MENU

家庭の食品ロスは豊かな国ほど多いのか 世界16地域の1人あたり廃棄量を比較

世界地図の周囲に地域差を表す家庭の食品廃棄物を配置したイメージ。

家庭の食品ロスは豊かな国ほど多いのか 世界16地域の1人あたり廃棄量を比較

世界の家庭から出る食品ロスは、2022年に1人あたり年79キログラムと推計されました。地域別では北アフリカが140キログラムで最も高い一方、東アジアは70キログラムです。

ただし、この数字をそのまま「食品を粗末にする地域のランキング」と読むのは危険です。国連環境計画(UNEP)の集計には皮や骨などの食べられない部分も含まれ、地域ごとに調査対象国数や測定方法も異なるからです。

この記事の要点は次の4つです。

  • 世界の家庭食品ロスは、2022年推計で年6億3,100万トン、1人あたり79キログラム
  • 地域平均は北アフリカの140キログラムからミクロネシアの38キログラムまで開く
  • 高所得国と中所得国の平均差は最大7キログラムにとどまり、「豊かな国ほど多い」とは確認できない
  • 国別の数値は調査年、対象地域、測定方法、推計の確度を見ずに順位化できない
目次

使用データと比較条件

中心資料は、UNEPが2024年3月に公表した「Food Waste Index Report 2024」です。 同報告書は、家庭、外食、小売の各段階で発生する食品廃棄物について、各国の測定値とモデル推計を整理しています。

今回の比較条件は以下の通りです。

  • 推計対象年:2022年
  • 対象地域:UNのM49地域区分による世界16地域
  • 主な指標:家庭から出る食品廃棄物の1人あたり年間重量
  • 単位:キログラム/人/年
  • 含まれるもの:食べられる部分と、皮、種、骨など食べられない部分
  • 除外する段階:生産、収穫後、加工、流通途中で生じる「フードロス(food loss)」

食品が家庭まで届いた後、下水、焼却、埋め立て、堆肥化などへ回された重量が対象です。人や動物が食べた量ではなく、食品として人の供給網から外れた量を測っています。

また、「Food Waste Index Report 2024」という名称でも、すべての実測値が2024年や2022年に測られたわけではありません。各国で異なる年に行われた調査を集め、2022年人口を使って世界全体の量へ換算したものです。

世界では1日10億食分以上が捨てられている

小売、外食、家庭を合わせた世界の食品廃棄物は、2022年に10億5,000万トンでした。 1人あたりでは年132キログラムに相当し、消費者が利用できる食品の約19%を占めます。

発生場所別に見ると、家庭の比重が際立ちます。

  • 家庭:6億3,100万トン、1人あたり79キログラム、全体の60%
  • 外食:2億9,000万トン、1人あたり36キログラム、全体の28%
  • 小売:1億3,100万トン、1人あたり17キログラム、全体の12%

家庭だけで、毎日10億食分を超える食べられる食品が捨てられているとの推計です。ただし「1食分」は理解を助けるための換算であり、79キログラムの全量が食べられる食品という意味ではありません。

1人あたり79キログラムを生活の時間単位に直すと、次の規模になります。

  • 1か月:約6.6キログラム
  • 1週間:約1.5キログラム
  • 1日:約216グラム

この216グラムには、食べ残しや期限切れ食品だけでなく、調理時に出る皮や骨なども含まれます。家計上の損失を計算するときは、可食部を分けた国内調査が別途必要です。

1人あたり廃棄量は北アフリカが140キログラム

地域平均には最大で年102キログラムの開きがありますが、差の一部はデータの薄さや測定条件にも左右されます。

UNEPが各地域の利用可能な調査から算出した家庭食品ロスの平均は次の通りです。「調査国数」は、その地域平均を作る材料となった国の数を示します。

地域1人あたり年間量調査国数
北アフリカ140 kg3
西アジア116 kg9
南アジア100 kg7
中南米・カリブ海95 kg10
サブサハラ・アフリカ93 kg14
メラネシア92 kg2
南ヨーロッパ83 kg8
西ヨーロッパ80 kg7
オーストラリア・ニュージーランド79 kg2
北アメリカ76 kg2
東アジア70 kg5
東南アジア70 kg8
北ヨーロッパ69 kg9
東ヨーロッパ53 kg6
ミクロネシア38 kg1
中央アジア算出なし0
ポリネシア算出なし0

北アフリカの140キログラムは、世界の家庭平均79キログラムの約1.8倍です。東ヨーロッパの53キログラムとの差は87キログラム、ミクロネシアの38キログラムとの差は102キログラムあります。

しかし、北アフリカの平均は3か国、ミクロネシアは1か国のデータに基づきます。多数の国を同じ方法で同じ年に調べた結果ではありません。数値の差が大きくても、地域住民の行動だけで説明することはできません。

ここがポイント: 地域表が示すのは、現時点で利用できる調査値の平均です。世界共通の一斉調査による厳密な順位ではありません。

国別データは「順位」より測定の確かさを見る

国別比較で先に確認すべきなのは数値の大小ではなく、全国調査か、いつ測ったか、推計の確度はどの程度かです。

アジア太平洋地域の例を見ると、UNEPの国別推計には大きな幅があります。

国家庭食品ロスUNEPの確度区分
モルディブ207 kg/人/年高
オーストラリア98 kg/人/年高
韓国95 kg/人/年中
中国76 kg/人/年中
ニュージーランド61 kg/人/年高
日本60 kg/人/年高
ブータン19 kg/人/年高
モンゴル18 kg/人/年中

この表だけなら、モルディブは日本の約3.5倍です。ただし、食生活や廃棄行動の差だけでなく、食品廃棄物に含めた品目、家庭ごみから食品分を抽出する方法、観光客の扱い、調査年などを確認する必要があります。

同じ国の中でも研究によって値が割れる例があります。中国について報告書が収録した個別調査値には、全国推計の29キログラムと150キログラムのほか、北京59キログラム、蘇州67キログラムがあります。UNEPの国別推計76キログラムは、こうした利用可能な材料を一定のルールで整理した値です。

都市の小規模調査と全国調査が混在する国では、都市の値を国民全体へ当てはめるほど不確実性が高まります。そのためUNEPは、各国の値を次のように区分しています。

  • 高確度:全国を代表し、測定方法や対象範囲が比較的明確
  • 中確度:一定の測定データはあるが、全国代表性などに制約がある
  • 低・非常に低確度:限定地域の調査や、地域・所得層の平均を使った推計を含む

「世界ワースト国」を決めるには、低確度の推計を除き、調査年と定義をそろえる必要があります。現状のデータで全世界を1位から最下位まで並べると、測定体制が整った国と、周辺国の平均から推計された国を同じ物差しに置くことになります。

「豊かな国ほど捨てる」はデータで確認できない

所得水準別の平均は81~88キログラムに収まり、家庭食品ロスを高所得国だけの問題とは見なせません。

世界銀行の所得区分別に、利用可能な国別推計の単純平均を比べると次のようになります。

  • 高所得国:81 kg/人/年
  • 上位中所得国:88 kg/人/年
  • 下位中所得国:86 kg/人/年
  • 低所得国:十分なデータがなく、信頼できる平均を公表できない

最大差は、高所得国と上位中所得国の7キログラムです。週あたりに直すと約135グラムで、UNEPは所得が上がるにつれて家庭食品ロスが明確に増減する関係を確認していません。

高所得国と中所得国で原因が同じとは限らない

量が近くても、捨てられる食品の中身や発生過程まで同じとは限りません。

例えば、所得、冷蔵設備、電力の安定性、流通網、気温、購入頻度、食文化が異なれば、同じ80キログラムでも内訳は変わります。一方では買い過ぎや食べ残しが多く、別の地域では保存中の傷みや調理時の不可食部が多い可能性があります。

多くの調査は可食部と不可食部を分けていないため、所得層別の平均から家計損失や「まだ食べられた量」を直接比較することはできません。

暑い地域ほど多い可能性はあるが、因果関係は未確定

UNEPは、平均気温が高い国ほど家庭食品ロスが多くなる傾向を報告しています。考えられる経路として挙げられているのは、次のような条件です。

  • 高温下では食品が傷みやすい
  • 安定した電力や冷蔵設備が不足すると保存期間が短くなる
  • 生鮮食品の摂取が多い地域では、皮や種などの不可食部も増える
  • 集荷、輸送、小売までの低温物流が弱いと、家庭に届いた後の保存余力も小さくなる

ただし、気温だけで地域差を説明した分析ではありません。所得、都市化、食事内容、廃棄物収集制度などが同時に関係するため、「暑さが年何キログラム増やす」とまでは言えません。

総量と1人あたりでは見える問題が変わる

生活者の廃棄行動を見るなら1人あたり、処理施設や環境負荷を見るなら総量が重要です。

人口の多い地域は、1人あたりが中位でも総量が大きくなります。例えば中国の推計は1人あたり76キログラムですが、家庭からの年間総量は約1億866万7,000トンです。一方、香港特別行政区は1人あたり101キログラムでも、総量は約76万トンにとどまります。

この違いは政策の優先順位を変えます。

  • 自治体の収集・焼却能力を考える:年間総量を見る
  • 家庭向け啓発の目標を決める:1人あたり量や1世帯あたり量を見る
  • 家計負担を測る:可食部の重量と購入価格を見る
  • 気候への影響を測る:食品の種類、廃棄先、温室効果ガス排出量を見る

重量だけでは、肉1キログラムと野菜1キログラムの生産時の環境負荷を区別できません。削減策を選ぶ段階では、重量に加えて品目別の内訳が必要です。

2021年版との比較で「増えた・減った」と言えない理由

世界推計の変化を、そのまま3年間の増減として扱うことはできません。

UNEPの2021年版は、2019年の食品廃棄物を9億3,100万トン、消費者向け食品の17%と推計していました。2024年版では2022年について10億5,000万トン、19%となっています。

表面上は1億1,900万トン増えています。しかし、この間に調査データの収録数が増え、推計方法も更新されました。2024年版で家庭食品ロスの材料となった国は93か国で、2021年版から41か国増えています。

したがって、二つの世界推計の差には、実際の廃棄量の変化だけでなく、次の影響が混ざります。

  • 新たに利用可能になった国・地域のデータ
  • 古い調査値から新しい調査値への置き換え
  • 国別推計や外挿方法の改善
  • 2022年人口を使った総量への換算

長期推移を確認するには、同じ国が同じ定義と測定方法で繰り返し調査した系列が必要です。UNEPによると、2030年までの進捗追跡に適した食品廃棄物推計を持つG20構成国は、オーストラリア、日本、英国、米国の4か国とEUに限られていました。家庭部門に限れば、カナダとサウジアラビアにも追跡可能な推計があります。

数字を読むときに外せない5つの注意点

食品ロスの国際比較では、同じ「1人あたりキログラム」でも中身が同じとは限りません。

1. 可食部と不可食部が合算されている

皮、芯、種、骨、殻などを含むため、数値の全量を「まだ食べられた食品」と表現してはいけません。調理習慣が違えば、不可食部の割合も変わります。

2. 元調査の年が統一されていない

2022年は世界推計の基準年です。国別推計の材料には、それ以前のさまざまな年の調査が使われています。

3. 全国値と都市調査が混在する

一つの都市や限られた世帯の調査を使う国もあります。地方部を含む全国値と同列に比較すると、生活環境の差が測定範囲の差に置き換わりかねません。

4. 地域平均の調査国数が違う

サブサハラ・アフリカの平均は14か国から算出されていますが、北アフリカは3か国、ミクロネシアは1か国です。中央アジアとポリネシアは算出に必要な国別データがありません。

5. 平均は人口加重ではない

所得層別平均や地域平均は、各国の推計を単純平均したものです。人口14億人の国と数十万人の国が同じ1票として扱われます。世界総量を計算するときは、国別の1人あたり推計に人口を掛けています。

生活者と行政が次に見るべき数字

削減につなげるには、国際順位よりも、同じ地域で継続測定できる指標を作ることが先です。

家庭であれば、廃棄物の全重量だけでなく、まだ食べられた部分と、調理上避けにくい部分を分ける必要があります。さらに廃棄理由を記録すれば、買い過ぎ、保存中の傷み、作り過ぎ、食べ残しのどこを変えるべきかが見えてきます。

自治体や国に必要なのは、次のような連続データです。

  • 可食部・不可食部別の重量
  • 食品群別の廃棄量
  • 家庭、外食、小売を同じ定義で測った値
  • 都市部・地方部、世帯人数などを区別した値
  • 堆肥化、下水、焼却、埋め立てなど廃棄先別の量
  • 同じ方法で数年おきに繰り返した推移

SDGsの目標12.3は、2030年までに小売・消費段階の1人あたり食品廃棄を半減させることを掲げています。ところが、基準値を継続的に測れる国はまだ限られます。

世界平均79キログラムという数字が示す最も重要な事実は、食品ロスが一部の豊かな国だけに閉じた問題ではないことです。一方、140キログラムと38キログラムの地域差を確定的な順位として読むには、データが足りません。

次に注目すべきなのは、新しいランキングではなく、何キログラム減ったかを同じ条件で確認できる国がどれだけ増えるかです。2030年の半減目標まで残された時間を考えると、測定方法の統一と定期調査の拡大そのものが、削減策の成否を左右します。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次