海外のテレワークは縮小したのか 5か国・地域の統計が示す「定着」と格差
海外でも、感染対策期のピークからテレワークが減った国はあります。ただし、一斉に出社中心へ戻ったわけではありません。カナダやオーストラリアではピーク後に低下した一方、英国では週の一部だけ自宅で働くハイブリッド勤務が広がり、米国も在宅勤務をした人の割合がコロナ前を上回っています。
つまり、起きているのはテレワークの消滅ではなく、緊急避難的な全面在宅から、職種や地域に応じた働き方への再編です。
この記事で分かること
- カナダとオーストラリアではピーク後に何ポイント減ったのか
- 英国でハイブリッド勤務が定着している根拠
- 米国、日本でコロナ前や前年と比べて何が変わったか
- 国際比較で数値を単純に順位付けできない理由
比較に使うデータと条件
今回の結論を正しく読むには、各国の「テレワーク」の定義が違うことを先に押さえる必要があります。
参照するのは、各国の統計機関と国土交通省が公表した、主に2023~2025年のデータです。対象はカナダ、オーストラリア、英国、米国、日本とし、感染拡大前または各国のピーク時と比較します。
ただし、調査が尋ねている内容はそろっていません。
- カナダ:主に自宅で働いた人
- オーストラリア:定期的に自宅で働いた人
- 英国:自宅勤務と通勤を組み合わせた人
- 米国:働いた日に自宅で少しでも仕事をした人
- 日本:直近1年間にテレワークを実施した人、または制度などに基づく雇用型テレワーカー
「少しでも自宅で働いた人」は、「勤務時間の半分以上を自宅で過ごした人」より多くなりやすい指標です。このため、以下の割合は各国内の推移を見るために使い、国同士の厳密なランキングにはしません。
主要データが示す答え
ピーク後の縮小は確認できますが、コロナ前まで戻った国ばかりではありません。
| 国・地域 | 直近値 | 比較値 | 読み取れる変化 |
|---|---|---|---|
| カナダ | 18.7%(2024年5月、主に自宅) | 24.3%(2021年5月)、7.1%(2016年5月) | ピークから5.6ポイント低下。ただし2016年の2倍超 |
| オーストラリア | 36.9%(2023年8月、定期的に自宅) | 40.3%(2021年8月)、約32%(2019年8月) | ピークから約3.4ポイント低下。コロナ前より約5ポイント高い |
| 英国 | 28%(2025年1~3月、ハイブリッド勤務) | 同じ設問で把握できる2022年3月以降、上昇傾向 | 全面在宅ではなくハイブリッド型が拡大 |
| 米国 | 34.5%(2025年、働いた日に自宅勤務あり) | 23.7%(2019年)、38.1%(2021年) | 2021年より低いが、2019年より10.8ポイント高い |
| 日本 | 16.8%(2025年度、直近1年間に実施) | 2024年度より1.2ポイント上昇 | 減少が続いた後、直近調査では増加へ転換 |
同じ物差しではないものの、各国内の時間変化には共通点があります。感染対策期の高水準からは下がっても、在宅勤務そのものがコロナ前の規模へ戻ったとは言いにくい。さらに英国と日本の直近値は、縮小が永久に続くわけではないことを示しています。
ここがポイント: 海外のテレワークは「全面在宅がそのまま残った」のではなく、通勤と組み合わせる形へ移行しました。減少率だけを見ると、この構造変化を見落とします。
カナダでは縮小、それでもコロナ前の2倍超
カナダは、ピーク後の低下と長期的な定着が同時に見える国です。
カナダ統計局によると、主に自宅で働く就業者の割合は2016年5月の7.1%から、2021年5月には24.3%へ上昇しました。その後は毎年低下し、2024年5月に18.7%となっています。
変化を二つの期間に分けると、意味が明確になります。
- 2021年から2024年:24.3%から18.7%へ、5.6ポイント低下
- 2016年から2024年:7.1%から18.7%へ、11.6ポイント上昇
2024年の割合は2016年の約2.6倍です。「コロナ後に縮小した」という説明は正しいものの、「元に戻った」とまでは言えません。
都市圏による差も大きい
全国平均だけでは、仕事の構成による地域差が隠れます。
2024年5月に主に自宅で働いた人の割合は、オタワ・ガティノー都市圏で34.2%でした。トロントは24.7%、バンクーバーは22.4%、モントリオールは20.6%です。
首都圏のオタワ・ガティノーが全国平均を15.5ポイント上回ることは、テレワークの実施可能性が地域の産業・職業構成と切り離せないことを示します。同じ国でも、事務職や専門職が集まる都市と、現場作業の比重が高い地域では条件が異なります。
オーストラリアはピークから小幅低下
オーストラリアでは、在宅勤務が急増分のすべてを失わずに残りました。
オーストラリア統計局の「Characteristics of Employment」によると、定期的に自宅で働く就業者は2019年8月の約32%から、2021年8月には40.3%へ上昇しました。2023年8月は36.9%です。
2021年からは約3.4ポイント下がりましたが、2019年より約5ポイント高い水準です。もともと自宅で働く人を広く含むため、他国より割合が高く出やすい点には注意が必要です。それでも、同じ調査系列の動きからは「急増後に一部縮小し、高めの水準で残った」と読めます。
オーストラリア統計局は、コロナ前にも在宅勤務の割合が約2年ごとに1ポイント程度上昇していたと説明しています。パンデミックだけが在宅勤務を生んだのではなく、それ以前から続いていた変化を加速させた面があります。
英国では「在宅か出社か」の二択が崩れた
英国で定着したのは、毎日自宅で働く形よりハイブリッド勤務です。
英国国家統計局(ONS)によると、2025年1~3月に英国の働く成人の28%が、自宅勤務と職場への移動を組み合わせていました。ONSが同じ質問を始めた2022年3月以降、ハイブリッド勤務の割合は緩やかに上昇しています。
一方、自宅だけで働く人の割合はおおむね横ばいでした。これは、出社回帰が進んでも在宅勤務がゼロになるのではなく、週単位で勤務場所を配分する形が増えたことを意味します。
学歴や所得で利用機会が分かれる
ハイブリッド勤務は全員に均等に広がっていません。
ONSの2024年データでは、大学卒業相当の資格を持つ人の42%がハイブリッド勤務だったのに対し、資格を持たない人は4%でした。差は10倍を超えます。2025年の分析でも、所得が高い層ほどハイブリッド勤務の割合が高い傾向が確認されています。
この差を個人の希望だけで説明することはできません。接客、運輸、製造、介護などは勤務場所を選びにくい一方、管理職や専門職はパソコンと通信環境があれば業務を分けやすいからです。
テレワークの定着は、通勤時間や働く場所を選べる人と、選べない人の差でもあります。
米国はコロナ前を10.8ポイント上回る
米国ではピークから減った後も、自宅で働く行動がコロナ前より広く残っています。
米労働統計局のAmerican Time Use Surveyでは、働いた日に自宅で何らかの仕事をした就業者の割合は、2019年の23.7%から2021年に38.1%へ上昇しました。2025年は34.5%です。
2021年より3.6ポイント低い一方、2019年より10.8ポイント高い計算です。ただし、この指標には予定された在宅勤務だけでなく、自宅で行った短時間の仕事も含まれます。フルリモート勤務率として読むのは誤りです。
学歴差は依然として大きい
2025年に自宅で仕事をした割合は、25歳以上の大卒以上で51.4%、高卒で大学教育を受けていない層では19.0%でした。
差は32.4ポイントです。英国と同様に、テレワークを選べるかどうかは、学歴そのものよりも、学歴と結び付きやすい職種や業務内容の違いを反映している可能性があります。
日本も減少一辺倒ではなくなった
日本ではコロナ後に低下が続いたものの、2025年度調査で増加へ転じました。
国土交通省の2025年度テレワーク人口実態調査によると、直近1年間にテレワークを実施した人の割合は全国で16.8%でした。前年度から1.2ポイント上昇しています。
また、勤務先の制度などに基づく雇用型テレワーカーの割合は25.2%で、前年度から0.6ポイント上がりました。この二つは意味が違います。
- 雇用型テレワーカー:制度などに基づいてテレワークをした経験がある人を捉える指標
- 直近1年間の実施率:最近の実施状況を捉える指標
制度上は利用できても、直近1年間に実際には使わなかった人がいるため、前者のほうが高くなります。日本の16.8%を、米国の「働いた日に少しでも自宅で仕事をした人」34.5%と直接比較することはできません。
重要なのは、日本でも低下が続く局面から変化が生じた点です。今後も増えるか、16%前後で安定するかは、次回以降の調査で確認する必要があります。
なぜ国によって定着度が違うのか
テレワーク率を左右する中心要因は、国民性よりも仕事と地域の構成です。
産業と職種
パソコン上で成果物を作れる専門職、管理職、事務職は勤務場所を分けやすい一方、医療、介護、飲食、小売、建設、製造、運輸では現場に人が必要です。
国や都市のテレワーク率が高くても、全産業に均等に普及したことを意味しません。カナダでオタワ・ガティノーが高く、英国で高学歴層の割合が高いことは、この偏りと整合します。
通勤距離と都市構造
大都市では長い通勤を減らす便益が大きい一方、住宅の広さや通信環境によって自宅勤務のしやすさが変わります。企業が週数日の出社を求める場合、遠隔地へ完全移住するより、通勤可能な範囲に住み続ける選択が現実的になります。
その結果、テレワークは「どこでも働ける制度」というより、「通勤回数を減らす制度」として定着する可能性があります。
企業制度と実際の利用
制度の導入率と実施率は同じではありません。日本の調査で雇用型テレワーカーが25.2%、直近1年間の実施率が16.8%だったことが、その違いを表しています。
利用には、上司の判断、担当業務、会議の運用、情報管理、評価制度などが影響します。制度があるだけでは、日常的なテレワークが保証されません。
数字を読むときの注意点
国際比較で最も避けたいのは、定義の違う割合を一列に並べて順位を付けることです。
今回の数値には、少なくとも次のずれがあります。
- 「主に自宅」「定期的」「一部でも実施」「ハイブリッド」で対象者が異なる
- 過去1週間、働いた日、直近1年間など、参照期間が異なる
- 15歳以上、働く成人、雇用者など、調査対象が異なる
- 国勢調査、労働力調査、生活時間調査など、調査方法が異なる
- 感染対策の時期が国や地域によって異なる
また、テレワーク率が下がっただけでは、その理由を特定できません。企業の出社方針だけでなく、雇用構成の変化、対面型産業の回復、調査時点、景気動向なども割合を動かします。
したがって、この記事から言えるのは「複数国でピーク後の低下が見られる」「それでもコロナ前を上回る例がある」「英国ではハイブリッド勤務が増えている」という事実までです。特定の政策や企業方針が低下の原因だと断定するには、別のデータが必要です。
生活者が見るべき次の変化
次の焦点はテレワーク率の高低ではなく、誰が何日利用できるかです。
在宅勤務が週5日から週2日に減れば、統計上はどちらも「テレワーク実施者」と数えられる場合があります。しかし、生活への影響は同じではありません。通勤費、移動時間、昼食費、住む場所、育児や介護との両立は、出社日数によって変わります。
今後は次の点を追う必要があります。
- 全面在宅ではなく、週1~3日のハイブリッド勤務が増えるか
- 大都市と地方、専門職と現場職の利用格差が広がるか
- 制度がある人と実際に利用する人の差が縮まるか
- 通勤者の回復が交通需要や都心の消費をどう変えるか
- 若年層、子育て世帯、介護を担う人の利用状況がどう動くか
海外の統計が示しているのは、単純な「オフィス回帰」ではありません。緊急時の全面在宅は縮小しても、通勤回数を調整する働き方は残っています。次に確認すべき数字は、テレワークをした人の総数だけでなく、職種別・地域別の実施日数です。
参照リンク
- Statistics Canada「More Canadians commuting in 2024」
- Australian Bureau of Statistics「Working from home remains popular but less than in 2021」
- Office for National Statistics「Who has access to hybrid work in Great Britain?」
- U.S. Bureau of Labor Statistics「Percent of employed people who worked at home and at their workplace」
- 国土交通省「令和7年度テレワーク人口実態調査結果」
- OECD「The new geography of remote jobs? Evidence from Europe」
