映画館の客足は戻り切ったのか 4カ国の入場者数で見るコロナ後の差
映画館の入場者数は、国を問わずコロナ前を下回っています。ただし、落ち込み方は一様ではありません。
2019年と2024年を比べると、フランスは約15%減にとどまった一方、英国は約28%減、韓国は約46%減でした。「映画館離れ」は共通して見えるものの、その深さには大きな国際差があります。
この記事で分かることは次の4点です。
- フランス、英国、ドイツ、韓国の入場者数がコロナ前からどれだけ変わったか
- 2020年の急減後、回復速度にどの程度の差がついたか
- フランスの回復が比較的強く、韓国の停滞が深い理由をどう読めるか
- 国際比較で入場者数と興行収入を混同してはいけない理由
使用データと比較条件
比較の基準は、コロナ前の2019年と、各国で通年実績を確認できる2024年です。 途中経過を見るため、映画館の休業や入場制限が広がった2020年と、営業正常化が進んだ2022年も加えました。
対象は次の4カ国です。
- フランス:国立映画・映像センター(CNC)
- 英国:英国映画協会(BFI)およびUK Cinema Association
- ドイツ:映画振興庁(FFA)
- 韓国:映画振興委員会(KOFIC)
数値は各国内の年間映画館入場者数です。複数回映画館へ行った人は、その都度1人として数えられるため、「映画館へ行った実人数」ではありません。
また、各国の人口規模が異なるので、入場者数の絶対値で国同士を順位付けするのではなく、それぞれの国が2019年の水準をどこまで取り戻したかを中心に見ます。
4カ国すべてが2019年を下回った
結論からいえば、2024年時点で4カ国ともコロナ前の入場者数には戻っていません。
| 国 | 2019年 | 2020年 | 2022年 | 2024年 | 2019年比 |
|---|---|---|---|---|---|
| フランス | 2億1,330万人 | 6,510万人 | 1億5,197万人 | 1億8,127万人 | 約15.0%減 |
| 英国 | 1億7,610万人 | 4,400万人 | 1億1,730万人 | 1億2,650万人 | 約28.2%減 |
| ドイツ | 1億1,860万人 | 3,810万人 | 7,800万人 | 9,010万人 | 約24.0%減 |
| 韓国 | 2億2,668万人 | 5,952万人 | 1億1,281万人 | 1億2,313万人 | 約45.7%減 |
※入場者数は公表値を万人単位に丸め、2019年比は同じ公表値から計算。
2019年を100とした2024年の回復水準は、次のようになります。
- フランス:約85
- ドイツ:約76
- 英国:約72
- 韓国:約54
4カ国で最も回復しているフランスと、最も低い韓国の間には約31ポイントの差があります。「コロナ後も映画館に客が戻っていない」という大枠は共通ですが、同じ現象として一括りにするには差が大きすぎます。
ここがポイント: 2020年の落ち込みは各国に共通していました。しかし2024年までの戻り方は、フランスが2019年の約85%、韓国が約54%と大きく分かれています。
フランスはなぜ比較的強いのか
フランスでは国内作品が観客を呼び、回復を下支えしました。
フランスの2024年入場者数は1億8,127万人で、2019年の2億1,330万人には届かなかったものの、4カ国では最も高い回復率です。2023年の1億8,039万人からも0.5%増えました。
CNCによると、2024年のフランス映画の市場占有率は44.4%で、米国映画の36.7%を上回りました。国内作品だけで8,000万人を超える入場者を集めています。
これは、「ハリウッドの大型作品が戻れば市場全体も元に戻る」という単純な構図ではありません。2024年前半は、前年の米国での脚本家・俳優ストライキによる製作・公開延期の影響が残りました。その不足を、フランスでは国内作品のヒットが補いました。
ただし、フランスも完全回復ではありません。2019年単年との比較では約15%減です。さらにCNCの観客調査では、2024年に少なくとも一度映画館へ行った人は4,180万人、人口に占める割合は64.9%でした。観客1人当たりの平均入場回数は4.3回で、2019年の4.9回を下回ります。
つまり、映画館へ行く人の裾野だけでなく、同じ人が年に何度足を運ぶかも回復を左右しています。
英国とドイツは7割台まで回復
英国とドイツでは、営業再開後に客足が戻ったものの、2024年も2019年比で2割を超える不足が残りました。
英国は2024年に増加しても、なお約28%減
英国の入場者数は、2020年に4,400万人まで落ち込んだ後、2022年に1億1,730万人、2024年に1億2,650万人へ回復しました。2024年は前年比2%増です。
それでも2019年の1億7,610万人との差は約4,960万人。2019年比では約28%少ない計算です。
一方、2024年の興行収入は2019年比で約22%減でした。入場者数の減少率より小さいため、売上だけを見ると客足の回復を実態以上に強く感じる可能性があります。チケット価格の変化や高単価上映が収入を押し上げれば、販売枚数が戻らなくても金額の差は縮まるからです。
ドイツは2023年から再び減少
ドイツは2023年に9,570万人まで戻した後、2024年は9,010万人へ5.8%減少しました。2019年の1億1,860万人に対する回復率は約76%です。
注目したいのは、映画館設備が同じ割合で消えたわけではない点です。FFAによると、2024年のドイツには1,722館、4,842スクリーンがあり、2000年と比べて映画館数は8%減、スクリーン数は1%増でした。それに対して、販売チケット数は同期間に41%減っています。
少なくともこの長期比較では、「上映場所が大幅に減ったから入場者も減った」とだけ説明するのは難しい状況です。スクリーンが維持されても、観客が足を運ぶ頻度や、見たい作品が公開される時期によって稼働状況は変わります。
韓国では入場頻度がほぼ半分になった
韓国の2024年入場者数は、2019年の約54%にとどまりました。 4カ国の中で最も大きな落ち込みです。
韓国は2019年に2億2,668万人を記録し、人口1人当たりの年間入場回数は4.37回でした。2024年は1億2,313万人、1人当たり2.40回です。
人数ベースの差は約1億355万人。1人当たりの回数も1.97回減り、ほぼ半分になりました。
推移を見ると、2022年には1億1,281万人まで回復し、2023年は1億2,514万人へ増えました。しかし2024年は1億2,313万人へ小幅に減少しています。営業制限の解除だけでは、その先の回復が自動的に続かなかったことが分かります。
KOFICの2023年総括では、同年の入場者数は2019年の約55%、興行収入は2019年の65.9%でした。ここでも金額の回復が入場者数を上回っています。平均料金や上映形態が変われば、売上と客足は別々に動きます。
韓国で回復が弱い理由を一つに決めることはできません。公開作品の供給、ヒット作の集中、動画配信サービスの定着、チケット価格、余暇時間の使い方などが同時に関係し得るからです。今回の入場者統計だけで、どの要因が何割を説明するかまでは分かりません。
「世界共通の映画館離れ」と言い切れない理由
4カ国の数字は共通の下落を示しますが、世界全体の行動変化を断定するには材料が足りません。
2020年は通常年として比較できない
2020年には各国で映画館の休業、営業時間の短縮、座席制限、公開延期が起きました。入場者の選択だけでなく、そもそも映画を見られる機会が減った年です。
このため、2020年の急減をそのまま「映画館への関心が失われた割合」と読むことはできません。むしろ重要なのは、制限が緩和された2022年以降も2019年との差が残り、その幅が国ごとに異なる点です。
公開作品の供給で年ごとの数字が動く
映画館の需要は、一定速度で滑らかに回復するとは限りません。大型作品や国内作品のヒットが重なれば増え、製作・公開の遅れが生じれば翌年に反動が出ます。
欧州視聴覚オブザーバトリーは、2024年の欧州市場について、米国の労使紛争による作品供給への影響が残る一方、各国の国内作品が不足を補ったと説明しています。したがって、2024年の差には長期的な習慣変化だけでなく、その年の作品構成も含まれます。
国ごとに集計制度が違う
各機関は映画館入場者数を公表していますが、対象地域、推計の有無、イベント上映の扱いなどは完全には統一されていません。英国の数値は英国市場、韓国は映画館入場券統合電算網など、それぞれの国内制度に基づきます。
そのため、本記事では各国間の絶対数ランキングより、同一国内で2019年から2024年へどう変わったかを重視しました。それでも改定値や端数処理により、資料間でわずかな差が生じる場合があります。
数字から読み取れること、読み取れないこと
今回の比較から確認できる事実は明確です。
- 4カ国すべてで2024年の入場者数が2019年を下回った
- 回復率はフランス約85%、ドイツ約76%、英国約72%、韓国約54%だった
- 2022年以降も、すべての国が一方向に増え続けたわけではない
- 国内作品が強い年は、海外大型作品の供給不足を補う場合がある
- 興行収入の回復率は、入場者数の回復率と一致しない
一方、このデータだけでは次のことを断定できません。
- 動画配信サービスが入場者減少の何割を引き起こしたか
- チケット価格の上昇が各国の来場頻度をどこまで下げたか
- 若年層や高齢層など、どの年代の変化が国際差を生んだか
- 一時的な作品不足と恒常的な習慣変化をどう切り分けるか
「映画館離れ」という言葉は便利ですが、設備、価格、作品供給、国内映画の強さ、観客の頻度を一つにまとめてしまいます。入場者数が減った事実と、その原因の推定は分けて扱う必要があります。
次に見るべきは2025年以降の入場頻度
2024年の数字で最も重要なのは、映画館の客足が戻ったかどうかを二択で判断できないことです。4カ国とも2019年を下回りましたが、フランスと韓国では回復率に約31ポイントの差がありました。
今後の確認点は次の3つです。
- 大型作品の供給が平常化した年に入場者数が再び伸びるか
- 国内作品のヒットが単年だけでなく継続的な来場につながるか
- 興行収入ではなく、人口1人当たりや観客1人当たりの入場回数が戻るか
作品供給が整っても来場頻度が上がらなければ、コロナ後の低い水準が定着した可能性が強まります。反対に、複数国で入場回数が持ち直せば、2024年までの不足には公開延期など一時的な要因がなお残っていたと判断しやすくなります。次に追うべき数字は売上高だけではなく、何枚のチケットが売れ、1人が年に何回映画館へ戻ったかです。
