タクシー利用はどこまで戻ったのか 2024年度データで見る回復の実像と都市部・地方の差
タクシー利用は、全国合計では回復が続いています。国土交通省の自動車輸送統計年報によると、営業用乗用車の輸送人員は2024年度に10億5,066万人となり、2023年度より5.7%増えました。
ただし、2019年までの戻り方と同じではありません。1台あたりの輸送回数はほぼコロナ前の水準に近づいた一方、実働率はなお低く、稼働できる車両や乗務員の制約が残っています。需要は戻っているが、地域によっては「使いたい人の回復」と「走れる車の回復」が一致していない、というのが足元の実態です。
- 全国のタクシー輸送人員は2024年度に10億5,066万人で、前年度比5.7%増
- 輸送人キロは49億9,209万千人キロで前年度比11.7%増。距離も伸びている
- 1台あたり輸送回数は2019年度の15.84回に対し、2024年度は15.99回でほぼ同水準
- 一方で実働率は2019年度69.28%から2024年度60.37%へ下がったまま
まず確認したい使用データ
今回見たのは、主に次の公的データです。
- 国土交通省「自動車輸送統計年報」2024年度分
- e-Stat掲載の自動車輸送統計年報の原単位表
- 国土交通月例経済のバス・タクシー月次データ
- 地方の供給状況の補足として、九州運輸局のタクシー事業概況
比較の軸は次の通りです。
- 全国の年度ベースの推移
- 2019年度と2024年度の原単位比較
- 最新月として確認できる2025年11月分の全国値
- 都市部の月次動向と、地方で目立つ供給制約
ここがポイント: タクシーは「利用者数」だけを見ると回復しているが、地域差を見るには「何台が動けているか」まで一緒に見ないと実態を取り違えやすい。
全国ではどこまで回復したのか
結論から言うと、全国の利用は回復基調です。
2024年度の営業用乗用車の全国値は次の通りでした。
- 輸送人員: 10億5,066万人
- 前年度比: 105.7%
- 輸送人キロ: 49億9,209万千人キロ
- 前年度比: 111.7%
- 実車キロ: 33億6,067万千キロメートル
- 前年度比: 109.5%
2020年度から2024年度までの動きを並べると、回復の流れははっきりしています。
- 2020年度: 7億3,824万人
- 2021年度: 8億275万人
- 2022年度: 9億6,815万人
- 2023年度: 9億9,388万人
- 2024年度: 10億5,066万人
2020年度を底とみると、2024年度は約42.3%増です。2023年度から2024年度への伸びだけを見ると大きすぎる数字ではありませんが、コロナ後の反動増が一巡したあともなお増えている点は重いです。
人数よりも距離の伸びが大きい
もう一つ重要なのは、輸送人員より輸送人キロの伸びが大きいことです。
2024年度は輸送人員が5.7%増だったのに対し、輸送人キロは11.7%増でした。1人当たり平均輸送キロも、2019年度4.33キロメートルから2024年度4.75キロメートルに伸びています。
これは、単に乗る人が少し増えたというだけではありません。より長い移動、あるいは鉄道・バスの空白や深夜帯を埋める移動が増えている可能性があります。ただし、統計だけで目的別の内訳までは分からないため、通勤増だけが原因だと断定はできません。
回復しても「元通り」ではない理由
需要回復を判断するときに見落としやすいのが、車両の稼働状況です。
2019年度と2024年度の原単位を比べると、見え方が変わります。
- 実働1日1車当たり輸送人員: 2019年度22.16人 → 2024年度21.66人
- 実働1日1車当たり輸送回数: 2019年度15.84回 → 2024年度15.99回
- 実車率: 2019年度45.16% → 2024年度46.04%
- 実働率: 2019年度69.28% → 2024年度60.37%
ここから読み取れるのは、動いている車はかなり使われているということです。
一方で、実働率は2019年度より約8.9ポイント低いままです。つまり、全体としては利用が戻っていても、稼働できる車両の割合はまだ戻っていません。都市部で「つかまりにくい」、地方で「そもそも台数が少ない」と感じやすいのは、このズレで説明しやすいです。
都市部と地方の差はどこに出ているか
都市部・地方の差は、単純な利用者数の多寡だけではありません。需要を実績として取り込める供給力の差として出ています。
都市部は需要の厚みが戻りやすい
国土交通月例経済に掲載された東京の月次データでは、2024年1月のタクシー輸送人員は1,809万人、実車率は45.2%でした。全国月次統計でも、営業用乗用車の輸送人員は2025年11月に8,867万人となっており、2024年11月の7,639万人から16.1%増えています。
大都市では、
- 鉄道駅や空港との接続需要
- 深夜帯の移動
- 観光客を含む短距離移動
が重なりやすく、需要の厚みがあります。動ける車が確保できれば、利用実績は比較的戻りやすい構造です。
地方は「需要がない」より「供給が細い」が先に出やすい
地方では、需要が完全に消えたというより、供給の細さが先に統計へ表れやすいです。
九州運輸局の公表資料では、2025年3月末時点のタクシー車両数は九州7県合計で2万2,809台でした。内訳は福岡県9,938台、佐賀県956台、大分県1,955台などで、県ごとの差が大きくあります。
この差は、そのまま利用しやすさの差になりやすいです。
- 人口が少ない県ほど待機車両の厚みを持ちにくい
- 需要が一時的に戻っても、乗務員不足があると実績が伸びにくい
- 運賃改定の公表資料でも、地方では労働条件改善や燃料高騰が繰り返し理由に挙げられている
つまり、地方でタクシー利用の「回復が弱い」と見えるとき、それは需要不足だけでなく、供給制約の影響を強く受けている可能性があります。
データから言えること、言えないこと
ここは分けておいた方が読み違えにくいです。
言えること
- 全国のタクシー利用は2024年度まで回復基調にある
- 2024年度は人数より距離の伸びが大きい
- 動いている車の使われ方は2019年度にかなり近い
- それでも実働率は2019年度を下回り、供給面の回復は遅れている
このデータだけでは言い切れないこと
- 回復の主因が観光か、通勤か、深夜需要か
- 地方で利用が弱い原因が需要不足中心なのか、供給不足中心なのかの厳密な切り分け
- アプリ配車の普及がどの地域でどれだけ寄与したか
自動車輸送統計は非常に重要な一次資料ですが、目的別利用や配車待ち時間までは直接示しません。都市部・地方差をさらに詰めるなら、地域別の車両数、乗務員数、観光統計、鉄道・バスの減便状況も重ねて見る必要があります。
これから見るべきポイント
タクシー利用の次の焦点は、単純な「人数の回復」ではなくなっています。
- 実働率が2019年度水準へ戻るか
- 地方で車両数と乗務員数が持ち直すか
- 輸送人キロの伸びが一時的な長距離化なのか、移動構造の変化なのか
- 都市部で増えた需要が運賃改定後も維持されるか
全国の数字だけを見ると、タクシーはかなり戻っています。ただ、生活の足としての使いやすさまで回復したかという問いには、地域ごとに答えが違います。次に見るべきなのは、利用者数そのものより、どの地域で「走れる車」が増えるのかです。
