肉は増え、魚は減った――たんぱく質「1日70.6g」の中身を読む
日本のたんぱく質摂取量は、長期にわたって増え続けているわけではありません。2024年の全国平均は1人1日70.6gで、1995年の81.5gを下回る一方、2008年の68.1gより高い水準です。
変化が大きいのは、食べる食品の組み合わせです。2008年と2024年の公表値を比べると、肉類は増え、魚介類は減っています。また、2024年は20代より70代のほうがたんぱく質の平均摂取量が多く、「若い人ほど肉を食べるから、たんぱく質も多い」という読み方では実態を捉えきれません。
この記事では、全国の長期比較と2024年の年代差から、次の3点を確認します。
- たんぱく質の総量と、肉・魚・乳類の量はどう変わったか
- 肉を多く食べる年代と、たんぱく質が多い年代は同じか
- 平均値から、個人の不足や食生活の原因まで判断できるか
使用データ――最新の2024年調査を、過去の公表値と比べる
比較の中心は、厚生労働省「国民健康・栄養調査」の全国値です。
2026年10月8日時点で、厚生労働省の調査一覧に掲載されている最新の結果は2024年調査です。調査は2024年10~11月に実施され、報告書は2026年3月に刊行されています。
本記事の条件は次のとおりです。
- 対象地域: 全国
- 対象者: 原則として1歳以上、男女計。年代比較は成人の年齢階級を使用
- 単位: 1人1日当たりの摂取量、g
- 時点: 長期比較は1995年・2008年・2024年、年代比較は2024年
- 資料: 2024年報告書の第1表・第5表、2008年報告書の食品群別平均値と年次別結果
栄養調査は、調査日に食べた食品の種類と量を記録する方式です。購入額や国内の食品供給量とは異なり、実際の食事に近い数字を見られる点が特徴です。ただし、1日分の記録なので、個人の普段の摂取量そのものではありません。調査方法では、日曜・祝日や特別な食事の日を避けるとしています。
2024年の値は、都道府県ごとの調査実施世帯数の違いを重み付けした「全国補正値」です。全国の性別・年齢構成に合わせた補正は行われていません。過去との比較には、食事の変化だけでなく、調査に参加した人の構成の違いも含まれます。
総量の推移――1990年代より少なく、2008年より多い
たんぱく質が増えたかどうかは、比較の起点によって答えが変わります。
2008年報告書の年次別結果と2024年報告書をつなぐと、次のようになります。
| 調査年 | たんぱく質総量 | うち動物性 |
|---|---|---|
| 1995年 | 81.5g | 44.4g |
| 2008年 | 68.1g | 36.1g |
| 2024年 | 70.6g | 40.2g |
いずれも公表された総数の1人1日平均です。1995年から2024年の差はマイナス10.9g、約13%。2008年から2024年ではプラス2.5g、約4%です。増減率は掲載値から計算しました。
ここで見逃せないのは、2008年からの変化です。総量の増加は2.5gですが、動物性たんぱく質は4.1g増えています。差し引きで求めた植物性の部分は32.0gから30.4gへ減っています。
つまり、総量が大きく増えるよりも、摂取源の配分が変わったと読むほうが、この2時点の数字に合っています。
ただし、これは3時点の比較です。間の年を省いているため、毎年なだらかに減った、あるいは増えたことを示すものではありません。調査方法や栄養計算に使う食品成分表の違いもあり、差のすべてを食べ方の変化に帰すことはできません。
食品の変化――肉の増加と魚の減少が同時に進んだ
2008年と2024年では、肉類と魚介類の平均摂取量の大小が逆転しています。
2008年の食品群別平均値と2024年の第5表を比較します。対象は全国・1歳以上・男女計、単位は食品そのものの重量です。
| 食品群 | 2008年 | 2024年 | 差 |
|---|---|---|---|
| 肉類 | 77.7g | 106.3g | +28.6g |
| 魚介類 | 78.5g | 59.1g | -19.4g |
| 乳類 | 111.2g | 128.2g | +17.0g |
肉類は約37%増、魚介類は約25%減、乳類は約15%増です。2008年には肉と魚がほぼ同じ重量でしたが、2024年の肉類は魚介類の約1.8倍になっています。
食品100gと、たんぱく質100gは違う
この表の106.3gは「肉からたんぱく質を106.3g摂った」という意味ではありません。肉や魚、牛乳には水分や脂質なども含まれています。
2024年報告書の食品群別栄養素表では、肉類106.3gから摂取したたんぱく質は18.4gです。食品の重量と栄養素の重量を区別しないと、総量70.6gとの関係が分からなくなります。
乳類も同様です。牛乳とチーズは同じ重量でも含まれる栄養素が異なります。また、統計上の乳類を、売り場で「乳製品」と呼ぶものすべてと同一視できません。2024年表ではバターは油脂類に分類されています。
「魚を肉に置き換えた」とまでは言えない
全国平均では肉の増加と魚の減少が確認できます。しかし、この調査は同じ人の食生活を16年間追跡したものではありません。
ある人が魚の夕食を肉に替えたのか、肉を多く食べる人が調査に多く参加したのかは、この集計だけでは分かりません。価格、調理の手間、販売店へのアクセスが背景にあるかを確かめるには、物価や購入量、生活環境の別データが必要です。
したがって、ここで言えるのは「全国の公表平均では、肉への比重が高まった」ということです。値上がりや嗜好の変化を原因として断定する段階ではありません。
年代差――肉が多い20代より、70代のたんぱく質総量が多い
2024年の年代比較では、肉類の量とたんぱく質総量の順位は一致しません。
全国補正値・男女計の成人について、代表的な4つの年齢階級を抜き出すと、食べる食品の違いがよく見えます。
| 年齢 | たんぱく質 | 肉類 | 魚介類 | 乳類 |
|---|---|---|---|---|
| 20~29歳 | 69.5g | 134.4g | 42.4g | 93.2g |
| 40~49歳 | 69.3g | 122.9g | 47.0g | 83.3g |
| 60~69歳 | 73.7g | 97.5g | 69.7g | 115.6g |
| 70~79歳 | 74.0g | 80.8g | 80.4g | 132.8g |
数値は2024年の栄養摂取状況表によります。食品群の列は食品の重量、たんぱく質の列は栄養素の重量で、すべて1人1日平均です。
20代は70代より肉類を53.6g多く食べています。一方、70代は20代より魚介類が38.0g、乳類が39.6g多く、たんぱく質総量も4.5g多くなっています。
肉だけを見れば若い世代の摂取が目立ちます。それでも総量で逆転するのは、たんぱく質の摂取源が肉に限られないからです。魚、卵、乳類、豆類に加え、穀類などからも摂取しています。
80歳以上では総量が下がる
高齢になるほど多い、という一直線の傾向でもありません。80歳以上のたんぱく質は68.4gで、70代の74.0gより5.6g少なくなっています。
同じ表のエネルギー摂取量も、70代の1,893kcalに対し80歳以上は1,749kcalです。たんぱく質の量を見るときには、食事全体の量も併せて確認する必要があります。
ただし、この差から食欲低下など特定の原因を断定することはできません。また、2024年の70代と80歳以上は別の集団です。「今の70代が10年後に同じだけ減らす」という将来予測にはなりません。
平均値の限界――70.6gは、全員が食べている量ではない
全国平均が分かっても、不足している人の割合や個人に必要な量は分かりません。
2024年のたんぱく質は、全国の平均値が70.6g、中央値が68.3gです。平均値は集団全体をならした量、中央値は摂取量の順に並べたときの真ん中に相当する値です。
両者が異なること自体が、全員が同じ量を食べているわけではないことを示します。さらに、1日分の記録には日による変動も含まれるため、低い値だった人をそのまま「普段から不足している人」と数えることはできません。
読み違えやすい点を整理すると、次のようになります。
- 総数と成人平均: 70.6gは1歳以上。20歳以上の平均は71.5gで、対象が違う
- 男女差: 1歳以上の平均は男性76.7g、女性65.3g。男女計の年代差には、性別構成の違いも関わる
- 全国補正と年齢調整: 2024年の全国値は調査世帯数の地域差を補正しているが、性・年齢構成を統一した値ではない
- 時系列の空白: 2020年と2021年は調査中止。欠けた年を実測値のようにつなげない
2024年報告書には2026年9月4日付の正誤表もあります。訂正対象は薬の服用状況の表で、本記事で使った栄養摂取量の表ではありません。
こうした条件をそろえて初めて、増減の意味が見えてきます。平均が高い年代を「健康的」、低い年代を「不足」と評価するための表ではありません。
次に見るべき点――総量と摂取源をセットで追う
食生活の変化を読むには、たんぱく質総量だけでなく、どの食品から摂っているかを一緒に見る必要があります。
今回の比較では、1995年より総量が少ない一方、2008年より肉類と乳類が多く、魚介類が少なくなっていました。2024年の年代差では、肉の多い20代より70代の総量が多くなっています。この2つを合わせると、肉の消費だけで全国のたんぱく質摂取を説明するのは難しいと分かります。
今後の公表値では、次の点を確認すると変化を追いやすくなります。
- 同じ性別・年齢階級でも、たんぱく質の量が増減しているか
- 魚介類の減少と肉類の増加が、どの年代で続いているか
- 80歳以上では、食事全体の量とたんぱく質がどう動くか
- 食品の購入額が増えた場合、価格上昇なのか、購入量の増加なのか
全国平均を個人の食事目標に置き換える前に、まず対象年齢と食品の内訳を確かめる。そのひと手間で、「肉が増えた」という数字と「たんぱく質が増えた」という数字を混同せずに読めます。
