家計資産の現預金比率は44.9%へ――株式・投信が増えても「預金離れ」とは限らない
日本の家計金融資産は、現金・預金が過半を占める構成から変わっている。2026年6月末の現金・預金比率は44.9%、株式等と投資信託を合わせた比率は27.0%だった。ただし、現金・預金そのものは前年より増えており、比率低下をそのまま「預金から投資への移動」と読むことはできない。
違いを生んでいるのは、資産ごとの増え方だ。預金残高がほぼ横ばいでも、保有する株式や投資信託の評価額が大きく増えれば、金融資産全体に占める預金の割合は下がる。
この記事では、日本銀行の資金循環統計を使い、全国の家計部門について、過去の公表値、最新の残高、同じ時点での日米欧比較を確認する。
- 現金・預金:1,132兆円、金融資産全体の44.9%。
- 株式等:486兆円、19.3%。投資信託:193兆円、7.7%。
- 前年比では現金・預金が0.5%増、株式等が47.0%増、投資信託が36.8%増。
- 資産構成の変化を判断するには、残高に加えて売買などの「取引額」を見る必要がある。
以上は2026年9月17日公表の日本銀行「参考図表:2026年第2四半期の資金循環(速報)」による。
使用データは全国の合計で、典型的な一世帯の資産配分ではない
資金循環統計が示すのは、家計全体が保有する金融資産の総額と内訳である。
執筆時点の2026年10月8日に確認できる最新値は、2026年6月末の速報値。2026年9月17日に公表された。対象は日本全国の家計部門で、自営業者も含む。
比較条件は次のように分けた。
- 最新の構成:2026年6月末の金融資産残高と、その総額に対する割合。
- 直近の増減:同じ公表資料にある前年同期比。
- 長期の位置づけ:2013年9月末、2023年3月末について、当時公表された資料を参照。
- 国際比較:日本銀行が2026年8月31日に掲載した資料の、2026年3月末時点の日米欧データ。
長期比較に使う過去資料は、現在の改定済み時系列と完全にそろえたものではない。したがって、過去と現在の差を厳密な増減幅として扱わず、現預金中心の構成がどの程度変わったかを見る参考値とする。
また、ここでいう金融資産には、土地や住宅などの実物資産は入らない。負債を差し引いた純資産でもない。集計方法や公表頻度は、日本銀行「資金循環統計のFAQ」で確認できる。
最新値では現預金が最大だが、株式・投信との差は縮まった
現金・預金はなお最大の項目だが、株式等と投資信託の合計は金融資産全体の約4分の1に達している。
2026年6月末の内訳を、金融資産総額に占める割合で比べる。
| 項目 | 残高 | 構成比 |
|---|---|---|
| 金融資産計 | 2,519兆円 | 100.0% |
| 現金・預金 | 1,132兆円 | 44.9% |
| 株式等 | 486兆円 | 19.3% |
| 投資信託 | 193兆円 | 7.7% |
| 保険・年金・定型保証 | 586兆円 | 23.3% |
| 債務証券 | 38兆円 | 1.5% |
| その他 | 85兆円 | 3.4% |
出典:日本銀行「参考図表:2026年第2四半期の資金循環(速報)」図表3-1。残高・構成比は公表資料の丸め値で、内訳の合計は総額と一致しない場合がある。
株式等と投資信託を足すと679兆円、構成比では27.0%になる。公表残高から計算した現金・預金との比率は約1.67対1。株式等・投信の残高100に対し、現金・預金は約167という関係だ。
ただし、「株式等」は上場株式だけを指さない。非上場株式やその他の持分も含むため、486兆円をすべて証券口座で売買できる株式と考えると読み違える。
投資信託にも株式だけでなく債券などを組み入れる商品がある。したがって、27.0%はこの二つの統計項目の合計であり、家計が負う株価変動リスクの割合をそのまま測った数字ではない。
過去の資料では、現預金比率は5割を超えていた
長い時間軸で見ると、現在の44.9%は従来の現預金中心の構成から変化した水準にある。
2014年3月公表の日本銀行の講演資料では、2013年9月末の現金・預金比率は53.5%だった。投資信託は4.7%、当時の項目名で「株式・出資金」は8.5%。両者の合計は13.2%である。
約10年後の2023年8月公表資料に載る2023年3月末の構成は、現金・預金54.2%、投資信託4.4%、株式等11.0%だった。
| 対象時点 | 現金・預金 | 株式関連項目+投資信託 |
|---|---|---|
| 2013年9月末 | 53.5% | 13.2% |
| 2023年3月末 | 54.2% | 15.4% |
| 2026年6月末 | 44.9% | 27.0% |
注:各時点の公表資料による参考比較。2013年は「株式・出資金」、2023年・2026年は「株式等」を使用。統計基準、推計方法、遡及改定、公表時点が異なるため、同一基準の連続系列ではない。合計比率は公表された構成比の足し算。
この比較から押さえたいのは、現預金比率が一貫して下がり続けたわけではないということだ。2013年と2023年の資料では、ともに5割を超えていた。現在は5割を下回るが、その変化を約13年間の滑らかな「預金離れ」と描くのは適切ではない。
厳密な転換時期や下落幅を確かめる場合は、日本銀行の資金循環統計ページから最新の時系列を取得し、同じ定義と改定時点で計算する必要がある。
比率が下がった理由は、預金の減少より資産ごとの伸びの差にある
直近1年の数字では、現金・預金が減ったことより、株式等と投資信託が速く増えたことが構成比を変えている。
2026年6月末の前年同期比は、現金・預金が0.5%増、株式等が47.0%増、投資信託が36.8%増。金融資産全体は11.0%増だった。
預金も増えている。それでも全体より増加率が低いため、取り分は小さくなる。ここを分けて読むことが、今回の数字の核心だ。
残高の増加には「買い増し」と「値上がり」がある
株式や投資信託の残高は、新たに買うことでも、すでに持つ資産の価格が上がることでも増える。
資金循環統計は、この違いを取引額と調整額に分けて記録する。日本銀行の参考図表3-2では、残高の変化と取引額の差を「調整額」とし、価格変化などによる変動として説明している。
たとえば、預金100、株式50を持つという仮の計算では、現預金比率は66.7%。売買をせずに株式の評価額だけが100になれば、預金は100のままでも比率は50%に下がる。
これは統計の仕組みを説明する計算例であり、実際の家計の配分ではない。示しているのは、構成比の低下だけでは資金移動を証明できないという点だ。
投資行動の変化を確かめるにはフローを見る
「家計が投資を増やしたか」を調べるなら、四半期末の残高に加え、期間中の購入・売却を反映する取引額を見る必要がある。
- 投信残高が増え、取引額もプラス:純購入が残高増加に寄与している。
- 残高が増えても取引額が小さい:価格変化などの寄与を確認する必要がある。
- 残高が減っても取引額がプラス:買い越しがあっても評価額の低下で相殺され得る。
制度の効果を評価する場合も同じだ。株式等・投信の比率が上がっただけでは、特定の制度が何兆円の資金移動を生んだかまでは分からない。
日米欧を同じ時点で比べると、日本の現預金比率はなお高い
国内で構成が変わっても、同時点の国際比較では日本の現金・預金の割合が最も高い。
日本銀行の「資金循環の日米欧比較」は、2026年3月末時点の金融資産構成を掲載している。最新の国内速報である6月末と混ぜず、この比較表では3月末にそろえる。
| 地域 | 現金・預金 | 株式等 | 投資信託 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 47.2% | 16.7% | 6.9% |
| 米国 | 10.7% | 43.4% | 13.3% |
| ユーロエリア | 31.1% | 25.5% | 12.1% |
出典:日本銀行「資金循環の日米欧比較」図表2。各地域の家計金融資産総額に占める割合、2026年3月末。日本の値は同資料の公表時点の計数であり、9月公表の改定済み国内系列とは区別する。
日本は株式等と投資信託を合計して23.6%。米国は56.7%、ユーロエリアは37.6%だった。日本の変化を認めることと、米欧との差が残ることは両立する。
ただし、家計部門の範囲は完全には一致しない。米国とユーロエリアは対家計民間非営利団体を含む一方、日本は別部門としている。また、日本・ユーロエリアと米国では個人企業などの分類が異なり、米国の株式等の比率を相対的に高くする計上上の違いがある。
この表から「米国の比率が日本の各家庭にも適切」とは導けない。国際比較が示すのは資産構成の違いであり、個人の望ましい配分ではない。
家計全体の変化が、すべての世帯に広がったとは分からない
総額の構成比は、資産を多く持つ世帯の動きに強く左右される。
資金循環統計の44.9%は、各世帯の現預金比率を平均した値ではない。全国の現金・預金残高を、全国の金融資産総額で割った値である。
株式を多く保有する一部の世帯の評価額が増えれば、株式を保有しない世帯の資産が変わらなくても、全国の構成比は動く。この統計だけでは、投資する世帯の割合、年代別の広がり、地域差は判断できない。
平均額や中央値とも役割が違う。
- 総額:家計部門全体に、どれだけ金融資産があるか。
- 構成比:その総額が、どの金融商品に配分されているか。
- 平均・中央値:世帯ごとの保有額や、そのばらつきを見るための指標。
生活との関係では、資産の名目額と購買力も区別したい。預金残高が増えていても、物価がそれ以上に上がれば、買える量は増えない。一方、株式・投信の評価額は価格変動の影響を受ける。今回の表は名目残高であり、物価調整後の生活の余裕を直接測ってはいない。
次に確かめたいのは、評価額と純購入のどちらが増えているか
家計資産の変化を追うなら、次の公表でも構成比、取引額、調整額をセットで確認したい。
今回の結論は、現預金中心の構成が薄まっている一方、預金残高の減少を伴うとは限らないということだ。今後の数字は、次の条件で読み方が分かれる。
- 投信の純購入が続く:評価額とは別に、投資へ資金を配分する行動が続いていることを示す。
- 残高増加が調整額に偏る:市場価格の変化による構成比低下を、投資の普及と区別する必要がある。
- 市場価格の下落で現預金比率が上がる:預金への資金移動がなくても起こり得る。
長期的な変化を確かめるには、市場が上がる時期だけでなく、下がる時期にも純購入が続くかを追う必要がある。そして、投資する世帯が増えたかは、世帯別の保有状況を調べる別の統計で補う。44.9%という一つの数字を読む際も、「いくら持っているか」と「新たに何を買ったか」を分けることが出発点になる。
