「車なしで暮らせる国」は保有台数だけでは決まらない 主要国比較で見えた本当の条件
車を持たずに暮らせる可能性は、国よりも住む都市と日常の移動距離に左右されます。人口1,000人当たりの自動車保有台数が多い国でも、大都市では鉄道や徒歩で生活できる一方、保有台数が少ない国でも公共交通が乏しければ移動は難しいからです。
ただし保有台数は、その社会がどの程度、自動車を前提に組み立てられているかを見る重要な手掛かりです。OICAの2020年データでは、米国は人口1,000人当たり860台、日本は612台、中国は223台、インドは33台でした。
この記事で分かること
- 主要国の人口1,000人当たり自動車保有台数
- 2015年から2020年までに増えた国、減った国
- 保有台数が少なくても「車なしで暮らしやすい」とは限らない理由
- 車を持たない生活を考えるときに確認すべき条件
使用データと比較条件
国際比較の中心には、OICAが公表した2020年末の保有車両データを使います。
OICA(国際自動車工業連合会)の資料は、各国の業界団体、統計機関、運輸当局などから集めた登録車両数をまとめたものです。ここでは人口規模の差をならすため、人口1,000人当たりの保有台数を比較します。
比較条件は次の通りです。
- 対象年:2015年、2020年
- 対象地域:米国、日本、中国、インド、ドイツ、フランス、英国、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド
- 指標:人口1,000人当たりの保有車両数
- 車両範囲:乗用車だけでなく商用車なども含む「全自動車」
- 台数:年末時点の使用中車両。資料上は千台単位
国ごとの登録制度や対象車種には差があります。そのため、この数字は各国の暮らしやすさを精密に順位付けするものではなく、自動車への依存度を大きな尺度で比べる指標として扱います。
主要国の保有台数は最大26倍の開き
2020年の比較では、ニュージーランドと米国が人口1,000人当たり800台を超え、インドは33台にとどまります。
| 国 | 2015年の保有台数 (千台) | 2020年の保有台数 (千台) | 2020年の人口1,000人当たり | 2015〜2020年の台数変化 |
|---|---|---|---|---|
| ニュージーランド | 3,708 | 4,399 | 869台 | +18.6% |
| 米国 | 264,194 | 289,037 | 860台 | +9.4% |
| イタリア | 42,242 | 45,000 | 756台 | +6.5% |
| オーストラリア | 17,201 | 18,924 | 737台 | +10.0% |
| フランス | 43,482 | 45,421 | 704台 | +4.5% |
| 英国 | 38,220 | 42,404 | 632台 | +10.9% |
| ドイツ | 48,427 | 52,276 | 627台 | +7.9% |
| 日本 | 77,403 | 76,703 | 612台 | -0.9% |
| 中国 | 162,845 | 318,034 | 223台 | +95.3% |
| インド | 28,860 | 45,687 | 33台 | +58.3% |
出典はOICA。増減率は公表台数から計算し、小数第2位を四捨五入しました。
高保有国では「1人1台」に近づく
ニュージーランドの869台、米国の860台は、単純計算では住民約1.15〜1.16人につき1台です。子どもや運転しない人も人口に含まれるため、運転できる成人だけで見れば複数台を持つ世帯が珍しくない水準です。
広い居住圏、郊外住宅、道路を中心とした移動環境などが重なれば、通勤だけでなく買い物、通院、送迎にも車が使われます。ただし、今回の保有統計だけから個々の要因の寄与を切り分けることはできません。
日本は欧州主要国に近い位置
日本の612台は米国より約29%少ない一方、ドイツの627台や英国の632台とは近い水準です。「鉄道が発達した日本は、国全体でも自動車保有が少ない」という単純な図にはなりません。
日本の数字には商用車も含まれます。また、大都市と地方を合算した全国値です。東京の鉄道沿線で車を持たない世帯と、日々の移動に車が必要な地域が同じ平均値に入っています。
中国とインドは保有水準より増加速度が目立つ
中国は2015年の約1億6,285万台から2020年には約3億1,803万台へ増え、5年間でほぼ倍になりました。インドも約2,886万台から約4,569万台へ58.3%増えています。
それでも人口1,000人当たりでは、中国223台、インド33台です。人口が大きいため、総台数の急増と人口当たりの低さが同時に成り立ちます。
ここから読み取れるのは自動車市場の拡大であって、公共交通の利便性や各世帯が車を必要としている割合ではありません。
2015〜2020年の推移が示すもの
成熟市場では緩やかな増加、新興市場では大幅な増加という違いが鮮明です。
米国、ドイツ、フランス、イタリアでは、5年間の増加率がおおむね4〜9%でした。すでに保有水準が高いため、新たな普及よりも人口変動、世帯数、複数台保有、廃車までの期間などが総台数を左右しやすい段階です。
対して中国は95.3%、インドは58.3%増えました。この増加は所得、都市化、道路整備、購入可能な車種の広がりなどと同時期に起きていますが、OICAの台数表だけでは因果関係を確定できません。
日本は比較した10カ国で唯一、2020年の総台数が2015年を下回りました。減少幅は約70万台、率にして0.9%です。大幅な後退ではなく、ほぼ横ばいと見るのが適切でしょう。
ここがポイント: 保有台数が少ない国は必ずしも「車なしで便利な国」ではありません。所得や購入可能性によって保有が抑えられている場合と、公共交通で車が不要な場合を分けて考える必要があります。
車なし生活の可否を国別ランキングにできない理由
全国平均は、都市中心部と郊外・地方の差を覆い隠します。
そのことを示すのが、Eurostatの地域別統計です。2023年のEU平均は、乗用車に限ると住民1人当たり0.55台でした。しかし地域差は極めて大きく、ベルリンは人口1,000人当たり340台、ウィーンは364台でした。
一方、イタリアのヴァッレ・ダオスタは2,295台、トレント自治県は1,521台です。ヴァッレ・ダオスタの突出した値には税制が影響しているとEurostatも説明しています。つまり、登録地の制度によって数字が膨らみ、住民の実際の利用状況とずれる場合があります。
確認すべきなのは「移動の代替手段」
車を持たない生活が成立するか判断するには、保有率に加えて次の条件を見る必要があります。
- 自宅から駅やバス停まで歩けるか
- 通勤・通学先へ乗り換えを含めて到達できるか
- 食料品店、医療機関、行政窓口が生活圏内にあるか
- 夜間や休日にも公共交通が動いているか
- 子どもの送迎や介護を別の手段で行えるか
- 必要な日だけタクシーやレンタカーを使えるか
公共交通の路線が存在しても、運行本数が少なければ日常の代替手段にはなりません。逆に全国の保有率が高くても、鉄道網と生活施設が集まる都市中心部では、車を持たない選択が成立します。
世帯単位で見ると負担の意味が変わる
人口1,000人当たり612台という日本の数字は、「1,000人がそれぞれ612台を所有する」という意味ではありません。企業の営業車や貨物車も含まれ、同じ世帯が2台以上持つ場合もあります。
生活者にとって重要なのは、全国平均よりも、車を手放したときに次の移動を何で置き換えるかです。通勤は鉄道で代替できても、通院や家族の送迎が残れば、完全な車なし生活は難しくなります。
指標を読むときの注意点
国際比較では、年次と車両定義をそろえないと順位そのものが変わります。
今回の中心表は条件をそろえるため、OICAの2020年データに統一しました。ACEAのより新しい資料では、EUの全自動車は2023年に人口1,000人当たり646台、約2億8,560万台とされています。しかし、この値を2020年の米国や日本とそのまま順位比較することはできません。
特に注意したい点は次の通りです。
- OICAの指標は乗用車だけでなく商用車も含む
- Eurostatの地域比較は乗用車が中心で、指標の範囲が異なる
- 国によって登録抹消、休車、軽車両などの扱いが異なる
- 2020年は新型コロナウイルス流行期で、販売や廃車の動きが平時と異なる可能性がある
- 全国値では都市圏内の地域差を判断できない
- 登録上の所在地と実際に使われる地域が一致しない場合がある
なお、JAMAの資料では日本の人口1,000人当たり全自動車数は、参照年の違いにより622台とされています。OICAの2020年値である612台との差は、更新時点をそろえる必要性を示す例です。
車を持たない選択を考えるときの実用的な見方
最初に見るべき数字は国の保有率ではなく、自宅を起点とした移動の所要時間と頻度です。
国際統計からは、米国やニュージーランドで自動車が広く行き渡り、中国やインドでは保有台数が急増していたことが分かります。一方、日本と欧州主要国の水準は比較的近く、国名だけで車の必要性を判断できないことも明らかです。
車を持たない生活を検討するなら、1週間の移動を次の3種類に分けると現実的です。
- 通勤・通学など毎日発生する移動
- 買い物や通院など週・月単位の移動
- 送迎、旅行、大きな荷物など不定期の移動
毎日の移動を徒歩、自転車、鉄道、バスで置き換えられるか。不定期の移動だけをタクシーやレンタカーに切り替えられるか。ここまで確認して初めて、保有台数の比較が自分の生活に結び付きます。
今後、国際比較で注目すべきなのは2020年以降の保有台数だけではありません。都市別の交通分担率、公共交通への徒歩アクセス、世帯当たり保有台数を同じ地域単位で重ねられるかが、車なし生活の可能性を測る次の焦点です。
