家賃は5年で7.1%上昇 若い世代ほど負担が重く見える本当の理由
全国の借家の平均家賃は、2018年の月5万5,695円から2023年には5万9,656円へ上昇しました。5年間の伸びは7.1%です。
ただし、「若い世代ほど所得に占める家賃の割合が高い」と単純には断定できません。年齢別の平均住居費には、若い世代ほど借家が多く、高齢になるほど持ち家が増えるという住宅所有の差が強く表れるからです。
この記事で押さえるポイントは次の4つです。
- 全国の平均家賃は2003年から2023年までに16.8%上昇した
- 上昇幅は直近5年間に大きくなり、2018年から2023年は7.1%増だった
- 2019年調査では、40歳未満の単身世帯の住居費が消費支出の約4分の1を占めた
- 年代別の家賃負担を比べるには、年齢だけでなく所得、世帯人数、借家の種類をそろえる必要がある
使用したデータと比較条件
家賃の推移と年代別の負担を、異なる二つの公的統計で確認します。
主に使用したのは、総務省統計局の次の資料です。
- 2023年住宅・土地統計調査:借家の月額家賃、住宅の所有関係、世帯収入など
- 2019年全国家計構造調査:男女・年齢階級別の消費支出と費目構成
- 家計調査「家計簿からみたファミリーライフ」:世帯主年齢別の住居費と持ち家率の関係
住宅・土地統計調査は5年に1度実施されます。2023年調査の住宅・世帯に関する基本集計は2024年9月に公表されました。
一方、全国家計構造調査は2019年に調査方法が大きく見直されています。2024年調査の結果も順次公表されていますが、この記事では、年代別の費目構成を同じ形式で確認できる2019年結果を使います。
この記事でいう「家賃負担」
基本となる計算式は次のとおりです。
家賃負担率=月額家賃÷月間可処分所得×100
可処分所得とは、税金や社会保険料を差し引いた後、実際に消費や貯蓄へ回せる所得です。
ただし、公表表によっては「住居費が消費支出に占める割合」しか確認できません。これは所得に対する家賃負担率とは別の指標です。本記事では両者を混同せず、所得比が得られない部分は消費支出比として示します。
全国の平均家賃は20年で16.8%上昇
借家の平均家賃は長期的に上がっており、特に2018年以降の伸びが目立ちます。
2023年住宅・土地統計調査によると、専用住宅として使われる借家の1か月当たり家賃は次のように推移しました。
| 調査年 | 月額家賃 | 前回調査からの増減率 |
|---|---|---|
| 2003年 | 51,064円 | ― |
| 2008年 | 53,565円 | 4.9% |
| 2013年 | 54,052円 | 0.9% |
| 2018年 | 55,695円 | 3.0% |
| 2023年 | 59,656円 | 7.1% |
2003年から2023年までの増加額は8,592円、増加率は約16.8%です。そのうち3,961円は、直近の2018年から2023年までの5年間に増えています。
つまり、20年間を通じて同じ速度で上昇したわけではありません。最近5年間に上昇が加速したと読むのが適切です。
借家の種類で月4万円以上の差
2023年の平均家賃は、住宅の所有者によって大きく異なります。
- 公営の借家:2万4,961円
- 給与住宅:3万7,993円
- 民営借家・木造:5万4,409円
- 民営借家・非木造:6万8,548円
- UR・公社の借家:7万1,831円
公営借家とUR・公社の借家では、平均で月4万6,870円の差があります。同じ「借家世帯」でも、住宅の種類をそろえずに家賃負担を比べると実態を見誤ります。
床面積の違いも無視できません。借家全体の1畳当たり家賃は、2018年の3,074円から2023年には3,403円へ10.7%上昇しました。月額家賃の伸び率7.1%を上回っており、借りる広さを調整しても単価が上がったことが分かります。
40歳未満の単身世帯では住居費が支出の約4分の1
若い単身世帯では、住居費が日々の支出を圧迫しやすいことが統計に表れています。
2019年全国家計構造調査では、40歳未満の単身世帯について、住居費が消費支出に占める割合は次のようになっていました。
- 男性:25.2%
- 女性:26.8%
女性の40歳未満では、住居費が食料を上回り、費目の中で最大でした。家賃を含む住居費だけで消費支出の4分の1を超える水準です。
ただし、この25.2%、26.8%は「可処分所得に占める家賃」ではありません。分母は消費支出であり、分子には家賃以外の住居関連支出が含まれる場合があります。貯蓄を多くする世帯ほど、所得比と消費支出比の差も広がります。
二人以上の世帯でも若年層の住居費は高い
家計調査でも、世帯主が若い二人以上世帯ほど家賃地代を含む住居費が多い傾向が示されています。
理由は、若い世帯の住宅そのものが必ず高いからではありません。若い世代には借家世帯が多く、年齢が上がるにつれて持ち家世帯が増えるためです。持ち家世帯では毎月の家賃が計上されず、代わりに設備修繕・維持費が増えます。
ここがポイント: 年代別平均の差には「家賃の高さ」だけでなく、「その年代に借家世帯が何割いるか」が含まれます。家賃負担を比べるなら、借家世帯だけに絞る必要があります。
所得比に直すと負担の差が見える
同じ月5万9,656円の家賃でも、手取り所得によって負担感は2倍近く変わります。
2023年の全国平均家賃を使い、月間可処分所得別に単純計算すると次のようになります。
| 月間可処分所得 | 月額家賃 | 家賃負担率 |
|---|---|---|
| 20万円 | 59,656円 | 29.8% |
| 30万円 | 59,656円 | 19.9% |
| 40万円 | 59,656円 | 14.9% |
これは実在する年代別世帯の平均値ではなく、負担率の仕組みを示す試算です。それでも、家賃が同額なら所得の低い世帯ほど負担率が急激に高まることが分かります。
OECDとEurostatは、住宅費が可処分所得の40%を超える世帯を「住宅費過重負担」とみる指標を使っています。ただし、OECDの指標では低所得層に対象を絞る場合があり、住宅費に家賃だけでなく住宅ローンや維持費、光熱費などを含む定義もあります。
したがって、日本の平均家賃を可処分所得で割った数値と、海外の過重負担率をそのまま比較することはできません。国際比較では、次の条件をそろえる必要があります。
- 分母が総所得か可処分所得か
- 住宅手当を所得から控除するか
- 家賃だけか、光熱費や維持費も含むか
- 全世帯か、低所得世帯だけか
- 平均負担率か、基準を超えた人の割合か
若い世代の負担が重くなる三つの経路
年代差は、家賃上昇だけでなく、所得と世帯構成が重なって生まれます。
1. 借家に住む割合が高い
若年世帯では持ち家率が低く、毎月家賃を支払う世帯が多くなります。全世帯平均で見ると、高齢層には家賃を払わない持ち家世帯が多いため、若年層との住居費の差が大きく見えます。
これは重要な年代差ですが、「若者向け物件だけが値上がりした」ことを意味しません。
2. 単身世帯は住居費を分担できない
同じ住戸でも、二人世帯なら家賃を二人分の所得で支えられます。単身世帯は一人の所得で全額を負担します。
特に40歳未満の単身世帯で住居費の支出割合が高い背景には、この規模の不利があります。単身化が進めば、家賃相場が変わらなくても社会全体の住宅費負担は重くなり得ます。
3. 平均家賃の上昇が所得の低い層へ強く効く
2018年から2023年までの平均家賃の増加額は月3,961円です。可処分所得が月20万円なら約2.0%分、40万円なら約1.0%分に相当します。
同じ値上げでも、所得が低い世帯ほど食費、交通費、貯蓄などから振り替える割合が大きくなります。負担を見るときは家賃の上昇率だけでなく、手取り所得との差を確認する必要があります。
地域差を読むときの注意点
都市部と地方の家賃比較は、月額だけでなく住宅の広さと交通費まで見る必要があります。
住宅・土地統計調査には、全国、都道府県、21大都市について、世帯収入、家計を主に支える人の年齢、家賃階級を組み合わせた表があります。年代別・地域別の負担を詳しく調べるなら、このクロス集計が出発点になります。
ただし、平均家賃が高い地域でも、次の違いが混在しています。
- 鉄道駅に近い物件の比率
- 木造と非木造の構成
- 借家の床面積
- 単身世帯と家族世帯の割合
- 公営住宅、給与住宅、民営借家の構成
- 通勤や自動車保有に必要な費用
地方では家賃が低くても、自動車の購入・維持が不可欠な地域があります。都市部では家賃が高い一方、公共交通で移動できる場合があります。生活費全体への影響を見るなら、家賃だけを切り離したランキングでは不十分です。
「家賃負担は重くなった」とどこまで言えるか
家賃そのものは上昇しているものの、全世代で所得比の負担が一律に増えたとは確認できません。
統計から明確に言えるのは次の点です。
- 全国の借家平均家賃は2018年から2023年に7.1%上昇した
- 1畳当たり家賃は同じ期間に10.7%上昇した
- 若い世代ほど借家に住む割合が高い
- 40歳未満の単身世帯では住居費が消費支出の約4分の1を占めた
一方、今回の資料だけでは断定できないこともあります。
- 年代別の可処分所得に対する家賃負担率が何ポイント上昇したか
- 同じ住宅条件でも若年世帯の家賃だけが上昇したか
- 家賃上昇が転居、結婚、出生などの行動をどの程度変えたか
- 家賃負担の変化が所得低迷によるものか、住宅価格によるものか
2019年全国家計構造調査は、それ以前の全国消費実態調査から調査方法が見直されています。長期推移を作る際は、2014年以前の値をそのまま接続せず、遡及集計や利用上の注意を確認しなければなりません。
次に見るべきは「借家世帯内の所得差」
年代別の家賃負担を正確に把握するには、全世帯平均ではなく、借家世帯を次の条件で分ける必要があります。
- 世帯主または家計を主に支える人の年齢
- 可処分所得または年間収入
- 単身・二人以上などの世帯人数
- 公営、UR・公社、民営、給与住宅の別
- 都道府県または都市圏
- 床面積や建物構造
平均家賃が5年で7.1%上昇したことは、負担増を示す重要な材料です。しかし、最も影響が大きいのは「若い人」全体ではなく、所得が低く、家賃を一人で負担し、民営借家に住む世帯です。
今後の焦点は、平均値の上下ではありません。2024年全国家計構造調査の詳細表を使い、借家世帯のうち可処分所得の30%、40%以上を住宅費へ回す世帯が、年代別・地域別にどれだけいるかを追うことです。
