国は8割、自治体は3割――行政手続のオンライン利用に残る大きな差
行政手続のオンライン化は進んでいます。ただし、2024年度に行われたデジタル庁の調査では、オンライン対応済み手続の利用率が国等への申請で80.4%、地方自治体等への申請では28.1%でした。
つまり、「行政手続の8割がオンラインで完結する」と一括りにはできません。利用者が実際に便利さを感じられるかは、手続の提出先、申請件数、添付書類、手数料の支払い方法によって大きく変わります。
この記事で押さえる要点は次の4つです。
- 国等への申請は、オンライン化率72.2%、オンライン利用率80.4%
- 地方自治体等への申請は、オンライン化率39.1%、オンライン利用率28.1%
- 件数の多い手続ほどオンライン化・利用が進み、少ない手続ほど遅れる
- 申請フォームだけでなく、添付書類、支払い、通知までオンラインで完結するかが次の焦点
使用したデータと比較条件
中心に見るのは、デジタル庁が2025年7月に公表した「令和6年度 行政手続等の悉皆調査」です。
調査は、2024年3月31日時点の制度・手続を対象とし、国の行政機関や地方自治体などが所管する行政手続を棚卸ししています。この記事では、住民や企業などが行政機関へ行う「申請等」のうち、次の2指標を使います。
- オンライン化率:手続の種類数に対し、オンラインで行える手続が占める割合
- オンライン利用率:オンライン対応済み手続の年間処理件数に対し、実際にオンラインで処理された件数の割合
ここで重要なのは、両者の分母が違うことです。オンライン化率は「何種類に対応したか」、利用率は「対応済み手続が実際に何件使われたか」を表します。
また、長期的な位置づけを確認するため、総務省の情報通信白書などに掲載された自治体手続の旧系列も参照します。ただし、対象手続や集計範囲が変わっているため、現在の数字とは単純に接続できません。
国と地方で利用率に52.3ポイントの差
最新調査で最も目立つのは、国等と地方自治体等のオンライン利用率の開きです。
| 申請先 | 対象手続種類数 | オンライン化率 | 年間件数 | オンライン利用率 |
|---|---|---|---|---|
| 国等 | 22,220種類 | 72.2% | 16億9,744万件 | 80.4% |
| 地方自治体等 | 5,543種類 | 39.1% | 2億8,689万件 | 28.1% |
国等への申請では、オンライン対応済み手続の5件に4件ほどがオンラインで処理されています。一方、地方自治体等では3割に届きません。その差は52.3ポイントです。
オンライン化率にも33.1ポイントの差があります。地方では、そもそもオンラインで申請できる手続の種類が国より限られています。そのうえ、対応済みでも実際の利用が伸びていない手続が残ります。
ただし、この表から「すべての自治体で利用率が28.1%」とは言えません。地方の集計には自治体独自の手続が含まれず、各府省庁が把握できた範囲を集計しています。自治体別ランキングとして使える数字でもありません。
ここがポイント: 行政のオンライン化は、「申請できる手続の数」と「実際にオンラインで処理された件数」を分けて見る必要があります。対応済みという表示だけでは、住民が窓口へ行かずに済むかまでは判断できません。
長期的には増加、ただし途中で物差しが変わった
自治体手続のオンライン利用は長期的に増えましたが、同じ条件の連続データではありません。
旧来の「オンライン利用促進対象手続」を集計した系列では、利用率は2005年度の11.3%から上昇し、2018年度には52.6%となりました。13年間で41.3ポイントの上昇です。
主な節目を見ると、次のように推移しています。
- 2005年度:11.3%
- 2008年度:27.6%
- 2010年度:41.0%
- 2014年度:47.1%
- 2016年度:51.2%
- 2018年度:52.6%
初期には急速に伸び、2010年度に4割へ到達しました。その後は伸びが緩やかになっています。
2019年度以降は対象手続が拡大
旧系列は主に21手続を対象としていましたが、その後の指針改定で対象が58手続へ広がりました。対象が増えると、新たに加わった利用率の低い手続が分母に入るため、全体の率が下がることがあります。
実際、政府資料には2019年度の旧系列に対応する値として53.8%が示される一方、対象拡大後の系列には44.8%、45.4%、47.5%という値が並びます。これはオンライン利用が急に後退したことを意味するとは限りません。測っている手続の集合が変わったためです。
さらに、2024年度の悉皆調査は、国・地方をまたぐ幅広い行政手続を棚卸しした別の調査です。現在の地方自治体等の利用率28.1%を、旧系列の52.6%や47.5%からの低下として扱うのは適切ではありません。
なぜ件数の多い手続からオンライン化が進むのか
行政全体の利用率を押し上げているのは、年間処理件数の多い手続です。
デジタル庁の調査では、年間1万件以上ある手続は種類数の2.3%にすぎない一方、年間処理件数全体の99.8%を占めます。少数の大量処理手続が、件数ベースの数字をほぼ決めている構造です。
年間100万件以上の手続では、オンライン化率、オンライン利用率ともに8割を超えます。これに対し、100万件未満の区分では、オンライン化率はおおむね6~7割、利用率は5~6割に下がります。
大量処理には投資効果が出やすい
申請システムの整備には、フォーム作成だけでなく、本人確認、決済、審査、既存システムとの連携、問い合わせ対応が必要です。年間処理件数が多ければ、1件当たりの開発・運用費を下げやすく、職員の入力作業や窓口対応を減らす効果も大きくなります。
逆に、年に数件しかない手続では、個別システムを整備しても費用を回収しにくくなります。調査でも、件数の少ない手続ほど、オンライン化しない理由として「費用対効果が小さい、または不明」が挙げられています。
ここから言えるのは、利用率の上昇だけを追うと少量手続が見えにくくなることです。件数ベースで8割に達しても、種類数ベースでは紙や窓口しか選べない手続が残り得ます。
「電子申請できる」と「オンラインで終わる」は違う
利用者にとって重要なのは、入口の電子化ではなく、手続全体が自宅などから完結することです。
申請フォームを送れても、次の作業で窓口や郵送が必要なら利便性は下がります。
- 紙の住民票、戸籍謄本、登記事項証明書を添付する
- 手数料を窓口や金融機関で支払う
- 不備の訂正を電話や郵便でやり取りする
- 許可証や通知書を窓口で受け取る
手数料の支払いが紙申請を残す
2024年度調査では、手数料がある3,508種類の手続について、61.9%がオフライン納付のみでした。年間件数で見ても、オフライン納付のみの手続が47.2%を占めます。
電子申請後に納付書を持って窓口へ行く必要があれば、利用者が最初から紙申請を選ぶのは不自然ではありません。行政側でも、申請データと入金を職員が手作業で照合するなら、電子化による事務削減は限定的です。
添付書類も手続ごとの差を生む
添付書類別のオンライン化率を見ると、戸籍を求める手続は39.3%、決算書を求める手続は77.4%でした。紙で取得した証明書の提出を前提とする手続では、オンライン化のハードルが高くなります。
ただし、この集計は法令上の提出規定を数えたものです。行政機関間の情報連携によって、実際の窓口では提出を省略できる場合もあるため、すべての手続で紙の戸籍が要求されるという意味ではありません。
自治体ごとの差を見るときの注意点
自治体が公表する利用率は有用ですが、全国値との単純比較には向きません。
自治体独自の公表資料では、対象手続の選び方や分母が異なります。例えば鹿児島県は、国の調査対象となるオンライン化実施済み手続について、オンライン申請割合を次のように公表しています。
- 2019年度:19.8%
- 2020年度:21.5%
- 2021年度:23.0%
- 2022年度:23.8%
- 2023年度:27.8%
- 2024年度:33.9%
この範囲では5年間で14.1ポイント上昇しています。一方、対象手続数は2019年度の64から2023年度には31、2024年度には34へ変わりました。利用率の変化には、住民の利用増だけでなく、集計対象の変更も影響します。
新潟県は別の範囲で、県が単独で変更できる手続を対象に集計しています。オンライン申請利用率は2023年度36.6%、2024年度41.5%でした。こちらは鹿児島県とも全国調査とも分母が違うため、41.5%対33.9%という順位づけはできません。
自治体間で比較するときは、少なくとも次を確認する必要があります。
- 全手続を対象にしているか、特定の重点手続だけか
- オンライン対応済み手続だけを分母にしているか
- 電子メールによる申請をオンラインに含めるか
- 税、入札、図書館予約など件数の多い手続を含むか
- 廃止・追加された手続を年度間でどう処理したか
データから言えること、言えないこと
オンライン化は進展していますが、最新値だけで住民の利便性を評価することはできません。
データから確認できること
- 国等への申請は、対応済み手続の利用率が8割を超えた
- 地方自治体等では、手続種類数・利用件数の両面で国等よりオンライン化が遅い
- 年間件数の多い手続ほどオンライン対応と実利用が進んでいる
- 納付や添付書類がオンライン完結を妨げる要因になっている
この数字だけでは分からないこと
- 申請画面の使いやすさや入力にかかる時間
- 不備なく一度で申請を終えられた割合
- 審査、通知、証明書交付までに要した日数
- 年代、障害の有無、利用端末による使いやすさの差
- オンライン化によって自治体職員の作業時間がどれだけ減ったか
利用件数が増えても、入力項目が多い、添付ファイルの形式が分かりにくい、スマートフォンで操作しにくいといった問題は残り得ます。逆に、利用率が低くても、災害時の罹災証明書のように、必要なときに来庁せず申請できること自体が重要な手続もあります。
次に見るべきは「完結率」と手続ごとの差
これからの評価軸は、申請ボタンの有無から、窓口へ行かず最後まで終えられるかへ移ります。
デジタル庁は、次期オンライン申請サービスで、登録情報の再利用、行政保有情報のフォームへの転記、補正連絡や通知書のオンライン送付を目指しています。2025年4月に一部自治体で先行実証が始まり、本格運用は2026年9月以降の予定です。
今後、確認したいのは次の3点です。
- 地方自治体等の利用率28.1%がどこまで上がるか
- 手数料のオンライン納付と添付書類の省略が何種類の手続に広がるか
- 子育て、介護、国民健康保険など、生活に近い手続が申請から通知まで完結するか
全国平均だけでは、住んでいる地域で何ができるかは分かりません。引っ越し、出産、介護、災害など実際に手続が必要になったときは、自治体サイトやマイナポータルで対象手続を確認し、申請後の支払い・添付・受け取りまでオンラインで済むかを見るのが実用的です。
