日本の学力は一律に低下していない――PISA2025で読む「読解力13点減」と国際比較
日本の学力を「下がり続けている」とまとめるのは、PISAの結果に合わない。最新の2025年調査では、読解力は2022年から13点低下した一方、数学と科学の平均得点には統計的に有意な変化がなく、3分野ともOECD平均を上回った。
ただし、国際的に高い位置にいることと、国内に課題がないことは別だ。平均点や順位だけでなく、基礎的な習熟度に届かない生徒がどれだけいるかを見る必要がある。
この記事では、次の3点を分けて確認する。
- 最新の平均得点を、日本・韓国・英国・シンガポールなどで比べる。
- 日本の過去の得点をたどり、短期の低下と長期の傾向を区別する。
- 得点のばらつきから、国際順位では見えにくい課題を読む。
使用データは2025年調査――公表年と調査年を分ける
ここで使う最新結果は、2026年9月8日に公表されたPISA2025であり、2026年に受けたテストの結果ではない。
PISAはOECDが実施する、15歳の生徒を対象とした国際調査だ。学校で覚えた知識の量だけでなく、その知識や技能を実生活の課題に使えるかを測る。
2025年調査には91か国・地域、約76万人が参加した。日本では2025年6~8月に、抽出された全国の高等学校等183校、1年生約6,500人が参加している。日本の高校1年生全員を調べた悉皆調査ではない。文部科学省・国立教育政策研究所の結果資料に調査条件が示されている。
比較するのは、各国・地域の同じ調査回における平均得点。単位はPISAの尺度上の「点」で、100点満点の試験の点数や正答率とは異なる。
3分野は、教科の成績と同じではない
それぞれが測る力は、次のように整理できる。
- 読解力:文章を理解し、利用し、内容や情報源を評価する力。
- 数学的リテラシー:現実の問題を数学で表し、推論し、結果を解釈する力。
- 科学:現象を説明し、科学的なデータや証拠を読み、判断に使う力。
科学分野は2025年に「科学的リテラシー」から「科学コンピテンシー」へ名称が変わった。知識を実社会でどう使えるかを明確にする改称で、記事では読みやすさのため「科学」と表記する。
主要国比較では、日本は3分野とも高い水準にある
日本は2025年もOECD平均を大きく上回るが、参加国・地域全体で最高得点というわけではない。
下表は、東アジアと欧州の比較対象として韓国、シンガポール、英国、エストニアを並べたものだ。世界全体のランキング表ではない。数値はすべて2025年調査の平均得点である。
| 国・比較対象 | 読解力 | 数学 | 科学 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 503点 | 525点 | 538点 |
| 韓国 | 501点 | 522点 | 526点 |
| シンガポール | 535点 | 563点 | 560点 |
| 英国 | 494点 | 488点 | 511点 |
| エストニア | 499点 | 508点 | 527点 |
| OECD平均 | 461点 | 463点 | 482点 |
出典:PISA2025の国際比較資料。シンガポールはOECD非加盟国のため、OECD加盟国だけの順位には含まれない。
日本とOECD平均の差は、読解力42点、数学62点、科学56点。一方、日本とシンガポールの差は、読解力32点、数学38点、科学22点ある。比較対象をOECD加盟国に限るか、全参加国・地域に広げるかで、日本の位置の見え方は変わる。
OECDの公表でも、エストニア、日本、韓国、シンガポール、英国などは3分野すべてで上位10の教育システムに入ると整理されている。日本の高水準は、特定の1分野だけに支えられているわけではない。OECDの結果発表
2点差や3点差を、そのまま優劣にしない
読解力の日本503点と韓国501点、数学の日本525点と韓国522点は、表示された平均値の差だ。この数値だけで「日本の方が確実に高い」とは判断できない。
PISAは標本調査なので、推定値には幅がある。順位を見るときも、平均値の並び順と、統計的に区別できる差を分けて読む必要がある。
また、国際表に中国の「北京・上海・江蘇・浙江」が載っていても、それは中国全土の平均ではない。国と一部地域を同じ地理的範囲だと思って比べないことも大切だ。
日本の推移は、読解力の変動が大きい
日本の長期推移には一直線の低下は見られず、特に読解力は上昇と低下を繰り返している。
| 調査年 | 読解力 | 数学 | 科学 |
|---|---|---|---|
| 2012年 | 538点 | 536点 | 547点 |
| 2015年 | 516点 | 532点 | 538点 |
| 2018年 | 504点 | 527点 | 529点 |
| 2022年 | 516点 | 536点 | 547点 |
| 2025年 | 503点 | 525点 | 538点 |
出典:国立教育政策研究所の平均得点推移。得点は整数に丸められている。
2018年から2022年だけを切り取れば、3分野とも上昇している。2022年から2025年だけなら、3分野とも表示上の得点は低い。始点と終点を変えるだけで、見出しは正反対になる。
そこで重要になるのが、統計的な判定だ。OECDの日本カントリーノートは、2022年との比較について、数学と科学はおおむね同水準、読解力は低下と整理している。
さらに、20年以上の結果全体では明確な一方向の傾向はなく、2025年の数学と科学は歴史的な平均に近く、読解力は2018年に近い水準だとしている。
「今回は読解力が低下した」は確認できる。しかし「日本の学力全体が長期にわたって下がり続けている」までは言えない。
OECD平均の低下は、日本の改善を意味しない
OECD全体では、読解力と数学の低下が続いている。OECDは2015~2025年に読解力が28点、数学が22点低下したと発表した。OECDの結果発表
周囲の得点が下がれば、日本自身の得点が上がらなくても相対的な位置は高くなる。国際順位は「他国と比べてどこにいるか」を示し、日本の改善度を直接示す指標ではない。
平均点より見逃せないのは、基礎層と上位層の開き
日本の課題は、高得点の生徒がいる一方で、基礎的な力に届かない生徒もいることだ。
OECDの日本カントリーノートによると、2022~2025年に、得点上位10%と下位10%の差は3分野すべてで拡大した。また、2015年と比べた低得点層の割合は、数学で5ポイント、読解力で6ポイント増えている。科学では、この10年間の変化は有意ではなかった。
ここでいう低得点層は、習熟度レベル2未満の生徒である。「平均より低い生徒」全員を意味するわけではない。
読解力では約2割がレベル2未満
2025年の日本では、読解力でレベル2以上に達した生徒が81%だった。裏返すと約19%がレベル2未満となる。OECD平均のレベル2以上は69%なので、日本は国際的には良好な位置にあるが、国内の支援対象が小さいとは言えない。
レベル2は、中程度の長さの文章から主旨をつかみ、指定された条件に沿って情報を探すことなどができる水準だ。一方、日本で読解力のレベル5以上に達した生徒は11%で、OECD平均の6%を上回る。OECD日本カントリーノート
「高い力を持つ生徒が多い」と「読む課題に困難を抱える生徒がいる」は、同時に成り立つ。全国平均だけでは、どちらへの対応が必要かを判断できない。
科学でも、平均の高さと支援の必要性は両立する
科学の低得点層は日本11.3%、OECD平均25.7%。レベル5以上の高得点層は日本17.2%、OECD平均7.2%だった。OECD Education GPS
日本の科学は、基礎層と上位層の両面でOECD平均より良い結果を持つ。それでも約9人に1人がレベル2に達していない。平均538点という数字だけで、すべての生徒が科学的な情報を十分に扱えると受け取るのは誤りだ。
得点の変化から、スマホや授業の効果を断定できない
PISAは変化を確認する資料として有用だが、原因を一つに絞る実験ではない。
2025年の15歳と2022年の15歳は、別の生徒集団である。同じ子どもを追跡して「3年間で読解力が13点落ちた」と測った結果ではない。
調査方式にも変化がある。日本は2015年からコンピュータ使用型へ移行し、2025年はオンライン方式で実施した。長期比較できる設計でも、問題の枠組みや実施条件を確認しながら読む必要がある。
デジタル利用との関連は、因果関係とは別
OECDは、デジタル機器の過度な利用や、学校での娯楽目的の利用と低い成績との関連を報告している。しかし、利用時間が長いから成績が下がったのか、学習に困難を抱える生徒が長く利用するのか、家庭や学校の条件が双方に関わるのかは、関連だけでは分からない。OECDの結果発表
この結果から、日本の読解力低下をスマホ、感染症流行、特定の教育政策のどれか一つに帰すことはできない。
国の平均から、地域や個人の成績を推測しない
今回の比較は国・地域単位である。日本の平均点が高いからといって、特定の都道府県や学校の成績が高いとは分からない。
国際表では、サンプリング基準を満たさない国・地域に注意記号が付く場合もある。こうした注記を外したランキングは、結果の確かさの違いを隠してしまう。
また、OECD平均は国ごとの平均得点をもとにした指標で、日本の生徒数と各国の生徒数を合算した「世界の15歳全員の平均」ではない。年次比較では参加国の構成や、継続参加国に限定した集計かどうかも確認したい。
次に見るべきなのは、順位より基礎的な力の届き方
学校や家庭が結果を読む際には、国際順位よりも、どの課題で生徒がつまずくかに目を向ける方が具体的だ。
読解力は、長い文章を読めるかだけの指標ではない。必要な条件を見つける、複数の説明を比べる、事実と意見を区別する、といった力も関わる。料金プランや行政手続きの説明、報道の根拠を読む場面につながるが、PISAの点数から将来の個人の生活能力を予測することはできない。
今回の結果を次の公表資料と照らすなら、確認すべき点は3つある。
- 読解力の低下が続くか:1回の変化と継続的な傾向を区別する。
- レベル2未満の割合が減るか:平均点の改善が、基礎層にも届いているかを見る。
- 上位層と下位層の差が縮まるか:高水準の維持と、つまずく生徒への支援を両方確認する。
日本の高い国際的位置を確認したうえで、国内のどの層に力が届いていないかを見る。次に必要なのは、その割合を減らせたかという検証だ。
