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古着の国際取引はなぜ広がるのか 物価高と衣類の余剰をデータで読む

古着の国際取引はなぜ広がるのか 物価高と衣類の余剰をデータで読む

中古品市場の拡大は、単に「節約志向が強まったから」だけでは説明しきれません。少なくとも中古衣料では、物価上昇で安い選択肢を探す需要と、新品衣料の過剰供給で中古として流れ込む供給が同時に膨らいたことが、拡大の土台になっています。

世界全体では、国連欧州経済委員会(UNECE)がまとめた UN Comtrade ベースのデータで、第二次流通の衣料貿易は2021年に93億ドル、重量では約360万トンに達しました。1992年の54.1万トンからみると、30年でほぼ7倍です。

  • 要点1: 中古衣料の国際取引は、1990年代より明確に大きくなっている
  • 要点2: 物価高は需要を押し上げたが、それだけでなく衣類の余剰供給も拡大を支えた
  • 要点3: 欧州では輸出量が増え、日本でも2024年の中古衣料輸出額は1.0億ドル超だった
  • 要点4: ただし統計上は「再利用できる衣類」と「実質的な廃棄物」の線引きが曖昧な部分が残る
目次

使用データと比較条件

今回見たのは、主に次の一次資料です。

  • UNECE: 世界の中古衣料貿易額と重量の長期推移
  • EEA: EUの中古繊維輸出量、行き先、単価の変化
  • BLS: 米国で中古衣料がCPIの対象に入った時期と、家計支出上の存在感
  • U.S. Census Bureau参照のBLS資料: 米国の中古品小売売上高
  • World Bank WITS / UN Comtrade: 日本と各国の2024年中古衣料輸出額

対象年は資料ごとに異なります。世界貿易の長期推移は1992年から2021年、EU輸出は2000年から2025年、米国小売は主に1992年・2012年・2022年、日本の輸出は2019年と2024年を比較しました。

拡大の理由は「家計防衛」だけではない

まず需要側です。米労働統計局(BLS)は、消費者の購買行動の変化を受けて、2025年初めに中古衣料をCPIの価格調査対象に組み入れました。中古衣料は2016年から2019年の米国家計支出データで、衣料支出全体の0.8%を占めています。さらに、女性衣料のCPIサンプルで中古店が占める比率は、2009年の0%から2021年には1.5%へ上がりました。

米国の中古品小売売上高も増えています。BLSが引用する Census Bureau 推計では、中古品店の売上高は1992年56億ドル、2012年147億ドル、2022年243億ドルでした。物価高の局面で、家計が新品以外の選択肢を本格的に使い始めたことを示す数字です。

一方で、供給側の変化も大きい。UNECEは、ファストファッションと短い使用期間が中古衣料の流通量を押し上げたと整理しています。つまり、市場が拡大したのは「買い手が安さを求めたから」だけでなく、「売り手側に流せる衣類が大量にあったから」でもあります。

ここがポイント: 中古衣料市場の拡大は、物価高で需要が増えた面と、衣類そのものが余って国境を越えて流れるようになった面の両方で読む必要があります。

数字で見る供給側の膨張

EEAによると、EUの中古繊維輸出量は2000年の55万トン強から2019年には約170万トンへ増えました。2019年時点で1人あたり3.8kgに相当し、EUで年間消費される繊維製品のおよそ4分の1に当たる規模です。

さらに重要なのは単価です。EEAは、EUの中古繊維輸出で重量は増えた一方、2019年の平均価格は1kgあたり約0.57ユーロまで下がったと示しています。しかもこれは実質価格ベースで、インフレを踏まえると下落はより大きいとしています。安く大量に流れる構造ができれば、輸入国では新品より手に取りやすい商品として広がりやすくなります。

2025年のEEA指標でも、EUの中古繊維輸出は144万トン超と高水準です。行き先はアフリカとアジアが中心で、アジア向けの比率は2025年に48%まで高まりました。

日本の数字から見えること

日本もこの流れの外ではありません。World Bank WITS の UN Comtrade データでは、日本の中古衣料輸出額は2019年の9490万ドルから2024年は1億389万ドルへ増えています。

2024年の主な動きは次の通りです。

  • 日本の中古衣料輸出額: 1億389万ドル
  • 主要輸出先の一つであるマレーシア向け: 6047万ドル
  • 2019年の同国向け: 4304万ドル
  • 世界全体の2024年上位輸出主体: EU、米国、中国、英国、韓国

日本の増え方は世界全体の急拡大そのものではないものの、アジア向けの再流通網に組み込まれていることは確認できます。

何が言えて、何が言えないか

ここは分けて見る必要があります。

言えること:

  • 中古衣料の国際取引量と取引額は長期で拡大している
  • 物価上昇局面で、米国では中古衣料がCPIの調査対象に入るほど家計支出上の存在感を持った
  • EUでは中古繊維の輸出量が大きく増え、相対的に安い単価で流通している

言い切れないこと:

  • 物価上昇だけが市場拡大の原因だとは断定できない
  • 貿易統計の「中古衣料」には、再利用されるものと、実際には廃棄に近いものが混ざる可能性がある
  • 国際貿易の増加が、そのまま各国の生活者の満足度向上や環境負荷低下につながるとは限らない

BLSもEEAも、統計の限界を明記しています。BLSでは個人間売買やガレージセールはCPIの対象外です。EEAでは、輸出された繊維が本当に再利用されたのか、廃棄されたのかを追い切れないとしています。

次に見るべき論点

中古品市場の拡大を生活データとして読むなら、次に注目すべきなのは3点です。

  • 物価が落ち着いた後も、中古消費が定着するのか
  • 回収された衣類のうち、国内で再利用される比率が増えるのか
  • 「中古」として輸出されたもののうち、実際に再利用された割合を各国がどこまで可視化できるのか

市場が広がっているのは確かです。ただし、その中身は「節約の成功」だけではありません。家計の防衛、衣類の余剰、国際再流通の仕組みが重なってできた拡大だと見るほうが、数字には合っています。

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