図書館利用は戻っているのか 貸出冊数と来館者数の最新推移を全国データで読む
結論から言うと、図書館利用は「全面回復」ではありません。 2024年度実績では、来館者数は前年より増えましたが、個人貸出数は前年より減りました。コロナ禍で落ち込んだ水準からは戻っているものの、貸出も来館もまだ2010年代後半の高水準には届いていません。
今回みるのは、公益社団法人日本図書館協会の「公共図書館集計 2025年」「公共図書館経年変化 2025」と、文部科学省の社会教育調査です。全国の公共図書館を対象に、2024年度実績の貸出数と来館者数、そして過去との比較を整理します。
- 2024年度の来館者数は 3億2,048万人。2023年度より約953万人増えた
- 2024年度の個人貸出数は 6億746万点。2023年度より約1,601万点減った
- 来館は回復基調だが、貸出は2023年度から反落した
- どちらも2020年度の急落からは持ち直したが、2018年度から2019年度の水準はまだ下回る
使ったデータと比較条件
まず、どの数字を見ているかをはっきりさせます。
- 主な出典は日本図書館協会の「公共図書館集計 2025年」「公共図書館経年変化 2025」
- 2025年版の集計は、2025年4月1日現在の館数・職員数と、2024年度実績の貸出・来館を載せている
- 来館者数は延べ人数、個人貸出数は点数ベースで、視聴覚資料を含む
- 補足として、文部科学省「社会教育調査」はおおむね3年ごとの基幹統計で、図書館数や貸出冊数の長期確認に使える
ここで注意したいのは、日本図書館協会の年次集計と、文部科学省の社会教育調査では定義が一致しないことです。たとえば社会教育調査の貸出冊数は図書中心で、調査周期も毎年ではありません。この記事では、貸出と来館を同じ基準で追える日本図書館協会の年次集計を主系列に使います。
最新値で見ると、来館は増えたが貸出は減った
2024年度実績の全国計は次の通りです。
| 指標 | 2023年度 | 2024年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 来館者数 | 310,951千人 | 320,482千人 | +9,531千人 |
| 個人貸出数 | 623,475千点 | 607,465千点 | -16,010千点 |
| 個人貸出登録者数 | 56,638千人 | 57,065千人 | +427千人 |
数字をそのまま読むと、2024年度はこんな動きでした。
- 来館者数は前年比約3.1%増
- 個人貸出数は前年比約2.6%減
- 登録者数はわずかに増えた
この組み合わせが示すのは、図書館に足を運ぶ人は増えた一方で、借りる点数は伸びていないということです。閲覧席の利用、学習利用、イベント参加、滞在型利用など、貸出以外の使われ方が相対的に目立った可能性があります。ただし、ここから利用目的の中身まで断定はできません。
ここがポイント: 図書館利用は「増えた」「減った」と一言では言いにくい。2024年度は、来館は増、貸出は減でした。
コロナ後の回復は見えるが、ピークには戻っていない
次に、2010年代後半からの流れで見ると傾向がはっきりします。
来館者数の推移
来館者数は2018年度の 3億4,688万人 が高水準でした。2020年度には 2億2,233万人 まで急減し、その後は回復しています。2024年度は 3億2,048万人 なので、2020年度からは大きく戻しましたが、2018年度比ではなお 約7.6%下回ります。
比較するとこうです。
- 2018年度: 346,877千人
- 2019年度: 335,068千人
- 2020年度: 222,332千人
- 2023年度: 310,951千人
- 2024年度: 320,482千人
つまり、来館は回復中だが、完全回復ではないという見方が妥当です。
個人貸出数の推移
貸出数は2016年度の 7億351万点 が直近の山でした。その後はやや減り、2020年度以降にさらに落ち込みます。2024年度は 6億746万点 で、2021年度の低水準からは戻したものの、2016年度比では 約13.7%少ない水準です。
主な年の数字を並べると次の通りです。
- 2016年度: 703,517千点
- 2019年度: 684,215千点
- 2021年度: 545,343千点
- 2023年度: 623,475千点
- 2024年度: 607,465千点
貸出は、来館よりも戻りが鈍いと言えます。
何が読み取れるのか
ここでは、数字から言えることと言えないことを分けます。
事実として言えること
- 2020年度に、来館者数も貸出数も大きく落ち込んだ
- 2021年度以降、来館者数は回復が続いている
- 貸出数は2023年度まで持ち直したが、2024年度は再び減少した
- 登録者数は増えており、利用基盤そのものが崩れているとは言い切れない
解釈として慎重に見るべきこと
- 来館増は、そのまま貸出増を意味しない
- 電子書籍、館内滞在、学習スペース利用、イベント参加などが増えていても、今回の集計だけでは寄与度は分からない
- 自治体ごとの開館日数、施設更新、複合施設化、人口減少の影響は全国計だけでは見えない
図書館の使われ方が、単純な「借りる場所」から少しずつ広がっている可能性はあります。ただし、それを裏付けるには自治体別データや電子図書館導入状況など、別の資料が必要です。
文部科学省の統計で見ても、大きな方向は同じ
文部科学省の社会教育調査は毎年ではありませんが、長めの流れを確認する補助線になります。
2025年7月公表の令和6年度中間報告では、令和5年度間の図書館の国民1人当たり貸出冊数は4.8冊で、前回の令和2年度より増えました。コロナ禍の落ち込みから貸出が戻ったことは、国の統計でも確認できます。
一方で、社会教育調査の系列でも、令和5年度間の貸出冊数は平成22年度間の高い水準には届いていません。細かな定義差はあるものの、「急減後の回復はあるが、過去のピークまでは戻っていない」という大きな方向は共通しています。
読むときの注意点
図書館統計は、見出しだけで読むと誤解しやすい部分があります。
- 来館者数は延べ人数なので、同じ人が複数回来館すればその分だけ増える
- 貸出数は「冊」ではなく「点」で集計される系列があり、資料種別の違いに注意が必要
- 全国計は便利だが、都市部と町村部、人口増加地域と人口減少地域の差をならしてしまう
- 年によって休館、改修、災害、開館日数の違いが数字に影響する
- 社会教育調査と日本図書館協会統計は、対象や定義、更新頻度が異なる
貸出が減ったから図書館離れ、来館が増えたから完全回復と短く片付けるのは早すぎます。少なくとも全国データから見えるのは、利用が一本調子ではなく、指標ごとに動きが分かれているという点です。
これから見るべきポイント
2024年度の数字は、図書館の回復が続いている一方で、その中身が変わっている可能性を示しています。次に注目したいのは次の点です。
- 2025年度以降、来館増が貸出増につながるのか
- 電子図書館や予約利用が、紙の貸出減をどこまで補っているのか
- 自治体別に見ると、人口減少地域と都市部でどこまで差が開いているのか
全国データだけで結論を急ぐより、「来館は戻ったが、借り方は以前と同じではないかもしれない」という視点で追い続けるほうが、今の図書館の変化には近いはずです。
