MENU

買い物に困る高齢者は904万人――地域差と「増加」をどう読むか

住宅地から離れた食料品店へ向かう高齢者と地域の送迎車を描いたイラスト。

買い物に困る高齢者は904万人――地域差と「増加」をどう読むか

食料品店が遠く、自動車も利用できない高齢者は、2020年に全国で904万3千人と推計された。65歳以上の25.6%に当たる。高齢者に占める割合は長崎県や青森県で高い一方、三大都市圏にも414万1千人が暮らしており、買い物の困難は地方だけの問題ではない。

「どこで増えているか」には注意が必要だ。農林水産政策研究所は北関東や東海各県での増加を指摘しているが、2020年推計では店舗データと自動車利用の推計方法が変わった。地域の現状比較と、過去からの増減は分けて読む必要がある。

この記事では、農林水産政策研究所食料品アクセスマップの全国・地域別・都道府県別データを使い、次の点を確かめる。

  • 困難な人の「人数」と、高齢者に占める「割合」は地域の見え方を変える。
  • 75歳以上では31.0%が推計上のアクセス困難人口に該当する。
  • 2015年から2020年への9.7%増は、同じ方法で測った純粋な増加率ではない。
目次

使用データは2020年の推計――現在の実人数ではない

この数字は、買い物に困る人を一人ずつ調査した人数ではなく、人口・店舗所在地・自動車利用の情報を組み合わせた推計値である。

2026年10月8日時点で確認した公式の食料品アクセスマップでは、最新の掲載推計は2020年分だった。公表は2024年2月27日。対象年と公表年には約4年の間隔があり、2026年の状況を直接示してはいない。

対象となる「食料品アクセス困難人口」は、次の条件をともに満たす65歳以上の高齢者だ。

  • 対象店舗までの直線距離が500m以上。
  • 自動車を利用できない。

人口には2020年国勢調査の地域メッシュ統計を使用する。店舗には生鮮食料品の小売店のほか、各種の食料品販売店舗を含む。2020年推計では新たな店舗類型も加えられている。公表資料

ここでいう500mは、道路を歩いた距離ではない。川や線路を迂回する経路、坂道、荷物を持ち帰る負担までは、この距離条件だけでは表せない。また、自動車利用も統計から推計しており、個々人の送迎の有無を確認した結果ではない。

つまり、この地図は地域の買い物環境を調べる入口になる。ただし、該当する全員が日常の買い物に困っていると断定することも、該当しない人には困難がないと判断することもできない。

割合は地方で高いが、都市圏にも大きな人数がいる

地域の対策を考えるには、困難人口の割合と人数の両方が必要になる。

2020年の地域別推計は次のとおり。割合の分母は、それぞれの地域の65歳以上人口であり、総人口ではない。

地域区分困難人口65歳以上に占める割合
全国904万3千人25.6%
三大都市圏414万1千人24.2%
地方圏490万2千人26.9%

出典:農林水産政策研究所「食料品アクセス困難人口(2020年)」。端数処理により、内訳と合計が一致しない場合がある。

三大都市圏は、東京圏の東京・埼玉・千葉・神奈川、名古屋圏の愛知・岐阜・三重、大阪圏の大阪・京都・兵庫・奈良を合計した区分だ。都市中心部だけを集計したものではなく、郊外や農山村を含む都府県全体を扱っている。地方圏はそれ以外の地域を指す。

地方圏の割合は三大都市圏より2.7ポイント高い。しかし、三大都市圏の人数も全国の約46%を占める。これは公表人数から計算した値で、買い物支援の対象を過疎地域だけに絞ると、都市圏にいる多くの対象者を見落とすことを意味する。

都道府県の差は「高齢者の中での割合」

農林水産政策研究所の解説は、割合が高い地域として長崎41.0%、青森37.1%、鹿児島34.0%、低い地域として東京17.1%、石川19.6%、沖縄20.4%を挙げている。いずれも2020年値だ。推計結果の解説

長崎と東京の差は23.9ポイントになる。ただし、これは「長崎県民の41%が買い物に困る」という意味ではない。分母は65歳以上人口で、さらに距離と自動車利用の条件を満たした人を数えている。

高齢化率とも別の指標だ。高齢化率は総人口に占める65歳以上の割合。アクセス困難割合は、その高齢者のうち対象条件に該当する人の割合である。高齢者が多いかどうかと、高齢者が食料品店へ行きやすいかどうかは、二つの問いとして確認したい。

人数と割合では、行政が考える課題も違う

人数は、送迎や配送などをどれほどの規模で用意する必要があるかを考える材料になる。割合は、地域の高齢者に困難がどれほど広く及んでいるかを示す。

ただし、サービスの運営には人口の集まり方も関わる。同じ人数でも、住宅がまとまっている地区と、集落が離れている地区では、巡回距離や停車地点が異なる。県全体の数字だけで移動販売の経路や送迎の頻度までは決められない。

増加が指摘される北関東・東海――比較には方法変更の留保が付く

過去の公表値は増加を示すが、2020年を含む推移には統計上の切れ目がある。

全国の困難人口は、公表値で2005年678.8万人、2010年733.2万人、2015年824.6万人、2020年904.3万人と並ぶ。2015年から2020年の差は79.7万人で、公式資料の増加率は9.7%だ。全国の動向表

しかし、2020年には次の変更が入った。

  • 店舗所在地の情報:商業統計の地域メッシュ統計から、電話帳データなどを用いた情報へ変更。
  • 対象店舗の範囲:2015年以前には含めていなかったドラッグストアを追加。
  • 自動車利用の推計:使用する統計を家計調査などに替え、推計方法も見直し。

対象店舗が増えれば、距離条件だけを考えると、困難人口を減らす方向に働きうる。一方、所在地情報や自動車利用の推計変更も同時に起きている。したがって、9.7%増をそのまま「実際の困難が9.7%悪化した」と読み替えることはできない。

研究所の解説では、2020年の推計について北関東や東海各県で困難人口が急増し、東京や神奈川では減少・横ばいになったと指摘している。ただし、その解説自体が方法変更を明記し、要因の詳細分析を課題としている。

「増加が報告された地域」を知る材料にはなるが、厳密な増加率ランキングとして扱うには足りない。地域ごとの変化を検証するなら、都道府県別の動向表に加え、同じ地区の人口構成、店舗所在地、交通手段をそろえて確認する必要がある。

方法変更前には都市圏で増加が大きかった

2005年から2015年の比較では、全国の困難人口は21.6%増、三大都市圏は44.1%増、地方圏は7.4%増だった。75歳以上に限ると、三大都市圏は68.9%増、地方圏は28.1%増となっている。2015年推計の公表資料

この期間の都市圏の増加は、買い物の困難を山間部だけの問題とみなせない根拠になる。ただし、人数の増加には高齢者人口そのものの増加も関わる。店舗への行きやすさが変わらなくても、対象となる高齢者が増えれば困難人口は増えるためだ。

増加人数だけで店の撤退や交通の縮小を原因と決めず、同じ年齢層の人口に占める割合も見る必要がある。

75歳以上への偏りは、高齢化率だけでは見えない

買い物支援の対象を考えるときは、65歳以上を一つの集団として扱うだけでは不十分だ。

2020年の75歳以上のアクセス困難人口は565万8千人で、75歳以上人口の31.0%に当たる。65歳以上全体の25.6%より5.4ポイント高い。75歳以上の動向表

ここでは、似た二つの割合を区別したい。

  • 31.0%:75歳以上人口のうち、アクセス困難人口が占める割合。
  • 62.6%:アクセス困難人口全体のうち、75歳以上が占める割合。

前者は年齢層の中での該当の多さ、後者は支援対象者の年齢構成を示す。高齢者全体では75歳以上が約52%なのに対し、困難人口では62.6%を占めるため、対象者はより高い年齢層に偏っている。

この結果から、加齢だけが困難の原因だとは断定できない。居住地や自動車利用の違いも含まれる。それでも、地域の買い物環境を点検するときに、65歳以上人口の総数に加えて75歳以上の人数を確認する理由は明確になる。

店舗までの距離だけでは、支援の効果を測れない

アクセスマップに表れる困難と、日常生活で感じる困難は完全には一致しない。

例えば、店舗から遠くても、送迎や配達を利用できれば買い物の負担は軽くなる。反対に、店舗が500m未満でも、歩行の難しさや経路の状況によって買い物が難しい場合がある。これは指標の条件から分かる限界であり、特定地域の実態を確認した事例ではない。

また、この推計は65歳未満を対象にしていない。商品の価格を払えるか、必要な食品がそろうかという問題も、距離と自動車利用だけでは測れない。農林水産省も、食品アクセスを物理的な問題と経済的な問題に分けて整理している。食品アクセスの確保

ここがポイント: 地図の該当人数は、地域を調べる出発点になる。配達や送迎で暮らしが改善しても、店舗までの距離が変わらなければ、この指標だけでは成果を捉えきれない。

支援策を比較するときには、何を改善するのかを具体化する必要がある。

  • 店舗への交通を補う場合:便数、運行時刻、停留所から自宅までの距離、荷物の持ち帰りを確認する。
  • 移動販売を使う場合:停車地点、巡回頻度、販売する食品、利用人数を確認する。
  • 宅配を使う場合:料金、注文方法、配達対象地区、必要な食品を継続して注文できるかを確認する。

これらは対策を評価するための観点だ。どの方式が最適かは、困難人口の人数だけでは決まらない。

自分の地域を見るなら、県平均から生活圏へ掘り下げる

地域の買い物環境を判断する最後の単位は、県全体よりも、自宅から買い物へ行く生活圏である。

公式のアクセスマップでは、市町村別の割合や市町村別データも公開されている。まず県内の差を確認し、そのうえで人口と店舗の配置を細かく見ると、県平均では見えない地区に目を向けられる。

今後の変化を見る際は、少なくとも次の三つを分けて追いたい。

  • 対象人口の変化:75歳以上人口が増え、同じ買い物環境でも支援対象者が増えていないか。
  • 買い物経路の変化:店舗の開閉や交通の変更で、実際に使える購入先が変わっていないか。
  • 支援の利用状況:配達や送迎が存在するだけでなく、必要な人が料金や利用条件を含めて使えているか。

2020年推計は、困難人口が広く存在し、都市圏にも大きな人数がいることを示した。次に必要なのは、2020年以降の店舗・交通・支援サービスの変化を地区ごとに重ねることだ。古い地図の色だけで現在の買い物環境を判断せず、誰が、どの手段で、週に何回食料品を入手できるのかまで確認したい。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次