スポーツをする人は増えたのか 公的データで見る運動習慣の変化と種目別の動き
結論から言うと、スポーツをする人が全体として増えているとは言いにくいです。総務省の社会生活基本調査では、10歳以上の「スポーツ」行動者率は2016年の68.8%から2021年は66.5%へ低下しました。一方で、スポーツ庁の最新調査では20歳以上の週1日以上の実施率は2025年調査で51.7%と、2022年以降ほぼ横ばいです。
動きがあるのは内訳です。種目別ではウォーキング・軽い体操が伸び、ボウリングや水泳は大きく下がる。増えているのは「何でも一様に」ではなく、日常に組み込みやすい運動へ重心が移っていることが数字から見えます。
- 総務省の2021年調査では、スポーツ行動者率は66.5%で2016年比2.3ポイント低下
- 種目別で上昇したのは主に「ウォーキング・軽い体操」43.3%ではなく44.3%と「サイクリング」8.2%
- スポーツ庁の2025年調査では、20歳以上の週1日以上の実施率は51.7%で直近数年は横ばい
- 都道府県別の週1日以上実施率は、2023年度から2025年度の合算で東京都56.4%が最高、山形県45.3%が最低
使ったデータと比較条件
今回見たのは、定義の違う2つの公的データです。まずここを分けておくと、数字の読み違いを防げます。
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」
- 対象: 10歳以上
- 集計期間: 過去1年間の活動状況(2020年10月20日から2021年10月19日まで)
- 指標: 「スポーツ」をした人の割合(行動者率)
-
特徴: 種目別の長めの比較に向く
-
スポーツ庁「令和7年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」
- 対象: 主に20歳以上
- 公表日: 2026年3月11日
- 指標: 週1日以上、年1日以上、継続的な運動習慣など
- 特徴: 直近の実施頻度や都道府県差を見るのに向く
同じ「スポーツをしているか」でも、片方は過去1年間に一度でもしたか、もう片方は週1日以上しているかです。数字をそのまま横に並べるのではなく、役割を分けて使う必要があります。
まず全体では増えたのか
短く答えるなら、全体は増えていないです。
総務省の社会生活基本調査では、10歳以上のスポーツ行動者率は次の通りでした。
| 年 | スポーツ行動者率 | 前回比 |
|---|---|---|
| 2016年 | 68.8% | – |
| 2021年 | 66.5% | -2.3ポイント |
男女別に見ると、2021年は男性69.9%、女性63.3%です。どちらも2016年より下がっています。
一方、スポーツ庁調査の20歳以上の週1日以上実施率は、2025年調査で51.7%でした。2017年は51.5%で、2022年以降も大きくは伸びていません。少なくとも「最近になって運動する人がはっきり増えた」とまでは言えない水準です。
ここがポイント: 公的データで見ると、スポーツ参加は全体として右肩上がりではありません。伸びているのは総量よりも、歩く、軽く鍛えるといった実施しやすい種目です。
種目別では何が増え、何が減ったのか
全体が横ばいでも、種目別に見ると変化ははっきりしています。
2021年までの5年で伸びた種目
総務省の2016年と2021年の比較では、上昇した主要種目は多くありません。
- ウォーキング・軽い体操: 41.3% → 44.3%(+3.0ポイント)
- サイクリング: 7.9% → 8.2%(+0.3ポイント)
下がった幅が大きい種目
- ボウリング: 12.7% → 5.1%(-7.6ポイント)
- 水泳: 11.0% → 5.7%(-5.3ポイント)
- 登山・ハイキング: 10.0% → 7.7%(-2.3ポイント)
- 器具を使ったトレーニング: 14.7% → 12.9%(-1.8ポイント)
- サッカー: 6.0% → 4.7%(-1.3ポイント)
2021年時点で参加率が高かった種目
- ウォーキング・軽い体操: 44.3%
- 器具を使ったトレーニング: 12.9%
- ジョギング・マラソン: 11.1%
- サイクリング: 8.2%
- つり: 7.8%
- 登山・ハイキング: 7.7%
ここで目立つのは、競技性の強い種目より、1人で始めやすく、時間を細切れに使える運動が上位に残っていることです。
直近の実施種目でも中心はウォーキング
スポーツ庁の2025年調査でも、過去1年間に行った運動・スポーツの種目はウォーキングが突出していました。回答者全体ベースでの上位は次の通りです。
- ウォーキング: 60.3%
- 階段昇降: 21.5%
- トレーニング: 12.3%
- ランニング(ジョギング)・マラソン・駅伝: 10.7%
- サイクリング・自ら進んで行う自転車利用: 10.2%
- 体操: 8.5%
総務省調査と並べて見ると、種目名の切り方は少し違っても、中心にあるのは同じです。「施設や相手が必要なスポーツ」より、「移動や生活の延長で続けやすい運動」が主流になっています。
年代別にみると、落ち込みやすい層はどこか
スポーツ庁の2025年調査では、20歳以上の週1日以上実施率は年代差が大きく出ています。
- 20代: 49.6%
- 30代: 45.7%
- 40代: 46.2%
- 50代: 47.4%
- 60代: 55.1%
- 70代: 65.1%
30代から50代が低く、60代以降で持ち直す形です。仕事や家事、育児の負担そのものをこの調査だけで断定はできませんが、時間の取りにくい世代ほど週1回の継続が難しいという並びにはなっています。
総務省の社会生活基本調査でも、2021年のスポーツ行動者率は高齢層の一部で下げ止まりが見えます。75歳以上は2016年49.6%から2021年53.7%へ4.1ポイント上昇しました。全体が下がる中でも、高齢層では別の動きが出ている点は見逃せません。
地域差はどのくらいあるのか
都道府県差を見るなら、スポーツ庁が公表した2023年度から2025年度の合算値が参考になります。20歳以上の「週1日以上」実施率は全国計52.1%でした。
高い都道府県
- 東京都: 56.4%
- 福岡県: 54.9%
- 石川県: 54.5%
- 奈良県: 54.3%
- 神奈川県: 54.1%
低い都道府県
- 山形県: 45.3%
- 青森県: 45.4%
- 岩手県: 45.5%
- 島根県: 45.7%
- 香川県: 45.8%
最高の東京都56.4%と最低の山形県45.3%では、差は11.1ポイントあります。全国平均だけを見ると見えにくいですが、運動習慣には地域差もかなりあると言えます。
ただし、この都道府県値は単年度ではなく3年度分を合算した値です。地域差を読むには有効ですが、「2025年だけで急に上がった・下がった」といった短期変化まではこの表だけでは分かりません。
数字から読み取れること
ここまでのデータから、言えることは絞れます。
- 全体のスポーツ参加は、最新の公的データでは明確な増加基調ではない
- 種目別では、ウォーキング、軽い体操、サイクリングのような日常密着型が強い
- 週1回以上の継続になると、30代から50代で弱い
- 地域差は1割強あり、全国平均だけでは実態をつかみにくい
逆に、ここからだけでは言えないこともあります。
- ある種目が減った理由を、物価、コロナ後の行動変化、施設数の増減だけで断定すること
- 都道府県差を、住民の意識だけで説明すること
- 「年1回やった人の増減」と「習慣化している人の増減」を同じ話として扱うこと
読むときの注意点
数字は便利ですが、定義の差を無視すると見誤ります。
「一度でもした人」と「習慣化した人」は違う
社会生活基本調査の66.5%は、過去1年間にスポーツをした人の割合です。週1日以上続けた人の割合ではありません。対して、スポーツ庁の51.7%は20歳以上の週1日以上実施率です。
種目分類が完全には同じではない
総務省は「ウォーキング・軽い体操」、スポーツ庁は「ウォーキング」「階段昇降」「体操」などに分けています。似た動きを見ることはできますが、数値を1対1で接続はできません。
2021年の総務省データは調査対象期間に注意がいる
社会生活基本調査の対象期間は2020年10月20日から2021年10月19日までです。この時期は行動制限や施設利用の変化が残っていたため、特に屋内施設型の種目は平時より低めに出た可能性があります。
次に見るべきポイント
スポーツ参加の変化を見るなら、次に注目すべきなのは3点です。
- 2026年実施の社会生活基本調査で、2021年に落ちた種目が戻るのか
- 週1日以上実施率が30代から50代で持ち直すのか
- 地域差が、移動手段や運動施設へのアクセスとどう重なるのか
公的データが示しているのは、単純な「スポーツ離れ」でも「健康志向で全面増加」でもありません。参加者全体は伸び悩み、その中で歩く、軽く鍛える、自転車に乗るといった続けやすい運動へ比重が移っている。この変化を押さえておくと、次の統計が出たときに何が戻り、何が定着したのかを見分けやすくなります。
