前を超えたとは限りません。
比較で注意したい4つの限界
この数字は地域の大きな流れをつかむには有効ですが、県や路線の評価には粗すぎます。
1. 地域間・事業者間の重複を含む
国土交通省は、地方運輸局をまたぐ輸送と事業者間の乗り継ぎについて、重複分を含むと説明しています。各地域の数字を合計しても、全国計とは一致しません。
2. 2019年度値は丸められている
地域別の2019年度値は百万人単位です。この記事の回復率は概算であり、特に沖縄や四国のように母数が小さい地域では丸めの影響が相対的に大きくなります。
3. 運輸局区分は一般的な地方区分と異なる
新潟県と長野県は北陸信越、福井県は中部に含まれます。一般的な「北陸3県」や「甲信越」とは一致しません。
4. 旅客数だけでは利用目的や採算が分からない
延べ人数の増減から、在宅勤務、人口減少、観光需要など個別要因の寄与は切り分けられません。運賃収入や路線収支も、この統計表だけでは判断できません。
次に見るべきは「どの路線で、誰の利用が戻ったか」
地方圏全体の旅客数は、2024年度にコロナ前の約98%まで戻りました。九州と北海道が先行し、東北・北陸信越・中国は95%前後、四国は約91%です。
次の焦点は、地域合計の回復率ではありません。
- 定期外の増加が2025年度以降も続くか
- 四国と東北がコロナ前との差を縮められるか
- 九州の増加が都市部、新幹線、地域路線のどこで起きているか
- 旅客数の回復が旅客人キロや運賃収入にも表れるか
- 人口減少地域の路線で、輸送密度がどう変化するか
生活者にとって重要なのは、地域全体の数字より、日常的に使う路線の本数や接続、運賃が維持されるかどうかです。次に確認すべきデータは、運輸局別の合計ではなく、路線別輸送人員と定期・定期外の内訳です。
