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給与は4年連続で物価に届かず 2022〜2025年の実質賃金を検証

給与明細と食料品のレシートを並べて家計負担を確認する様子。

給与は4年連続で物価に届かず 2022〜2025年の実質賃金を検証

2025年の名目賃金は前年比2.3%増えました。しかし、実質賃金は1.3%減。給与額は増えても、その伸びを生活に関わる物価上昇が上回り、平均的な購買力は4年連続で低下しました。

2022〜2025年の年次変化をつなぐと、名目賃金は約8.6%増えた一方、実質賃金の計算に使う物価指数は約14.3%上昇。実質賃金は累計で約5%下がった計算です。

この記事で分かることは次の4点です。

  • 2025年は名目賃金が2.3%増えても、実質賃金は1.3%減った
  • 実質賃金は2022年から4年連続のマイナス
  • 2025年の総合物価は3.2%上昇し、特に食料は6.8%上がった
  • 給与総額だけでなく、毎月の基本給に近い「所定内給与」も見る必要がある
目次

使用したデータと比較条件

中心に使うのは、全国の事業所と世帯の平均的な動きを示す2つの公的統計です。

  • 賃金:厚生労働省「毎月勤労統計調査」2025年分確報
  • 物価:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数」2025年平均
  • 対象地域:全国
  • 対象期間:主に2020〜2025年。長期比較では1990年以降も参照
  • 賃金の対象:調査産業計、常用労働者5人以上の事業所
  • 賃金指標:就業形態計の現金給与総額

「名目賃金」は実際に支払われた給与額の動きです。「実質賃金」は、その名目賃金を物価指数で割り、買える商品やサービスの量が増えたかを示します。

厚生労働省が従来から実質賃金の計算に使うのは、消費者物価指数の「持家の帰属家賃を除く総合」です。持家に住む人が自分自身に家賃を払ったとみなす仮想的な費用を除き、実際に取引される財・サービスに近づけるためです。

一方、総務省統計局が物価全体の代表値として公表する「総合指数」は、持家の帰属家賃を含みます。同じ「物価」でも範囲が違うため、数値を混同しないことが重要です。

2025年も賃上げが物価上昇に追いつかなかった

2025年は名目賃金が2.3%増えましたが、実質賃金の算定に使う物価が3.7%上昇し、差を埋められませんでした。

年名目賃金の前年比実質賃金の前年比算定用物価の前年比
2021年+0.3%+0.6%-0.3%
2022年+2.0%-1.0%+3.0%
2023年+1.2%-2.5%+3.8%
2024年+2.8%-0.3%+3.2%
2025年+2.3%-1.3%+3.7%

注:2024年の前年比には比較用の参考値が使われており、公表指数から単純計算した値とは一致しません。数値は厚生労働省の公表前年比です。

2022年以降、名目賃金は毎年増えています。それでも実質賃金は4年連続で減りました。原因を数字の関係だけで表せば明快です。各年とも、賃金の伸び率が算定用物価の上昇率を下回ったからです。

2022〜2025年の前年比を連乗すると、おおよそ次の変化になります。

  • 名目賃金:約8.6%上昇
  • 実質賃金算定用の物価:約14.3%上昇
  • 実質賃金:約5.1%低下

4年間の率を単純に足した値ではなく、前年からの変化を順に掛け合わせた概算です。給与明細の額面が増えていても、同じ生活水準を保つために必要な金額の伸びのほうが大きかったことを示します。

ここがポイント: 賃上げの有無だけでは生活の改善を判断できません。賃金上昇率が、自分の支出に近い物価上昇率を継続して上回るかが分岐点です。

食料6.8%上昇が家計の体感を重くした

2025年の総合物価は3.2%上昇しましたが、食料は6.8%上がり、平均を大きく上回りました。

総務省統計局の2025年平均では、2020年を100とする総合指数は111.9です。主な費目は次のように動きました。

  • 食料:指数125.8、前年比+6.8%
  • 光熱・水道:指数116.9、前年比+3.6%
  • 家具・家事用品:指数121.6、前年比+2.7%
  • 被服・履物:指数111.1、前年比+2.6%
  • 交通・通信:指数100.0、前年比+2.7%
  • 住居:指数104.0、前年比+1.0%
  • 教育:指数97.1、前年比-4.5%

指数125.8は、2020年平均と比べた食料価格の水準が25.8%高いことを表します。ただし、個々の商品が一律に25.8%上がったという意味ではありません。各品目の価格変化を、家計支出に占める比重でまとめた結果です。

食料は購入頻度が高く、支出を完全には止めにくい費目です。総合指数より食料の上昇率が高い年には、食費の比率が大きい世帯ほど「平均以上に物価が上がった」と感じても不思議ではありません。

反対に、教育の低下や住居費の小幅な上昇は、該当するサービスを使わない世帯や、家賃が変わっていない世帯にはそのまま恩恵として表れません。全国平均のCPIと各家庭の負担感がずれる理由の一つです。

基本給に近い賃金はどう動いたか

賞与を含む現金給与総額だけでなく、毎月支払われる所定内給与を見ると、賃上げの持続性を判断しやすくなります。

2025年の所定内給与は、就業形態計で月平均26万7,551円、前年比2.0%増でした。内訳は次の通りです。

  • 一般労働者:月平均34万657円、前年比2.5%増
  • パートタイム労働者:月平均10万7,038円、前年比2.2%増

所定内給与は、残業代や賞与などを除いた定例的な給与です。2025年はこの部分も増えましたが、実質賃金算定用の物価上昇率3.7%には届きませんでした。

ただし、パートタイム労働者の月額を一般労働者と単純比較するのは適切ではありません。労働時間が異なるためです。2025年の月間総実労働時間は、一般労働者が160.5時間、パートタイム労働者が79.1時間でした。就業形態ごとの待遇を見る場合は、月額に加えて時間当たり給与も確認する必要があります。

長期推移は「2020年比」だけで判断しない

実質賃金の弱さは2022年に突然始まったわけではなく、長期的な停滞の上に急な物価上昇が重なっています。

厚生労働省の長期系列では、実質賃金指数は1990年の111.8から2025年の98.0へ低下しています。途中で上昇した年もありますが、1990年代後半以降は下落局面が目立ちます。

ただし、1990年と2025年の指数差を、そのまま同じ労働者の給与減少と読むことはできません。毎月勤労統計は事業所を対象とした平均値であり、次の変化も含みます。

  • 一般労働者とパートタイム労働者の構成比
  • 産業別・企業規模別の雇用構成
  • 入職・退職による調査対象労働者の入れ替わり
  • 基準年の改定や過去系列の推計処理

さらに、2020年は感染症拡大で労働時間や賞与が大きく変動した年です。「2020年=100」という指数の基準は計算上の物差しであり、2020年を標準的な生活年とみなすものではありません。

長期的な方向を見るには有用ですが、個人の昇給率や同じ職種の賃金推移を直接示す統計ではない点に注意が必要です。

全国平均では見えない3つの差

実質賃金が平均で下がっていても、すべての人が同じ幅で苦しくなったわけではありません。

世帯ごとの支出構成

CPIは全国の平均的な購入構成を使います。食費、家賃、自動車、教育、医療などにいくら使うかは世帯によって異なるため、実際の物価上昇率も変わります。

特に2025年は食料が6.8%上昇しました。収入に占める食費の割合が高い世帯では、総合指数3.2%より負担増が大きくなりやすい状況です。

雇用形態と労働時間

現金給与総額は、基本給だけでなく残業代や賞与にも左右されます。また、就業形態計の平均値は、一般労働者とパートタイム労働者の比率が変わるだけでも動きます。

「自分の賃金が物価に勝ったか」を調べるなら、年収全体、毎月の所定内給与、時間当たり賃金を分けて見る必要があります。

地域ごとの物価と住居費

今回の比較は全国値です。地域によって家賃、交通手段、光熱費、購入する商品の構成は違います。全国の実質賃金が下がったという結果だけから、特定の都道府県や市区町村の購買力低下幅は判断できません。

地域差を調べる場合も、地方版の毎月勤労統計と地域別物価指数では調査範囲や公表時期が異なります。同じ年、同じ雇用範囲に条件をそろえた確認が欠かせません。

データから言えること、言えないこと

統計から確認できるのは平均的な購買力の低下であり、その原因を一つに決めることはできません。

確認できる事実

  • 2025年の名目賃金は2.3%増加した
  • 実質賃金算定用の物価は3.7%上昇した
  • その結果、実質賃金は1.3%減少した
  • 実質賃金の前年比マイナスは2022年から4年続いた
  • 2025年の総合CPIは3.2%、食料は6.8%上昇した

この統計だけでは断定できないこと

  • 物価上昇を特定の一つの政策や市場要因だけで説明すること
  • すべての労働者の生活水準が1.3%悪化したとみなすこと
  • 全国平均から特定地域や特定年代の負担を推定すること
  • 給与増が企業の恒常的な基本給引き上げだけによると判断すること

賃金と物価の同時変化は確認できますが、原材料価格、為替、雇用構成、労働時間、価格転嫁など複数の要素が関わります。両者が同時に動いたことだけで因果関係は確定しません。

生活が楽になったかを見る実用的な方法

次に見るべきは「賃上げがあったか」ではなく、賃金の伸びが自分の支出増を上回ったかです。

家計では、次の順に確認すると全国平均との違いが見えます。

  1. 給与明細で所定内給与の前年同月比を確認する
  2. 賞与を含む年間の手取り収入を前年と比べる
  3. 食費、住居費、光熱費、交通費など主要費目の年間支出を比べる
  4. 労働時間が変わった場合は、時間当たりの収入も計算する

今後の分岐点は、名目賃金の上昇が単年で終わらず、物価上昇率を継続的に上回るかどうかです。特に注目したいのは、毎月の基本給に近い所定内給与、購入頻度の高い食料価格、そして実質賃金の年平均がプラスへ戻る時期です。

2025年までの数字が示す答えは明確です。給与は増えましたが、全国平均では生活を支える購買力の回復には届いていません。

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