最低賃金は10年で4割上昇 全都道府県1000円超で地域差はどう変わったか
最低賃金の全国加重平均は、2015年度の798円から2025年度の1,121円へ、10年間で323円、率にして40.5%上がりました。2025年度には初めて47都道府県すべてが時給1,000円を超えています。
同時に、最高額と最低額の差は214円から203円へ縮小しました。ただし、東京と最低額の県には、月160時間働く場合で単純計算すると月3万2,480円の差が残ります。
この記事で分かること
- 2025年度の都道府県別最低賃金と地域差
- 2015年度から10年間で大きく伸びた地域
- 物価上昇と比べる際の注意点
- 2026年度改定の目安と、まだ確定していない点
使用データと比較条件
比較の中心は、厚生労働省が公表した2015年度と2025年度の地域別最低賃金です。
対象と条件は次のとおりです。
- 対象地域:47都道府県
- 対象年度:2015年度、2024年度、2025年度
- 指標:地域別最低賃金の時間額
- 全国値:都道府県ごとの労働者数を反映した全国加重平均
- 伸び率:
(2025年度額-2015年度額)÷2015年度額×100 - 物価との比較:総務省統計局の2020年基準消費者物価指数
地域別最低賃金は、勤務地のある都道府県ごとに決まります。パート、アルバイト、臨時、嘱託といった呼称にかかわらず、原則としてその地域の事業場で働くすべての労働者が対象です。
なお、ここで扱うのは産業横断の「地域別最低賃金」です。特定の産業に設定される「特定最低賃金」とは分けて見る必要があります。
2025年度は平均66円上昇、全県が1000円台に
2025年度の最大の変化は、全国加重平均が過去最大の66円上がり、最低額の地域も1,023円に達したことです。
全国加重平均は2024年度の1,055円から2025年度の1,121円へ上昇。引き上げ率は6.3%でした。
最高額と最低額
2025年度の上位と下位は次のようになっています。
| 位置 | 都道府県 | 最低賃金 | 2024年度からの増加 |
|---|---|---|---|
| 最高 | 東京 | 1,226円 | 63円 |
| 2位 | 神奈川 | 1,225円 | 63円 |
| 3位 | 大阪 | 1,177円 | 63円 |
| 最低 | 高知・宮崎・沖縄 | 1,023円 | 各71円 |
東京と最低額3県の差は203円です。最低額は東京の83.4%に相当します。
2015年度は東京907円に対し、鳥取・高知・宮崎・沖縄が693円。最低額は最高額の76.4%でした。金額差だけでなく比率でも、地域間の開きは縮小しています。
1年間の伸びが大きかった県
2025年度の引き上げ額は全国一律ではありません。地方最低賃金審議会の答申を経て、63~82円の幅が生じました。
- 熊本:82円増、8.6%上昇
- 大分:81円増、8.5%上昇
- 秋田:80円増、8.4%上昇
- 岩手:79円増、8.3%上昇
- 福島・長崎:78円増、8.2%上昇
一方、東京と神奈川の上昇率は5.4%でした。もとの金額が低い県で引き上げ率が高くなったため、地域差を縮める方向に働いています。
ここがポイント: 2025年度は「全国平均が大きく上がった」だけではありません。低い水準にあった県ほど高い率で引き上げられ、全都道府県が1,000円を超えました。
10年間では大分が49.1%上昇
2015年度から2025年度までの伸び率は、都市部よりも当初の金額が低かった県で大きくなりました。
代表的な地域と全国加重平均を比べます。
| 地域 | 2015年度 | 2025年度 | 増加額 | 伸び率 |
|---|---|---|---|---|
| 大分 | 694円 | 1,035円 | 341円 | 49.1% |
| 熊本 | 694円 | 1,034円 | 340円 | 49.0% |
| 長崎 | 694円 | 1,031円 | 337円 | 48.6% |
| 秋田 | 695円 | 1,031円 | 336円 | 48.3% |
| 大阪 | 858円 | 1,177円 | 319円 | 37.2% |
| 神奈川 | 905円 | 1,225円 | 320円 | 35.4% |
| 東京 | 907円 | 1,226円 | 319円 | 35.2% |
| 全国加重平均 | 798円 | 1,121円 | 323円 | 40.5% |
大分は341円増で、金額・率ともに47都道府県で最大です。東京も319円上がっていますが、出発点が高かったため伸び率は35.2%にとどまります。
この差は「地方の賃金水準が都市部に追いついた」という意味ではありません。2025年度でも東京と大分には191円の差があります。正確には、最低賃金の下限に限れば、低かった地域の上昇が速くなったと読むべきです。
地域差は縮小したが、家計への効果は同じではない
最低賃金の差は縮んでも、手取りや暮らしやすさの地域差まで同じ幅で縮んだとは限りません。
最低賃金で月160時間働くと仮定した単純な税引き前月額は、東京で19万6,160円、最低額の県で16万3,680円です。実際の月収は労働時間、割増賃金、社会保険料、税などで変わりますが、203円の時給差が月単位では小さくないことが分かります。
さらに生活費の構成も地域で異なります。
- 住居費は大都市圏で高くなりやすい
- 自動車が欠かせない地域では燃料費や維持費の負担が重い
- 食料品や光熱費は全国的な価格変動の影響を受ける
- 同じ県内でも都市部と郊外では家賃や交通事情が違う
したがって、最低賃金額だけを並べて「どこが暮らしやすい」と結論づけることはできません。地域別の消費者物価や家賃、労働時間、雇用機会と組み合わせて見る必要があります。
物価より上がったのか
2015年から2025年までの最低賃金の名目上昇率は、同期間の全国消費者物価指数の上昇率を上回ります。
全国の消費者物価指数(総合、2020年=100)は、2015年平均の98.2から2025年平均の111.9へ上昇しました。上昇率は約14.0%です。一方、最低賃金の全国加重平均は40.5%上がりました。
ただし、この比較だけで最低賃金労働者の生活が26ポイント分改善したとは言えません。
単純比較できない理由
- 最低賃金は年度ごとの改定額、CPIは暦年平均
- CPIは全国平均であり、都道府県ごとの生活費差を示さない
- 最低賃金の上昇がそのまま労働時間や年間所得の増加になるとは限らない
- 税、社会保険料、給付制度の変化を含んでいない
- 世帯によって食費、家賃、光熱費などの支出割合が異なる
事実として確認できるのは、法定の時給下限が全国平均で物価指数より速く上昇したことです。実質的な家計改善を測るには、可処分所得や就業時間も必要になります。
なぜ地方の伸び率が高くなったのか
近年の改定では、低い水準の地域に相対的に大きな引き上げが配分され、地方審議会による上乗せも地域差の縮小につながりました。
最低賃金は、中央最低賃金審議会が都道府県を経済状況に応じたランクに分け、引き上げ額の目安を示します。その後、各地方最低賃金審議会が地域の賃金実態や企業の支払い能力などを審議し、都道府県労働局長が決定します。
2025年度は中央の目安を上回る答申が各地で相次ぎました。その結果、全国加重平均の引き上げ額は66円となり、熊本や大分などでは80円を超えました。
ただし、最低賃金の上昇だけを地域経済の好調さと結びつけることはできません。改定額には、物価、通常の賃金、企業経営、地域間格差をめぐる政策判断が同時に反映されるためです。
労働者と事業者では見える影響が違う
労働者にとっては、最低賃金付近で働くほど時給引き上げの効果が直接届きます。すでに最低賃金を上回っている人でも、賃金表の見直しが周辺層へ波及する可能性があります。
事業者側では、人件費だけでなく社会保険料などの負担も増えます。価格転嫁や生産性向上が難しい小規模事業者では、営業時間、採用人数、設備投資の判断に影響する可能性があります。
このため、引き上げの評価には、最低賃金未満率や影響率、雇用者数、求人、廃業、価格転嫁の状況をあわせて追う必要があります。
2026年度は平均1176円の目安、都道府県額は未確定
2026年8月22日時点で確認できるのは中央審議会の「目安」であり、47都道府県の最終額ではありません。
中央最低賃金審議会は2026年7月28日、引き上げ額の目安を次のように示しました。
- Aランク6都府県:54円
- Bランク28道府県:56円
- Cランク13県:56円
- 目安どおりの場合の全国加重平均:1,176円
- 全国平均の上昇額:55円
- 引き上げ率:4.9%
2025年度の66円、6.3%に比べると、目安段階の上げ幅は小さくなっています。一方、B・Cランクの目安がAランクより2円大きいため、地域差をわずかに縮める設計です。
今後、地方審議会が目安を上回る額を答申する可能性があります。2025年度も中央の目安と最終的な改定額には差が生じました。したがって、2026年度については各都道府県の答申、正式決定、発効日を確認するまでランキングを確定できません。
データを読むときの注意点
最低賃金の比較では、「年度」「適用地域」「発効日」をそろえないと数字を誤読します。
発効日は全国一斉ではない
2025年度の新しい最低賃金は、多くの地域で2025年10~12月に発効しましたが、一部は2026年に入ってから発効しました。たとえば秋田は2026年3月31日です。
年度額が公表されても、年間を通じてその時給が適用されるわけではありません。年間所得への影響を試算する場合は、発効前後を分ける必要があります。
勤務地で決まる
地域別最低賃金は、原則として労働者の居住地ではなく事業場の所在地で判断します。県境を越えて通勤する人は、住んでいる県の金額と一致しない場合があります。
時給換算に含まれない賃金がある
最低賃金との比較では、賞与、時間外・休日・深夜の割増賃金、通勤手当や家族手当など、算入しない賃金があります。月給制でも、対象となる賃金を所定労働時間で時給換算して確認します。
ランキングだけでは雇用の厚みが分からない
全国加重平均は労働者数で重み付けされるため、47都道府県の単純平均ではありません。また、最低賃金額が高い地域でも、働ける時間や求人の数まで多いとは限りません。
次に見るべき3つの数字
最低賃金は10年間で大きく上昇し、地域差も縮みました。次の焦点は、時給の下限が上がった後に、年間所得と地域の雇用がどう動くかです。
- 2026年度の最終答申額:地方審議会が目安をどれだけ上回るか
- 発効日:引き上げが実際の給与に反映される時期
- 実労働時間と物価:時給上昇が可処分所得と購買力の改善につながるか
都道府県別ランキングが確定するのは、各地の正式決定が出そろってからです。次の比較では額面の順位だけでなく、地域別物価、労働時間、最低賃金の影響を受ける労働者の割合まで確認する必要があります。
