認知症の高齢者は2040年に584万人へ――「人数」と「割合」で読む将来推計
日本の65歳以上で認知症のある人は、2022年の推計443.2万人から、2040年には584.2万人へ増える見通しです。差は141万人、約32%増。ただし、これは将来の患者を数えた結果ではなく、男女・年齢別の有病率が変わらないという前提で計算した数字です。
重要なのは、同じ年齢で認知症のある割合が上がらなくても、高齢者の年齢構成が変われば、全国の人数は増えることです。2026年版高齢社会白書にも掲載された推計を使い、増加の規模と、数字を暮らしや地域の備えに結び付ける際の注意点を見ていきます。
この記事で分かることは、次の3点です。
- 2022年から2040年、2060年までに人数と割合がどう変わるか。
- 以前の「2025年に約700万人」という推計と、何が違うか。
- 全国推計を地域の相談・介護体制に使うとき、何を追加で確認するか。
使用データは、地域調査を全国人口に当てはめた推計
この数字は、医療機関を受診した患者の全国集計ではありません。
主に使うのは、九州大学の研究班による「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」です。2022~2023年度の地域調査を基にした結果が、2024年5月8日に公表されました。2026年10月8日時点で確認した令和8年版高齢社会白書も、この調査に基づく2022年と2040年の値を掲載しています。
比較条件を整理すると、次のようになります。
- 対象:日本全国の65歳以上。65歳未満の若年性認知症は、この人数に含まれません。
- 基準年:2022年。地域調査の実施年度は2022~2023年度です。
- 将来の前提:調査で得た男女別・5歳階級別の有病率が、2025年以降も一定。
- 人口の前提:国立社会保障・人口問題研究所の2023年将来推計人口の出生中位・死亡中位推計。
「有病率」は、ある時点で対象集団のうち認知症のある人が占める割合です。1年間に新しく発症した人数や、病院に通った人数とは違います。
研究では会場での調査に加え、自宅や入居施設への訪問も行っています。受診者だけを数える統計とは、対象者の捉え方が異なる点を押さえておく必要があります。九州大学の調査結果公表
2040年には141万人増、2060年には約202万人増
全国の認知症高齢者数は長期的に増える推計ですが、増え方は一定ではありません。
以下は同じ推計に基づく値です。人数の単位は万人、有病率の分母はいずれも全国の65歳以上人口です。
| 年 | 認知症のある人 | 有病率 | 2022年からの人数差 |
|---|---|---|---|
| 2022年 | 443.2万人 | 12.3% | 基準 |
| 2025年 | 471.6万人 | 12.9% | +28.4万人 |
| 2030年 | 523.1万人 | 14.2% | +79.9万人 |
| 2040年 | 584.2万人 | 14.9% | +141.0万人 |
| 2050年 | 586.6万人 | 15.1% | +143.4万人 |
| 2060年 | 645.1万人 | 17.7% | +201.9万人 |
出典:厚生労働省・九州厚生局の公開資料。人数差は掲載値から計算。2022年も推計値であり、2025年以降は将来推計です。2025年がすでに過ぎていても、この表の471.6万人が実測値に変わるわけではありません。
人数の増加率と、割合の上昇幅は別
2022年から2040年までの人数増加率は、141.0÷443.2で約31.8%です。一方、有病率は12.3%から14.9%へ、2.6ポイント上昇します。
「人数が約32%増える」と「割合が32ポイント上がる」は、まったく異なる意味です。2040年の14.9%は、65歳以上の約6.7人に1人に相当します。全年齢の国民の約6.7人に1人、という意味ではありません。
2060年の人数は2022年比で約45.6%増。有病率17.7%は、65歳以上の約5.6人に1人に相当します。
毎年同じ勢いで増えるわけではない
2040年の584.2万人と2050年の586.6万人の差は、2.4万人にとどまります。10年間を通した差は小さく、その後2060年までには58.5万人増える推計です。
したがって「長期的に増える」という説明だけでは、相談窓口や介護サービスをいつ増やすかまでは決められません。準備には、直近の人数だけでなく、10年先、20年先の人口構成も必要です。
年齢別の割合が一定でも、全体の割合は上がる
全国の有病率が上昇するのは、この推計では高齢者の男女・年齢構成が変わるためです。
計算は、男女別・年齢階級別の人口に、その区分の有病率を掛け、最後に足し合わせます。例えば、同じ「65歳以上人口1万人」でも、65~74歳が多い地域と、85歳以上が多い地域では、見込まれる人数が変わります。
ここで固定しているのは、各区分の有病率です。65歳以上全体をまとめた12.3%を、そのまま将来人口に掛け続けているわけではありません。研究報告書・推計方法
この違いは、数字の受け止め方を変えます。将来の全国有病率が上がるという結果だけから、「同じ年齢の人が以前より認知症になりやすくなる」とは判断できません。
ここがポイント: 年齢ごとの有病率と、高齢者全体の有病率を分けて読む。人口構成が変わるだけでも、人数と全体の割合は変わります。
これは地域比較にも当てはまります。自治体の有病率を比べる際には、年齢構成をそろえた数字なのか、それぞれの住民構成を反映した数字なのかを確認する必要があります。
「2025年に約700万人」と違うのは、推計を更新したため
以前の予測と新しい予測の差を、実際の患者数の減少と読み替えることはできません。
厚生労働省の旧資料では、2012年の推計462万人を基に、2025年の認知症有病者数を約700万人とする見通しが示されていました。その計算には、糖尿病有病率が2060年までに20%増えるという仮定などが含まれていました。厚生労働省の旧推計資料
今回の推計は、より新しい地域調査から得た有病率を使い、男女・年齢別の割合を一定とする計算です。2025年の471.6万人と旧推計の約700万人は、同じ条件で測った実績同士ではありません。
新しい調査で得られた性年齢調整後の有病率12.3%は、2012年に報告された15%より低い値でした。研究班は喫煙率の低下や生活習慣病管理の改善などが関係した可能性を挙げていますが、理由が明確になったとはしていません。
ここから読めるのは、古い前提を固定したまま将来の必要量を見積もり続けると、計画が実態から離れ得るということです。一方で、旧予測より人数が少ないからといって、今後の支援需要が減るという結論にもなりません。
MCIを足した人数を「認知症患者数」にしない
軽度認知障害、MCIは認知症と区別して集計されており、両者を足した値には別の意味があります。
MCIは、認知機能の低下が認められるものの、認知症とは診断されない状態です。この調査でも認知症とMCIに別の診断基準を使っています。
白書に掲載されたMCIの推計は、次の通りです。
- 2022年:558.5万人、有病率15.5%。
- 2040年:612.8万人、有病率15.6%。
認知症とMCIの人数を合計すると、2022年は1,001.7万人、2040年は1,197.0万人です。ただし、これは認知症とMCIを合わせた人数であり、「認知症が約1,200万人になる」という表現は不正確です。
また、将来のMCI人数は、現在MCIのある人を追跡して、その後の状態を予測した数字ではありません。それぞれの年の人口構成に有病率を当てはめた推計です。人数の足し算だけでは、誰にどの支援が必要か、介護サービスがどれだけ必要かは分かりません。
地域の備えに使うには、人口構成と調査条件の確認が必要
全国の14.9%を自治体の高齢者人口に掛けるだけでは、地域の必要量を十分に捉えられません。
全国推計の基礎となった有病率は、調査率が80%以上だった福岡県久山町、石川県七尾市中島町、愛媛県伊予市中山町、島根県海士町の4地域から得られています。全国の全自治体を同じ方法で調べた結果ではなく、都道府県別ランキングに直接使える数字でもありません。
「少なく見える地域」が、そのまま低リスクとは限らない
調査に参加した人の割合が低いと、認知症のある人を十分に把握できない可能性があります。地域別の値を見る際は、年齢構成に加えて、調査への参加率、自宅や施設への訪問の有無、診断方法も確認したいところです。
行政の相談件数についても同様です。少ない理由は、支援を必要とする人が少ないためかもしれませんが、窓口に届いていないためかもしれません。相談件数だけでは区別できません。
人数の増加と、サービス量の増加は同じではない
同じ認知症のある人でも、状態や生活環境は異なります。人数推計は支援対象の規模を考える入口になりますが、介護職員数や施設定員へそのまま換算する数字ではありません。
自治体が計画に使うなら、次の情報を組み合わせる必要があります。
- 男女別・5歳階級別の高齢者人口と、その将来推計。
- 単身世帯や高齢者のみの世帯の数。
- 相談窓口の利用状況、待機期間、訪問支援の実績。
- 在宅・施設サービスの利用量と、担い手の確保状況。
これは全国推計から導く実務上の見方です。人口が減る自治体でも、支援を必要とする人の割合や、支える側の人数が同時に変わるため、総人口の減少だけでサービスを縮小できるとは限りません。
次に見るべきは、有病率の更新と支援へのつながり方
584万人という数字は、将来を固定する答えではなく、条件を明示した計画の出発点です。
男女・年齢別の有病率が今後低下すれば、人口条件が同じなら人数はこの推計より少なくなります。逆に上昇すれば、多くなります。治療や予防、生活環境の変化がどの程度数字に表れるかは、新しい調査で確かめる必要があります。
研究報告書では、2040年の認知症人数について95%信頼区間551.0万~617.3万人も示しています。ただし、この幅は、将来の医療や社会環境が変わるあらゆる可能性を含む上下限ではありません。有病率を一定とする前提自体が変われば、見通しも変わります。
生活や地域の変化を読む際には、次の3点を続けて確認したいところです。
- 新しい調査で、男女・年齢別の有病率が変わっているか。
- 地域で85歳以上人口や単身高齢者がどれだけ増えるか。
- 相談から診断、生活支援まで、必要な人が実際につながれているか。
全国で141万人増える見通しを、地域の窓口や訪問支援の準備に落とし込む。その際に必要なのは、全国の人数を分け配ることではなく、地域の年齢構成と、支援が届くまでの状況を確かめることです。
