PM2.5は10年でどこまで減った?東京・京都の比較と最新値に見る足踏み
PM2.5の濃度は、長期では大きく下がっています。全国の一般環境大気測定局の年平均値は、2014年度の14.7から2024年度の8.4μg/m³へ、約43%低下しました。
ただし、毎年下がり続けているわけではありません。東京都では2025年度に濃度が上昇しており、「10年前より改善したこと」と「直近も改善していること」は分けて読む必要があります。
この記事では、全国の長期推移を土台に、東京都と京都市の2014・2024年度を比較し、東京の2025年度の変化まで確認します。
- 全国では、一般局・道路沿いの自排局とも10年間で年平均濃度が約43%低下。
- 東京の一般局は16.0から8.8μg/m³、京都は14.1から8.4μg/m³へ低下。
- 東京の2025年度は一般局9.5、自排局9.9μg/m³へ上昇。
- 環境基準の達成率、年平均濃度、高濃度の日の有無は、それぞれ違う情報を表す。
使用データ――地域比較は2024年度でそろえる
都市間の比較には同じ年度・同じ測定局種別を使い、最新年度の変化は別に確認します。
全国の2024年度結果は、環境省が2026年5月26日に公表した常時監視の集計です。2014年度結果と比較して、10年間の変化を計算しました。環境省の2024年度公表資料
地域比較の条件は次のとおりです。
- 対象地域:東京都と京都市。東京都は23区だけでなく多摩部を含む都の集計で、京都市とは行政区域の広さが異なる。
- 比較期間:2014年度と2024年度。年度は4月から翌年3月まで。
- 指標:公表資料に掲載されたPM2.5の年平均濃度。単位はμg/m³、空気1立方メートルに含まれる粒子の質量を表す。
- 区分:一般環境大気測定局(一般局)と、自動車排出ガス測定局(自排局)を分ける。
一般局は住宅地域などの大気の状態を、自排局は道路沿いの自動車排出ガスの影響を把握するための測定局です。両者を混ぜると、道路沿いの局が多い地域ほど高く見える可能性があります。
東京の長期値は東京都環境白書2025の資料編、京都は市の2014年度詳細資料と2024年度詳細資料を使いました。
なお、2026年10月8日時点で東京・京都とも2025年度結果が公表されています。本稿の地域比較表は条件をそろえた2024年度までの比較であり、最新年度の都市ランキングではありません。東京の2025年度結果は後段で扱います。京都市の年報ページは2026年9月7日更新です。京都市の大気汚染年報
全国では10年間で約43%低下した
全国の改善は、環境基準を達成した測定局の増加だけでなく、濃度そのものの低下でも確認できます。
| 測定局種別 | 2014年度 | 2024年度 | 10年間の変化 |
|---|---|---|---|
| 一般局 | 14.7 | 8.4 | −6.3、約43%低下 |
| 自排局 | 15.5 | 8.9 | −6.6、約43%低下 |
単位はμg/m³。低下率は公表値から計算し、整数に丸めています。2014年度値は環境省のPM2.5集計資料、2024年度値は前掲の公表資料によります。
一般局と自排局の差も、0.8から0.5μg/m³へ縮小しました。道路沿いでも改善が進んだことが分かります。ただし、この差だけから自動車対策の効果を数量化することはできません。測定地点や気象条件も変わるためです。
環境基準達成率は、2014年度の一般局37.8%、自排局25.8%から、2024年度には99.5%、100%になりました。かつては基準を満たす局が少数だった状態から、ほぼ全局で達成する状態へ移っています。
一方、直近の変化は小幅です。2023年度から2024年度への年平均値の変化は、一般局8.5から8.4、自排局9.2から8.9μg/m³でした。一般局の達成率は100%から99.5%へ下がっています。平均濃度が下がっても、達成率が必ず上がるとは限りません。
東京と京都――低下幅は違っても、両地域で改善
2014年度から2024年度にかけて、東京・京都とも一般局と自排局の濃度が下がりました。
| 地域・局種 | 2014年度 | 2024年度 | 低下率 |
|---|---|---|---|
| 東京都・一般局 | 16.0 | 8.8 | 45.0% |
| 東京都・自排局 | 17.2 | 9.3 | 45.9% |
| 京都市・一般局 | 14.1 | 8.4 | 40.4% |
| 京都市・自排局 | 14.6 | 9.0 | 38.4% |
濃度の単位はμg/m³。低下率は各年度の公表値から計算しています。出典は前掲の東京都環境白書と京都市詳細資料です。
地域差より、10年間の低下が大きい
2024年度の東京と京都の差は、一般局で0.4、自排局で0.3μg/m³でした。それに対し、10年間の低下幅は東京で7.2・7.9、京都で5.7・5.6μg/m³です。
この比較では、直近の地域差より、両地域で進んだ長期の改善の方が大きく表れています。
ただし、東京はもともとの値が高いため、低下幅も大きくなっています。低下率が高いことだけで「東京の対策が京都より優れていた」とは判断できません。発生源、周辺地域からの流入、気象、局の配置が異なります。
道路沿いとの差は両地域で同じ動きをしていない
東京では、自排局と一般局の差が2014年度の1.2から2024年度の0.5μg/m³へ縮小しました。京都では0.5から0.6μg/m³です。
京都の両区分も大幅に下がっています。差が少し広がったことは、道路沿いの濃度が悪化したという意味ではありません。一般局の低下幅が自排局より大きかったためです。
また、京都のPM2.5測定局数は、両端の年度とも一般局6、自排局5ですが、測定する局の組み合わせは同一とは限りません。局数が同じでも、同じ場所を追跡した比較にはならない点に注意が必要です。
東京の2025年度は上昇――長期改善と直近の足踏みが同居
最新の東京では年平均濃度が上がりましたが、それでも2014年度より約4割低い水準です。
東京都が2026年9月3日に公表した2025年度結果では、一般局は8.8から9.5、自排局は9.3から9.9μg/m³へ上昇しました。前年比ではそれぞれ約8%、約6%の増加です。東京都の2025年度測定結果
長期値と並べると、評価がはっきりします。
- 一般局:2014年度16.0 → 2024年度8.8 → 2025年度9.5μg/m³。
- 自排局:2014年度17.2 → 2024年度9.3 → 2025年度9.9μg/m³。
2025年度は前年より高い一方、2014年度比では一般局40.6%、自排局42.4%低下しています。「改善がすべて失われた」と読むのも、「今も順調に低下している」と読むのも、この数字には合いません。
東京都は2025年度の上昇について、気象条件や火山活動などの影響を主な要因として挙げています。ただし、これは各要因の寄与を確定した内訳ではありません。年平均値だけで原因を一つに決めることはできません。
基準達成率100%でも、濃度の変化を見る理由
環境基準達成率は合否を示す指標なので、基準内で起きた上昇や低下を十分には表しません。
日本のPM2.5の環境基準は、年平均15μg/m³以下に加え、短期の基準も満たす必要があります。短期の評価には、1年間の日平均値を低い順に並べた「98%値」が使われます。365日分あれば358番目の値です。大阪市による基準と評価方法の説明
つまり、次の三つは別々に確認する必要があります。
- 年平均濃度:年間を通した濃度の水準が上がったか、下がったか。
- 日平均値の98%値:高濃度側の日の水準がどれくらいだったか。
- 達成率:長期・短期の両基準を満たした局が何割あるか。
京都市の2014年度・山科一般局は、その違いが分かる例です。年平均14.6μg/m³は長期基準内でしたが、日平均値の98%値が35.4μg/m³だったため、環境基準は未達成でした。
逆に、基準を達成したという情報から「35μg/m³を超えた日は一日もない」とは読み取れません。98%値は年間最高値ではないためです。
ここがポイント: PM2.5の改善を読むには、達成率だけでなく年平均濃度を確認し、高濃度の日については日別データで確かめる必要があります。
基準達成は大切な成果です。ただし、測定局の合否を、そこに住む全員の健康状態や個人の安全性に置き換えることはできません。
濃度が下がった背景と、平均値だけでは分からないこと
長期の低下には排出削減が関わりますが、一年ごとの変動には気象や広域的な流入も重なります。
環境省は、工場・事業場のばい煙規制や自動車排出ガス規制などによって、SPMとPM2.5の年間の平均的な濃度が減少傾向にあると説明しています。環境省のPM2.5解説
PM2.5には、工場や自動車などから直接出る粒子に加え、排出されたガスが大気中で反応してできる粒子があります。東京がVOCやNOxの排出削減を近隣自治体と連携して進めるのは、道路や工場の周囲だけで対策が完結しないためです。
ここで、確かめられた事実と、追加分析が必要な問いを分けます。
年平均値から確認できること
- 2014年度から2024年度に全国・東京・京都の濃度が下がった。
- 東京の2025年度は前年から上昇した。
- 一般局と自排局の差は地域によって変化が異なる。
年平均値だけでは決められないこと
- 低下の何割が自動車対策、工場対策、海外の排出変化によるものか。
- 特定の高濃度の日に、どの発生源がどれだけ寄与したか。
- 各住民が実際に吸い込んだ量や、個人ごとの健康への影響。
原因を調べるには、粒子の成分、風向・風速、発生源の排出量などが必要です。濃度のグラフだけで政策の効果を割り振ると、天候による増減まで政策の成果や失敗に数えてしまいます。
比較を誤らないための四つの確認
地域平均は便利ですが、測定網と集計期間の違いを押さえて初めて比較に使えます。
1.都市平均は住民の平均ではない
ここで使った値は測定局の集計値で、人口分布に合わせた住民の曝露量の平均ではありません。住宅、勤務先、通勤路、屋内環境は人によって異なります。
東京の都平均と京都の市平均も、同じ大きさの生活圏を測った値ではありません。今回の表は各地域の監視結果を比べたもので、「住むならどちらが安全か」という順位表には使えません。
2.測定局は増減・移転・休止する
全国の2014年度のPM2.5有効測定局は一般局672、自排局198でした。その後の監視網の整備を含む集計なので、10年間の比較は完全に同じ局だけを追ったものではありません。
東京の2025年度資料にも測定局の休止が記載されています。小さな前年比を詳しく調べるなら、両年度で有効だった同一局の比較を併せて見る必要があります。
3.速報値と年度集計を混ぜない
リアルタイムの値は、その日の状況を知るために役立ちます。一方、機器の校正結果などによって後から修正される場合があります。
一年の途中までの速報平均を、過去の年度平均にそのまま並べることも適切ではありません。季節の構成が違うからです。長期比較には年度集計、今日の状況には速報値と、用途を分けます。
4.PM2.5だけで大気全体を評価しない
東京の2025年度はPM2.5の環境基準を全局で達成した一方、光化学オキシダントは全局で未達成でした。粒子の濃度が改善しても、別の汚染物質の課題は残ります。
「空気が改善した」という説明を読むときは、何の物質について、どの指標が改善したのかを確かめることが大切です。
次に見るべきは、上昇が続くかと高濃度の日の変化
今後の判断を分けるのは、東京の2025年度の上昇が一時的な変動なのか、複数年続く変化なのかです。
- 翌年度に低下する場合:2025年度固有の気象や自然由来の影響がどれだけあったかを、成分分析と照合する。
- 数年間高い水準が続く場合:同一局の推移を確認し、排出量や二次生成の変化を調べる。
- 年平均は低くても高濃度の日が増える場合:年間平均に加え、98%値や日別の超過日数を重視する。
地域の長期改善を見るなら年度報告、その日の通勤や屋外活動に関わる状況を知るなら自治体の速報・注意喚起情報が入口になります。年間の達成率だけから、その日の状態は分かりません。
10年前より濃度が大きく下がったことは数字で確認できます。次の年度報告で見るべきなのは、達成率100%が続くかだけでなく、同じ測定地点で濃度が再び下がるか、高濃度の日が増えていないかです。
