特定健診の実施率は61.5%に上昇 年代・地域より大きい「加入先」の受診格差
健康診断を受ける人は増えています。40~74歳を対象とする特定健康診査(特定健診)の全国実施率は、制度が始まった2008年度の38.9%から、2024年度には61.5%まで上昇しました。
ただし、誰もが同じように受診できているわけではありません。2023年度は健康保険組合で約8割だった一方、市町村国保では約4割。年代差や地域差の背後には、勤務先で健診を受けられるか、扶養家族として自分で予約する必要があるかといった「受診機会の違い」があります。
この記事で分かること
- 特定健診の全国実施率は2008年度から2024年度までに22.6ポイント上昇
- 2020年度に落ち込んだ後、2024年度は過去最高の61.5%
- 2023年度は健康保険組合82.9%、市町村国保38.2%と44.7ポイント差
- 都道府県の数字には、住民の健康意識だけでなく加入する保険の構成も影響する
今回見るのは40~74歳の「特定健診」
長期推移を条件をそろえて比べるため、厚生労働省の特定健診実施状況を中心に使います。
特定健診は、生活習慣病の予防を目的として、医療保険者が40~74歳の加入者に実施する健診です。血圧、血糖、脂質、腹囲などを調べ、一定の基準に該当した人には特定保健指導が案内されます。
今回の比較条件は次の通りです。
- 対象:医療保険に加入する40~74歳の特定健診対象者
- 全国推移:2008~2024年度
- 年代・保険者比較:詳細が確認できる2023年度を中心に使用
- 地域比較:厚生労働省の都道府県別集計と自治体公表値を参照
- 単位:対象者に占める受診者の割合(%)
ここでいう「実施率」は、一般的な健康診断を受けた成人全体の割合ではありません。会社の定期健診、人間ドック、市町村の健康診査などの結果が、特定健診の要件を満たして保険者に報告された場合を含む制度上の指標です。
20歳以上を対象に「過去1年間に健診や人間ドックを受けたか」を尋ねる国民生活基礎調査とも定義が異なります。例えば2010年調査では、その割合は64.3%でした。この64.3%と特定健診の同年度実施率を直接比べることはできません。
受診率は16年間で38.9%から61.5%へ
結論からいえば、特定健診を受ける割合は長期的に増えています。
全国実施率の主な節目を並べると、上昇の大きさとコロナ禍の影響が見えます。
| 年度 | 実施率 | 前の掲載年からの変化 |
|---|---|---|
| 2008年度 | 38.9% | 制度開始 |
| 2014年度 | 48.6% | +9.7ポイント |
| 2019年度 | 55.6% | +7.0ポイント |
| 2020年度 | 53.4% | -2.2ポイント |
| 2021年度 | 56.5% | +3.1ポイント |
| 2022年度 | 58.1% | +1.6ポイント |
| 2023年度 | 59.9% | +1.8ポイント |
| 2024年度 | 61.5% | +1.6ポイント |
2008年度から2024年度までの上昇幅は22.6ポイントです。比率にすると、制度開始時の約1.58倍まで伸びました。
2023年度には対象者5,210万3,341人のうち3,123万198人が受診しています。翌2024年度の実施率はさらに1.6ポイント上がりました。
2020年度の落ち込みは一時的だった
2020年度は55.6%から53.4%へ低下しました。新型コロナウイルス感染症の流行下で、健診の延期や受診控えが重なった時期です。
その後は4年度連続で上昇し、2021年度にはコロナ禍前の水準を上回りました。したがって、長期推移を「一貫した右肩上がり」と表現するのは正確ではないものの、一時的な落ち込みから回復し、受診率の最高値を更新しているとは明確に言えます。
それでも国の目標には届いていない
国は第4期の特定健康診査等実施計画で、2029年度の全国目標を70%以上としています。2024年度の61.5%からは8.5ポイントの差があります。
現在の上昇ペースがそのまま続くとは限りません。すでに受診しやすい層の割合が高くなるほど、残る未受診者には時間、費用、予約、移動、制度認知など複数の壁が重なりやすいためです。
年代差は「年齢そのもの」だけでは説明できない
年代別では45~49歳の実施率が最も高い一方、年齢と受診率は単純な比例関係ではありません。
厚生労働省の2023年度集計では、全年代を通じて一律に高くなる、または低くなる形ではなく、45~49歳がピークでした。働き盛りの男性は勤務先の定期健診を通じて特定健診相当の検査を受けやすく、その結果が実施率に反映されます。
一方、同じ年代でも女性の実施率は男性より低くなっています。特に被用者保険では、本人と被扶養者の差が重要です。
- 被保険者本人:勤務先が日時や会場を設定し、定期健診として受けられる場合が多い
- 被扶養者:受診券を確認し、自分で会場や医療機関を選んで予約する場面が多い
- 退職後の加入者:勤務先の一斉健診から、市町村国保などの個別案内へ受診経路が変わる
協会けんぽの被扶養者に限ると、特定健診実施率は2020年度の21.3%から2024年度の29.4%へ上がりました。それでも3割未満です。2024年度は対象者369万5,634人に対し、受診者は108万6,163人でした。
同年度には1,221市区町村の集団健診で協会けんぽの被扶養者も受診でき、うち1,199市区町村ではがん検診との同時受診が可能でした。会場を増やすだけでなく、複数の検診を一度に済ませられるかどうかが、生活者にとって実際の負担を左右します。
ここがポイント: 年代別の差に見えても、その内側には「会社が用意する健診を受ける人」と「自分で探して申し込む人」の違いがあります。
最大の差は保険者の種類にある
2023年度の数字で最も大きく開いたのは、年齢よりも加入する医療保険の種類です。
| 保険者の種類 | 2023年度実施率 | 2022年度 |
|---|---|---|
| 健康保険組合(全体) | 82.9% | 82.0% |
| 共済組合 | 82.6% | 81.4% |
| 全国健康保険協会 | 58.7% | 57.1% |
| 船員保険 | 52.8% | 52.2% |
| 国保組合 | 51.9% | 51.0% |
| 市町村国保(全体) | 38.2% | 37.5% |
健康保険組合と市町村国保の差は44.7ポイントです。健康保険組合では10人中8人以上、市町村国保では10人中4人弱という開きになります。
この差を「健康への関心」の違いだけで説明するのは無理があります。会社員には労働安全衛生法に基づく定期健康診断があり、勤務時間内に指定会場で受けられるケースもあります。健診結果が保険者へ連携されれば、特定健診の実績に算入されます。
対して市町村国保には、自営業者、離職者、退職者などが加入します。職場が健診日を設定してくれるとは限りません。案内を読んで予約し、営業時間や家事との兼ね合いをつけ、会場へ出向くまでを本人が担います。
すべての保険者で前年を上回った
格差は大きいものの、2023年度は表に挙げたすべての保険者で前年より実施率が上昇しました。市町村国保も37.5%から38.2%へ0.7ポイント上がっています。
つまり、「低い層がさらに取り残されて実施率が下がっている」のではありません。全体が改善する中でも、受診経路の構造差がなお大きく残っている状態です。
地域差を見るときは加入者構成を確認する
都道府県別の実施率は地域の取り組みを映しますが、数字をそのまま住民の健康意識ランキングにはできません。
厚生労働省は都道府県別に対象者数、受診者数、実施率を公表しています。ただし集計は、受診者・利用者の郵便番号から都道府県を判定したものです。郵便番号で判別できない人は除かれ、対象者数には都道府県人口を基にした推計値が使われています。
地域差を読む際は、少なくとも次の条件を確認する必要があります。
- 健康保険組合や共済組合に加入する就業者の割合
- 市町村国保加入者の年齢構成
- 大都市と小規模自治体で異なる会場への距離や交通手段
- 集団健診、個別健診、休日健診の実施時期と回数
- がん検診との同時実施や自己負担額
- 事業者健診の結果が保険者へ連携されているか
例えば和歌山県が公表する2023年度の全保険者合計は52.1%で、同年度の全国59.9%を7.8ポイント下回りました。同県は、とりわけ市町村国保の40~50代で受診率が低いと説明しています。
この数字から確認できるのは「全国平均より低い」という事実です。所得、医療機関への距離、産業構成、健康意識のどれが何ポイントを説明するかまでは、この集計だけでは分かりません。原因を特定するには、保険者別・年齢別の内訳や自治体の予約方法まで見る必要があります。
自治体内でも差は生まれる
同じ都道府県でも、市町村によって健診の受けやすさは異なります。人口10万人以上の都市と小規模な町村では、会場数や公共交通、対象者の年齢構成がそろいません。
したがって都道府県順位は、課題を探す入口としては有効ですが、施策の優劣を決める最終評価には向きません。地域を見るなら、全国平均との差に加えて、次の順序で掘り下げるのが実用的です。
- 都道府県全体の実施率
- 保険者別の実施率
- 市町村国保の年齢・性別内訳
- 市区町村ごとの推移
- 予約方法、費用、会場、休日開催などの運用条件
数字から言えること、言えないこと
受診機会の整備と実施率には関係が見えますが、この統計だけで健康状態の改善までは証明できません。
言えること
公表値から確認できる事実は明確です。
- 全国実施率は2008年度以降、長期的に上昇している
- 2020年度の低下後は回復し、2024年度に61.5%へ達した
- 保険者別の差は大きく、市町村国保と健康保険組合では40ポイント以上開く
- 被用者保険では、男性より女性、被保険者本人より被扶養者の実施率が低い
- 地域の実施率には保険者構成や健診提供体制が影響しうる
言えないこと
一方、実施率だけでは次の点を断定できません。
- 受診率が高い地域ほど住民が健康である
- 受診率の低さが住民の無関心による
- 健診を増やせば医療費が直ちに下がる
- 受診率の上昇だけで生活習慣病が減った
受診者が増えると、それまで見つかっていなかった高血圧や高血糖が把握され、短期的には有所見者の人数が増える場合があります。これは地域の健康状態が悪化したとは限らず、発見が進んだ結果かもしれません。
健診後に精密検査を受けたか、治療を始めたか、生活習慣を変えたかまで追わなければ、健康への効果は評価できません。
国際比較を単純に置けない理由
日本の特定健診実施率61.5%を、海外の「健康診断受診率」と横並びにするのは適切ではありません。
国によって、予防サービスは家庭医による定期診察、職域健診、がん検診、保険者のスクリーニングなどに分かれています。日本の特定健診のように、40~74歳の医療保険加入者を分母として、共通項目の受診を集計する制度と一致するとは限りません。
比較条件が違う主な点は次の通りです。
- 対象年齢
- 強制・任意の別
- 職域健診を含むか
- 問診だけか、血液検査を含むか
- 分母が全人口か保険加入者か
- 自己申告か行政記録か
そのため、国際差を知りたい場合は「健診全体」ではなく、血圧測定、糖尿病スクリーニング、がん検診など、検査目的と対象年齢をそろえて比べる必要があります。
次に見るべきは「未受診者が予約まで進めるか」
今後の焦点は、案内を送った人数ではなく、受診しにくい人が実際に予約し、会場へ行ける仕組みを作れるかです。
特に注目したいのは次の4点です。
- 市町村国保の実施率が全国平均へ近づくか
- 被扶養者の3割未満という水準が改善するか
- 休日・夜間開催やがん検診との同時受診が広がるか
- 健診後の精密検査、治療、保健指導までつながるか
2029年度の全国目標70%まで、2024年度時点で残り8.5ポイントあります。この差を縮めるには、受診勧奨の通知を増やすだけでは足りません。
自分が加入する保険の案内を確認し、勤務先の健診結果が保険者に連携されているか、家族はどこで受けられるかを確かめる。生活者にとっての最初の一歩はそこです。自治体や保険者には、その確認と予約を一度で済ませられる導線が求められます。
