国内線はコロナ前を超えたが、全路線ではない――2025年度の航空旅客数を読む
国内線の旅客数は、全国合計ではコロナ前を超えた。2025年度は約1億1,250万人で、感染拡大前の2018年度より8.3%多い。ただし、羽田―那覇が18%近く増える一方、羽田―大阪(伊丹)や那覇―石垣は2018年度を下回っており、回復の度合いは路線によって違う。
もう一つ見逃せないのが、飛行機の座席がどれだけ使われているかだ。全国の座席利用率は2018年度の73.1%から2025年度の81.3%へ上昇した。旅客数の回復と、便や座席の余裕が戻ることは別の話である。
この記事では、国土交通省「航空輸送統計年報」を使い、次の3点を確認する。
- 全国の旅客数は、いつコロナ前を超えたのか。
- 主要路線のうち、2018年度を上回った路線・下回った路線はどこか。
- 旅客数と座席利用率を合わせると、何が分かるのか。
使用データと比較条件――基準は2018年度にそろえる
コロナ前との比較には、感染拡大の影響が年度末に入り込む2019年度ではなく、2018年度を主な基準にする。
対象は日本全国の国内定期航空輸送。最新の通年値は、2026年6月30日に国土交通省が公表した2025年度分で、期間は2025年4月から2026年3月までだ。2026年10月8日時点で確認した年報を使用する。
比較条件は次のとおり。
- 全国の推移:2018~2025年度。年報の航空輸送量推移表を使用。
- 路線別の比較:2018年度と2025年度。同じ空港の組み合わせを比較。
- 直近の増減:2024年度から2025年度への変化。
- 回復指数:2025年度の旅客数÷2018年度の旅客数×100。100なら同水準。
全国の推移は2025年度の公表資料、基準年の路線別値は2018年度の公表資料による。指数と増減率は本記事で計算し、小数第1位に丸めた。
「旅客数」は利用した人の実人数ではなく、輸送された旅客の延べ数だ。同じ人が往復すれば、それぞれの搭乗が数えられる。国内線を利用した国民の割合や、旅行した人数として読むことはできない。
また、資料の「大阪」は伊丹空港を指す。関西空港は別路線として集計されている。以下では読み違いを防ぐため「大阪(伊丹)」と表記する。
全国では2023年度に2018年度を超えた
全国合計の回復は2025年度に初めて達成されたわけではなく、2023年度の時点で2018年度を上回っていた。
年報の推移表に掲載された旅客数を、万人単位に換算すると次のようになる。元表は千人単位のため、万人表示には小数が付く。
| 年度 | 国内定期航空の旅客数 | 2018年度=100 |
|---|---|---|
| 2018 | 10,390.3万人 | 100.0 |
| 2019 | 10,187.3万人 | 98.0 |
| 2020 | 3,376.8万人 | 32.5 |
| 2021 | 4,969.5万人 | 47.8 |
| 2022 | 9,066.2万人 | 87.3 |
| 2023 | 10,480.5万人 | 100.9 |
| 2024 | 10,876.5万人 | 104.7 |
| 2025 | 11,250.3万人 | 108.3 |
出典:国土交通省「航空輸送統計年報」2025年度公表資料の航空輸送量推移表。指数は本記事で計算。
2020年度には2018年度の約3分の1まで縮小した。その後、2022年度に9,000万人台へ戻り、2023年度に基準年を超えた。2025年度は2018年度より860万人多く、2024年度比でも3.4%増加している。
2019年度を基準にすると、2025年度の増加率は10.4%になる。どちらの基準でも全国合計が上回る結論は変わらないが、増加幅は異なる。「コロナ前比」という数字を見る際は、比較年まで確認したい。
幹線とローカル線では伸び幅が違う
全国の増加を二つの路線区分に分けると、幹線の伸びが大きい。
- 幹線:2018年度の4,344万人から2025年度の4,849万人へ、約11.6%増。
- ローカル線:6,047万人から6,402万人へ、約5.9%増。
ここでいう幹線は、新千歳、羽田、成田、大阪(伊丹)、関西、福岡、那覇の7空港を相互に結ぶ路線。それ以外がローカル線だ。公表概要の万人単位の丸め値で計算しているため、区分の合計と全国合計には端数の差が生じる。区分の定義と2025年度実績、2018年度実績で確認できる。
「ローカル線」は小規模路線だけを意味しない。羽田―鹿児島や羽田―熊本もこの区分に入る。ローカル線全体の増加を、離島や小規模空港の全路線が回復した証拠にすることはできない。
路線別では、全国平均を上回る路線と未回復の路線が併存する
主要路線に限っても、2025年度の旅客数は2018年度の約9割から約1.4倍まで開きがある。
以下は全国ランキングの全件ではなく、2025年度公表概要の上位30路線から、規模や空港の違いを比較するために抜粋したものだ。旅客数は両方向の合計で、単位は人。
| 路線 | 2018年度 | 2025年度 | 2018年度=100 |
|---|---|---|---|
| 羽田―新千歳 | 9,057,780 | 10,311,280 | 113.8 |
| 羽田―福岡 | 8,724,502 | 9,545,562 | 109.4 |
| 羽田―那覇 | 5,953,185 | 7,020,943 | 117.9 |
| 羽田―大阪(伊丹) | 5,478,134 | 5,314,137 | 97.0 |
| 羽田―鹿児島 | 2,518,809 | 2,557,243 | 101.5 |
| 成田―新千歳 | 1,876,979 | 1,965,435 | 104.7 |
| 成田―福岡 | 1,132,019 | 1,561,280 | 137.9 |
| 中部―新千歳 | 1,509,447 | 1,426,794 | 94.5 |
| 中部―那覇 | 1,194,286 | 1,463,521 | 122.5 |
| 那覇―宮古島 | 1,128,770 | 1,047,612 | 92.8 |
| 那覇―石垣 | 1,147,669 | 1,029,127 | 89.7 |
出典:国土交通省「航空輸送統計年報」2018年度・2025年度公表資料。指数は本記事で計算。
上位4路線でも回復はそろわない
2025年度の旅客数上位4路線は、羽田発着の新千歳、福岡、那覇、大阪(伊丹)だ。このうち前の3路線は2018年度を超えたが、大阪(伊丹)線は3.0%下回った。
羽田―新千歳は約125万人増、羽田―那覇は約107万人増。一方、羽田―大阪(伊丹)は約16万人少ない。同じ羽田発着の大規模路線でも、結果は異なる。
この違いだけから「観光は戻り、出張は戻っていない」と結論付けることはできない。路線別旅客数には旅行目的の内訳がなく、各路線には観光、業務、帰省などが混在するためだ。目的別の説明には別の調査が必要になる。
同じ出発地域でも、目的地によって違う
中部発着では、新千歳線が2018年度比5.5%減、那覇線が22.5%増となった。出発空港が同じでも、すべての方面が一緒に回復するわけではない。
福岡方面も、羽田―福岡が9.4%増なのに対し、成田―福岡は37.9%増と幅が違う。ただし、羽田線の旅客数は成田線の約6倍ある。増加率が高いことと、増えた人数が多いことは分けて読む必要がある。
利用者にとっては、同じ都市圏にある空港も完全に同じ選択肢ではない。空港までの移動時間や運航時刻を含めて使い分けるため、「首都圏発着が増えた」という合計だけでは、普段使う空港の変化を捉えられない。
那覇から離島へ向かう2路線は2018年度未満
那覇―宮古島は2018年度比7.2%減、那覇―石垣は10.3%減だった。ただし2024年度から2025年度にかけては、それぞれ8.8%増、0.7%増と増加している。
ここでは「前年比で増えた」と「コロナ前まで戻った」が同時には成り立たない。また、この数字は那覇経由の当該路線の輸送量であり、島を訪れた人の総数ではない。他空港からの直行便や、別空港を使う移動まで含めた地域全体の回復は、この2路線だけでは判断できない。
旅客が減った路線でも、座席利用率は上がる
路線の旅客数が減っていても、提供される座席がそれ以上に減れば、座席利用率は上昇する。
この点がよく表れているのが、関西―新千歳線だ。2025年度の旅客数は約130万人で、2024年度比11.0%減少した。一方、座席利用率は81.5%から85.2%へ、3.7ポイント上昇している。
成田―新千歳線も、旅客数は前年比3.0%減だが、座席利用率は87.2%から88.0%に上がった。「旅客減だから空いている」とは限らない。
全国の座席供給は、距離を加味すると2018年度とほぼ同じ
全国の座席キロは、2018年度の13万1,600百万座席キロから、2025年度の13万1,691百万座席キロへ、約0.1%の増加にとどまった。一方、旅客の移動距離を加味した人キロは11.3%増加している。
座席キロは、提供した座席数に輸送距離を掛けた指標。人キロは、旅客数に輸送距離を掛けた指標だ。全国の座席利用率は、この人キロを座席キロで割って求める。
距離を加味した供給量がほぼ同じ中で、輸送量が増えたため、全国の座席利用率は73.1%から81.3%へ8.2ポイント上がった。ただし座席キロは便数そのものではなく、路線の距離構成にも左右される。「国内線の便数が2018年度と同じ」と読み替えてはいけない。
羽田―大阪(伊丹)は、旅客数未回復でも利用率が高い
羽田―大阪(伊丹)の2025年度旅客数は2018年度を下回るが、座席利用率は77.8%から85.2%へ上昇した。
したがって、この路線の未回復を、そのまま利用者にとっての余裕の大きさと考えることはできない。旅客数が戻ったかを知るには人数を見る。予約の取りやすさにつながる条件を考えるなら、座席利用率に加え、便数、時刻、機材の座席数まで見る必要がある。
年間平均の利用率だけで、特定日の満席や運賃上昇を断定することもできない。曜日、時間帯、繁忙期による差は、この平均値の中に隠れている。
「回復」の理由は旅客数だけでは決められない
この統計が直接示すのは、各路線で実際に輸送された旅客の量であり、移動したい人の数や利用を見送った理由ではない。
航空会社が便を減らした場合、利用したい人がいても旅客数は伸びにくくなる。逆に、利用したい人が減ったために便を減らす場合もある。旅客数と座席利用率の組み合わせだけでは、その順序は確定できない。
背景を検証するなら、問いに応じて追加するデータを変える必要がある。
- 供給が減ったのか:路線別の運航回数、機材、座席供給を確認する。
- 旅行目的が変わったのか:目的別の航空旅客調査を確認する。
- 別の移動手段へ移ったのか:鉄道などの輸送量と、比較区間・期間をそろえる。
- 費用が利用を抑えたのか:運賃や家計の旅行支出を別に確認する。
国土交通省の航空輸送サービスに係る情報公開には、航空会社の輸送実績や運賃設定状況を確認する入口がある。ただし、会社別や四半期別の資料を、年報の路線別年間値とそのまま同じものとして扱わないことが大切だ。
「地方の人口が減ったから」「新幹線に移ったから」「訪日客が増えたから」といった説明は検証すべき仮説であり、今回の旅客数だけで確定した原因ではない。
比較の限界――上位路線の結果を全路線へ広げない
今回の比較は主要路線の違いを示すもので、全国の全路線について回復率を判定したものではない。
特に次の点は、数字を地域の評価に使う前に確認したい。
- 掲載範囲が違う。2018年度の公表概要は旅客上位50路線、2025年度は上位30路線。概要に載らないことは、廃止や旅客ゼロを意味しない。
- 路線数の割合ではない。全国合計が108.3になっても、何割の路線が2018年度を超えたかは分からない。大規模路線の増加が合計を押し上げる。
- 空港利用者数とは集計が違う。路線別輸送量と、空港で集計する乗降客数を混ぜて合算すると、重複が生じる。
- 国内線は日本人だけではない。旅客数から国籍や居住地別の回復は分からない。
- 年度と暦年を混ぜない。2025年度は2026年3月までを含み、2025年1~12月の値とは一致しない。
基準年の2018年度にも、災害などによる一時的な増減は含まれる。2018年度を超えたことは明確な比較結果だが、各路線の平常時の需要や成長力まで一つの年で測れるわけではない。必要に応じて2017年度も含めた複数年比較に広げたい。
統計には訂正が入ることもある。追跡する際は、国土交通省の航空輸送統計調査ページから最新の年報・統計表を確認し、同じ対象期間と定義で比べる必要がある。
次に見るべきは、使う路線の便数と座席供給
生活の移動を考えるうえでは、全国の回復率よりも、実際に使う路線で人数と供給がどう変わったかが重要になる。
旅行や帰省をする人には、利用する時間帯の便があるかが関わる。地域の担当者には、観光客を運ぶ力と、住民の日常的な移動を支える便が維持されているかが関わる。どちらも全国の旅客数だけでは判断できない。
次回のデータで確認したいのは、次の組み合わせだ。
- 旅客数が増え、座席供給も増える:移動量の拡大に供給が追いついているかを見る。
- 旅客数が増え、座席供給は横ばい:利用率の上昇が続くかを見る。
- 旅客数が減り、利用率は上がる:減便や小型化など、供給側の変化を確かめる。
全国の国内線は、人数ではコロナ前を超えた。次の問いは「戻ったか」から一歩進み、自分の使う路線に、必要な時刻の便と座席があるかになる。
