医療費はなぜ増え続けるのか 高齢化だけではない「1日あたり医療費」の上昇を数字で見る
日本の医療費が増え続ける理由を数字で絞ると、答えはかなりはっきりしています。75歳以上の人口比率が上がり続けていることと、受診日数そのものより1日あたり医療費が上がっていることです。
厚生労働省の確定値では、2023年度の国民医療費は48兆915億円で過去最高でした。さらに2024年度の概算医療費も48.0兆円まで増えており、増加は止まっていません。
- 2023年度の国民医療費は48兆915億円、前年度比3.0%増
- 65歳以上の医療費は28兆8806億円で、全体の60.1%
- 75歳以上の1人あたり医療費は95万3800円
- 2024年度の概算医療費は48.0兆円、増加分の中心は受診延日数より1日あたり医療費
使用データと比較条件
今回見たのは、次の公的データです。
- 厚生労働省「令和5(2023)年度 国民医療費の概況」
- 厚生労働省「令和6年度 医療費の動向(概算医療費)」
- 総務省統計局「人口推計(2023年10月1日現在、2024年10月1日現在)」
この記事では、
- 全国ベースで
- 2023年度の確定値を中心に
- 2024年度の速報性が高い概算値を補助的に使って
- 年齢構成と医療費の関係を見ます
なお、国民医療費には保険診療の対象となる治療費が含まれますが、正常分娩、健康診断、予防接種、保険外診療などは含まれません。家計が窓口で払った自己負担額そのものではない点も先に押さえておきたいところです。
まず結論を分けて見る
医療費が増える要因は、ひとまとめにしない方が実態に近づけます。
1. 高い医療費水準の年齢層が厚くなっている
2023年度の国民医療費を年齢階級別にみると、65歳以上が全体の6割を占めました。しかも、1人あたり医療費は年齢が上がるほど大きくなります。
| 年齢階級 | 医療費 | 構成割合 | 1人あたり医療費 |
|---|---|---|---|
| 0〜14歳 | 2兆7688億円 | 5.8% | 19万5400円 |
| 15〜44歳 | 5兆8422億円 | 12.1% | 14万8300円 |
| 45〜64歳 | 10兆5998億円 | 22.0% | 30万6800円 |
| 65歳以上 | 28兆8806億円 | 60.1% | 79万7200円 |
| 75歳以上(再掲) | 19兆1503億円 | 39.8% | 95万3800円 |
75歳以上だけで全体の約4割を占め、1人あたり医療費は総平均の2倍台ではなく、ほぼ3倍に近い水準です。医療費総額が増えやすい土台が、年齢構成そのものにあります。
2. 人口の中で高齢者の比率が上がっている
総務省統計局の人口推計では、65歳以上人口の割合は2023年10月1日時点で29.1%、2024年10月1日時点で29.3%でした。75歳以上人口の割合は、2023年の16.1%から2024年の16.8%へ上がっています。
ここで重要なのは、65歳以上全体だけでなく、医療費水準がさらに高い75歳以上の層が増えていることです。人口構成がこの方向に動く限り、医療費総額には上向きの圧力がかかりやすくなります。
ここがポイント: 医療費増は「高齢者が多いから」で終わりません。より正確には、1人あたり医療費が高い75歳以上の比重が上がっていることが効いています。
足元では「受診回数」より「1日あたり医療費」が効いている
高齢化だけで説明すると、直近の変化を見落とします。厚生労働省の2024年度概算医療費では、総額は48.0兆円で前年度比1.5%増でした。
その内訳は次の通りです。
- 受診延日数: 0.3%増
- 1日あたり医療費: 1.1%増
つまり、最近の増加は「受診する日数が大きく増えた」よりも、1回あたり、1日あたりにかかる医療費が上がった影響の方が大きいということです。
背景として考えられるのは、
- 薬剤費や調剤医療費の増加
- 高額な治療や検査の広がり
- 入院1件あたりの医療資源投入の増加
- 在宅医療や訪問看護の拡大
といった点です。
ただし、ここは「だから医療の無駄が増えた」とは言えません。新しい治療や薬が増えれば単価は上がりますし、在院日数の短縮と引き換えに1日あたり費用が上がることもあります。費用増と非効率は同じ意味ではないという線引きは必要です。
数字から読み取れること
結論を整理すると、医療費増加は主に次の2本柱です。
- 構造要因: 高齢化、とくに75歳以上人口の増加
- 単価要因: 1日あたり医療費の上昇
この2つが重なると、総額は下がりにくくなります。人口が減っても、若年層の減少が大きく、高医療費層の比率が上がれば、医療費の総額や1人あたり医療費は上がり得ます。
2023年度の確定値で65歳以上が全体の60.1%、75歳以上が39.8%という構図は、そのことをかなり端的に示しています。
読むときの注意点
このテーマは、数字の種類を混ぜると誤読しやすいです。
- 国民医療費は確定値で、2023年度が最新
- 概算医療費は速報性が高く、2024年度まで追えるが集計範囲が少し異なる
- 医療費総額は家計の自己負担額ではない
- 年齢が高いほど医療費が高い事実は確認できるが、個人ごとの負担額や受診行動は所得、制度、疾病構成で変わる
- 高齢化と医療費増は強く連動するが、それだけで増加分すべての原因とは言い切れない
これから見るべき点
今後の見どころは、単に「高齢化が進むか」だけではありません。
- 75歳以上人口の比率がどこまで上がるか
- 薬局調剤、入院、訪問看護のどこが伸びるか
- 受診延日数より1日あたり医療費の伸びが続くか
- 医療費の伸びと、実際の健康成果や地域医療の維持が見合っているか
医療費は、人口の年齢構成だけで自動的に決まる数字ではありません。ただ、高医療費層の比率上昇と単価上昇が同時に進んでいる以上、総額が自然に下がる局面は想定しにくいです。次に確認したいのは、2025年度以降も「受診量」より「単価」の伸びが続くのか、その中身が薬剤なのか在宅医療なのかという点です。
