特殊詐欺の被害額は本当に増えているのか 2025年データで見る年代別の変化
特殊詐欺の被害は、増えているといってよいです。しかも2025年は、件数の増加以上に被害額の伸びが大きく、警察庁の暫定値では被害額が1,414.2億円に達しました。2024年の718.8億円から、ほぼ倍増です。
もう一つ大きいのは、被害の年齢構成が変わってきたことです。高齢者が中心という構図は続いていますが、2025年は20代・30代の被害が目立って増え、特に「ニセ警察詐欺」が全体を押し上げました。
- 2025年の特殊詐欺は全国で27,758件、1,414.2億円
- 被害額は2024年比で+96.7%、件数は+31.9%
- 高齢者被害は依然多いが、65歳以上の構成比は65.4%→51.3%に低下
- 20代・30代への拡大が目立ち、2025年はニセ警察詐欺が急増要因になった
今回見たデータ
警察庁が公表した全国ベースの統計を使います。比較したのは、主に2023年、2024年、2025年の年次データです。
- 出典: 警察庁「特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等」
- 対象地域: 全国
- 対象年: 2023年確定値、2024年確定値、2025年暫定値
- 比較条件: 特殊詐欺の認知件数、被害額、年齢層別傾向、主要手口
2026年5月1日には2026年3月末の暫定値も出ていますが、2026年から警察庁の手口区分と集計の見せ方が変わっています。そのため、2025年以前の年次 totals と単純に横並びにしないほうが安全です。この点は後半で触れます。
被害はどれだけ増えたのか
まず全体の流れを見ると、2023年から2025年にかけて増加がはっきりしています。特に目立つのは被害額です。
| 年 | 認知件数 | 被害額 |
|---|---|---|
| 2023年 | 19,038件 | 452.6億円 |
| 2024年 | 21,043件 | 718.8億円 |
| 2025年(暫定値) | 27,758件 | 1,414.2億円 |
2024年も増えていましたが、2025年はその上にもう一段、跳ね上がりました。
- 2023年→2024年: 件数は約10.5%増、被害額は約58.8%増
- 2024年→2025年: 件数は約31.9%増、被害額は約96.7%増
- 2025年の1日当たり被害額は3.9億円
- 2025年の既遂1件当たり被害額は521.8万円
ここがポイント: 2025年は「件数が増えた年」であるだけでなく、1件ごとの被害も重くなった年です。
何が増加を押し上げたのか
結論からいうと、2025年の急増はニセ警察詐欺の拡大が主因です。
警察庁資料では、2025年のニセ警察詐欺は認知件数10,936件、被害額985.4億円でした。特殊詐欺全体に占める割合は、件数で39.4%です。しかも、オレオレ詐欺14,393件のうち74.3%がニセ警察詐欺でした。
この数字が意味するのは、従来の「家族や役所をかたる電話詐欺」だけではなく、警察官を装い、資金調査や捜査名目で高額送金させる手口が、2025年の中心に移ったということです。
さらに、被害の受け渡し方も変わっています。
- 2025年の振込型被害は16,862件、820.7億円
- そのうちインターネットバンキング利用は6,868件、495.1億円
- 振込型被害額に占めるインターネットバンキングの割合は60.3%
現金を手渡しする古いイメージだけでは、今の特殊詐欺は追えません。スマホやネットバンキングを使う生活圏そのものが、被害の入口になっています。
年代別では何が変わったのか
ここが2025年のいちばん重要な変化です。高齢者の被害は今も多い一方、若い世代にも被害が広がりました。
高齢者は依然として中心
特殊詐欺全体でみると、65歳以上の被害認知件数は次の通りです。
- 2024年: 13,738件、法人被害を除く構成比65.4%
- 2025年: 14,232件、法人被害を除く構成比51.3%
件数そのものは増えています。つまり、高齢者被害が減ったわけではありません。
ただし全体の増え方がそれ以上に大きかったため、構成比は下がりました。ここを読み違えると、「高齢者の被害が軽くなった」と見えてしまいますが、実際にはそうではありません。
20代・30代の被害拡大が目立つ
2025年のオレオレ詐欺では、年代別の認知件数が次のように出ています。
- 80代以上: 3,229件
- 70代: 2,432件
- 30代: 2,268件
- 20代: 1,744件
件数の最多は80代以上ですが、30代がすでに70代にかなり近い水準まで増えています。20代と30代を合わせると、オレオレ詐欺の認知件数の27.9%を占めました。
ニセ警察詐欺に限ると、さらに若年層への広がりがはっきりしています。
- 30代: 2,221件
- 20代: 1,686件
- 一方で被害額は70代266.1億円、60代249.1億円が大きい
つまり、件数は若い世代にも広がり、被害額は中高年・高齢層で大きくなりやすいという二層構造が見えます。
地域差も無視できない
今回の記事の主眼は年代別傾向ですが、地域の偏りもかなり強いです。2025年は人口上位8都府県に被害が集中しました。
- 東京都: 4,353件、281.8億円
- 大阪府: 3,304件、137.1億円
- 神奈川県: 2,479件、135.6億円
- 兵庫県: 1,963件、83.8億円
- 愛知県: 1,956件、92.6億円
この8都府県で、特殊詐欺全体の
- 認知件数の66.0%
- 被害額の66.4%
を占めました。人口シェアは51.4%なので、単に人口が多いからだけでは説明しきれません。都市部では接触機会、送金手段、名簿流通、単身高齢世帯や働く世代への到達のしやすさなど、複数の条件が重なっている可能性があります。
ただし、ここは統計だけで因果関係までは断定できません。
データから言えること、言えないこと
言えること
- 特殊詐欺の被害額は、2023年から2025年にかけて急増した
- 2025年の増加は、ニセ警察詐欺の拡大が大きく効いている
- 高齢者被害は依然として多いが、若年層への拡大が同時進行している
- ネットバンキング利用の高額被害が、被害額全体を押し上げている
まだ言い切れないこと
- 若年層被害の増加が一時的か、定着した変化か
- 都市部集中の主因が人口規模なのか、通信手段なのか、別の要因なのか
- 啓発や規制策が、どの手口にどこまで効いているか
統計は結果を示しますが、原因を一つに絞る資料ではありません。特に「若者のリテラシーが下がったから」といった説明は、このデータだけでは支えられません。
読むときの注意点
数字は大きいですが、比較には注意点があります。
- 2025年の年次値は暫定値
- 2024年は確定値
- 2026年から警察庁は、ニセ警察詐欺を独立手口化し、さらにSNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置付けた
- そのため、2026年3月末の11,093件・937.9億円は高水準だが、2025年以前とそのまま縦比較しにくい
とくに2026年の数字は、見た目だけで「さらに急増」と受け取ると誤読しやすいです。定義変更後の集計であることを前提に見る必要があります。
これから見るべき点
特殊詐欺の現状は、「高齢者を狙う犯罪」のままでは説明しきれません。2025年の統計では、生活のデジタル化に沿って、働く世代や若い世代まで被害が広がりました。
今後の注目点は次の3つです。
- 20代・30代への被害拡大が2026年も続くのか
- ネットバンキング経由の高額被害がどこまで膨らむのか
- 2026年の新しい集計方式で、ニセ警察詐欺とSNS経由の詐欺が全体のどこまで占めるのか
被害件数よりも先に、被害額の増え方を追うほうが実態をつかみやすい局面に入っています。次に確認すべきなのは、件数の増減そのものより、どの年代が、どの送金手段で、高額被害に巻き込まれているかです。
