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通勤時間は増えているのか減っているのか?都市別データで見る働き方の変化

通勤時間は増えているのか減っているのか?都市別データで見る働き方の変化

結論から言うと、米国全体の平均通勤時間は2024年に27.2分で、2023年の26.8分から少し長くなりました。ただし、コロナ前の2019年の27.6分よりは短く、同時に在宅勤務割合は2019年の5.7%から2024年の13.3%へ大きく上がったままです。

つまり、通勤時間は「一方向に増えた・減った」とだけ読むより、通勤する人が減り、通勤している人の平均時間がどう動いたかを分けて見る必要があります。都市別に見ると、在宅勤務が残った都市、公共交通の比重が高い都市、車通勤が中心の都市で、同じ平均通勤時間でも意味が変わります。

  • 使用データ: U.S. Census Bureau, American Community Survey 1-year estimates
  • 主な表: Subject Table S0801「Commuting Characteristics by Sex」
  • 比較年: 2019年、2023年、2024年
  • 対象地域: 米国、人口65,000人以上の place を含む ACS 1-year 対象地域
  • 主要指標: 平均通勤時間、在宅勤務割合、公共交通利用割合、60分以上通勤者割合
目次

使用データと比較条件

今回使うのは、米国国勢調査局の American Community Survey、通称 ACS です。ACS は毎年実施される標本調査で、通勤、所得、住宅、世帯、教育などを地域別に見ることができます。

2024年 ACS 1-year estimates は2025年9月11日に公開され、人口65,000人以上の地域について利用できます。都市別に見る場合は、county ではなく place、つまり市域単位のデータを使うのが基本です。

この記事で重視する S0801 の指標は次の通りです。

  • 平均通勤時間: S0801_C01_046E
  • 在宅勤務割合: S0801_C01_013E
  • 公共交通利用割合: S0801_C01_009E
  • 60分以上通勤者割合: S0801_C01_045E

ここで最も大事なのは、平均通勤時間の定義です。ACS の平均通勤時間は「workers 16 years and over who did not work from home」、つまり在宅勤務をしなかった16歳以上の就業者を対象にした片道時間です。

ここがポイント: 平均通勤時間は「通勤した人だけ」の平均です。在宅勤務者は平均時間の計算から外れるため、在宅勤務割合とセットで見ないと働き方全体の変化を読み違えます。

全国値では、通勤時間は戻り切っていない

まず全国値を見ると、2024年の米国の平均通勤時間は27.2分でした。2023年の26.8分からは0.4分長くなっていますが、2019年の27.6分には届いていません。

同じ Census Bureau の「United States Commuting At A Glance」では、通勤関連の主要指標が次のように整理されています。

指標2019年2023年2024年読み取り
平均通勤時間27.6分26.8分27.2分2024年は前年より長いが、コロナ前より短い
60分以上通勤者割合8.9%9.3%長時間通勤は2024年にやや増えた
在宅勤務割合5.7%13.8%13.3%2023年より下がったが、2019年よりかなり高い
公共交通利用割合5.0%3.5%3.7%2024年に少し戻ったが、2019年より低い

ここから言えるのは、通勤が2024年に少し戻ったことです。60分以上の長時間通勤者割合も、公共交通利用割合も、2023年よりは上がっています。

ただし、在宅勤務割合は2019年の5.7%から2024年の13.3%へ、なお2倍以上の水準です。通勤時間だけを見ると「ほぼ元に戻った」と見えそうですが、働く場所の構成はまだコロナ前とは違います。

都市別では「在宅勤務の残り方」が差をつくる

都市別に読むときは、平均通勤時間の長短だけでランキング化すると危うくなります。通勤時間の背景には、職種、住宅地の広がり、公共交通、在宅勤務の残り方が入っているからです。

ニューヨーク型: 公共交通と長距離通勤の影響が大きい

ニューヨークのように公共交通利用が多い都市では、通勤時間は都市圏の広がりを反映しやすくなります。鉄道や地下鉄で移動する人が多く、乗り換えや待ち時間も ACS の通勤時間に含まれます。

ただし、place データは「その市に住む人」の通勤を見ます。郊外から市内へ通う人を含めた都市圏全体の通勤負担とは一致しません。

そのため、ニューヨーク市の市域データだけで「ニューヨーク都市圏の通勤は短くなった」とは言えません。都市圏全体を見るには、metropolitan statistical area や通勤流動データも必要です。

サンフランシスコ・シアトル型: 在宅勤務が平均を動かしやすい

IT、専門サービス、管理職など、在宅勤務に移しやすい職種が多い都市では、平均通勤時間の変化に在宅勤務が強く影響します。

長い通勤をしていた人が在宅勤務に移ると、その人は平均通勤時間の計算から外れます。その結果、道路や鉄道が速くなっていなくても、通勤者だけの平均時間は短く見えることがあります。

ここで見るべきなのは、平均通勤時間だけではありません。

  • 在宅勤務割合が2019年よりどれだけ高いか
  • 60分以上通勤者割合が戻っているか
  • 公共交通利用割合がどこまで回復したか
  • 通勤者の母集団がどの程度変わったか

この4つを合わせると、「移動が楽になった」のか、「長距離通勤者の一部が在宅勤務に移った」のかを分けて考えやすくなります。

ロサンゼルス・ヒューストン型: 車通勤では混雑と勤務先分散を見る

車通勤が中心の都市では、公共交通の戻りよりも、道路混雑、郊外化、勤務先の分散が効きやすくなります。

平均通勤時間が短くなっていても、理由は一つではありません。中心部に毎日向かう人が減った可能性もあれば、勤務先が郊外へ広がった可能性もあります。時差出勤が増えた場合も、ピーク時の混雑が平均値に影響します。

S0801 は変化を見つける入口として使えますが、原因を確定するには交通量、道路速度、雇用地分布など別のデータが必要です。

「増えたか減ったか」への答え

今回の問いに、データから答えるなら次のようになります。

2024年の米国では、平均通勤時間は2023年より少し増えたが、2019年よりは短い。通勤そのものは戻りつつあるが、在宅勤務はコロナ前より高い水準に残っている。

この答えを都市別に落とすと、さらに読み方が分かれます。

  • 公共交通都市: 通勤時間、公共交通利用割合、長時間通勤者割合をセットで見る
  • 在宅勤務都市: 平均通勤時間の低下を、在宅勤務割合の上昇と一緒に読む
  • 車通勤都市: 平均時間だけでなく、道路混雑や勤務先分散を別データで確認する
  • 広域都市圏: 市域 place と都市圏 MSA を分けて比較する

特に都市別ランキングでは、平均通勤時間が短い都市をそのまま「働きやすい都市」と読むのは早すぎます。職場が近い人が多いのか、在宅勤務者が多いのか、車で短距離移動する人が多いのかで、生活実感はかなり変わります。

データから言えること、言えないこと

ここでは、事実と解釈を分けておきます。

データから言えること

ACS の公開値から確認できるのは、次の点です。

  • 米国の平均通勤時間は2024年に27.2分で、2023年より0.4分長い
  • 2024年の平均通勤時間は、2019年の27.6分より短い
  • 在宅勤務割合は2024年に13.3%で、2019年の5.7%より高い
  • 公共交通利用割合は2024年に3.7%で、2019年の5.0%より低い
  • 60分以上通勤者割合は2024年に9.3%で、2023年の8.9%より高い

これらを合わせると、通勤は2023年から2024年にかけてやや戻ったものの、働き方は2019年と同じ状態には戻っていません。

これだけでは言えないこと

一方で、S0801 だけでは次のことは断定できません。

  • 道路や鉄道の速度が改善したか悪化したか
  • 個々の労働者の移動負担が軽くなったか
  • 在宅勤務が平均通勤時間の変化をどれだけ説明したか
  • 都市政策だけで通勤時間の差が生まれたか
  • 市域の通勤時間が都市圏全体の実態を代表しているか

平均値は便利ですが、かなり強い圧縮です。通勤時間が短くなった都市でも、現場勤務の人だけを見ると負担が残っているかもしれません。逆に、平均が伸びた都市でも、在宅勤務を選べる人は通勤回数そのものを減らしている可能性があります。

読むときの注意点

ACS は信頼性の高い公的統計ですが、都市別に細かく読むほど注意が必要です。

まず、ACS は標本調査です。数値には誤差があり、小さい地域や細かい属性ではぶれが大きくなります。2024年 ACS 1-year estimates について、Census Bureau は標本、回答、重み付け、人口コントロールの影響を踏まえて比較するよう説明しています。

また、2020年 ACS 1-year は通常年とは違い、experimental data として扱われました。コロナ禍で調査回収に大きな影響があったため、2019年、2021年、2022年、2023年、2024年をつなぐときも、2020年を同じ線上に置かない方が安全です。

都市別比較で特に確認したいのは、次の点です。

  • place は市域であり、都市圏全体ではない
  • 平均通勤時間は在宅勤務者を除く
  • ACS 1-year は人口65,000人以上の地域が中心
  • 年ごとの差は誤差範囲を確認する必要がある
  • 職種や所得階層による差は S0801 だけでは十分に見えない

日本の都市を見るときにも同じ罠がある

米国の ACS を使った比較ですが、読み方は日本の都市にも応用できます。東京、大阪、名古屋、福岡などで通勤時間を比べるときも、平均時間だけでは十分ではありません。

たとえば、都心に住む人の通勤時間と、郊外から都心へ通う人の通勤時間は同じではありません。市区町村別に見るのか、都市圏で見るのかによって、順位も意味も変わります。

確認したい軸は次の4つです。

  • 住んでいる場所基準の通勤時間か
  • 働いている場所基準の通勤流入か
  • 在宅勤務者を含むのか、除くのか
  • 市区町村単位か、都市圏単位か

「通勤時間が短い都市」は、職場が近い都市かもしれません。あるいは、在宅勤務が多く、長距離通勤者が平均から抜けている都市かもしれません。ランキングを見るときは、まず母集団を確認する必要があります。

今後の注目点

通勤時間を見るなら、次は平均だけでなく、長時間通勤者と在宅勤務者を同時に追うのが実用的です。

今後の確認ポイントは次の通りです。

  • 2025年以降、在宅勤務割合がさらに下がるか
  • 60分以上通勤者割合が2019年水準へ戻るか
  • 公共交通利用割合がどこまで回復するか
  • 市域 place と都市圏 MSA で傾向が変わるか
  • 在宅化しにくい職種の通勤負担が見えにくくなっていないか

2024年時点のデータが示しているのは、通勤が完全に元へ戻った姿ではありません。平均通勤時間は少し戻り、在宅勤務はまだ高く残り、公共交通はコロナ前より低い。次に見るべきなのは、都市別の平均値そのものより、誰が通勤し続け、誰が通勤から外れているのかです。

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