ファストファッション消費は今も増えているのか EU・米国の衣料支出と廃棄データを比較
ファストファッション消費は、一直線に増え続けているわけではありません。公的データをつなぐと、コロナ後に衣料の購入は戻ったが、直近は支出が鈍り始め、それでも廃棄量は高いままという姿が見えてきます。
とくに重要なのは、買う量や支出が少し落ちても、捨てられる衣料がすぐには減らない点です。EUでは2022年に1人あたり19kgの衣料・履物・家庭用繊維製品が消費され、同じ年の繊維廃棄物は16kgでした。米国でも、家計の衣料支出は2024年にやや減った一方、EPAの最新系列では繊維ごみはなお大きいままです。
- 世界全体では、UNEPが毎年9,200万トンの繊維廃棄物が出ていると整理しています。
- EUでは、2022年の繊維消費が2019年比で約13%増えた一方、繊維廃棄物は1人あたり16kgと高止まりしています。
- EUの家計支出では、衣料・履物の実質支出は2022年に反発したあと、2024年は前年比0.6%減でした。
- 米国では、BLSの2024年平均年次支出で「apparel and services」は2,001ドル。2023年から2.0%減ですが、2022年の1,945ドルは上回っています。
使用データと比較条件
今回使うのは、次の公開データです。
- 国連環境計画(UNEP)の2025年公表資料
- 世界の繊維廃棄物の年量、衣料利用期間の短縮、リサイクル繊維比率を確認
- 欧州環境庁(EEA)とEurostatの公開データ
- EUの繊維消費量、繊維廃棄物、家計の衣料・履物支出の動きを確認
- 米国労働統計局(BLS)と環境保護庁(EPA)の公開データ
- 米国家計の衣料支出と、繊維ごみの発生・埋立・リサイクル状況を確認
比較にあたっては注意が必要です。EUの「19kg」は衣料だけでなく履物や家庭用繊維製品を含む見かけ消費量で、米国の「2,001ドル」は家計の名目支出です。さらにEPAの繊維廃棄データの最新年は2018年で、EUの廃棄データや支出データとは年次がそろいません。
そのため、この記事では「世界で何kg買ったか」を厳密に横並びするのではなく、支出の戻り方と廃棄の残り方が同じではないことを、公的データの届く範囲で確認します。
まず押さえたい主要数値
| 地域・データ | 最新値 | 比較で見えること |
|---|---|---|
| 世界の繊維廃棄物(UNEP) | 年間9,200万トン | 世界全体では廃棄の規模がすでに非常に大きい |
| EUの繊維消費量(EEA、2022年) | 1人あたり19kg | 2019年の17kgから増加し、コロナ前を上回った |
| EUの繊維廃棄物(EEA、2022年) | 1人あたり16kg | 消費量に近い水準の廃棄が続く |
| EUの衣料・履物の実質支出(Eurostat、2024年) | 前年比0.6%減 | 反発局面のあと、直近は弱含み |
| 米国の衣料関連支出(BLS、2024年) | 1世帯あたり年2,001ドル | 2023年比で減少。ただし2022年は上回る |
| 米国の繊維ごみ発生量(EPA、2018年) | 1,703万トン | 埋立は1,130万トン、リサイクル率は14.7% |
衣料支出はどう変わったのか
支出の動きだけを見ると、「ひたすら増え続ける」というより、コロナ後の反発と、その後の減速です。
EUは2022年に大きく戻り、2024年は小幅減
Eurostatによると、EUの家計消費は2022年に大きく戻りました。衣料・履物の実質支出は2021年比で11.5%増えています。コロナ禍で抑えられていた外出需要や買い替え需要が戻った年だったと読めます。
ただ、その勢いがそのまま続いたわけではありません。
- 2023年のEU全体の家計消費は実質でわずかに増加
- 2024年の衣料・履物は前年比0.6%減
- Eurostatの家計予算調査では、衣料・履物の支出比率は2020年に4.0%
ここから言えるのは、EUでは衣料品が「最優先の支出先」ではないということです。家計全体で住居費や食品の負担が重いなか、衣料は景気や家計の余裕に応じて動きやすい項目です。
米国は2024年に小休止、それでも2022年より高い
米国BLSのConsumer Expenditure Surveyでは、「Apparel and services」の平均年次支出は次の通りでした。
- 2022年: 1,945ドル
- 2023年: 2,041ドル
- 2024年: 2,001ドル
2024年は前年比2.0%減ですが、2022年よりは高い水準です。支出シェアで見ると、2024年の衣料関連は家計全体の2.5%にとどまります。
つまり米国でも、衣料支出は増えっぱなしではありません。外食や住居、保険など他の支出項目が膨らむなかで、衣料は伸びが止まりやすい位置にあります。
それでも廃棄量が減ったとは言いにくい
支出が少し弱くなっても、廃棄の側では大きな改善が見えません。ここが、ファストファッションを数字で見るときの核心です。
ここがポイント: 買う勢いが鈍っても、過去に市場へ出た大量の衣料が残っているため、廃棄量はすぐには下がりません。支出の減少と廃棄の減少は同じタイミングでは起きにくい、ということです。
世界では廃棄の規模がすでに大きい
UNEPは2025年の資料で、世界では毎年9,200万トンの繊維廃棄物が発生していると整理しています。あわせて、2000年から2015年にかけて生産量が倍増し、衣料の使用期間は36%短くなったと示しています。
この2つを並べると、問題は単なる「たくさん買った」では終わりません。短く使って早く捨てる流れが、廃棄量を押し上げる構造になっていることが分かります。
EUは消費19kgに対し、廃棄16kg
EEAによると、EUでは2022年に1人あたり19kgの繊維製品が消費されました。内訳は衣料8kg、履物4.4kg、家庭用繊維製品7.6kgです。
同じ2022年の繊維廃棄物は1人あたり16kg、総量では694万トンでした。さらに重要なのは回収の弱さです。
- 2022年の分別回収率は15%弱
- 逆に言うと、85%は分別回収されず、混合ごみとして処理された
- EEAは、2016年以降の繊維廃棄物総量はおおむね安定とみています
EUでは2025年から加盟国に繊維の分別回収制度が求められています。今後は「どれだけ捨てられたか」だけでなく、「どれだけ別回収できたか」が重要な見どころになります。
米国は埋立がなお大きい
EPAの最新系列では、2018年の米国の繊維ごみ発生量は1,703万トンでした。このうち、
- リサイクル: 251万トン
- 焼却: 322万トン
- 埋立: 1,130万トン
リサイクル率は14.7%です。衣料・履物に限ると13%と、さらに低い推計になっています。
しかも長期で見ると、米国の繊維ごみ発生量は1960年の176万トンから大きく増えています。景気の一時的な上下だけでは説明できない、長い増加トレンドがあると見たほうが自然です。
支出と廃棄がずれる理由
同じ「衣料」を見ていても、支出と廃棄は別の指標です。ここを混ぜると誤読しやすくなります。
支出はその年の家計判断を映しやすい
衣料支出は、次の影響を受けやすい数字です。
- 物価上昇で可処分所得が圧迫される
- 外出や通勤の増減で必要な服が変わる
- セールやオンライン購入で単価が動く
- 高価格帯へのシフトでも金額は増える
つまり、支出が増えても「枚数」が増えたとは限りません。逆に、支出が減っても値下げや節約の影響かもしれません。
廃棄は過去の販売の積み上がりを映しやすい
廃棄量のほうは、その年に買った服だけで決まりません。
- 数年前に買った衣料がまとめて捨てられる
- 未使用在庫や返品品が処分される
- 回収制度の有無で統計に現れ方が変わる
- リユースに回った衣料は、国内のごみ統計にすぐ乗らないことがある
EEAは、欧州で市場に出た繊維製品の4%から9%が、そもそも使われる前に破棄されている可能性も示しています。新品の売れ残りや返品も、廃棄側を膨らませる要因です。
データから読み取れることと、読み取れないこと
ここまでの数字から、読み取れる事実はかなりはっきりしています。
- コロナ後、EUの衣料・履物支出は2022年に大きく戻った
- EUの繊維消費量は2022年に2019年を上回った
- 米国の衣料支出は2024年にやや減ったが、2022年より高い
- 世界、EU、米国のいずれでも、廃棄や埋立の規模はなお大きい
一方で、言い切れない点もあります。
- 支出の増減だけで「ファストファッション化が進んだ」とは断定できない
- 廃棄量だけで「その年の買い過ぎ」を直接示すことはできない
- 世界全体で統一された年次の衣料支出データは限られ、EUと米国の統計は定義が異なる
つまり、買い方の変化は見えても、捨て方の改善はまだ弱いというところまでは言えますが、その原因を一つに絞るのは無理があります。
注意して見たい限界
数字を比べるときは、次の点を外せません。
- UNEPの世界データは年次の大枠を示す整理で、国別の家計支出統計とは粒度が違う
- EEAの19kgは「見かけ消費量」で、実際の購入枚数そのものではない
- Eurostatの2024年衣料・履物は実質変化率、BLSの2,001ドルは名目額
- EPAの繊維ごみ系列は最新年が2018年で、直近の消費行動をそのまま反映しない
- EUの繊維データには衣料以外の家庭用繊維製品も含まれる
このため、「EUの19kg」と「米国の2,001ドル」をそのまま優劣比較するのは適切ではありません。比較の軸は、金額そのものよりも、消費が戻ったあとも廃棄が高止まりしているかに置くべきです。
今後の注目点
ファストファッション消費の変化を見るうえで、次に追いたいのは次の3点です。
- EUで2025年以降、分別回収の強化で回収率がどこまで上がるか
- 米国でEPAの繊維ごみ統計が更新されたとき、埋立比率に変化が出るか
- 支出の鈍化が続いたとしても、未使用在庫や短寿命商品の処分が減るのか
衣料支出は景気や家計の事情で上下します。しかし、廃棄の数字はもっと遅く、重く動きます。次に見るべきなのは「今年いくら使ったか」だけではなく、その服が何年使われ、最後にどの経路で回収されたのかです。
参照リンク
- UNEP: Unsustainable fashion and textiles in focus for International Day of Zero Waste 2025
- EEA: Circularity of the EU textiles value chain in numbers
- EEA: Consumption of clothing, footwear and household textiles per person
- Eurostat: Slight increase in household spending in 2024
- Eurostat: 2022 household spending exceeds pre-COVID levels
- Eurostat: Housing, food & transport: 61% of households’ budgets
- U.S. Bureau of Labor Statistics: Consumer Expenditures–2024
- U.S. EPA: Textiles: Material-Specific Data
