路線バス利用者は減っているのか 全国推移と地域差で読み解く地域交通の現実
結論から言うと、路線バスの利用者は長期では大きく減っています。ただし、直近はコロナ禍の底から持ち直しており、いま問題になっているのは「利用者が一方的に減り続けている」ことだけではありません。都市部に需要が集まり、地方では運転者不足で便数や路線そのものを維持しにくくなっていることが、次の課題です。
利用者数だけを見ると、全国の乗合バス輸送人員は1965年度の98.62億人から、2019年度は42.58億人、2022年度は36.18億人でした。長期では半分以下です。一方で、2020年度の31.21億人からは回復しており、「ずっと下がり続けている」と言い切ると現状を外します。
- 全国の乗合バス輸送人員は、1965年度98.62億人から2022年度36.18億人へ縮小
- ただしコロナ禍の底だった2020年度31.21億人から2022年度36.18億人へは回復
- 2022年度でも2019年度比では約15%下回り、完全回復には届いていない
- 利用の落ち込みより深刻なのは、地方での需要減と運転者不足が同時に進んでいる点
使用データと比較条件
今回見たのは、主に国土交通省の公表資料です。基準が少しずつ違うため、同じ表の中での前後比較を基本にしています。
- 全国の長期推移: 国土交通省「数字でみる自動車2024」の乗合バス輸送人員
- 全国の最新公表状況: 国土交通省「自動車輸送統計」
- 地域例1: 北海道運輸局「数字でみる北海道の運輸 令和6年版」
- 地域例2: 近畿運輸局「乗合バス輸送人員及び走行キロの推移」
- 供給側の課題: 国土交通白書、北海道運輸局の運転者確保セミナー資料
比較上の注意点は次の通りです。
- 全国の長期推移は年度ベース
- 一部地域資料は「北海道内相互間」や「近畿管内」など、集計範囲が地域ごとに異なる
- 国土交通省資料では、表によって高速バスの扱いが異なるものがある
- そのため、異なる資料同士の厳密な横比較より、同じ資料の中での変化を重視するのが安全です
全国ではどこまで減ったのか
まず全国の大きな流れです。国土交通省の資料では、乗合バス輸送人員は次のように推移しています。
- 1965年度: 98.62億人
- 2019年度: 42.58億人
- 2020年度: 31.21億人
- 2022年度: 36.18億人
ここから言えることははっきりしています。
- 長期では1965年度から2022年度にかけて約57%減
- コロナ禍で2020年度に大きく落ち込んだ
- その後は戻しているが、2022年度でも2019年度より約15%少ない
ここがポイント: 路線バスは「ずっと一方向に減少」ではありません。長期では縮小、直近では回復途上、という二段階で見る必要があります。
地域差はむしろ広がっている
全国平均だけだと見えにくいのが、都市部とそれ以外の差です。国土交通省の同じ資料では、三大都市圏とその他地域で動きがかなり違います。
- 1965年度
- 三大都市圏: 41.03億人
- その他地域: 57.59億人
- 2022年度
- 三大都市圏: 24.74億人
- その他地域: 11.44億人
数字の意味は重いです。1965年度はその他地域の利用が全国の中心でしたが、2022年度は逆に三大都市圏が約68%を占めています。
三大都市圏は減っても需要が厚い
三大都市圏の輸送人員は1965年度から2022年度で約40%減です。減少はしていても、地方部ほどの落ち込みではありません。
人口密度が高く、通勤通学や観光、生活移動がまとまって発生する地域では、バスの需要が残りやすいからです。利用者が多いぶん、運賃収入で支えやすい面もあります。
その他地域は落ち込みが大きい
その他地域は1965年度から2022年度で約80%減です。自家用車の普及、人口減少、高齢化、施設の統廃合などが重なり、1路線あたりの利用者を確保しにくくなっています。
ここで重要なのは、地方で必要性が低いわけではない点です。むしろ車を使えない人にとっては必要性が高いのに、採算が合いにくい構造になっています。
地域データでみると、回復の度合いも違う
全国推移だけでは見えないので、地域資料も確認します。
北海道では2017年度水準に戻っていない
北海道運輸局の「北海道内相互間」データでは、乗合バス輸送人員は次の通りです。
- 2017年度: 1億8407万人
- 2019年度: 1億7626万人
- 2020年度: 1億2599万人
- 2021年度: 1億2866万人
- 2022年度: 1億4436万人
2022年度は底から戻しましたが、2017年度比では約22%少ない水準です。北海道は面積が広く、路線維持に必要な距離も長いので、利用回復だけで解決しにくい地域です。
近畿でもコロナ前には届いていない
近畿運輸局資料では、近畿管内の乗合バス輸送人員は2019年度の7.82億人から、2020年度に5.61億人へ落ち込み、その後は2024年度に5.80億人でした。
- 2019年度: 7.82億人
- 2020年度: 5.61億人
- 2024年度: 5.80億人
2024年度でも2019年度より約26%少なく、都市圏でも完全回復ではありません。人流が戻っても、通勤頻度の変化や移動行動の変化が残っている可能性があります。
本当の課題は「利用者減」だけではない
ここで論点が変わります。いまの地域交通問題は、需要だけでなく供給側の制約が強くなっていることです。
国土交通白書 2024は、バス・タクシー合わせて2年で約5.5万人の運転者が減少したとしています。利用者が戻っても、運転者が足りなければ便数は増やせません。
北海道運輸局が2025年10月に公表した資料では、道内主要路線バス事業者の運転者数は2015年度末の約3,800人から2024年度末には約2,900人へ、2割超減りました。同じ間に実車走行キロも約1億3160万キロから約9263万キロへ減っています。
この数字が示すのは、単なる「人気の低下」ではありません。
- 需要が弱い地域ほど、運転者確保も難しい
- 運転者が減ると、まず減便が起きやすい
- 減便すると使い勝手が落ち、さらに利用が減る
- 利用減で採算が悪化し、路線維持が難しくなる
利用者数の減少と供給力の低下が、同時に回る構図です。
では、バス利用者は減っているのか
問いにそのまま答えるなら、答えは次の2つです。
長期で見れば減っている
1965年度からの全国推移では、路線バス利用は明確に縮小しています。特に地方部の減少幅が大きく、全国の地域差も広がりました。
直近だけなら「減り続けている」とは言えない
コロナ禍の急落後は回復局面にあります。したがって、現状を正確に言うなら、「長期減少の上に、コロナ後の回復が一部で続いている」です。
この整理を外すと、政策判断もずれます。必要なのは「昔より乗られなくなったから縮小する」だけではなく、地域ごとに残すべき移動をどう支えるかという設計です。
読み取れることと、まだ言い切れないこと
データから読み取れることは次の通りです。
- 路線バス利用は全国で長期縮小している
- ただしコロナ後は回復している
- 回復の度合いは地域ごとに違う
- 都市部に需要が集まり、地方は縮小圧力が強い
- 運転者不足が便数や路線維持を直接圧迫している
一方、データだけでは言い切れない点もあります。
- 利用者減の原因を単一要因に絞ること
- ある地域の減少をそのまま全国一般化すること
- 最新年度の一時的な回復を、構造改善と断定すること
特に、人口減少、自家用車依存、通勤行動の変化、観光需要、運転者不足は重なって動きます。相関は見えても、因果を一本に決めるのは無理があります。
これから見るべき数字
2026年3月の国土交通省の法改正案では、全国で約2,500の「交通空白」が生じていると説明されています。次に追うべきなのは、利用者数そのものよりも、地域で移動手段が残るかどうかです。
見るべき指標は絞れます。
- 乗合バス輸送人員がコロナ前の何割まで戻るか
- 実車走行キロや便数が維持されているか
- 運転者数が下げ止まるか
- 自治体補助や共同運行、再編で空白地域が減るか
利用者が少し戻っただけでは、地域交通の問題は終わりません。次の焦点は「何人乗ったか」より、「必要な場所に必要な便を残せるか」です。
