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臓器提供は10年で約1.7倍に――それでも腎移植の登録者が増える理由

緑のリボンと腎臓の模型を配した、臓器提供と移植待機を考えるイメージ。

臓器提供は10年で約1.7倍に――それでも腎移植の登録者が増える理由

日本臓器移植ネットワーク(JOT)の公表表では、臓器提供件数は2015年の91件から2025年の158件へ、10年で約1.7倍になりました。一方、腎臓の移植希望登録者数も同じ期間に12,825人から15,043人へ増えています。

提供が増えたことと、移植を待つ人が減ったことは別です。 年間に発生する提供・移植と、ある時点で登録している人を分けて読むと、増加の実態と残る課題が見えてきます。

この記事で分かることは、次の3点です。

  • 提供件数の増加は、主に脳死下の件数増加によるもの。
  • 腎臓の登録者数は2020年から2025年に約14%増えた。
  • 提供件数、移植件数、登録者数を割り算しても、個人の移植確率や待機年数にはならない。
目次

使用データ――年間の件数と時点の人数を分ける

比較の対象は全国で、通年の変化は2015~2025年、最新の状況は2026年8月末までの公表値で確認します。

使用したのは、JOTの「臓器提供数/移植数」「腎臓移植希望登録者数(居住地、各年末)」「移植希望登録者数」です。2026年10月8日に確認した時点で、月次ページの最新表示は2026年8月31日でした。月次データは月末締めで毎月、腎臓の年末系列は年末締めで毎年更新されます。

指標は、次のように異なります。

  • 提供件数:脳死下と心停止後の提供事例を数えたもの。提供された臓器の個数ではありません。
  • 移植件数:臓器別・同時移植別に集計された実施件数。1件の提供から複数の移植につながることがあります。
  • 現登録者数:集計時点でJOTに登録している人数。年間の新規登録者数でも、移植が必要な人全体の人数でもありません。

今回の提供・移植件数は、亡くなった方からの提供を扱うJOTの集計です。生体移植を含めた国内の移植医療全体の件数とは区別します。

また、提供件数の公表表には、年によって提供に至らなかった事例や、摘出後に医学的理由で移植に至らなかった事例が含まれます。以下は、その注記を含む公表表の値をそのまま比較したものです。

提供件数――10年では増えたが、毎年増え続けたわけではない

臓器提供件数は2015年から2025年に67件、約74%増えましたが、途中には減少した年もあります。

暦年脳死下(件)心停止後(件)合計(件)
2015年583391
2020年69978
2023年13218150
2024年1308138
2025年14612158

出典:JOTの2015年、2020年、2023年、2024年、2025年の公表表。各年1~12月の集計。2020年は提供に至らなかった1件、2023年は提供に至らなかった1件と摘出後に移植に至らなかった1件を含み、2025年にも同種の事例を含む注記があります。

増加を支えたのは脳死下の提供

内訳を見ると、脳死下は58件から146件へ88件増え、約2.5倍になりました。心停止後は33件から12件へ21件減っています。

つまり、合計の増加は両方が一緒に伸びた結果ではありません。脳死下の増加が、心停止後の減少を上回りました。

この違いは、移植につながる臓器の種類を考えるうえでも重要です。厚生労働省の説明では、心臓・肺・肝臓・小腸は脳死下で提供可能な臓器に含まれます。提供件数の合計だけでは、どの臓器の移植機会が変わったのかまでは分かりません。厚生労働省「臓器移植を考える」

暦年と年度では、増減の見え方が変わる

2024年の合計は138件で、2023年より12件少なくなっています。その翌年の2025年は20件増えました。長期的な増加と、毎年の連続増加を同じ意味で使うことはできません。

厚生労働省は脳死下の提供について「令和4年度以降」の増加を説明していますが、この記事の表は1~12月の暦年です。4月~翌年3月の年度集計とは期間が異なります。

登録者数――腎臓では2020年以降も増加が続く

腎臓の移植希望登録者数は、提供件数が増えた期間にも減っておらず、2025年末には15,043人になりました。

JOTの年末系列から、全国の合計を抜き出すと次のようになります。

年腎臓の移植希望登録者数(人)
2015年12,825
2020年13,163
2021年13,738
2022年14,080
2023年14,330
2024年14,741
2025年15,043

2015年から2025年には2,218人、約17%増えました。2020年からの5年間でも1,880人、約14%増えています。提供の増加だけでは、登録者数を減らすところまでは至っていません。

ただし、2015年の値は翌年1月最初の業務日、2016年以降は12月31日時点です。長期比較では、この集計日の違いを踏まえる必要があります。

なぜ移植が増えても登録者が減らないのか

登録者数は、新たに登録する人と、移植・死亡・取消などで登録から離れる人の両方で変わります。

移植を受ける人が増えても、新規登録などの増加がそれを上回れば、年末の登録者数は増えます。逆に、登録者数が減ったとしても、死亡や取消が増えた結果なら、移植機会が改善したとは判断できません。

これは人数の集計上の関係です。今回の年末系列だけでは、新規登録、移植、死亡などが各年の増減にどれだけ寄与したかを分解できません。「病気が増えたから」「提供体制が不十分だから」と原因を一つに絞ることもできません。

ここがポイント: 提供件数は1年間の動き、登録者数はある時点に残っている人数です。提供が増えても登録者数は増え得ます。改善を見るには、移植実績と登録から離れた理由を併せて確認する必要があります。

最新の内訳――腎臓の人数が大きいが、臓器ごとの状況は異なる

2026年8月末の現登録者数は腎臓が15,194人で、他の臓器より大きな規模になっています。

JOTの現登録者数は、次のとおりです。

  • 心臓:772人
  • 肺:627人
  • 肝臓:657人
  • 腎臓:15,194人
  • 膵臓:131人
  • 小腸:10人

腎臓の状況が全体の人数を大きく左右する一方、この一覧の人数順を、そのまま医療上の緊急度の順と読むことはできません。

また、同時移植を希望する人は複数の臓器欄に計上されます。例えば肝腎同時の52人は肝臓と腎臓の両方に含まれます。6つの欄を単純に足しても、重複を除いた人数にはなりません。

「現登録者」は、全員が直ちに移植を受けられる状態ではない

JOTの登録者の現況では、現登録者合計を「希望」と「待機inactive」に分けています。2026年8月末の肺は627人のうち291人、肝臓は657人のうち77人が待機inactiveです。

この区分があるため、現登録者合計を「今すぐ移植の対象となる人」と同じ意味で使うことはできません。記事や資料を比較するときは、現登録者合計なのか、「希望」の欄だけなのかを確認する必要があります。

「年間約4%」――個人の移植確率や待機年数には換算できない

年間の移植実績と登録者数の比率は規模の差を示しますが、個人が移植を受けられる確率を示すものではありません。

厚生労働省は、2026年6月末の登録者を約1万7,000人、2025年に移植を受けた人を636人とし、約4%と説明しています。JOTの2025年の移植件数合計も636件です。

ただし、ここには異なる時点の数字が使われています。2025年の1年間に移植を受けた人と、2026年6月末に登録していた人は、同じ集団を追跡したものではありません。

したがって、次の読み方はできません。

  • 「登録すれば、誰でも毎年4%の確率で移植を受けられる」
  • 「4%の逆数だから、平均25年待つ」
  • 「登録者数を年間移植件数で割れば、個人の順番が分かる」

こうした計算には、登録者が固定され、選定条件も均一という前提が必要です。実際には登録への出入りがあり、臓器別の選定条件や患者の状態も異なります。

2025年には腎臓単独の移植が224件、膵腎同時が29件、肝腎同時が10件ありました。腎臓の登録者と移植実績を比べるときも、単独移植だけを見るのか、腎臓を含む同時移植まで見るのかで分子が変わります。

読み取りの限界――途中経過、累計、地域の人数を混同しない

統計の誤読を避けるには、比較する数字の期間と対象をそろえることが欠かせません。

2026年はまだ通年の数字ではない

JOTの2026年の公表表では、8月末までの提供件数は脳死下112件、心停止後13件、合計125件で、移植件数は518件です。提供件数には、提供や移植に至らなかった事例を含む注記があります。

この125件を2025年の通年158件と比べて「減った」とは言えません。2026年の増減を判断するなら、前年の1~8月とそろえるか、年末の値を待つ必要があります。8か月分を単純に1.5倍しても、それは確定した年間件数ではありません。

累計死亡者数は、その年の死亡者数ではない

登録者の現況ページには、登録開始以来の死亡、取消、移植済なども載っています。これらは年間の件数ではありません。

さらに、JOTは2025年3月に腎臓の死亡者数を見直したと注記しています。累計値の差をそのまま年間死亡者数として使うと、登録データの修正を実際の出来事の増減と取り違えるおそれがあります。

地域の登録者数だけでは、受けやすさは分からない

居住地別の登録者数は、各地域にどれだけの登録者がいるかを把握する資料です。しかし、人数が多い地域を「移植を受けにくい地域」と順位づけることはできません。

その判断には、人口規模に加え、登録者の臓器・年齢・状態、実際の移植実績などが必要です。地域の人数表は、待機期間や個人の移植機会のランキングとは異なります。

次に見る数字――提供の増加が待機の改善につながったか

今後の焦点は、提供件数の増加が、臓器ごとの移植実績と待機状況の改善につながるかです。

厚生労働省は、提供する病院、臓器あっせん機関、移植を実施する病院の3者に対する体制強化を進めています。ただし、件数の推移だけから、それぞれの施策の効果を切り分けることはできません。

更新データでは、次の組み合わせを確認すると変化を捉えやすくなります。

  • 提供件数が増え、移植件数も増えたか:提供の動きが実施につながったかを見る。
  • 登録者数が増えた場合、新規登録と移植実績はどう変わったか:人数の増加だけで悪化と決めない。
  • 登録者数が減った場合、移植による減少なのか:死亡や取消を含めて確認する。
  • 臓器別の差は縮まったか:全体の増加で、各臓器の状況を覆い隠さない。

提供件数が増えたという事実は確認できます。次に必要なのは、その増加が誰の移植機会につながり、待機期間や待機中の死亡がどう変わったのかを、同じ期間・同じ定義で追うことです。

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