女性の「M字カーブ」はほぼ消えた 2025年の就業率75.3%と次に残る壁
日本の15〜64歳女性の就業率は、2025年に75.3%まで上がりました。2015年から10.7ポイント、2005年から17.2ポイントの上昇です。
結婚・出産期に働く女性が減る「M字カーブ」も、労働力率で見るとほぼ解消しました。ただし、これは働き方の男女差までなくなったという意味ではありません。いま注目すべきなのは、30代以降に正規雇用比率が下がる「L字カーブ」です。
この記事で押さえるポイントは次の4つです。
- 2025年の15〜64歳女性の就業率は75.3%
- 20年前から最も大きく上昇したのは60代と30代
- 年齢別の労働力率では、かつての深い谷がほぼ見えなくなった
- 就業の継続と、正規雇用・賃金・希望する労働時間の確保は分けて見る必要がある
使用データと比較条件
長期推移には総務省「労働力調査」、地域差には「就業構造基本調査」を使います。 同じように見える指標でも定義が異なるため、数値を混ぜずに読み進めます。
全国の推移
中心となるのは、内閣府「令和8年版男女共同参画白書」が総務省「労働力調査(基本集計)」から整理した2025年の年平均値です。
- 対象年:2005年、2015年、2025年
- 対象地域:全国
- 就業率:各年齢層の人口に占める就業者の割合
- 労働力人口比率:人口に占める就業者と完全失業者の合計の割合
- 正規雇用比率:人口に占める役員と正規の職員・従業員の割合
M字カーブは、伝統的には「労働力人口比率」で測ります。求職中の完全失業者も含むため、就業率より少し高くなる点に注意が必要です。
地域差
地域比較には、総務省「2022年就業構造基本調査」を基にした有業率を使います。有業率は、ふだん収入を得る仕事をしている人が人口に占める割合です。
労働力調査は調査期間中の就業状態、就業構造基本調査は「ふだん」の状態を捉えるため、両者の値は直接つなげられません。地域データは、全国の2025年値を都道府県・地域別に分解したものではないことも押さえておきましょう。
女性の就業率は20年で17.2ポイント上昇
2025年の75.3%は、働くことが20〜50代女性の標準的な状態になったことを示します。 2005年の58.1%、2015年の64.6%から大きく上昇しました。
| 対象 | 2025年 | 2015年からの変化 | 2005年からの変化 |
|---|---|---|---|
| 女性・15〜64歳 | 75.3% | +10.7ポイント | +17.2ポイント |
| 男性・15〜64歳 | 84.6% | +2.8ポイント | 白書本文に記載なし |
男女差は2025年時点で9.3ポイントです。女性の上昇幅は男性より大きいものの、差そのものは残っています。
上昇幅が最大なのは60代、次いで30代
2005年から2025年までの女性就業率の上昇幅を年代別に見ると、変化の中心が分かります。
- 60代:+24.4ポイント
- 30代:+22.9ポイント
- 50代:+16.5ポイント
- 20代:+13.6ポイント
- 40代:+13.0ポイント
30代の22.9ポイント上昇は、M字の谷が埋まったことと直結します。一方、最も伸びたのは60代です。女性就業率の上昇を育児期だけで説明すると、定年延長や高齢期の就業拡大という別の大きな動きを見落とします。
2025年には、20〜50代の女性はいずれの年代も就業率がおおむね8割です。60代でも56.2%が就業しており、男性の74.2%より低いものの、20年前との差は大きく縮まりました。
年代別に見るとM字の谷はどこへ消えたのか
かつて5割を下回った谷は、2025年には8割台へ上がりました。 山が低くなったのではなく、30代を中心に曲線全体が押し上げられています。
1979年の女性労働力率は、25〜29歳が48.2%、30〜34歳が47.5%でした。当時は20代前半の就業後、結婚や出産を機に労働市場を離れ、子育てが落ち着いてから戻る動きが年齢別グラフに深い谷をつくっていました。
2019年には25〜29歳が85.1%となり、年齢階級別で最も高い層へ変化しました。谷は30〜34歳の77.5%、35〜39歳の76.7%に移り、深さも大幅に縮小しています。
2025年の労働力人口比率は、25〜29歳が90.5%、30〜34歳が85.9%、35〜39歳が82.7%です。35〜39歳でやや下がるものの、40〜44歳は84.3%、45〜49歳は84.8%。かつてのような明瞭なM字とはいえません。
| 年 | 25〜29歳 | 30〜34歳 | 35〜39歳 | 読み取れる形 |
|---|---|---|---|---|
| 1979年 | 48.2% | 47.5% | 資料本文に記載なし | 20代後半〜30代前半に深い谷 |
| 2019年 | 85.1% | 77.5% | 76.7% | 谷が30代へ移動し浅くなる |
| 2025年 | 90.5% | 85.9% | 82.7% | M字はほぼ解消 |
※いずれも女性の労働力人口比率。就業率とは定義が異なります。
ここがポイント: M字カーブの解消とは、出産・育児期の女性が労働市場から一斉に離れる形が年齢別統計で見えにくくなったことです。雇用形態、労働時間、所得、家事・育児負担まで平等になったことを示す指標ではありません。
地域差は「M字の深さ」だけでは測れない
2022年の地域別有業率では北陸が高い一方、高い就業参加がそのまま同じ雇用条件を意味するわけではありません。
15〜64歳女性の有業率は、全国72.8%に対して次の幅がありました。
- 北陸:76.8%
- 北関東・甲信:73.6%
- 中国:73.5%
- 東北:73.3%
- 沖縄:70.3%
最高の北陸と最低の沖縄の差は6.5ポイントです。北陸では年齢別のM字も解消していると内閣府は整理しています。
ただし、地域差の背景には産業構成、通勤環境、世帯構成、保育サービス、三世代同居の割合など複数の条件が重なります。この集計だけで「特定の制度が就業率を上げた」と因果関係を決めることはできません。
さらに、2022年の15〜64歳女性の正規雇用比率は全国35.2%でした。北陸は40.8%で全国を上回る一方、地域別に見ても多くの地域で25〜29歳をピークに低下します。地域比較でも、就業参加と雇用の質を分ける必要があります。
国際比較では日本の参加率は高い、それでも課題は残る
働いているかどうかだけなら、日本の働き盛り女性はOECD平均を上回ります。 OECDの2024年データでは、25〜54歳女性の労働力率は日本83.6%、OECD全体76.2%でした。
この比較は、日本の女性が労働市場に参加していないという古いイメージを修正します。ただし、各国の育児制度、パートタイム労働の位置づけ、失業認定、年齢構成は同一ではありません。労働力率の高さだけで、仕事と生活の両立しやすさを順位づけることはできません。
実際、日本では賃金面の差が大きく残ります。2025年の一般労働者について、男性の所定内給与を100とした女性の水準は76.6。正社員・正職員に限っても78.7でした。
OECDのフルタイム労働者の賃金中央値を使った別の比較でも、男性を100とした女性の水準は日本79.3、OECD平均89.7です。対象と定義が異なるので国内統計と数値を直結できませんが、どちらも「参加率の上昇だけでは賃金差が埋まらない」ことを示しています。
M字の次に見える「L字カーブ」
次の焦点は、仕事を続けられるかではなく、希望する形でキャリアを継続できるかです。
2025年の女性の正規雇用比率は25〜29歳の62.8%がピークで、その後は年齢が上がるにつれて低下します。グラフが右肩下がりになるため、これは「L字カーブ」と呼ばれます。
M字とL字が測っているものは異なります。
- M字カーブ:就業者や求職者として労働市場に参加しているか
- L字カーブ:人口のうち正規雇用者・役員として働いている割合
- 賃金格差:雇用形態や勤続年数を含め、仕事から得る報酬にどれほど差があるか
- 追加就労希望:現在の労働時間が本人の希望に足りているか
2025年に、現在より長く働くことや仕事を増やすことを望む「追加就労希望就業者」は、女性133万人、男性66万人でした。女性では45〜54歳が39万人、35〜44歳が29万人です。
働いている女性の人数が増えても、短時間勤務から抜け出せない人や、希望する時間を確保できない人は残ります。家計にとっては、就業率そのものより、労働時間、時給、雇用の安定性が所得を左右します。
数字を読むときの4つの注意点
「M字が消えた」という一文だけでは、女性の働き方の現在地を正確に捉えられません。
1. 就業率と労働力率を混同しない
就業率は実際に働いている人の割合です。労働力率には求職中の完全失業者も含まれます。M字の形を比べるときは、同じ指標で年次をそろえる必要があります。
2. 年齢別の横断面は、同じ人の履歴ではない
2025年の25〜29歳と35〜39歳は別の世代です。年齢別グラフだけでは、一人の女性が出産後に同じ仕事を続けたのか、退職後に別の仕事へ戻ったのかは判別できません。
3. 就業者の増加と処遇改善は別問題
正規雇用比率、労働時間、役職、勤続年数、賃金を確認しなければ、働き続けることで得られる所得やキャリアの変化は見えません。
4. 地域比較は調査年と定義をそろえる
地域別の2022年有業率と、全国の2025年就業率をそのまま順位表にすることはできません。更新時期も集計方法も違います。
次に見るべき数字
女性の就業率上昇とM字カーブの縮小は、長期統計にはっきり表れています。2025年の時点で問うべきなのは、もはや「女性が働いているか」だけではありません。
今後は次の指標をセットで追う必要があります。
- 30代以降の正規雇用比率が上向くか
- 出産前に働いていた女性の就業継続率が、約7割からさらに上がるか
- 追加就労を希望する女性133万人が、望む時間を確保できるか
- 男女の所定内給与差が、年齢とともに広がる傾向を変えられるか
- 2027年予定の次回就業構造基本調査で、地域差がどう動くか
M字カーブはほぼ消えました。次の更新で確認すべき核心は、L字カーブがどこまで浅くなるかです。
