食塩摂取量は1日9.6gへ減少――男女・年代別に見る、目標までの距離
日本の成人の食塩摂取量は、長い目で見ると減っています。厚生労働省の2024年「国民健康・栄養調査」では、20歳以上の平均は1日9.6gとなり、同省が比較した過去12年間で最も低い値でした。ただし、国が掲げる平均7gの目標とは、まだ2.6gの差があります。
男女別では男性10.5g、女性8.9g。年代別では男女とも60歳代が最も多く、全国平均の低下だけでは見えない違いが残っています。厚生労働省の結果公表
この記事では、次の3点を確認します。
- 長期では減少しているが、毎年連続して減っているわけではない。
- 2024年は、20歳代から70歳以上まで、すべての年代で男性の平均が女性を上回る。
- 集団の平均値と、個人が日常的に摂っている量は分けて考える必要がある。
使用データ:全国の20歳以上を、同じ単位で比べる
比較の中心は、全国の20歳以上における「1人1日当たりの食塩摂取量の平均値」です。
2026年10月8日時点で確認できる最新の公表結果は、2024年調査です。結果の概要は2025年12月2日に公表され、詳細報告書は2026年3月付。報告書の掲載ページには、2026年9月4日付の正誤表も掲載されています。2024年調査報告書
比較条件は以下のとおりです。
- 地域・年齢: 全国、20歳以上。子どもを含む「1歳以上」の平均とは区別する。
- 指標・単位: 食塩相当量の平均、g/日。食品に含まれるナトリウムを食塩の量に換算した値。
- 時系列: 2010年、2013年、2019年、2022〜2024年を抜き出して比較する。
- 男女・年代比較: 2024年の全国補正値を使い、20歳代から70歳以上までを比べる。
「食塩相当量」は、食卓で振りかけた塩だけを指しません。食品や調味料に含まれるナトリウムも含めて、ナトリウム量(mg)×2.54÷1,000で計算します。調味料を使った量と、実際に食べた食品から計算される摂取量は同じではありません。
2024年は拡大調査のため、全国値には都道府県ごとの調査実施世帯数の違いを補う重み付けが施されています。この「全国補正値」は、全国の性別・年齢構成に合わせ直した値ではありません。年齢構成の違いを取り除く「年齢調整値」とは、別の補正です。2024年調査の概要
長期推移:減少は確認できるが、直近は小幅な上下もある
2010年から2024年にかけて、成人の平均摂取量は10.6gから9.6gへ、1日当たり1.0g減りました。
男女別でも減少しています。一方、途中の年を見れば、一直線に下がってきたわけではないことが分かります。
| 調査年 | 男女計 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|---|
| 2010年 | 10.6 | 11.4 | 9.8 |
| 2013年 | 10.2 | 11.1 | 9.4 |
| 2019年 | 10.1 | 10.9 | 9.3 |
| 2022年 | 9.7 | 10.5 | 9.0 |
| 2023年 | 9.8 | 10.7 | 9.1 |
| 2024年 | 9.6 | 10.5 | 8.9 |
出典:厚生労働省の2022年の結果の概要、2023年の結果の概要、2024年の結果の概要。2024年は全国補正値、各年とも年齢調整前の平均を掲載しています。
14年間の減少と、1年間の変動を分ける
2010年と2024年の公表値を比べると、男性は0.9g、女性も0.9g減少しています。男女計の減少率は約9.4%です。これは公表値からの単純計算であり、人口構成などをそろえた分析ではありません。
長期的な低下は、厚生労働省の傾向分析でも確認されています。2022年の結果の概要は、掲載した過去10年分の調査結果について、男女とも統計的に有意に減少したとしています。年齢調整した推移も別に示されており、単に平均値の始点と終点を比較するより踏み込んだ判断です。
ただし、2022年の9.7gから2023年は9.8gへ上がり、2024年は9.6gへ下がっています。長期の減少傾向と、毎年必ず減ることは別です。 2023年から2024年の0.2g減だけで、特定の減塩施策が成功したと結論づけることもできません。
2020年と2021年は調査が中止されています。2019年と2022年の間を線で結んでも、その間の年々の変化を観測したことにはなりません。
男女差は、同じ程度残っている
男性と女性の平均値の差は、2010年も2024年も1.6gです。
両者の摂取量は減りましたが、男女差まで縮まったとは、この2時点の比較からは言えません。また、g/日の比較には食事量の違いも関わります。男性の平均が高いことを、そのまま「男性の料理の方が塩辛い」と読み替えることはできません。
味付けの濃さに近い比較をしたいなら、総量に加え、エネルギー摂取量当たりの食塩量や食品の組み合わせを見る必要があります。
年代別:男女とも60歳代が最多、若い世代も目標量を上回る
2024年の年代別平均は、男女とも60歳代で最も高く、年齢が上がるほど際限なく増える形ではありません。
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 20〜29歳 | 9.9 | 8.3 |
| 30〜39歳 | 10.4 | 8.3 |
| 40〜49歳 | 10.1 | 8.4 |
| 50〜59歳 | 10.4 | 8.9 |
| 60〜69歳 | 11.1 | 9.3 |
| 70歳以上 | 10.6 | 9.2 |
出典:2024年の結果の概要・図8。各年代の平均値であり、差の統計的有意性を示した表ではありません。
男性は20歳代の9.9gと60歳代の11.1gの間に1.2gの差があります。女性は20歳代・30歳代の8.3gと60歳代の9.3gの間に1.0gの差があります。
男性は30歳代から50歳代にかけて上下し、男女とも70歳以上では60歳代より少なくなります。「高齢になるほど塩分が増える」という一言では、実際の並びを説明できません。
年代差は、その人が年を取った結果ではない
この表は、2024年に調べた異なる年代の人々を比較したものです。同じ人を20歳から60歳まで追跡した結果ではありません。
そのため、現在の20歳代が将来60歳代になったとき、食塩摂取量が11.1gや9.3gになるとは予測できません。生まれた時期による食習慣の違い、現在の食事量、家庭食・外食などの利用状況が関わる可能性はありますが、この年代別平均だけで原因を特定することはできません。
若い世代の少なさを、食生活全体の良さとは読まない
食塩量が比較的少ない年代でも、食事全体を評価するには別の指標が必要です。
同じ2024年調査では、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上、ほぼ毎日食べる人の割合は、男女とも20歳代で最も低くなっています。食塩の少なさと、食事の組み合わせが整っていることは一致しません。2024年調査報告書・結果の概要
これは「食事のバランスが悪いから食塩量が少ない」という因果関係を示すものでもありません。食塩という一つの指標で、日本人の食生活全体に点数を付けないことが大切です。
目標との比較:全国平均7gと、男女別の目標量は意味が違う
平均9.6gは改善を示す一方、国の目標にも、成人の男女別目標量にも届いていません。
ここでは、混同しやすい二つの基準を分けます。
- 健康日本21(第三次): 食塩摂取量の平均値7g。国民全体の変化を評価する目標。
- 日本人の食事摂取基準(2025年版): 18歳以上の男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満。生活習慣病の発症予防を目的とした目標量。
男女別の目標量は、厚生労働省のe-ヘルスネット「ナトリウム」に示されています。
2024年の平均と目標値の境界を比べると、次の差があります。
- 男女計:9.6gと7gの差は2.6g。
- 男性:10.5gと7.5gの差は3.0g。
- 女性:8.9gと6.5gの差は2.4g。
男性・女性の目標は「未満」なので、境界と同じ量まで下がれば達成という意味ではありません。また、調査の20歳以上と食事摂取基準の18歳以上には、対象年齢の違いがあります。
年代別に見ても、表に掲載したすべての年代で、男性の平均は7.5g、女性の平均は6.5gを上回っています。平均との差が比較的小さい若年層を含め、課題は幅広い年代にあります。
ここがポイント: 全国平均が下がったことと、多くの人が目標量を満たしたことは別です。平均値だけから、目標を達成した人の割合は計算できません。
平均9.6gから7gへの差を現在値で割ると、約27%です。これは全国平均を動かすための規模感であり、全員が一律に27%減らすべきだという個人向けの処方ではありません。疾病や治療状況によって食事管理は異なるため、個別の判断では医師や管理栄養士の指導が基準になります。
調査の限界:1日の記録は、個人の普段の摂取量そのものではない
この統計は集団の食生活を把握する資料であり、個人の年間平均を直接測ったものではありません。
2024年の栄養摂取状況調査は、10〜11月の日曜日・祝祭日を除く任意の1日について、食品の使用量や食べた量などを記録する方法です。尿中のナトリウム排泄量を測る調査とは測定方法が異なります。2024年調査の概要
平均・中央値・達成割合は、答える問いが違う
それぞれの指標が示すものを整理すると、誤読を避けやすくなります。
- 平均値: 集団の摂取量が全体としてどの程度かを見る。
- 中央値: 摂取量の順に並べたとき、中央の位置にある値を見る。
- 目標量未満の割合: 基準を満たす人がどれだけいるかを見る。
平均値は、少数の多い摂取量にも動かされます。「平均が9.6gだから、半数は9.6g以下」とは言えません。さらに、1日の観測で目標量を下回った人の割合と、普段から目標量を下回る人の割合も同じではありません。
調査対象と集計方法も確認する
2024年調査は、抽出された473地区の世帯・世帯員を対象としています。栄養摂取状況調査の20歳以上の集計対象は、男性7,225人、女性8,491人です。
長期入院者や社会福祉施設の入所者など、対象から除外される人もいます。したがって、病院や介護施設を含むすべての生活場面を、この平均で代表させることはできません。
年次比較では、次の条件をそろえて読む必要があります。
- 1歳以上の表と、20歳以上の表を混ぜない。
- 全国補正値と年齢調整値を、同じ補正だと扱わない。
- 年代別の小さな数値差を、確実な順位差と決めつけない。
- 食品成分表の版や食品の分類など、摂取量の計算条件も確認する。
調査は毎年同じ人を追跡していません。年齢構成や回答した人の違いも、平均値を動かします。長期の減少を確認する際には、各年の平均とともに年齢調整した推移を見ることが有効です。
次に見るべき点:平均の低下が、誰に広がっているか
今後の焦点は、全国平均がさらに下がるかだけでなく、年代・男女別にも低下が広がるかです。
最新値は、食塩摂取量の長期的な減少を示しています。しかし、60歳代の平均は男性11.1g、女性9.3gであり、男女別目標量との距離はなお大きいままです。若年層でも平均は目標量を上回っています。
次の公表値では、三つの点を確認したいところです。
- 年代別の変化: 全国平均の低下に加え、同じ年代区分でも減少しているか。
- 分布の変化: 平均だけでなく、摂取量が多い層や目標量未満の割合がどう動くか。
- 食事全体の変化: 食塩量の低下と、エネルギーや他の栄養素の摂取状況を併せて読めるか。
日常の食品選びに引きつけるなら、まず確認するのは栄養成分表示の「食塩相当量」と、その表示が100g当たりなのか、1食・1包装当たりなのかです。同じ数値でも、食べる量が違えば摂取量は変わります。全国平均を自分の摂取量として受け取るより、実際に食べる量と表示の単位をそろえる方が、食生活を具体的に見直す材料になります。
