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がん死亡は減っているのに、なぜ死亡数は多いのか――胃・肺・膵臓で異なる長期推移

机上に並ぶ死亡率の推移グラフと虫眼鏡、電卓。

がん死亡は減っているのに、なぜ死亡数は多いのか――胃・肺・膵臓で異なる長期推移

日本のがん死亡は、年齢構成をそろえた「年齢調整死亡率」で見ると、全体として減少しています。ただし、胃・肝臓・肺などが減少する一方、膵臓は男女とも近年増加傾向にあり、すべてのがんで改善が進んでいるわけではありません。

2024年のがん死亡数は38万4,111人でした。多くの人が亡くなっているという事実と、年齢調整死亡率が下がっているという事実は両立します。死亡数は実際の人数、年齢調整死亡率は年齢構成をそろえて比較する指標だからです。

この記事では、全国の1979~2024年の死亡統計を中心に、次の点を整理します。

  • 全がんの死亡率が、いつから下がっているか。
  • 胃・大腸・肝臓・肺・膵臓などで、傾向がどう違うか。
  • 死亡数、粗死亡率、年齢調整死亡率をどう読み分けるか。
  • この統計から分かることと、個人の健康や治療について判断できないこと。
目次

使用データと比較条件――2024年までの全国死亡統計を見る

比較の中心は、厚生労働省の人口動態統計を国立がん研究センターが整理した、全国・男女別・部位別の死亡データです。

2026年10月8日時点で確認した「がん情報サービス」の公開データでは、死亡統計の最新収載年は2024年です。年次推移ページは2026年2月9日に死亡データを2024年まで更新し、ページ全体の更新・確認日は2026年4月1日となっています。公表年と、死亡が発生した年は分けて読む必要があります。

比較条件は次のとおりです。

  • 対象地域: 日本全国。
  • 対象期間: 主要部位の長期推移は1979~2024年。
  • 対象: 男女別、全年齢のがん死亡を中心に確認。75歳未満の指標は区別して扱う。
  • 単位: 死亡数は人、死亡率は人口10万人当たり。
  • 基準人口: 『がんの統計2026』の死亡率推移図は2015年モデル人口を使用。

注意したいのは、同じサイトでも基準人口が統一されていないことです。年次推移のウェブ図には1985年モデル人口が使われ、ダウンロードページには1985年基準と2015年基準のファイルが別々に掲載されています。この記事では、異なる基準の率をつないで増減幅を計算していません。集計表ダウンロード

死亡数と死亡率――38万4,111人という数字の読み方

実際に亡くなった人数を知る数字と、時代をまたいで死亡の水準を比較する数字は、役割が違います。

『がんの統計2026』によると、2024年の全国のがん死亡は次の規模でした。

  • 死亡数:38万4,111人。
  • 粗死亡率:人口10万人当たり319.3人。
  • 全死亡に占める割合:23.9%。

319.3という値は、年齢調整死亡率ではありません。その年の実際の人口を分母にした粗死亡率です。『がんの統計2026』図表編

人数が増えても、年齢をそろえた率は下がり得る

がんは一般に、高齢になるほど死亡率が高くなります。そのため、高齢者の割合が大きくなれば、各年齢の死亡率が改善していても、全体の死亡数や粗死亡率には増加する力が働きます。

たとえば、年齢別の死亡率が変わらないまま高齢者の割合だけが増えた場合、粗死亡率は上がり得ます。これは指標の仕組みを説明する仮定であり、日本の実際の増減を計算した例ではありません。

年齢調整死亡率は、各年齢層の死亡率を共通の年齢構成で重み付けして求めます。「もし年齢構成が同じだったら」という条件を置くことで、高齢化の影響をならして比較できます。年齢調整死亡率の定義

ただし、年齢調整によって実際の死亡が減るわけではありません。病院や地域の支援体制を考える場面では人数も必要です。死亡率の改善を測る場面では、年齢調整した比較が必要になります。

全がんの長期推移――男性は1990年代半ばを境に減少

全がんの年齢調整死亡率は、男女計で1990年代半ばまでおおむね横ばい、その後は減少しています。

男女を分けると、減少に至る道筋には違いがあります。

  • 男性: 1990年代半ばまで増加し、その後は減少。
  • 女性: 1990年代半ばの一時的な増減を除き、長期的に減少。
  • 男女計: 1990年代半ばまで横ばいで、その後は減少。

この整理は、国立がん研究センターの年次推移のまとめに基づきます。「最近の1年だけ下がった」という話ではなく、数十年にわたる方向を示しています。

75歳未満では、減少がより早く始まっている

『がんの統計2026』では、75歳未満に限った全がんの年齢調整死亡率は、男女とも1980年代から減少傾向と整理されています。

ただし、全年齢と75歳未満は別の指標です。75歳未満の改善は、75歳以上を含めた状況をそのまま表すものではありません。自治体の資料などで数値を比較するときは、まず対象年齢を確認する必要があります。

また、全がんの線が下がっていても、個々の部位が同じ速度や方向で動いているとは限りません。そこで、胃や肺などに分けて見ます。

主要部位別――胃・肝臓・肺は減少、膵臓は増加

全がんの改善の内側では、減少する部位と増加する部位が併存しています。

以下は国立がん研究センターの年次推移ページが整理した、年齢調整死亡率の「近年の傾向」です。死亡数の順位でも、前年との増減表でもありません。増加・減少の判断には、同ページが示す研究の手法が使われています。

部位男性女性
胃減少減少
大腸(結腸・直腸)減少減少
肝臓減少減少
肺減少減少
膵臓増加増加
乳房本表の比較対象外増加
前立腺横ばい該当せず

出典:国立がん研究センターがん情報サービス「年次推移」。表は主要部位を抜粋したもので、全がんの内訳を網羅していません。また、この分類だけでは各部位の率の高さや、減少幅の大小までは分かりません。

胃・肝臓・肺――死亡数の印象と分けて読む

胃・肝臓・肺は、男女とも年齢調整死亡率が減少しています。肺がんの死亡が多いという情報を見ても、それだけで「肺がんの死亡率は悪化している」とは判断できません。

ここで分けたい問いは二つです。

  • 今、どのがんで多くの人が亡くなっているか。
  • 年齢構成をそろえたとき、以前より死亡率が高いか低いか。

前者には死亡数、後者には同じ基準人口で計算した死亡率の推移が適しています。両方を見ることで、死亡の規模と改善の方向を混同せずに済みます。

膵臓・乳房――全体の改善だけでは拾えない変化

膵臓は男女とも増加、女性の乳房も増加と整理されています。これらの部位では、高齢者の割合が増えたという説明だけで、年齢調整死亡率の上昇を説明することはできません。

ただし、上昇の原因は死亡統計だけでは特定できません。 発症の動向、診断された時の進行度、治療後の経過など、別の資料を合わせて検討する必要があります。

全がんの改善を評価する際にも、この違いは重要です。全体の率が下がったことを根拠に、膵臓や乳房でも同じ改善が起きたと読み替えることはできません。

大腸――まとめ方によって細部が隠れる

大腸は結腸と直腸を合わせた区分です。男女とも大腸全体は減少ですが、女性では結腸が減少、直腸は横ばいと整理されています。

大腸、結腸、直腸を独立した項目として足すと、同じ死亡を二重に数えてしまいます。また、大腸全体の減少を、結腸と直腸の両方に一律に当てはめることもできません。

似た注意は「子宮」にも必要です。年次推移ページでは女性の子宮全体が増加とされる一方、子宮頸部と子宮体部はそれぞれ横ばいに分類されています。大きな区分と細かな区分では、集計対象や分類を確かめてから比較する必要があります。

下がった理由はどこまで分かるか――死亡率だけで対策の効果は測れない

死亡率の減少は確認できますが、どの対策がどれだけ寄与したかは、この推移だけでは分かりません。

人口全体の死亡率は、がんになる人の数と、発症後に亡くなる状況の両方に関わります。そのため、少なくとも次の資料を分けて見る必要があります。

  • 罹患率: 新たにがんと診断された人の発生状況。
  • 診断時の進行度: どの段階で見つかったか。
  • 生存率: 診断された人が、その後どの程度生存しているか。
  • 死亡率: 人口全体の中で、そのがんによる死亡がどの程度発生したか。

たとえば死亡率の低下と、ある治療の普及が同時期に起きても、時期が重なるだけで寄与の大きさは算定できません。発症そのものの変化や、対象となる患者の違いを考慮する必要があります。

生存率にも別の注意があります。診断された人を分母とする指標なので、人口を分母とする死亡率とは意味が異なります。「生存率が上がった」と「人口全体の死亡率が下がった」を同じ数字として扱わないことが、対策を評価する出発点になります。

比較で注意する点――基準人口と集計年をそろえる

死亡率の大小を比較する前に、同じ物差しで計算されているかを確かめる必要があります。

基準人口が違う率は、そのまま接続できない

年齢調整死亡率は、1985年モデル人口、2015年モデル人口、国際比較に使われる世界人口など、採用する基準によって値が変わります。

古い報告書の1985年基準の値と、新しい報告書の2015年基準の値を並べて差を取っても、その差には計算条件の違いが含まれます。長期推移を見るなら、過去の年も同じ基準で再計算した系列を使います。

単年の変化と、長期の傾向は別

「減少傾向」は、毎年必ず前年より低くなるという意味ではありません。一方、ある1年だけ上がっても、長期的な減少が終わったと即断はできません。

死因分類の変更にも注意が必要です。『がんの統計2026』は、1995年の国際疾病分類の変更や、2017年の原死因選択ルールの明確化が死亡率の動きに関わることを説明しています。折れ線の急な変化を、病気や治療の変化だけで説明しないことが大切です。

死亡データと罹患データの最新年は違う

確認した公開集計では、死亡データは2024年まで、全国がん登録の罹患データは2023年まで収載されています。死亡と発症を合わせて分析する場合、最新年を同じ年だと思い込まないようにします。

さらに、死亡率はその年に亡くなった人の集計です。同じ年に診断された患者だけの経過を示すものではありません。

暮らしと地域を見るうえで――改善の評価と必要な支援を分ける

年齢調整死亡率が下がっても、医療や療養支援の必要性が同じ割合で小さくなるとは限りません。

人口の高齢化が進む地域では、年齢をそろえた死亡率が改善していても、実際に治療や支援を必要とする人数は別の動きを取り得ます。地域の状況を読む際は、死亡率と併せて、罹患数、年齢構成、療養する人の規模を確認する必要があります。

反対に、年齢調整死亡率が低い地域だからといって、住民一人ひとりのリスクが低いとは限りません。全国・男女別の集団の傾向を、そのまま個人の診断や治療の判断に当てはめることはできません。

次に統計が更新されたとき、押さえたい点は三つです。

  • 全がんの減少が続いているかを、同じ基準人口で確認する。
  • 全体とは異なる動きを示す膵臓や女性の乳房を、部位別に追う。
  • 死亡数と年齢別の人数も見て、率の改善と現場の支援需要を分けて読む。

「がん死亡率が下がった」という見出しを見たら、まず確認したいのは、粗死亡率か年齢調整死亡率か、全年齢か75歳未満か、そしてどの部位かです。この三つで、同じ「下がった」という言葉が指す範囲は大きく変わります。

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