小学生の裸眼視力1.0未満は約半世紀で2倍に――2025年度までの学校健診データを読む
裸眼視力が1.0未満の小学生は、1979年度の17.91%から2025年度の36.07%へ、約2倍に増えました。中学生は59.35%、高校生は71.51%に達しています。ただし、最新年度は小中学生で前年を下回っており、長期的な増加と、直近の動きは分けて読む必要があります。
ここでいう割合は、眼鏡やコンタクトレンズを外した状態の視力を基にした指標です。「授業中に見えにくい子どもの割合」や「近視と診断された割合」とは一致しません。
この記事で分かることは、次の3点です。
- 小学生・中学生・高校生で、長期的にどれだけ割合が増えたか。
- 2025年度の学校段階別・男女別の違い。
- 調査時期の変更や指標の定義から、どこまで比較できるか。
使用データは2025年度の学校保健統計、比較対象は全国
2026年10月8日時点で公表されている最新結果は、文部科学省の2025年度(令和7年度)学校保健統計です。
結果の公表日は2026年2月13日。学校の健康診断に基づく統計で、最新年度の調査期間は2025年4月1日から6月30日でした。
本記事の比較条件は次のとおりです。
- 対象地域: 全国。
- 指標: 裸眼視力1.0未満の者の割合。単位は%。
- 比較区分: 小学校、中学校、高等学校。男女計を基本とし、最新年度は男女別も確認。
- 比較期間: 小中学校は1979~2025年度、高校は公式概要に示された1985年度を長期比較の起点とする。
- 直近の比較: 2015、2019、2024、2025年度を使用。2020~2023年度は通常の年度比較から外す。
調査は全国の子ども全員を数える全数調査ではなく、学校を抽出して行う標本調査です。対象は指定された学校に在籍する満5~17歳の幼児・児童・生徒で、年齢は4月1日現在。健康状態調査全体の対象者は314万3,588人でしたが、この人数をそのまま裸眼視力の集計人数として扱うことはできません。文部科学省「調査の概要」
長期では、小学生の割合が17.91%から36.07%へ増えた
小学生では約半世紀の間に、裸眼視力1.0未満の割合が18.16ポイント上昇しました。
下の表は、文部科学省の公表資料に掲載された長期推移の数値と最新値を比較したものです。高校だけ起点が異なるため、増加幅を同じ長さの期間の成績として並べないよう注意が必要です。
| 学校段階 | 比較の起点 | 2025年度 | 増加幅 |
|---|---|---|---|
| 小学校 | 1979年度:17.91% | 36.07% | 18.16ポイント |
| 中学校 | 1979年度:35.19% | 59.35% | 24.16ポイント |
| 高等学校 | 1985年度:51.56% | 71.51% | 19.95ポイント |
出典:文部科学省「令和7年度学校保健統計の公表について」。増加幅は掲載値から計算。長期推移の図と最新結果
「2倍」と「18ポイント増」は、同じ変化の別の表し方
小学生の36.07%を17.91%で割ると約2.01倍です。一方、引き算した差は18.16ポイント。この二つは意味が異なります。
割合を100人当たりに置き換えると、約18人から約36人への変化です。これは規模をつかむための換算で、実際の学級に必ずその人数がいるという意味ではありません。
中学生では、約35人から約59人へ増えています。増加幅は小学生より大きいものの、倍率は約1.69倍。もともとの割合が高いため、増えたポイント数が大きくても倍率は小さくなります。
増えたのは「人数」ではなく「割合」
この表から直接分かるのは、同じ学校段階の集団で、1.0未満に該当する割合が高くなったことです。
該当する子どもの総人数が2倍になった、とは読めません。総人数は児童生徒数にも左右されます。少子化で学校に通う人数が変わる中では、割合の推移と人数の推移を別に確かめる必要があります。
最新年度は、小中学生で低下、高校生で上昇
2025年度はすべての学校段階で一斉に悪化したわけではありません。
| 年度 | 小学校 | 中学校 | 高等学校 |
|---|---|---|---|
| 2015 | 30.97% | 54.05% | 63.79% |
| 2019 | 34.57% | 57.47% | 67.64% |
| 2024 | 36.84% | 60.61% | 71.06% |
| 2025 | 36.07% | 59.35% | 71.51% |
出典:文部科学省「令和7年度学校保健統計の公表について」。全国、男女計。2020~2023年度は調査時期が異なる数値を含むため掲載していません。
2024年度から2025年度への変化は、次のとおりです。
- 小学校:0.77ポイント低下。
- 中学校:1.26ポイント低下。
- 高等学校:0.45ポイント上昇。
しかし、2015年度との比較では小学校が5.10ポイント、中学校が5.30ポイント、高校が7.72ポイント高くなっています。
したがって、最新の小中学校の低下だけで「長期的な増加が解消した」と判断するのは早すぎます。逆に、長期の増加を理由に「毎年悪化している」と説明するのも正確ではありません。標本調査には誤差があり、1年の差だけから持続的な改善や悪化を確定することはできません。
男女別では、いずれの学校段階も女子が高い
2025年度の全国値では、女子の割合が男子を上回り、その差は学校段階が上がるほど大きくなっています。
| 学校段階 | 男子 | 女子 | 女子と男子の差 |
|---|---|---|---|
| 小学校 | 34.09% | 38.14% | 4.05ポイント |
| 中学校 | 56.29% | 62.57% | 6.28ポイント |
| 高等学校 | 67.53% | 75.79% | 8.26ポイント |
出典:鳥取県「令和7年度学校保健統計調査結果」表2-2に掲載された全国値。差は掲載値から計算。男女別の全国比較表
高校女子の75.79%は、およそ4人に3人という水準です。全国の男女計71.51%だけでは見えない違いがあります。
ただし、この男女差の原因は表からは分かりません。学習時間、屋外で過ごす時間、近くを見る作業などを、この数値だけで男女差の理由に結び付けることはできません。
また、小学生と高校生は別の集団です。学校段階別の差は、同じ子どもを追跡して視力の変化を測った結果ではありません。 小学校時点で1.0以上だった子どもの何割が、高校で1.0未満になったかを知るには、個人を継続して調べるデータが必要です。
裸眼視力1.0未満は、近視率や矯正後の見え方とは違う
この指標は裸眼での検査結果をまとめたもので、目の状態や日常の見え方を一つで説明する数値ではありません。
片眼だけ1.0未満でも該当する
文部科学省の用語解説では、両眼または片眼の視力が1.0未満の場合、低い方の視力によって記載します。つまり、両眼とも1.0未満の子どもだけを数えているわけではありません。
また、「1.0未満」には次の異なる区分が含まれます。
- 1.0未満・0.7以上。
- 0.7未満・0.3以上。
- 0.3未満。
合計の割合が同じでも、どの区分が増えているかによって集団の状態は異なります。視力低下の程度まで確かめるなら、合計値に加えて内訳を見る必要があります。文部科学省「用語の解説」
眼鏡を使う子どもも、裸眼の結果で数える
眼鏡やコンタクトレンズを使用している子どもと、使用していない子どもは、統計上区分されています。いずれもここで見るのは裸眼視力です。
したがって、裸眼で1.0未満でも、矯正した状態で十分に見えている場合があります。高校生の71.51%を「7割が黒板を読めない」と置き換えることはできません。
近視との関係はあるが、同じ指標ではない
文部科学省の近視に関する資料では、別の近視実態調査を基に、裸眼視力が低い区分ほど近視の定義に該当する割合が高いことが示されています。一方、裸眼視力1.0未満のすべてが近視に該当するわけではありません。文部科学省「学校保健関係参考資料」
学校健診の割合は、長期的な変化を把握する入口になります。近視の診断、度数、個人の見え方については、別の検査や情報が必要です。
比較の落とし穴は、2020~2023年度と集計対象
長期推移を読む際には、数値を一本の線でつなぐ前に、比較できる条件を確かめる必要があります。
2020~2023年度は通常の年度比較に使わない
文部科学省は、2020~2023年度について、調査時期が異なる数値を含む影響があるため、他の年度の数値と比較できないと明記しています。
この期間を通常の年度と並べて、「感染症流行を境に何ポイント悪化した」「2023年度から急回復した」と計算すると、測定時期の違いを生活の変化と取り違えるおそれがあります。本記事はそのため、2019年度の次に2024年度を置いています。
年度を飛ばした比較から分かるのは、その間を挟んだ水準の差です。どの年に変化したかまでは分かりません。
裸眼視力を省略した場合の扱いにも注意する
文部科学省の用語解説では、裸眼視力検査を省略した者の所属する学級は対象外とされています。健康状態調査の対象者全体と、裸眼視力の割合を算出する対象は同じとは限りません。
地域比較では、この点が特に重要です。大阪府は高校について、矯正視力で測定しているため裸眼視力のデータがない、または少ない年度が複数あり、年次推移グラフを掲載していないと説明しています。大阪府「学校保健統計調査」
公表されていない値は、視力の問題が少ないことを意味しません。都道府県ランキングを作るなら、数値の有無に加え、標本数や公表上の注意も確認する必要があります。
生活への結び付きは、原因探しと見え方の確認を分けること
この統計が示すのは、裸眼視力1.0未満の子どもが長期的に多くなったことであり、特定の生活習慣の効果ではありません。
スマートフォンや学校の端末利用が気になっても、この調査には、視力の結果と個人の利用時間を結び付けて原因を推定する情報はありません。「端末が原因で小学生の割合が2倍になった」とは断定できません。
原因を検証するには、近くを見る時間や屋外活動などを視力の変化と併せて調べ、年齢などの条件をそろえる必要があります。逆に、原因を確定できないことは、長期的な増加という事実を打ち消すものでもありません。
家庭や学校で個々の子どもの状態を確認する際には、全国平均だけで判断せず、健診結果の区分と、矯正した状態を含む実際の見え方を分けて捉えることが大切です。集団の割合から、その子に必要な対応を決めることはできません。
今後の公表値では、次の点を追うと変化を読み違えにくくなります。
- 小中学校の低下が続くか。 2025年度だけの動きか、複数年にわたる変化かを確認する。
- 1.0未満の内訳はどう変わるか。 合計に加え、0.3未満など各区分の割合を見る。
- 年齢別・男女別でも同じ動きか。 学校段階全体の平均に隠れる違いを確かめる。
- 集計条件はそろっているか。 調査時期、裸眼検査の省略、公表対象の違いを確認する。
小学生の約2倍という長期変化を押さえつつ、次に確かめたいのは、直近の低下がどの年齢・視力区分で続くかです。
