奨学金を使う学生は増え続けているのか 学費上昇と家計負担を最新データで読む
結論から言うと、奨学金利用は長期では増えたものの、直近では一方向の増加ではありません。JASSOの実績では2024年度に高等教育機関の学生の32.2%が利用しましたが、大学学部昼間部で「何らかの奨学金を受けている学生」の割合は2024年度に51.1%となり、2022年度の55.0%から下がりました。
一方で、学生生活費は上がっています。大学学部昼間部の年間学生生活費は2024年度に201万9,100円となり、2年前より19万4,400円増えました。家計からの支援比率は下がり、アルバイトと奨学金の比重は上がっています。数字だけを見ると、奨学金が増え続けているというより、学費と生活費の重さに対して、家計・奨学金・アルバイトで分担する構図が強まっていると読むほうが実態に近いです。
- JASSO実績ベースでは、2024年度に115.1万人が奨学金を利用し、利用率は32.2%
- 大学学部昼間部で何らかの奨学金を受ける学生の割合は、2022年度55.0%から2024年度51.1%へ低下
- 大学学部昼間部の年間学生生活費は2024年度に201.9万円、2年間で10.7%増
- 収入に占める家計支援は50.7%まで低下し、アルバイト収入は25.0%まで上昇
ここがポイント: 奨学金利用の有無だけを見ると答えを誤りやすいです。直近は利用率が少し下がっても、学費と生活費の増加で家計だけでは支えにくくなり、奨学金とアルバイトの役割はむしろ重くなっています。
使用データと今回の見方
今回使うのは、主に次の公的データです。
- 日本学生支援機構(JASSO)「令和6年度学生生活調査結果」(2026年3月31日公表)
- JASSO「令和6年度学生生活調査結果等(過去10回分の推移)」
- JASSO「奨学金事業に関するデータ集」(2026年1月更新)
- 文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」
- 文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」
この記事では、次の4点を分けて見ます。
- 奨学金の利用者は増えているのか
- 進学や在学にかかるお金はいくらか
- その費用を家計・奨学金・アルバイトがどう分担しているか
- 数字を読むときにどこへ注意すべきか
まず結論 「長期では増加、直近ではやや反落」
大学学部昼間部で、何らかの奨学金を受けている学生の割合は次の推移です。
- 2006年度: 40.9%
- 2010年度: 43.3%
- 2012年度: 50.7%
- 2014年度: 52.5%
- 2016年度: 51.3%
- 2018年度: 48.9%
- 2020年度: 47.5%
- 2022年度: 55.0%
- 2024年度: 51.1%
この並びから言えるのは、20年スパンでは増えたが、2024年度時点で増え続けているとは言い切れないということです。2022年度に高かった反動もあり、直近は下がっています。
ただし、JASSOの事業実績で見ると、別の姿も見えます。2024年度にJASSOの奨学金を利用した学生は115万1,466人で、高等教育機関の全学生357万7,593人の32.2%でした。内訳は、給付10.5%、貸与26.4%です。
なぜ数字が食い違うのか
ここは誤読しやすい部分です。
- 学生生活調査の51.1%は、大学学部昼間部の学生が対象
- こちらはJASSO以外の奨学金も含む
- 一方、32.2%はJASSO利用実績で、大学・短大・大学院・高専・専門学校を含む
- 調査時点や集計方法も違う
つまり、「どの学校種を対象に、どの奨学金を含めるか」で利用率は変わるため、ひとつの数字だけで増減を断定しないほうが安全です。
進学費用は軽くなっていない
奨学金の必要性を考えるなら、利用率だけでは足りません。まず費用水準を押さえる必要があります。
大学学部昼間部の年間学生生活費
JASSO調査による2024年度の大学学部昼間部の年間学生生活費は201万9,100円でした。
- 学費: 122万2,000円
- 生活費: 79万7,000円
- 合計: 201万9,100円
- 2022年度比: 19万4,400円増
生活費の内訳も上がっています。2024年度は食費20.5万円、住居・光熱費20.7万円、娯楽・し好費19.1万円、その他日常費14.4万円でした。学費だけでなく、日々の生活コストも無視しにくい水準です。
国立と私立の差は大きい
文部科学省の2025年度データでは、授業料の平均・標準額は次の通りです。
- 国立大学の授業料標準額: 53万5,800円
- 国立大学の入学料標準額: 28万2,000円
- 私立大学の平均授業料: 96万8,069円
- 私立大学の平均入学料: 24万365円
- 私立大学の平均初年度学生納付金総額: 150万7,647円
私立大は授業料だけでも国立の約1.8倍です。初年度納付金総額まで見ると、入学時の現金負担はさらに重くなります。ここに通学費や住居費が重なる家庭では、奨学金を検討する理由は十分あります。
家計はどう支えているのか
2024年度の大学学部昼間部では、学生の年間収入203万100円の内訳が次のようになっていました。
- 家庭からの支援: 102万9,700円(50.7%)
- 奨学金: 43万7,500円(21.6%)
- アルバイト収入: 50万7,700円(25.0%)
- 定職・その他: 5万5,200円(2.7%)
ここで目立つのは、家計支援の比率低下です。過去10回分の推移では、大学学部昼間部の収入に占める家計支援の割合は2006年度の68.3%から2024年度の50.7%へ下がりました。
一方で、同じ期間に奨学金の比率は13.7%から21.6%へ、アルバイト収入の比率は15.4%から25.0%へ上がっています。
家計負担が消えたのではなく、家計だけで賄う比率が下がり、学生本人の労働と奨学金で埋める割合が増えたと読むべきです。
アルバイト依存も強まっている
大学学部昼間部で、過去1年間にアルバイトをした経験がある学生の割合は2024年度に86.4%でした。2022年度の83.8%から上がっています。
加えて、「家庭からの支援のみで十分修学可能」と答えた学生は51.3%、「家庭からの支援のみでは修学がやや困難・非常に困難、または支援なし」は35.2%でした。
この数字は、奨学金の利用率だけでは見えない面です。奨学金を借りていない学生でも、アルバイトを増やして資金を埋めている可能性があります。
では、奨学金は本当に必要な学生に広がっているのか
JASSOの制度面では、給付奨学金の創設と修学支援新制度の拡充で、貸与だけでなく給付の受け皿が広がりました。2024年度のJASSO利用率32.2%のうち、給付を受けている学生は10.5%です。
ただし、学生生活調査で見る大学学部昼間部の奨学金受給率は2022年度から2024年度に下がりました。ここから言えるのは次の程度です。
- 制度全体としての支援規模は大きい
- ただし大学学部昼間部の受給率は直近で反落した
- それでも費用増と家計支援比率の低下は続いている
つまり、「奨学金利用が増えたから負担は和らいだ」とは言えず、むしろ負担増に対応する手段として奨学金とアルバイトが使われている可能性が高い、という位置づけです。
数字を読むときの注意点
1. 利用率の定義が違う
- JASSO実績の利用率は、JASSOの給付・貸与を受けた人数ベース
- 学生生活調査の受給率は、JASSO以外も含む自己回答ベース
同じ「奨学金利用率」でも中身が違います。
2. 対象範囲が違う
- 学生生活調査は大学学部・短大が中心で、通信課程、休学者、外国人留学生を除く
- JASSOの実績は大学、短大、大学院、高専、専門学校まで含む
学校種をまたいで単純比較はできません。
3. 2024年度調査は家計年収を出していない
JASSOは2024年度調査から回答方法を変えたため、家庭の年間平均収入額を算出していません。以前のように「世帯年収に対してどれだけ重いか」を同じ形で追えない点は押さえておく必要があります。
4. 私立大学の納付金は初年度平均
文部科学省の私立大学納付金調査は、入学者にかかる初年度平均です。在学中の年間生活費とは性格が違います。入学時の一時負担と、在学中の継続負担は分けて考えるべきです。
いま見るべきポイント
奨学金を使う学生は、長い目で見れば増えました。ただ、2024年度時点では「増え続けている」と単純化できません。
むしろ重要なのは次の3点です。
- 学生生活費が202万円台に乗り、負担総額そのものが重くなっている
- 家計からの支援割合が下がり、奨学金とアルバイトへの依存が強まっている
- 私立大学の初年度納付金は150万円超で、入学時の資金準備が大きな壁になりやすい
今後の注目点は、2026年度以降の学生生活調査で受給率が再び上がるのか、それともアルバイト比率の上昇でしのぐ構図が続くのかです。進学機会の広がりを測るなら、奨学金の利用者数だけでなく、学費、生活費、家計支援、アルバイトの4つをセットで追う必要があります。
