世界の食卓は「鶏肉中心」へ 牛・豚・鶏の1人あたり供給量を国別比較
世界で最も広く供給される肉は、いまや鶏肉です。2023年の世界平均は1人あたり年17.32kgで、豚肉15.36kg、牛・水牛肉9.36kgを上回りました。
ただし、国ごとの食卓は同じではありません。米国は鶏肉、アルゼンチンは牛肉、東アジアの一部では豚肉の比重が大きく、宗教、所得、価格、生産基盤、貿易条件が異なるためです。
この記事の要点は次のとおりです。
- 世界平均では、鶏肉の供給量が1961年の2.86kgから2023年の17.32kgへ約6倍に増えた
- 米国は鶏肉54.54kg、アルゼンチンは牛・水牛肉48.99kgと、主役になる肉が明確に違う
- ブラジルでは鶏肉47.55kgと牛・水牛肉39.07kgがともに多い
- 数値は実際に食べた量ではなく、国内で食用に回せる「供給量」である
使用データと比較条件
比較の基準は、FAOが2025年に公表した2023年までの食料需給表です。
国連食糧農業機関(FAO)の「Food Balances」は、生産、輸入、輸出、在庫変動、飼料・加工・廃棄などへの仕向けを整理し、国内で人の食用に利用できる量を推計しています。今回はOur World in Dataが整理した系列を使い、次の条件で比較しました。
- 対象年:2023年
- 長期比較:1961年と2023年
- 単位:1人あたり年間kg
- 牛肉:牛肉と水牛肉の合計
- 豚肉:豚由来の肉
- 鶏肉:鶏以外の家禽を含む「家禽肉」
- 対象外:魚介類
FAOの最新版は178か国、449品目を対象とし、2010~2023年の食料需給表を収録しています。長期系列については、1961年からの旧系列と接続されたOur World in Dataの公開データを参照しました。
ここでいう「消費量」は家計調査や食事記録から測った摂取量ではありません。小売店、外食、家庭で捨てられる分を差し引く前の食用供給量です。そのため、記事中では実態に合わせて「供給量」と表記します。
世界平均では鶏肉が首位
2023年の世界平均では、鶏肉が豚肉を約2kg、牛・水牛肉を約8kg上回りました。
| 肉の種類 | 1961年 | 2023年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 鶏肉(家禽肉) | 2.86kg | 17.32kg | +14.46kg(約6.1倍) |
| 豚肉 | 7.98kg | 15.36kg | +7.38kg(+93%) |
| 牛・水牛肉 | 9.33kg | 9.36kg | +0.03kg(ほぼ横ばい) |
変化が最も大きいのは鶏肉です。1961年には3種類のなかで最少でしたが、2023年には首位へ上がりました。
一方、牛・水牛肉の世界平均は62年間でほぼ変わっていません。人口増加によって世界全体の需要量は増えていても、1人あたりで見ると伸びていない、という意味です。
ここがポイント: 世界の肉需要は一様に増えたのではありません。1人あたり供給量の伸びを主に担ったのは鶏肉で、牛・水牛肉はほぼ横ばいでした。
国によって「主役の肉」はここまで違う
世界平均だけでは、各国の食文化や生産条件の差が見えません。代表的な国を同じFAO系列、同じ2023年、同じ単位で並べると違いが鮮明になります。
| 国・地域 | 牛・水牛肉 | 豚肉 | 鶏肉 | 3種類の最多 |
|---|---|---|---|---|
| 世界 | 9.36kg | 15.36kg | 17.32kg | 鶏肉 |
| 米国 | 37.04kg | 29.13kg | 54.54kg | 鶏肉 |
| アルゼンチン | 48.99kg | 17.04kg | 46.73kg | 牛・水牛肉 |
| ブラジル | 39.07kg | 16.75kg | 47.55kg | 鶏肉 |
| インド | 2.32kg | 0.26kg | 3.52kg | 鶏肉 |
※合計には羊・山羊肉やその他の肉を含めていないため、各国の総肉類供給量とは一致しません。
米国では鶏肉が年間54.54kg
米国の鶏肉供給量は世界平均の約3.1倍です。1961年の16.96kgから37.58kg増え、2023年には54.54kgとなりました。
同じ期間に牛・水牛肉は42.52kgから37.04kgへ13%減少。豚肉は28.56kgから29.13kgで、ほぼ横ばいです。米国では「肉全体が増えた」というより、長期的に鶏肉の比重が大きくなったと読むほうが正確です。
アルゼンチンは牛肉大国だが、鶏肉との差は縮小
アルゼンチンでは牛・水牛肉が48.99kgで、5か国中最多です。ただし1961年の84.39kgからは35.40kg、率にして42%減りました。
対照的に、鶏肉は2.07kgから46.73kgへ増加。2023年には牛・水牛肉との差が2.26kgまで縮まっています。伝統的に牛肉の比重が大きい国でも、長期的には鶏肉への分散が進んだことが分かります。
ブラジルは牛肉と鶏肉の双方が多い
ブラジルでは鶏肉47.55kg、牛・水牛肉39.07kg。どちらも世界平均を大幅に上回ります。
1961年との比較では、鶏肉が1.74kgから45.81kg増え、牛・水牛肉も17.68kgから21.39kg増加しました。どちらか一方が置き換わったというより、複数の肉の供給量が拡大した点が特徴です。
インドは3種類とも低水準
インドは鶏肉3.52kg、牛・水牛肉2.32kg、豚肉0.26kgです。米国や南米諸国との差は、所得だけでは説明できません。
宗教上の規範、菜食の広がり、地域ごとの食習慣が重なります。また「牛・水牛肉」という分類には水牛肉も含まれるため、日本語で一般に想像される牛肉消費と完全には一致しません。
なぜ世界で鶏肉が伸びたのか
データから確認できるのは鶏肉供給量の急増であり、その原因は一つに決められません。ただし、FAOやOECDが示す市場構造から、背景をいくつかに分けて考えられます。
生産期間が短く、供給を増やしやすい
鶏は牛に比べて飼育期間が短く、必要な土地や飼料を抑えやすい畜種です。生産者にとって供給調整が比較的速く、小売店や外食産業にとっても一定量を扱いやすいという特徴があります。
この生産効率は価格にも関係します。ただし、小売価格は飼料相場、燃料費、為替、加工・物流費、疾病発生などにも左右されるため、「鶏肉は必ず安い」とまでは言えません。
宗教上の制約を受ける地域が比較的少ない
豚肉を避けるイスラム教徒、牛肉を避けるヒンドゥー教徒が多い地域では、鶏肉が代替の動物性たんぱく源になります。
これはインドの鶏肉が他の2種類を上回ることとも整合します。ただし、宗教だけで国全体の数値を説明するのは不十分です。同じ国でも地域、所得階層、都市化の程度によって食生活は異なります。
所得上昇と都市化だけでは説明しきれない
一般に所得が上がると肉類の供給量も増えやすいものの、一定水準を超えると健康意識、人口の高齢化、環境への関心などが選択を変える可能性があります。
実際、高所得国平均では1961~2023年に鶏肉が7.53kgから37.10kgへ増えましたが、牛・水牛肉は21.55kgから20.87kgへわずかに減少しています。同じ所得層でも、すべての肉が同じ方向へ動いたわけではありません。
「最も食べる国」のランキングで誤読しやすい点
国別順位は分かりやすい一方、比較条件を外すと食生活を誤って描きます。特に次の点には注意が必要です。
供給量は摂取量ではない
食料需給表が示すのは、国内で人の食用に供給可能となった量です。流通、小売、飲食店、家庭で生じる廃棄を完全には差し引いていません。
廃棄率が異なる2か国を比べた場合、供給量の差ほど実際の摂取量に差がない可能性があります。栄養状態を判断するには、食事調査や健康・栄養調査を別に見る必要があります。
「牛肉」「鶏肉」の範囲が日常語と違う
今回の牛肉には水牛肉、鶏肉には七面鳥などを含む家禽肉が入ります。国によって内訳が違うため、「ステーキを年間何kg食べたか」「鶏肉だけを何kg食べたか」を直接示す数字ではありません。
合計値が同じでも内訳は違う
2023年の肉類全体の供給量は、米国が122.06kg、アルゼンチンが114.95kg、ブラジルが104.57kgでした。しかし、米国は鶏肉、アルゼンチンは牛肉、ブラジルは両方の比重が大きく、同じ「年間100kg超」でも中身が異なります。
ランキングを見るときは、少なくとも次の3点をセットで確認すべきです。
- 総量だけでなく肉の種類別内訳を見る
- 同じ年、同じ単位、同じデータ系列で比べる
- 食用供給量なのか、購入量・摂取量なのかを確かめる
データから言えること、言えないこと
はっきり言えるのは、世界の1人あたり肉類供給が鶏肉中心へ移ったことです。1961~2023年の世界平均では、鶏肉の増加幅が豚肉の約2倍に達しました。
国別には、次の違いも確認できます。
- 米国:鶏肉が大幅に増え、牛・水牛肉は1961年より減少
- アルゼンチン:牛・水牛肉が最多だが、鶏肉が急接近
- ブラジル:牛・水牛肉と鶏肉がともに世界平均を大きく上回る
- インド:3種類とも少なく、特に豚肉が低水準
一方、このデータだけでは、価格上昇が肉の選択をどれだけ変えたのか、健康意識が牛肉から鶏肉への移行を促したのかは断定できません。因果関係を確かめるには、各国の小売価格、家計支出、所得、年齢構成、宗教・食習慣、畜産政策を同じ期間で照合する必要があります。
次に見るべきは「量」より価格と供給の安定性
世界の食卓で鶏肉の存在感が増したぶん、飼料価格や鳥インフルエンザ、輸出規制が家計へ及ぼす影響も大きくなります。安価な代替品として鶏肉を選ぶ世帯が多い地域では、その値上がりが食費とたんぱく質確保を同時に圧迫しかねません。
今後の注目点は明確です。
- 2024年以降も1人あたり鶏肉供給量が伸びるか
- 牛肉と豚肉から鶏肉への移行が高所得国で続くか
- 飼料価格や家畜疾病が国別の供給量・小売価格をどう変えるか
- 供給量の増加が実際の摂取量や栄養改善につながっているか
次回のデータ更新では、単純な国別順位だけでなく、鶏肉の供給量と小売価格が同じ方向へ動いているかを見ることが、生活への影響を測る実用的な手掛かりになります。
