高齢者のデジタル格差、主要国で最大45ポイント 日本は「70代以降」が分岐点
高齢者のデジタル利用は、主要国の間で大きく異なります。OECDの比較では、55〜74歳のインターネット利用率がノルウェーの99.1%に対し、メキシコは53.9%。同じ年齢層でも45.2ポイントの差があります。
日本では国際比較と同じ定義の年齢別データが欠けるものの、国内統計を見ると60代のスマートフォン利用率は78.8%、70代は53.0%、80歳以上は18.7%です。普及の中心は60代まで広がりましたが、行政手続きや予約、決済をスマートフォン前提にすると、70代以降の一部が取り残される構図は残っています。
この記事で分かること
- 主要国の55〜74歳でインターネット利用率がどれほど違うか
- 日本の60代、70代、80歳以上でスマートフォン利用がどう変わるか
- 「端末を使うこと」と「必要な操作ができること」の違い
- 国際比較を読む際に注意したい年齢区分と調査方法のずれ
比較に使うのは「スマホ保有率」ではなくインターネット利用率
各国を同じ物差しで比べるには、スマートフォンの保有率よりインターネット利用率の方が適しています。
国によって「スマートフォン利用」の定義が異なり、本人所有だけを数える調査もあれば、家族名義の端末や一時的な利用を含める調査もあります。高齢者の年齢区分も、60歳以上、65歳以上、65〜74歳など統一されていません。
そこで国際比較には、OECD Digital Economy Outlook 2024の統計付表を使います。比較条件は次の通りです。
- 指標:各年齢層に占めるインターネット利用者の割合
- 高年齢層:55〜74歳
- 主な対象年:2023年
- 基本の参照期間:調査前3カ月
- 例外:カナダは2022年、米国は2021年。米国の参照期間は6カ月
日本の状況は、総務省「通信利用動向調査」を出典とするStatistical Handbook of Japan 2025の2024年データで補います。
日本の調査は「過去1年間の利用」で、年齢区分もOECD表とは一致しません。このため、日本の数値を国別順位へ直接入れず、国内の年代差を確認する材料として扱います。
55〜74歳の利用率はノルウェー99.1%、メキシコ53.9%
高年齢層の利用がほぼ全員に届く国がある一方、6割前後にとどまる国もあります。
OECDの統計付表から、地域と水準が異なる10カ国を抜き出すと次のようになります。数値は各国の55〜74歳人口に占めるインターネット利用者の割合です。
| 国 | 対象年 | 55〜74歳 | 16〜24歳との差 |
|---|---|---|---|
| ノルウェー | 2023年 | 99.1% | 0.9ポイント |
| オランダ | 2023年 | 98.0% | 2.0ポイント |
| 韓国 | 2023年 | 93.1% | 6.8ポイント |
| カナダ | 2022年 | 92.7% | 6.4ポイント |
| スペイン | 2023年 | 88.3% | 11.5ポイント |
| ドイツ | 2023年 | 86.0% | 10.8ポイント |
| 米国 | 2021年 | 80.4% | 5.3ポイント |
| イタリア | 2023年 | 74.7% | 23.4ポイント |
| ギリシャ | 2023年 | 65.7% | 32.7ポイント |
| メキシコ | 2022年 | 53.9% | 41.3ポイント |
最上位のノルウェーと最下位のメキシコの差は45.2ポイントです。ただし、この差を高齢者本人の関心や努力だけで説明することはできません。通信網、料金、所得、教育歴、行政サービスの設計などが同時に関係するためです。
北欧・オランダでは年齢差がほぼ消えている
ノルウェーでは16〜24歳が100.0%、55〜74歳が99.1%で、差は0.9ポイントです。オランダも100.0%対98.0%。この水準では、「高齢者だからインターネットを使わない」という説明はほとんど当てはまりません。
韓国も55〜74歳が93.1%に達しています。若年層との差は6.8ポイントで、利用の入口という面では高年齢層への普及が進んでいます。
南欧やメキシコでは若年層との差が大きい
イタリアでは若年層98.1%に対して55〜74歳は74.7%、ギリシャでは98.4%に対して65.7%です。若者の利用がすでに一般化していても、高年齢層まで同じ水準で広がるとは限りません。
メキシコは55〜74歳が53.9%で、16〜24歳との差は41.3ポイントあります。これは人口の半数近くがまったく使わないと断定する数字ではなく、調査で定めた期間内に利用した人の割合です。それでも、オンライン限定の情報や手続きが高年齢層へ届きにくい可能性を示す規模の差です。
ここがポイント: デジタル格差は「国民全体の接続率」だけでは見えません。若年層がほぼ100%の国でも、55〜74歳に絞ると20〜40ポイントの落差が残る場合があります。
日本は60代から70代への移行で25.8ポイント低下
日本の分岐点は、60代と70代の間にあります。
2024年の端末別インターネット利用率では、スマートフォンを使った人の割合は次の通りでした。
- 50〜59歳:90.0%
- 60〜69歳:78.8%
- 70〜79歳:53.0%
- 80歳以上:18.7%
60代から70代になると25.8ポイント、70代から80歳以上ではさらに34.3ポイント下がります。70代でも過半数がスマートフォンを使う一方、同世代のほぼ半数はスマートフォン経由でインターネットを利用していません。
パソコンの利用率も60代51.1%、70代30.9%、80歳以上12.0%です。スマートフォンを使わない人の全員がパソコンで補えているわけではありません。
インターネット利用そのものは10年で大きく増えた
同じ資料で2014年と2024年を比べると、高年齢層のインターネット利用率は明確に上昇しています。
| 年齢層 | 2014年 | 2024年 | 10年間の変化 |
|---|---|---|---|
| 60〜64歳 | 80% | 92% | +12ポイント |
| 65〜69歳 | 70% | 87% | +17ポイント |
| 70〜79歳 | 50% | 70% | +20ポイント |
| 80歳以上 | 21% | 33% | +12ポイント |
伸び幅が最も大きいのは70代です。ただし、2024年時点でも70代の3割、80歳以上の3分の2は、調査期間内にインターネットを利用していません。
ここで重要なのは、普及が進んだ事実と、未利用者が残る事実を同時に見ることです。「高齢者も使うようになった」だけでは、行政窓口や医療予約などに代替手段が必要かどうかを判断できません。
本当の差は「接続できるか」から「操作を完了できるか」へ移る
インターネット利用率が高くなっても、デジタル格差が解消したとは限りません。
Eurostatによると、2023年に「少なくとも基礎的な総合デジタル技能」を持つEUの65〜74歳は、男性34%、女性25%でした。比較対象の25〜34歳は男性69%、女性71%です。
この指標は、単にウェブサイトを開けるかではなく、次の5領域で少なくとも一つの活動ができるかを見ています。
- 情報・データの扱い
- コミュニケーションと共同作業
- デジタルコンテンツの作成
- 安全対策
- 問題解決
つまり、端末を持ち、メッセージを読めても、パスワード管理、偽サイトの識別、ファイル送信、オンライン申請の完了でつまずく人はいます。高齢者向け施策の評価を「スマートフォンを持っているか」だけで終えると、この違いを見落とします。
生活への影響が大きいのは途中で失敗できない手続き
デジタル技能の差が負担に直結しやすいのは、操作の途中で本人確認や期限が入る場面です。
- 自治体への電子申請や税・給付関連の手続き
- 病院や公共施設のオンライン予約
- 銀行、決済、通信契約の認証
- 災害情報や交通情報の取得
- QRコードや専用アプリを前提にしたサービス
こうした手続きでは、家族に端末を操作してもらうだけでは済まない場合があります。本人確認情報や金融情報を第三者と共有することになるためです。
利用率が低い層には電話や窓口を残す必要があります。一方、利用していても技能に不安がある層には、画面の簡素化、途中保存、対面支援、代理手続きの明確なルールが必要です。両者は別の課題です。
国ごとの差を生む背景は一つではない
国別の開きを単一の政策や国民性へ結び付けることはできません。
OECDは、インターネット利用の格差が年齢だけでなく、教育歴や所得とも強く結び付いていると整理しています。2023年または各国の直近年を使った比較では、OECD平均で若年層と55〜74歳の差が15ポイント、高学歴層と低学歴層の差も15ポイント、最高所得層と最低所得層の差は12ポイントでした。
所得と料金
端末代、通信料、故障時の買い替え費用は固定的な負担になります。低所得の高齢者ほど費用の影響を受けやすい可能性がありますが、今回の国別表だけから料金が利用率の差を生んだとは断定できません。
教育歴と就業経験
仕事でパソコンやオンライン手続きを経験した人は、退職後もデジタルサービスへ移りやすいと考えられます。ただし、教育歴と所得、職種は互いに関連するため、教育だけの効果を表の数値から切り分けることはできません。
公共サービスの設計
行政、医療、交通、金融のサービスがオンライン化されると、利用する必要性は高まります。その一方で、対面窓口を急に減らせば、未利用者の負担が増えます。接続率の高い国の制度を導入する場合も、支援窓口や代理手続きまで含めて比較する必要があります。
比較表を読むときの4つの注意点
順位より先に、年齢、期間、指標の定義を確認する必要があります。
1. 「高齢者」の範囲は74歳まで
OECD表の高年齢層は55〜74歳です。日本の国内統計では利用率が大きく下がる80歳以上が含まれません。そのため、この表だけで後期高齢者を含む社会全体の格差を評価すると、実態より小さく見える可能性があります。
2. 調査年が完全にはそろっていない
多くの国は2023年ですが、カナダとメキシコは2022年、米国は2021年です。デジタル利用は数年でも変化するため、厳密な同一年ランキングではありません。
3. 参照期間にも例外がある
基本は過去3カ月の利用です。一方、米国は6カ月です。長い期間を尋ねるほど、低頻度の利用者も含まれやすくなります。
4. インターネット利用率はスマホ利用率ではない
パソコンやタブレットからの利用も含みます。日本の端末別データと並べることで利用経路は見えますが、国際表の数値をそのまま「スマホ利用率」と読み替えることはできません。
次に見るべきは70代後半と「手続き完了率」
日本で今後確認すべきなのは、端末の普及率より、必要なサービスを自力で完了できる人の割合です。
国際比較からは、55〜74歳の利用率をほぼ100%まで引き上げた国がある一方、若年層との間に30〜40ポイントの差が残る国も確認できました。日本では60代のスマートフォン利用が8割近くまで広がりましたが、70代は53.0%、80歳以上は18.7%です。
次の統計や行政サービスの評価では、少なくとも以下を分けて追う必要があります。
- 70〜74歳、75〜79歳、80歳以上の違い
- 端末の保有、インターネット利用、基礎的技能の違い
- 申請を始めた人のうち、最後まで完了できた割合
- 所得、教育歴、居住地域による差
- 電話、窓口、家族以外の支援者という代替経路の有無
スマートフォン利用率が上がっても、窓口を不要にできるとは限りません。70代後半と80歳以上が、本人確認を伴う手続きをどこまで自力で完了できるか。そこが、次に公開データで確かめるべき分岐点です。
参照リンク
- OECD Digital Economy Outlook 2024 Volume 2:Statistical Annex
- OECD Digital Economy Outlook 2024 Volume 1:Digital technology diffusion and data
- 総務省統計局 Statistical Handbook of Japan 2025
- Eurostat:Digital skills in 2023—impact of education and age
- Eurostat:Digital economy and society—Information on data
