地震保険の世帯加入率は35.5%へ――地域差と大災害後の伸びを読む
地震保険の普及は長期的に進んでいます。2025年の全国の世帯加入率は35.5%で、2024年の35.4%から0.1ポイント上昇しました。一方、2025年度に契約された火災保険に地震保険を付けた割合は70.8%です。「世帯の約35%」と「火災保険契約の約71%」は、分母も集計時点も違う数字です。
都道府県別の世帯加入率は宮城県が53.3%、沖縄県が18.8%。大災害のあった時期には上昇が目立ちますが、その後も全地域が同じ速さで増え続けるわけではありません。最新の世帯加入率は、損害保険料率算出機構の統計を転載したSBIインズウェブの2026年9月1日更新表で確認しています。
この記事で分かることは、次の三つです。
- 世帯加入率、付帯率、契約件数をどう使い分けるか
- 都道府県の順位が、見る指標によってどう変わるか
- 阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震の前後に何が変わったか
使用データ――「世帯」と「契約」を分けて比較する
地震保険の加入状況を読むには、全世帯に対する普及と、火災保険を契約する際の選択を分ける必要があります。
主な出典は、損害保険料率算出機構の「地震保険統計速報」と同機構の公表資料、日本損害保険協会の過去の統計資料です。全国・都道府県を対象に、居住用建物と家財の地震保険を比較します。各種共済は含みません。確認時点は2026年10月8日です。
三つの指標は何を数えているか
- 世帯加入率:有効な地震保険の契約件数を、住民基本台帳の世帯数で割った値。2025年分は2025年12月末の契約件数と2026年1月1日の世帯数を使います。
- 付帯率:当該年度に契約された住宅物件の火災保険のうち、地震保険が付いている契約の割合。最新値は2025年度分です。
- 保有契約件数:ある時点で有効な地震保険契約の件数。年度末の最新値は2026年3月末です。
世帯加入率は、世帯を一軒ずつ調査して加入の有無を数えた結果ではありません。契約件数を世帯数で割る指標なので、加入した実世帯数と完全に一致するとは限りません。
また、長期比較には時点の変更があります。世帯加入率は2012年度以前が年度末、2013年以降が暦年末の契約件数を使っています。住民基本台帳の世帯数には、2012年7月9日から適用対象となった外国人も含まれます。これらの定義と速報値の扱いは、機構の統計ページに明記されています。
全国では増えているが、最近の伸びは小さい
地震保険の普及は続いているものの、最新の一年では世帯加入率の上昇は0.1ポイントにとどまりました。
2025年の35.5%は、2010年度の23.7%と比べると11.8ポイント高い水準です。ただし、途中で集計時点が変わっているため、この差は長期的な普及の目安として読む必要があります。
契約件数でも増加を確認できます。機構が2026年6月11日に公表した資料によると、2025年度末の保有契約件数は2,200万7,610件。前年度末の2,179万8,273件から20万9,337件増え、増加率は1.0%でした。1992年度以降、34年連続の増加です。
一方、2025年度の新契約件数は884万5,598件で、前年度比1.2%減でした。ここでいう「新契約」には更新した契約も含まれます。初めて加入した世帯の数ではありません。
つまり、有効な契約が積み上がる一方、その年度に契約・更新した件数は減ることがあります。契約期間が変われば更新の頻度も変わるため、新契約件数だけで加入離れを判断するのは早計です。
火災保険に地震保険を付ける割合も上昇しました。2026年8月25日の公表値では、2025年度の付帯率は70.8%。前年度から0.4ポイント増え、2003年度以降23年連続で上昇しています。
都道府県の順位は、指標を変えると入れ替わる
世帯加入率が高い県と、火災保険への付帯率が高い県は一致しません。
まず、2025年の世帯加入率の上位・下位を見ます。全国値は35.5%で、以下は同一年・同一定義の比較です。
| 区分 | 都道府県 | 世帯加入率 |
|---|---|---|
| 上位1位 | 宮城 | 53.3% |
| 上位2位 | 愛知 | 44.8% |
| 上位3位 | 熊本 | 42.5% |
| 上位4位 | 岐阜 | 41.8% |
| 上位5位 | 福岡 | 39.6% |
| 下位3位 | 島根 | 23.6% |
| 下位2位 | 長崎 | 22.3% |
| 下位1位 | 沖縄 | 18.8% |
出典:損害保険料率算出機構の統計を転載したSBIインズウェブの都道府県別表。順位は掲載値を並べ替え、差は筆者が計算しています。
宮城と沖縄の差は34.5ポイント、比率では約2.8倍です。しかし、これをそのまま地震の危険度や防災意識の順位とみなすことはできません。共済契約が集計から外れるうえ、世帯数を分母にした指標だからです。
高知は付帯率が高くても、世帯加入率は全国を下回る
指標の違いがよく分かるのは高知県です。
2025年度の付帯率は87.6%で全国2位ですが、2025年の世帯加入率は29.2%。全国の35.5%を下回ります。火災保険の契約時には地震保険を付ける割合が高くても、それだけで全世帯に広く普及しているとは判断できません。
逆に東京都は、付帯率が62.4%で全国値を下回る一方、世帯加入率は36.3%で全国値を上回ります。比較の分母を変えると、全国に対する位置も変わります。
2025年度の付帯率の上位5県は、熊本88.7%、高知87.6%、宮城87.4%、鹿児島86.7%、宮崎86.6%です。機構の発表全文でも、この順位が示されています。
地域全体への普及を知りたいなら世帯加入率、契約時の選択を知りたいなら付帯率。二つを混ぜると、同じ県について反対の印象を持ちかねません。
大災害のあった時期には、上昇幅が大きくなった
過去の推移では、大きな災害のあった時期に加入率や付帯率の上昇が目立ちます。ただし、災害だけの効果を測った数字ではありません。
阪神・淡路大震災のあった1995年度
日本損害保険協会の「FACT BOOK 2013」によると、全国の世帯加入率は1994年度の9.0%から1995年度の11.6%へ上昇しました。差は2.6ポイントです。
阪神・淡路大震災は1995年1月に発生しています。1994年度末の値はすでに震災後の時点なので、9.0%を厳密な「震災直前の加入率」とするのは不正確です。年度の数値を比べるときは、地震の発生日と集計日の位置関係も確認する必要があります。
東日本大震災後は宮城の伸びが全国を大きく上回った
同資料では、全国の世帯加入率は2010年度23.7%、2011年度26.0%、2012年度27.1%でした。2010年度から2011年度の上昇幅は2.3ポイントです。
宮城県は、同じ期間に33.6%から43.5%へ9.9ポイント上昇し、2012年度には48.5%となりました。全国の伸びと比べても、宮城での変化は大きかったことが分かります。
ただし、東日本大震災は2011年3月11日に発生したため、2010年度末の数値にも発生後の契約動向が一部含まれます。これは厳密な震災前後比較ではなく、震災のあった時期から翌年度以降への比較です。
現在の宮城の世帯加入率は53.3%です。震災後に大きく上がった水準が続いている一方、2012年度の48.5%からの差は4.8ポイント。初期の急上昇と、その後の緩やかな変化を分けて読むことが大切です。
熊本地震以降は九州7県で付帯率が上昇
熊本地震については、発生前の2015年度と最新の2025年度を、付帯率で比較できます。機構の発表に掲載された九州7県の変化は次のとおりです。
- 熊本:63.8%→88.7%、24.9ポイント増
- 佐賀:44.7%→66.7%、22.0ポイント増
- 長崎:39.2%→57.2%、18.0ポイント増
- 大分:62.9%→79.6%、16.7ポイント増
- 福岡:64.0%→78.1%、14.1ポイント増
- 鹿児島:73.0%→86.7%、13.7ポイント増
- 宮崎:76.3%→86.6%、10.3ポイント増
熊本だけでなく九州7県すべてで上昇しています。ただし、これは10年間の累積変化です。地震直後に何ポイント増えたかを示すものではありません。また、宮崎は出発点が76.3%と高く、上昇幅が小さくても最新の付帯率は高い水準です。
比較の要点は、上昇幅と到達した水準を両方見ることです。低い水準から大きく伸びた県と、もともと高かった県を、増加ポイントだけで評価すると読み違えます。
災害経験だけでは、地域差も最近の動きも説明しきれない
統計が示すのは契約の変化であり、人が加入した理由そのものではありません。
災害を経験して補償への関心が高まることは、上昇の背景として考えられます。しかし、年次データだけでは、契約更新、住宅の取得、保険会社の案内など、ほかの要因と切り分けられません。因果関係を確かめるには、災害の影響が異なる地域を比較し、災害前からの傾向も調べる必要があります。
最近の動きには、上昇一辺倒ではない面もあります。機構の「2025年度 火災保険・地震保険の概況」に載る2024年の世帯加入率は、熊本43.4%、高知29.2%でした。2025年は熊本42.5%、高知29.2%なので、熊本は0.9ポイント低下、高知は横ばいです。
それでも両県の2025年度付帯率は全国上位にあります。契約時に地震保険を付ける割合が高まっても、全世帯に対する契約件数の比が必ず上がるわけではありません。
考えられる動きは複数あります。
- 契約件数が増えても、世帯数がさらに速く増えれば世帯加入率は下がる
- 既存契約の終了や解約が増えれば、契約時の付帯率が高くても保有契約は伸びにくい
- 年末と年度末で契約件数が違えば、二つの時点の数字から受ける印象も変わる
これらは指標の仕組みから分かる可能性であり、熊本の低下理由を特定したものではありません。県別の保有契約件数と世帯数を同じ時点で確認することが、次の分析になります。
加入率から「補償が十分か」までは分からない
加入率は普及の指標ですが、被災後に使える金額を示す指標ではありません。
まず、共済が含まれないため、世帯加入率35.5%の裏返しを「残り64.5%は地震への補償がない」と読むことはできません。また、建物と家財のどちらを契約しているか、保険金額はいくらかという違いも、加入率だけでは見えません。
地震保険は火災保険と合わせて契約する仕組みで、保険金額は火災保険の保険金額の30~50%の範囲内です。上限は建物5,000万円、家財1,000万円とされています。この制度上の範囲は、機構の発表全文で確認できます。
そのため、地震保険に加入しているという事実だけで、住宅の再建費用全額が確保されているとは判断できません。地域の加入率を見る場面と、自分の契約内容を確認する場面では、必要な情報が違います。
次に見るべきは、加入率の分子と補償の中身
今後の普及を確かめるには、率の上昇だけでなく、有効な契約件数がどう変わったかを見る必要があります。
全国では保有契約が増え続け、契約時の付帯率も過去最高になりました。一方、世帯加入率の直近の伸びは小さく、県によっては低下しています。次の公表値で確認したいのは、次の三点です。
- 地域別の契約件数と世帯数:加入率の変化が、どちらの増減から生じたか
- 災害後の継続状況:一時的な契約増加が、数年後も残っているか
- 契約の対象と金額:建物・家財の何が補償され、どの程度の資金を確保しているか
火災保険の更新時には、県の順位を判断基準にするより、手元の契約に地震補償があるか、建物と家財の対象・金額がどう設定されているかを確認するほうが、家計の備えを具体的に把握できます。
