国内旅客船の乗客は長期減少、足元は回復――約30年の輸送人員を読む
国内旅客船の輸送人員は、長期では減っている。1996年度の1億4,810万人に対し、2024年度は約7,500万人で、おおむね半分の規模になった。一方、2020年度の急落後は回復が続いており、「今も毎年減り続けている」という理解は正しくない。
ただし、この数字はフェリーだけの集計ではない。国内の定期旅客航路などを合わせた輸送実績であり、長距離フェリーや離島航路の動きは、全体とは分けて読む必要がある。
この記事で押さえる点は次の3つだ。
- 長期減少の大部分は、コロナ禍より前から起きていた。
- 2010年代には横ばいの期間があり、減少速度は一定ではない。
- 全国の乗客数だけでは、個々の航路の採算や暮らしへの必要性は判断できない。
使用データ――フェリーを含む国内旅客船の全国集計
比較するのは、国内旅客船事業の年度別輸送人員であり、フェリー利用者だけを数えた統計ではない。
長期推移には国土交通省の「国内旅客船事業者数及び旅客輸送人員の推移」を使い、近年の値は国土交通白書などで補った。2026年10月8日時点で確認した2026年版国土交通白書では、2024年度の輸送需要を約75百万人、前年度比約2%増と記載している。白書の発行年と実績の対象年度には差がある。国土交通白書2026・第5章
比較条件は以下のとおりだ。
- 対象地域: 全国の国内旅客船事業。
- 対象期間: 1996~2024年度。年度は4月から翌年3月まで。
- 集計範囲: 一般旅客定期航路事業、特定旅客定期航路事業、旅客不定期航路事業の合計。
- 指標: 輸送人員。乗船した人の延べ数で、年間の実利用者数ではない。
例えば、同じ人が船で往復すれば、行きと帰りの利用がそれぞれ輸送実績に入る。したがって、約7,500万人という数字を「日本で船に乗った人が約7,500万人いた」と読み替えてはいけない。
また、船の種類と事業の区分は別の分類である。車を積むカーフェリーに限定した数字でも、長距離航路だけの数字でもない。長期系列の集計範囲は、国土交通省の推移図の注記に基づく。
主要数値――1996年度から約半減、2020年度からは増加
起点を1996年度に置くか、2020年度に置くかで、増減の見え方は大きく変わる。
以下は主要年度を抜き出したものだ。単位は万人にそろえた。2023年度は交通政策白書の73.7百万人、2024年度は国土交通白書の概数を使用している。交通政策白書2025
| 年度 | 輸送人員 | 比較上の位置づけ |
|---|---|---|
| 1996 | 14,810万人 | 長期比較の起点 |
| 2000 | 11,010万人 | 1億人台へ縮小 |
| 2010 | 8,500万人 | その後の横ばい期に近い水準 |
| 2013 | 8,800万人 | 2010年度より増加 |
| 2018 | 8,760万人 | コロナ禍前の比較基準 |
| 2019 | 8,020万人 | 年度末に感染拡大期を含む |
| 2020 | 4,530万人 | コロナ禍で大幅減 |
| 2021 | 4,910万人 | 回復に転じる |
| 2022 | 6,330万人 | 回復が進む |
| 2023 | 7,370万人 | 増加が続く |
| 2024 | 約7,500万人 | 前年度比約2%増 |
出典は国土交通省の長期推移図、国土交通白書2024・2026、交通政策白書2025。2022年度の値は国土交通白書2024で確認した。以下の比率は、公表値を使った筆者計算である。
2024年度の約7,500万人は、1996年度より約7,310万人少ない。減少率は約49%になる。ただし最新年度が概数なので、細かな小数点まで比較する意味は薄い。
一方、2020年度からは約2,970万人増え、増加率は約66%だ。大きな伸びだが、比較元はコロナ禍で落ち込んだ年度である。
2018年度との比較では約1,260万人少なく、約14%減。つまり、急落からは回復したが、2018年度の水準には届いていない。
長期推移――「減少」「横ばい」「急落と回復」を分ける
約30年の動きは、一本調子の減少ではなく、性格の異なる期間に分かれる。
1996~2010年度:コロナ禍以前に大きく減った
輸送人員は1億4,810万人から8,500万人へ、6,310万人減った。減少率は約43%である。
1996年度から2018年度までの減少幅6,050万人と比べても、この時期の縮小は大きい。その後に一部持ち直したため、2010年度までの減少幅のほうが大きくなっている。
ここから確認できるのは、長期減少をコロナ禍だけでは説明できないということだ。船の利用は、それより前から縮小していた。
2010~2018年度:8,000万人台後半で推移
2010年度は8,500万人、2013年度は8,800万人、2018年度は8,760万人だった。年ごとに上下しながらも、この区間だけを見ればおおむね横ばいである。
「昔より減った」という長期比較と、「直近数年間は安定していた」という短期比較は両立する。起点を明記せずに減少率だけを示すと、この違いが消えてしまう。
2019~2024年度:急落後に回復、直近の伸びは小さくなる
2019年度の8,020万人から、2020年度には4,530万人へ約44%減った。その後は2021、2022、2023、2024年度と増加している。
公表資料による増加率は、2022年度が前年度比28.8%増、2023年度が約17%増、2024年度が約2%増だ。回復は続くが、直近の増加率は小さくなっている。
ただし、増加率の縮小だけで需要の上限に達したとは判断できない。航路ごとの利用、便数、供給できる座席数などを確認する必要がある。
2019年度にも注意が要る。2020年2~3月を含むため、感染拡大の影響を全く受けていない基準ではない。本記事で2018年度との比較を併記するのは、そのためだ。
長距離フェリー――国内旅客船全体とは回復度合いが違う
国内旅客船の合計がコロナ禍前を下回っていても、長距離フェリーまで同じ状態とは限らない。
日本交通公社の『旅行年報2024』は、長距離フェリーの2023年度の旅客輸送人員を約236万人、前年度比14.5%増とし、2019年度と同水準に回復したと整理している。旅行年報2024・運輸業
この比較は重要だ。国内旅客船全体では2023年度の7,370万人が2019年度の8,020万人を下回る一方、長距離フェリーでは2019年度並みになっていた。全体の数字をそのまま各業態に当てはめると、回復の違いを見落とす。
ただし、長距離フェリーの比較はここでは2023年度までである。国内旅客船全体の2024年度値と並べて、同じ年度の回復率として扱うことはできない。
船の利用を判断するときは、少なくとも次を分けたい。
- 国内旅客船全体か、長距離フェリーなどの一部か。
- 全国合計か、特定の港・航路の実績か。
- 旅客数か、車両・貨物の輸送量か。
- 2018年度との比較か、2019年度との比較か。
フェリーは人と車両を運ぶ。旅客数が伸び悩んでいても車両輸送が増える場合があり、旅客数だけでは事業全体の需要を測れない。
減少の背景――人口や代替交通の説明には航路別の検証が必要
全国合計は減少の事実を示すが、その原因の割合までは教えてくれない。
国土交通白書2019は、国内旅客船の輸送需要について、人口構造の変化などに伴う長期的な減少傾向を指摘している。国土交通白書2019・海事産業
ただし、この指摘から「全国の減少分はすべて人口減少による」と結論づけることはできない。住民の日常利用、観光客の乗船、特定の利用者を運ぶ航路では、需要を左右する条件が違う。
原因を確かめるには、全国の時系列に次のデータを重ねる必要がある。
- 居住人口: 航路が結ぶ島や沿岸地域の人口・年齢構成と、住民の利用がどう変わったか。
- 代替交通: 橋や道路などの整備前後で、航路と陸上交通の利用がどう変わったか。
- 観光需要: 宿泊者数や観光客数の変化と、船の利用が同じ方向に動いたか。
- 運航条件: 便数、航路の開廃、運賃、欠航などが輸送実績にどう関わったか。
これは原因を決めつけるための一覧ではなく、検証に必要な比較項目だ。例えば人口と乗客数が同時に減っても、減便や代替交通の変化を確認しなければ、人口だけの効果は切り分けられない。
また、輸送人員には利用距離が反映されない。短い渡船の乗船1回も、長距離フェリーの乗船1回も、人員では同じ1人になる。移動距離まで含めて比べるなら、人数に距離を掛けた「人キロ」を併用する必要がある。
統計の注意点――延べ人数、集計範囲、概数をそろえる
長期比較の精度は、数字の細かさよりも比較条件をそろえられるかで決まる。
全国合計は、同じ航路を追い続けた数字ではない
1996年度と2024年度では、運航している航路や事業者の顔ぶれが同じとは限らない。合計の減少には、既存航路の利用減だけでなく、航路の廃止や再編なども含まれうる。
したがって、全国合計から「存続している各航路の乗客が約半分になった」とは言えない。個別航路を評価するなら、その航路の継続した実績を使う必要がある。
表示精度が異なる値を混ぜて細かく計算しない
長期推移図は百万人単位で小数第1位まで表示される一方、2026年版白書本文は「約75百万人」という概数である。本記事の最新年度を使う減少率も概算とした。
2024年度の前年比についても、公表資料の「約2%増」を採用した。丸めた7,500万人と前年値だけで計算し直した率は、丸め前の値による公表率と一致しない場合がある。
出典が違えば「旅客船」の数字も一致するとは限らない
別資料の全国値を追加する際は、事業区分、報告対象、改訂の有無を確認したい。同じ「旅客船」という表題でも、収録範囲や更新時点が違えば値がずれる可能性がある。
本記事では国内旅客船事業の合計を軸に比較した。月次の速報や港別の乗降人員を、そのまま年度の全国輸送人員につなぎ合わせてはいない。
暮らしへの意味――乗客の回復と航路の維持は別に確認する
地域で重要なのは、全国の乗客数が増えたかに加えて、必要な時間に移動できる便が残っているかである。
2026年版国土交通白書は、輸送需要の増加を記す一方、燃油価格高騰などで国内旅客船の経営環境は厳しいとしている。乗客数の回復だけで、経営も同じ程度に改善したとは判断できない。
住民の通院や買い物に使う航路なら、確認したいのは年間人数だけではない。朝の到着時刻、帰りの最終便、陸上交通との接続といった条件が、実際に移動できるかを左右する。これは全国統計から直接分かる事実ではなく、地域の航路を評価するときの着眼点だ。
今後の推移も、次のように分けて読むと判断しやすい。
- 人員と便数がともに増える場合: 利用の回復に加え、移動の選択肢が増えたかを確認する。
- 人員が増えて便数が減る場合: 1便当たりの利用は増えても、利用できる時間帯が狭まっていないかを見る。
- 人員が減って車両輸送が増える場合: フェリーの需要が、旅客と物流で違う方向に動いていないかを調べる。
国内旅客船の輸送人員は長期では約半減し、足元では回復している。この二つを押さえたうえで、利用する航路の実績、便数、車両輸送を並べる。それが、全国の数字を自分の地域の移動に結びつける次の一歩になる。
