MENU

ネット金融取引は29.4% 年代別データで見る「銀行のオンライン化」の現在地

スマートフォンの金融画面と通帳を年代別データの視点で表したイメージ。

ネット金融取引は29.4%、ただし「ネットバンキング利用者の増加」とは言い切れない

総務省の2025年「通信利用動向調査」では、過去1年間にインターネットで「金融取引」をした人は29.4%でした。全国の個人を分母にすると、オンライン金融を使う人はおよそ3人に1人です。

ただし、この29.4%にはネットバンキングだけでなく、株式売買や保険の申し込みなども含まれます。公的統計から確実に読み取れるのは「オンライン金融が幅広い年代に浸透していること」であり、ネットバンキング単独の利用者が何人増えたかを示す数字ではありません。

この記事で押さえるポイントは次の4つです。

  • 最新の全国値は、オンライン金融取引が29.4%
  • 30~60代では、ネット接続の有無だけで年代差を説明しにくくなっている
  • 70代以降は、インターネット利用率そのものが利用の上限になりやすい
  • 調査ごとに「利用者」の定義が異なるため、長期推移や国際順位の単純比較はできない
目次

使用データと比較条件

中心に据えるのは、総務省が2026年5月29日に公表した2025年「通信利用動向調査」です。 全国の世帯と世帯構成員を対象に、2025年8月末時点の状況を調べています。

今回参照する主なデータは次のとおりです。

  • 総務省「令和7年通信利用動向調査」世帯構成員編
  • 総務省統計局「日本の統計2026」年齢階級別インターネット利用率
  • 内閣府「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」
  • OECD「Digital Economy Outlook 2024」統計付録

通信利用動向調査の「金融取引」は、インターネットバンキング、株式などの売買、保険の申し込みなどをまとめた項目です。残高照会だけをした人と、ネット証券で投資信託を買った人を分けて数えているわけではありません。

また、割合の分母にも注意が必要です。2025年調査の公表値29.4%は個人全体を基準にした数字です。インターネット利用者だけを分母にした割合とは一致しません。

最新値は29.4%、買い物ほど一般化していない

オンライン金融は珍しい行動ではなくなりましたが、ネットショッピングほど日常化してはいません。

2025年の通信利用動向調査では、インターネットで利用した機能・サービスのうち、主な全国値は次のようになっています。

  • 金融取引:29.4%
  • 商品・サービスの購入・取引:60.7%
  • 動画投稿・共有サービス:63.6%

金融取引の利用率は、商品・サービス購入の半分弱です。この差には、利用頻度と必要性の違いがあります。

ネット通販は食品や日用品、旅行予約など多くの生活場面で使えます。一方、銀行振込を頻繁にしない人、投資や保険手続きをオンラインで行わない人もいます。ネットに接続できることが、そのまま金融取引の利用につながるわけではありません。

金融サービスでは、次のような条件も利用判断に関わります。

  • 本人確認や初期登録の手間
  • パスワード、認証アプリ、ワンタイムパスワードの管理
  • 誤送金や不正アクセスへの不安
  • 窓口やATMを使い続けられるか
  • 振込、資産運用、保険契約などを行う必要性

したがって、29.4%という数字は「使える人」の割合ではなく、調査対象期間に実際の金融行動まで進んだ人の割合として読む必要があります。

年代差は「若者対高齢者」だけでは説明できない

現在の分岐点は、若者か高齢者かという二分法より、ネットに接続した後に金融手続きを選ぶかどうかです。

総務省統計局の「日本の統計2026」によると、2024年のインターネット利用率は次の水準でした。

  • 20~29歳:98%台
  • 30~59歳:各年代とも97%台以上
  • 60~64歳:90%台前半
  • 65~69歳:80%台後半
  • 70~74歳:70%台後半
  • 75~79歳:60%台後半
  • 80歳以上:40%台前半

20~50代では、ほとんどの人がインターネットを利用しています。そのため、この年代内で金融取引の利用率に差が生じる場合、主因を通信環境だけに求めるのは難しくなっています。

働く世代では「必要な取引があるか」が効く

30~50代は、給与受け取り、家賃や住宅ローン、教育費、クレジットカードの引き落とし、資産形成など、銀行口座を日常的に管理する場面が多い年代です。

ネットバンキングでは、残高確認、振込、定期預金、各種料金の支払いを自宅や外出先で行えます。窓口の営業時間に合わせなくてよいことは、働く人や子育て世帯にとって具体的な利点です。

ただし、通信利用動向調査は職業、家族構成、取引目的ごとの因果関係を示す調査ではありません。「働く世代だから利用率が上がった」と断定することはできず、金融取引の必要性とオンライン手続きの選択が重なりやすい、と捉えるのが妥当です。

60代は一律に「デジタルに弱い」層ではない

60~64歳ではインターネット利用率が9割を超えています。65~69歳も9割に近い水準です。

この年代では、ネットにつながらないことより、対面取引を続けたい、認証操作に不安がある、金融取引の頻度が低いといった事情が利用を左右しやすくなります。サービス提供側にとっては、単にアプリを用意するだけでなく、登録時の支援や不正送金対策を分かりやすく伝えることが重要になります。

70代以降はネット利用率そのものが上限になる

70代からはインターネット利用率が下がり、80歳以上では半数を下回ります。全員を分母にしたネット金融取引率は、まずこの接続段階で制約を受けます。

たとえば、ある年代のインターネット利用率が40%なら、その年代全体に占めるオンライン金融利用率が40%を超えることは原理的にありません。ネット利用者だけを分母にした数字と、年代人口全体を分母にした数字を混ぜると、金融サービスへの関心まで実態以上に低く見える場合があります。

ここがポイント: 30~60代では「ネットを使えるか」より「金融手続きをネットに移すか」が焦点です。70代以降では、それに加えてインターネットを利用している人の割合自体が大きく影響します。

高齢者の国際比較では日本の遅れが目立った

高齢者に限った2020年度の国際調査では、日本とスウェーデンの差が非常に大きく出ています。

内閣府の「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」は、日本、米国、ドイツ、スウェーデンの60歳以上を対象に、情報機器を使って何をしているかを尋ねました。

「ネットバンキングや金融取引をする」と答えた割合は、国全体で次のとおりです。

  • 日本:7.7%
  • 米国:47.6%
  • ドイツ:33.1%
  • スウェーデン:72.4%

日本とスウェーデンの差は64.7ポイントです。単にスマートフォンを持っているかどうかでは説明しきれない開きでした。

スウェーデンでは同調査のすべての高齢年代で、ネットバンキング・金融取引の利用が他の3か国より高くなっています。金融機関のサービス設計、本人認証の仕組み、窓口や現金を取り巻く環境、行政を含むデジタルサービスへの慣れなどが重なった結果とみられます。

ただし、この国際調査は2020年度の60歳以上が対象です。2025年の日本全国の29.4%と直接並べて、「日本が5年間で21.7ポイント伸びた」と計算してはいけません。対象年齢も質問文も分母も異なるためです。

OECDのインターネットバンキング統計にも同じ注意が必要です。日本は15~74歳を対象とする一方、国によって年齢範囲が異なり、米国ではオンライン投資や請求書支払いなども含まれます。国際順位は、注記を確認して初めて意味を持ちます。

「増えているのか」を判断する3つの壁

結論を急ぐと、ネットバンキングとオンライン金融全体を取り違えます。

1. ネットバンキング単独の数字ではない

通信利用動向調査の金融取引には、銀行、証券、保険の取引が含まれます。利用率が上がった場合でも、振込や残高照会が増えたのか、ネット投資が増えたのかは分かりません。

新NISAの開始後にオンライン投資が広がれば、「金融取引」の数字は上がり得ます。しかし、それをそのままネットバンキングの普及と解釈することはできません。

2. 調査項目と集計方法が変わる

長期の通信利用動向調査では、インターネットで利用するサービスの分類や表現が変化してきました。古い年の「銀行・証券・保険取引」と新しい年の「金融取引」が似ていても、対象者や集計条件まで同一とは限りません。

長期推移を見るときは、少なくとも次を確認する必要があります。

  • 調査対象年齢
  • 個人全体か、インターネット利用者だけか
  • 過去1年間の利用か、現在の契約・登録か
  • ネットバンキング以外の金融サービスを含むか
  • 無回答者の扱い

3. 利用率は契約口座数ではない

銀行アプリを登録していても、過去1年間に使わなければ利用者に数えられない調査があります。反対に、複数の銀行を使っている人でも、個人ベースの利用率では1人です。

金融機関が公表する契約件数やアプリのダウンロード数は、普及の勢いを知る補助材料になりますが、人口に占める利用者割合とは別の指標です。

生活者への影響は「窓口を減らせるか」だけではない

利用が広がるほど、利便性と安全対策を同時に考える必要があります。

オンライン化で、生活者は営業時間や移動距離に縛られずに残高確認や振込を行えます。金融機関側も、窓口業務をオンラインへ移せば店舗運営や事務の負担を抑えられます。

一方、対面の確認がなくなることで、詐欺の被害を止める機会が減る場合があります。警察庁によると、2025年上半期の「ニセ警察詐欺」では、インターネットバンキングを使って送られた被害額が176.2億円に達し、同詐欺被害額の45.2%を占めました。

これはネットバンキングそのものが危険だという意味ではありません。犯罪者が、電話やSNSで被害者を誘導し、高額送金を実行させる手段として利用しているという問題です。

利用者が確認すべき点は具体的です。

  • 金融機関の公式アプリや保存済みブックマークからアクセスする
  • SMSやメールのリンクからログインしない
  • ワンタイムパスワードを第三者へ伝えない
  • 振込限度額を必要以上に高くしない
  • 不審な指示を受けたら、送金前に公式窓口へ確認する

高齢者の利用を促す場合も、登録だけを支援して終わりでは不十分です。偽サイトの見分け方、送金限度額の設定、困ったときの連絡先まで一緒に確認する必要があります。

今後見るべき数字

ネットバンキングの普及を正確に追うには、利用の有無だけでなく、誰が何に使ったかを分けて見る必要があります。

今後の注目点は次の4つです。

  • 「金融取引」全体の全国値が29.4%からどう動くか
  • 60代の利用がネット利用率に近づくか、それとも差が残るか
  • 70代以降でネット利用率と金融取引率がそれぞれどこまで上がるか
  • 銀行、証券、保険を分けた公的な継続統計が整備されるか

現時点では、オンライン金融が約3人に1人まで広がったことは確認できます。しかし、ネットバンキング単独の長期的な増加幅は、同じ定義で継続した統計がなければ確定できません。

次の通信利用動向調査を見るときは、全体の利用率だけでなく、年代別の分母と「金融取引」に含まれるサービスを先に確認する。それが、デジタル金融の普及を誤読しないための実践的な見方です。

参照リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次