カード決済は10年で約2.7倍に――134.6兆円から読む支払い方の変化
2025年のクレジットカード決済額は134.6兆円で、2015年の49.8兆円から約2.7倍に増えました。ただし、増えた84.8兆円をそのまま「現金から移った金額」とみなすことはできません。買い物の金額や支払い先の変化も含まれるためです。
もう一つ注意したいのが比率です。2025年のキャッシュレス決済比率は58.0%ですが、2024年に公表された42.8%とは分母の定義が異なります。金額の増加と、指標の変更による比率の変化を分けて読むことが、支払い方の変化を理解する入口になります。
この記事で分かることは、次の3点です。
- カード決済額は10年間でどの程度増えたのか。
- コード決済が伸びても、カードが金額の中心である理由。
- 現金離れを判断するとき、金額・比率・件数をどう使い分けるか。
使用データ:全国の年間決済額を、同じ単位で比べる
比較するのは、全国のクレジットカードによる年間の買い物代金であり、借入残高やカード保有者数ではありません。
中心となる資料は、経済産業省のキャッシュレス決済額の公表資料です。2026年10月8日時点で確認した最新の通年値は2025年分で、2026年3月31日に公表され、関連資料は同年6月18日に差し替えられています。経済産業省の2025年公表資料
比較条件は次のとおりです。
- 対象地域・期間: 全国、各年1月〜12月の暦年。
- 金額の単位: 兆円。物価変動を取り除いていない名目額。
- カードの指標: クレジットカードショッピング信用供与額。買い物への信用供与を測る年間フローで、キャッシング額とは区別する。
- 集計の性格: 全国の総額であり、利用者1人当たりの平均額や中央値ではない。
2015年と2020年の値は、消費者庁が公開した資料に掲載された日本クレジット協会の統計で確認できます。同資料は2020年を74.4兆円と記述していますが、掲載された原数値は744,576億円で、小数第1位に四捨五入すると74.5兆円です。本記事では表の丸め方をそろえます。消費者庁「キャッシュレス決済調査結果」
主要数値:10年で84.8兆円増え、直近1年でも15.1%伸びた
カード決済額の拡大は長期的で、2025年にも大きな増加が続きました。
| 対象年 | カード決済額 | 比較の位置づけ |
|---|---|---|
| 2015年 | 49.8兆円 | 10年前の基準 |
| 2020年 | 74.5兆円 | 中間時点 |
| 2023年 | 105.7兆円 | 100兆円を超えた水準 |
| 2024年 | 116.9兆円 | 前年 |
| 2025年 | 134.6兆円 | 最新の通年値 |
出典:2015・2020年は消費者庁公開資料、2023年以降は経済産業省の各年公表資料。単位は兆円、表示は小数第1位。増減は表示値による概算です。2023年の経済産業省資料、2024年の経済産業省資料
2015年から2025年までの増加額は84.8兆円、増加率は約170%です。「約2.7倍」と「約170%増」は、同じ変化を別の形で表しています。
途中の伸び方にも違いがあります。
- 2015年→2020年:24.7兆円増、約50%増。
- 2020年→2025年:60.1兆円増、約81%増。
- 2024年→2025年:17.7兆円増、約15.1%増。
後半5年間の増加額が大きいことは確認できます。ただし、2020年は感染症流行で消費活動が変わった年です。そこを起点にした伸び率を、そのまま平常時の普及速度として扱うのは避ける必要があります。
また、134.6兆円はカード利用者全員が均等に使った金額ではありません。利用者の広がり、利用頻度、1回の金額のどれがどの程度変わったのかは、総額だけでは分かりません。
決済手段の比較:カードは伸びても、独占が進んだわけではない
キャッシュレス決済の金額ではカードが中心ですが、コード決済も伸びています。
2024年と2025年の内訳をそろえると、金額の増加と構成比の変化を同時に確認できます。
| 決済手段 | 2024年 | 2025年 | 2025年の構成比 |
|---|---|---|---|
| クレジットカード | 116.9兆円 | 134.6兆円 | 82.7% |
| デビットカード | 4.4兆円 | 5.5兆円 | 3.4% |
| 電子マネー | 6.2兆円 | 6.0兆円 | 3.7% |
| コード決済 | 13.5兆円 | 16.6兆円 | 10.2% |
| 合計 | 141.0兆円 | 162.7兆円 | 100% |
出典:経済産業省の2024・2025年公表資料。構成比の分母はキャッシュレス決済額の合計であり、現金を含む消費全体ではありません。端数処理により内訳と合計は一致しない場合があります。
2025年のキャッシュレス決済額は前年より21.7兆円増えました。そのうちカードの増加は17.7兆円で、増加分の約82%に当たります。金額の拡大を主に支えたのはカードです。
一方、カードの構成比は2024年の82.9%から82.7%へわずかに下がりました。コード決済は9.6%から10.2%へ上昇しています。カードの利用額が増えることと、他の手段に対するシェアが上がることは別です。
スマホで払っていても、集計上はカードになり得る
支払うときの操作と、資金を出す仕組みは一致するとは限りません。
経済産業省の決済額の算出では、コード決済からカードとの紐付け利用分やカードからのチャージ分などを除き、重複を調整しています。店頭でコードを提示した支払いでも、その原資がカードなら、画面の見た目だけで統計上の分類を判断できません。
この違いは、日常の実感と全国統計を比べるときに効いてきます。「スマホ払いが増えた」という観察と「カード決済額が増えた」という統計は、両立します。
比率の注意点:42.8%から58.0%への差には定義変更がある
2024年の42.8%と2025年の58.0%を引き算して、普及が15.2ポイント進んだと結論づけることはできません。
従来の指標は、キャッシュレス決済額を「民間最終消費支出」で割っていました。2025年から中心となった国内指標では、分母を「家計最終消費支出から持ち家の帰属家賃を引いた額」に変えています。経済産業省「キャッシュレス推進検討会とりまとめ・概要」
帰属家賃は、持ち家に住む人が受ける住宅サービスを、借家の家賃に相当する金額として評価したものです。実際に家賃を支払った金額ではありません。国内の支払実態に近づけるため、この分を分母から取り除きました。非営利団体の消費も含む「民間」から「家計」への変更もあります。
分母が小さくなれば、同じ決済額でも比率は高くなります。
さらに、国民経済計算の2020年基準への改定に伴い、住宅賃貸料などが過去にさかのぼって改定されました。最新の経済産業省資料では、過去年の比率にも2025年10〜12月期2次速報の計数を用いています。
ここがポイント: 年をまたいで比率を比べるときは、同じ定義で再計算された系列を使う。過去のニュースに載った比率を、そのまま最新値につなげない。
国内指標は日常の支払いに近づけるためのもの、従来の指標は継続性と国際比較のために併用するものです。用途が違うので、国際比較に国内指標の58.0%だけを持ち込むことも適切ではありません。
現金からの移行:増加額だけでは置き換わった量を測れない
カード決済の増加は支払い方の変化を示す材料ですが、現金の減少額を直接測る統計ではありません。
総額が増える経路は、少なくとも次のように分かれます。
- 従来は現金で払っていた買い物を、カードで払う。
- 同じカード払いの買い物でも、値上がりによって金額が増える。
- 購入量や利用するサービスが増え、カードで払う総額も増える。
- 消費が、カードを使いやすい購入先や業態へ移る。
これらは起こり得る経路の整理であり、今回の全国総額から各要因の寄与を計算したものではありません。84.8兆円の増加を分解するには、支払手段別の消費や購入先、価格、数量をそろえた追加データが必要です。
名目額が増えても、買った量が同じ場合がある
例えば、カードで買う同じ商品が1,000円から1,100円に値上がりすれば、購入数と支払手段が変わらなくても決済額は10%増えます。これは計算例であり、実際の増加要因を推定した数字ではありません。
だからこそ、長期の決済額を読むときは「カードで支払われた円の総額が増えた」と、まず捉えるのが正確です。「利用回数が2.7倍」「購入量が2.7倍」とは読み替えられません。
58.0%の残りを、すべて現金とは呼べない
国内指標の分子は、カード、デビットカード、電子マネー、コード決済の4手段です。銀行振込や口座振替などをすべて網羅した額ではありません。検討会資料も、銀行取引は正確な金額の算出が難しいため考慮が困難と説明しています。
したがって、100%から58.0%を引いた42.0%を「現金の割合」と呼ぶのも不正確です。口座振替で支払う家賃や料金を考えると、4手段に含まれない支払いがすべて現金ではないことが分かります。
件数と地域差:全国総額で見えない日常が残る
少額の買い物や地域の使いやすさを知るには、金額とは別のデータが必要です。
1回10万円の決済と、1回1,000円の決済は、件数ではどちらも1件です。しかし金額では100倍違います。金額の大きい手段が、会計の回数でも最多とは限りません。
経済産業省は2025年分から支払件数も参考情報として公表しています。ただし、現金を含む総決済件数の把握が難しいため、金額の58.0%を件数の比率として使うことはできません。カードの件数は主要26社の調査で、コード決済との重複もあるため、異なる資料の数字を足す際には対象範囲の確認が必要です。
地域についても同様です。全国の134.6兆円から、どの都道府県で最も現金離れが進んだかは分かりません。
地域差を比べるなら、例えば次の条件をそろえる必要があります。
- 住民が使った額なのか、地域内の店舗で使われた額なのか。
- 実店舗だけなのか、オンラインの購入も含むのか。
- 観光客や通勤者の支払いを含むのか。
- 人口当たりなのか、消費額に占める割合なのか。
店舗所在地の決済額が多い地域でも、住民のカード利用率が高いとは限りません。全国総額の伸びを、特定地域や年代の行動にそのまま当てはめないことが大切です。
次に見る数字:金額の伸びと小口利用の広がりを分ける
今後の変化を読むには、同じ定義の比率に加え、件数と利用先を追う必要があります。
今回確認できたのは、カード決済額が2015年から2025年に約2.7倍となり、最新年もキャッシュレス決済額の8割超を占めたことです。現金からの移行量、個人の利用頻度、地域ごとの普及度は、別途確かめる余地が残ります。
次の公表で注目したいのは、次の3点です。
- 金額と件数がともに増えるか。 同じ集計範囲で件数も伸びれば、取引回数の広がりを確認できる。
- 同じ定義の国内比率がどう動くか。 消費全体の金額の変化と、決済手段の変化を合わせて読む。
- どの購入先で利用が増えるか。 金額の大きい支払いだけでなく、日々の少額決済にも広がっているかを確かめる。
家計の支払いを振り返るときも、全国の伸び率と自分の利用額を直接比べるより、同じ期間のカード利用回数と1回当たりの金額を分けて見ると、値上がりの影響と支払い方の変化を捉えやすくなります。
