15歳のデジタル余暇は日本1時間、エストニア3.7時間 PISAで見る世界の差
15歳が学校の前後にデジタル機器を娯楽目的で使う時間は、OECD加盟国の中で日本が1日平均1時間と最短、エストニアが3.7時間と最長でした。日本とエストニアの差は約2時間40分です。
ただし、この数字は子どもの「全スクリーン時間」ではありません。PISA 2022に参加した15歳が自己申告した、学校の前後におけるデジタル余暇の時間です。授業での利用や宿題、週末の利用とは分けて読む必要があります。
この記事で分かること
- OECD平均は1日2.61時間で、日本はその4割弱
- エストニアは3.7時間、フィンランドは3時間と長い
- 1日4時間を超える層は、対象国・地域全体で約4人に1人
- 利用時間だけでは学力や生活満足度への因果関係を断定できない
比較に使うのはPISA 2022の15歳データ
国際差を比較するには、年齢と質問条件がそろったPISA 2022が有力な材料になります。
中心となる資料は、OECDが2025年に公表した政策報告書『Finite time to learn and play』と、その要点をまとめた「PISA in Focus」です。いずれもPISA 2022を基に、15歳の時間配分を分析しています。
比較条件は次の通りです。
- 対象:PISA 2022に参加した15歳の生徒
- 調査年:2022年
- 地域:OECD加盟国に加え、PISA参加国・エコノミー
- 指標:学校がある日の登校前・下校後に、デジタル機器を娯楽目的で使った自己申告時間
- 含まれる活動:動画、ゲーム、SNSなどのデジタル余暇
- 別に扱われる時間:学校内、学習目的、週末の利用
OECDは利用者を、1日2時間以下の「限定的利用」、2時間超から4時間以下の「中程度」、4時間超の「過剰利用」に分類しています。ここでいう「過剰」は分析上の区分であり、医学的な診断ではありません。
日本とエストニアの差は2.7時間
国別平均には大きな幅があり、日本の短さとエストニアの長さが両端をつくっています。
主要な数値を同じ条件で並べると、差の大きさが見えます。
| 国・地域 | 学校前後のデジタル余暇 | OECD平均との差 | 読み取れること |
|---|---|---|---|
| 日本 | 1.0時間/日 | -1.61時間 | OECD加盟国で最短 |
| OECD平均 | 2.61時間/日 | 基準 | 約2時間37分 |
| フィンランド | 3.0時間/日 | +0.39時間 | 参加国・地域の中でも長い水準 |
| エストニア | 3.7時間/日 | +1.09時間 | OECD加盟国で最長 |
日本とエストニアの開きは2.7時間、分に直すと162分です。5日間続けば13.5時間の差になります。ただし、これは個々の生徒が毎日同じ時間を使うという意味ではなく、各国の回答を平均した値です。
OECD平均では、15歳が平日に起きている時間の16%を学校外のデジタル余暇に充てていました。平均2.61時間という数字は、一日の時間配分に無視できない位置を占めています。
4時間超の割合にも大差がある
平均値だけでは、長時間利用者がどれほどいるかは分かりません。そこでOECDは、1日4時間を超える生徒の割合も示しています。
- OECDおよび高所得の参加国・地域全体:約4人に1人
- 日本、パラグアイ、ベトナム、ペルー、カンボジア:10%未満
- ポーランド、エストニア:40%超
日本とエストニアでは、平均時間だけでなく、4時間を超える層の厚みにも大きな違いがあります。一方、「40%超」という数字だけで、その国の子ども全体が長時間利用していると解釈するのは不正確です。対象はあくまで調査に参加した15歳です。
ここがポイント: 国際比較で確認できるのは「どの国の15歳が、学校前後のデジタル余暇に何時間を申告したか」です。乳幼児や小学生を含む全世代のスクリーン時間ランキングではありません。
長い国では宿題が短いのか
国単位ではデジタル余暇が長いほど宿題時間が短い傾向がありますが、置き換えが起きたとまでは断定できません。
OECD平均の宿題時間は1日1.54時間でした。フィンランドでは、学校前後のデジタル余暇が3時間と長い一方、宿題は0.8時間で、PISA参加国・地域の中でも短い水準です。
また、同じ国の中で比べると、デジタル余暇が4時間を超える生徒は、2時間超から4時間以下の生徒より宿題が平均0.12時間、約7分短くなっていました。この関係は参加国・地域の半数近くで確認されています。
ただし、ここから「画面を見るから宿題が減る」とは言えません。
- 学校から出される宿題の量が国ごとに異なる
- 授業時間や通学時間、部活動、家事、就労の長さも違う
- 宿題が少ないため、デジタル余暇に使える時間が増える可能性もある
- 所得や通信環境、端末へのアクセスが回答に影響しうる
OECDの国別図では、1人当たりGDPを考慮すると、宿題時間とデジタル余暇時間の関係を示す決定係数は0.21から0.11に下がります。経済条件を加えると関係が弱まるため、画面と宿題だけの単純な二者択一では説明できません。
「短いほどよい」とも言い切れない
PISAの結果は、ゼロに近づければ成績が上がるという直線的な関係を示していません。
OECD全体では、学校外のデジタル余暇が2時間超から4時間以下の生徒は、それより短い層や4時間を超える層より数学の平均得点が高い傾向にありました。この山型の関係は、平均1時間の日本でも、3.7時間のエストニアでも見られています。
一方、学校内で娯楽目的に使う場合は様子が違います。学校内のデジタル余暇が2時間を超えると、数学得点との関係は負になりました。同じスクリーン利用でも、場所と目的を分けなければ実態を読み違えます。
4時間超で関連が見える指標
OECDの分析では、学校外のデジタル余暇が4時間を超える層に、次の関連が確認されました。
- 学校への帰属意識が低い
- 運動や家庭の手伝いの頻度がやや低い
- 学校を欠席・遅刻する可能性が高い
- 新しいことを学ぶ意欲が低い
- 端末が近くにないと不安を感じる割合が高い
4時間超の生徒は、OECD平均で学校を欠席する可能性が中程度利用者の1.4倍でした。韓国とベトナムでは2倍を超えています。分析では社会経済的背景と数学得点を調整していますが、なお観察データ上の関連であり、長時間利用が欠席を直接引き起こしたと証明したものではありません。
また、4時間超の利用者のうち、4分の1を超える生徒が端末への依存感や不安を申告しました。トルコでは、この層の45%がデジタル不安を報告しています。
時間と「問題のある利用」は別の指標
長時間使うことと、利用を制御できず生活に支障が出ることは同じではありません。
WHO欧州地域事務局のHBSC調査は、PISAとは別の角度からデジタル利用を測っています。2021~2022年に欧州、中央アジア、カナダの44か国・地域で11歳、13歳、15歳の約28万人を調べた結果、問題のあるソーシャルメディア利用は11%でした。2018年の7%から4ポイント増えています。
この「問題のある利用」は、単なる時間の長さではなく、次のような依存に似た兆候を測ったものです。
- 利用を自分で制御できない
- 使えないと離脱症状がある
- SNSを優先して他の活動を後回しにする
- 日常生活に悪影響が出ている
HBSCでは、問題のあるSNS利用は女子13%、男子9%でした。デジタルゲームを毎日する割合は34%、ゲームをする日に4時間以上プレーする割合は22%です。問題のあるゲーム利用のリスクは全体で12%でしたが、男子16%、女子7%と男女差がありました。
PISAの「学校外で4時間超」とHBSCの「問題のある利用」は定義も対象地域も違います。両者を同じランキングに混ぜることはできません。ただ、時間だけでなく、制御できるか、睡眠や学校生活を圧迫しているかを見る必要がある点では一致しています。
国際比較を読むときの5つの注意点
数字を公平に比べるには、年齢、曜日、目的、場所、調査方法を固定する必要があります。
1. 「スクリーン時間」の範囲が統一されていない
調査によって、テレビを含む場合と含まない場合があります。学習利用、動画、SNS、ゲームを合算する調査もあれば、用途別に尋ねる調査もあります。本記事の主要指標はデジタル機器による余暇であり、すべての画面接触を測ったものではありません。
2. 平日と週末では時間が違う
PISAは学校内、学校前後、週末を分けています。本記事では国際差が明確な「学校前後」を比較しました。週末の時間を足した一週間の合計ではありません。
3. 自己申告には誤差がある
生徒が思い出して答えるため、端末の利用ログとは一致しない可能性があります。複数の端末を同時に使った時間が重複することもあり、2.61時間を分単位まで正確な実測値として扱うべきではありません。
4. PISA 2022には調査上の注記がある国も含まれる
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた特別な調査回で、回答率などの基準に注記が付いた教育制度もデータに含まれます。国名にアスタリスクがある表では、OECDのリーダーズガイドを確認する必要があります。
5. 国の平均は国内差を隠す
同じ国でも性別、家庭の経済状況、地域、学校、年齢で利用時間は異なります。日本の平均が短くても、長時間利用に悩む家庭が少ないとは限りません。反対に、国平均が長くても、全員が4時間を超えているわけではありません。
家庭や学校が見るべきなのは「何時間」だけではない
実生活で優先すべきなのは、国別順位より、デジタル余暇がほかの時間を押し出していないかの確認です。
PISAの国際比較からは、15歳のデジタル余暇に大きな地域差があること、4時間超の層で学校生活や生活満足度との負の関連が見えることが分かります。同時に、利用が短いほど成績が高いという単純な関係ではないことも示されています。
家庭や学校では、次の順で見ると数字を実際の行動につなげやすくなります。
- 学習、娯楽、連絡など利用目的を分ける
- 学校内、学校前後、週末の時間を分ける
- 睡眠、宿題、運動、家族との時間が削られていないか確かめる
- 自分で中断できるか、使えないときに強い不安が出ないかを見る
- 一律の上限だけでなく、年齢や生活時間に合わせて見直す
次に注目すべき更新は、PISA 2025の国際データです。OECDは2025年調査から通常の公表基準に戻すとしており、2022年の結果が一時的なものだったのか、日本とエストニアの約2時間40分の差が続くのかを確認する材料になります。
