クルーズ寄港は過去最多、訪日客はピークの7割――2025年の港別データを読む
2025年、日本の港へのクルーズ船寄港は3,117回となり、コロナ前の最多年を上回りました。一方、クルーズ船で入国した外国人旅客は176.7万人で、過去最多だった2017年の約7割です。
船が来る回数の回復と、訪日客数の回復は一致していません。 港別でも、博多・横浜が総寄港回数で並ぶ一方、外国船社の船に限ると長崎が首位になります。何を数えるかで、港の姿は変わります。国土交通省の2025年資料から、その違いを確かめます。
この記事で分かることは、次の3点です。
- 全国の寄港回数と訪日客数は、コロナ前からどこまで戻ったか。
- 主要港の回復は一様か。日本船社・外国船社の内訳で何が違うか。
- 寄港の増加から、地域の混雑や観光消費についてどこまで判断できるか。
使用データは2025年の暦年実績。船の回数と入国者数を分けて読む
今回の比較は、全国の港への寄港回数と、クルーズ船による外国人入国者数を別々に追うものです。
中心となる資料は、国土交通省が2026年2月20日に公表した「訪日クルーズ旅客数及びクルーズ船の寄港回数(2025年速報値)」と、その別紙です。2026年10月8日時点で確認できる最新の通年公表資料を使い、各年の1~12月を比較します。年度の集計や2026年の寄港予定は混ぜません。
集計条件には、次の違いがあります。
- 寄港回数:船内で1泊以上するクルーズ船が対象。日帰りクルーズは含みません。沖に停泊し、通船で乗客が上陸する場合や、漁港への寄港も含みます。
- 訪日クルーズ旅客数:出入国在留管理庁が集計した外国人入国者数の概数で、乗員を除きます。1回のクルーズで複数の日本の港に立ち寄っても、各港で重複計上しません。
- 外国船社・日本船社の区分:運航する船社による区分です。船籍や乗客の国籍による区分ではありません。
寄港回数は港湾管理者への聞き取りに基づき、2025年分は速報値です。また、最新資料では過去年の数値も更新されています。例えば2024年の総寄港回数は、当初の速報発表では2,479回でしたが、今回の資料では2,472回です。以下は比較の条件をそろえるため、最新資料に掲載された系列を使います。2024年の当初速報との差は、回復の方向を変えるほどではありませんが、増減率を再現するときには注意が必要です。
全国では「寄港はピーク超え、旅客は未回復」が同時に起きた
2025年の総寄港回数は2018年を6.4%上回りましたが、訪日クルーズ旅客数は2017年を30.1%下回っています。
| 年 | 全国の寄港回数 | 訪日クルーズ旅客数 |
|---|---|---|
| 2017年 | 2,764回 | 252.9万人 |
| 2018年 | 2,930回 | 245.1万人 |
| 2019年 | 2,866回 | 215.3万人 |
| 2020年 | 352回 | 12.6万人 |
| 2021年 | 420回 | 0万人 |
| 2022年 | 722回 | 0万人 |
| 2023年 | 1,888回 | 35.6万人 |
| 2024年 | 2,472回 | 143.8万人 |
| 2025年 | 3,117回 | 176.7万人 |
出典:国土交通省の2025年公表資料。2025年の寄港回数は速報値。割合は掲載値から計算し、小数第1位に丸めています。
2024年から2025年にかけて、寄港は645回、26.1%増えました。旅客は32.9万人、22.9%増です。どちらも増加していますが、コロナ前のピークを基準にすると到達点が違います。
同じ2019年を基準にしても、差は残る
寄港のピークは2018年、旅客のピークは2017年です。異なる年を基準にした比較だけでは、回復の差が分かりにくいかもしれません。
そこで両方を2019年と比べると、2025年の寄港は8.8%増、旅客は17.9%減となります。基準年をそろえても、寄港が増えたほどには入国者数が戻っていないという結論は変わりません。
ただし、旅客数を寄港回数で割って「1隻当たりの乗客数」とすることはできません。分母には日本船社の寄港も含まれ、同じ船の複数港への寄港もそれぞれ数えられます。分子は、1回のクルーズ内で重複を除いた外国人入国者数です。外国船社の寄港だけを分母にしても、この重複の違いは残ります。
港別では横浜が伸び、博多と那覇は2019年を下回る
全国の寄港が過去最多でも、主要港すべてがコロナ前を超えたわけではありません。
次の表は、2025年の総寄港回数上位5港について、日本船社と外国船社を合わせた回数を比較したものです。
| 港 | 2019年 | 2024年 | 2025年 | 2019年比 |
|---|---|---|---|---|
| 博多 | 229回 | 204回 | 209回 | 8.7%減 |
| 横浜 | 188回 | 146回 | 209回 | 11.2%増 |
| 那覇 | 260回 | 175回 | 205回 | 21.2%減 |
| 長崎 | 183回 | 160回 | 198回 | 8.2%増 |
| 神戸 | 131回 | 95回 | 142回 | 8.4%増 |
出典:国土交通省別紙・図表7。2025年は速報値。比較対象を同じ5港に固定しています。
博多と横浜は209回で同率首位です。ただ、前年からの増加は博多が5回、横浜が63回。順位は同じでも、直近の変化の大きさは異なります。
那覇も前年から30回増えています。しかし2019年との差は55回残ります。「前年より増えた」と「コロナ前に戻った」は、別の判断です。
総寄港の首位と、外国船社の首位は違う
2025年の内訳を見ると、港ごとの役割の違いがさらに明確になります。
| 港 | 総寄港回数 | 外国船社 | 日本船社 |
|---|---|---|---|
| 博多 | 209回 | 191回 | 18回 |
| 横浜 | 209回 | 105回 | 104回 |
| 那覇 | 205回 | 187回 | 18回 |
| 長崎 | 198回 | 194回 | 4回 |
| 神戸 | 142回 | 99回 | 43回 |
出典:国土交通省別紙・図表7~9。日本船社の回数は、総数から外国船社分を引いて確認しています。
横浜では外国船社と日本船社がほぼ半々です。一方、長崎は外国船社がほとんどを占め、外国船社に限った全国順位では首位になります。
ここから「長崎の外国人観光客が横浜より多い」とは言えません。乗客数、船の大きさ、乗客の国籍、上陸の有無は、この表に含まれていないからです。港の観光需要を比べるなら、総寄港順位に加えて、外国船社の回数と港別の上陸者数を確認する必要があります。
回数と旅客数がずれる背景には、船と周遊の変化がある
国土交通省は、コロナ後に高価格帯の小型クルーズ船の寄港が増えたと説明しています。
別紙では、プレミアム、ラグジュアリー、エクスペディションに分類される船の寄港増加と、地方港への寄港増加を挙げています。同時に、2024年以降はカジュアルクラスの回復も進んでいるとしています。
船の数が同じでも、乗客定員が小さければ運べる人数は少なくなります。また、同じ乗客がより多くの日本の港を巡れば、入国者数が変わらなくても寄港回数は増えます。これらは二つの指標がずれる仕組みですが、今回の集計だけで、それぞれが差を何割説明したかまでは分かりません。
日本発のクルーズにも変化がある
日本発クルーズによる訪日クルーズ旅客数は2025年に18.1万人となり、過去最高を記録しました。国土交通省は、主に航空機で来日して日本発クルーズを利用する外国人と説明しています。
つまり、訪日クルーズ旅客のすべてが、最初から海外の港で乗船して日本へ来るわけではありません。日本の港から出発し、周遊する旅行も含まれます。入国者数を、海外発の船が国内の港へ運んできた人数だけだと理解すると、旅行の形を取り違えます。
港側にとっても、途中で立ち寄る旅客と、乗船・下船する旅客では必要なサービスが違います。前者では短時間の観光や移動、後者では荷物の取り扱いや空港・宿泊施設との接続が検討対象になります。ただし、その需要量を判断するには発着別の旅客データが必要です。
寄港先はコロナ前より広がったが、2025年は前年より減った
外国船社の寄港先は2019年の67港から2025年の93港へ増えましたが、2024年の97港からは4港減っています。
長期では寄港先が広がり、直近1年では寄港回数が増える一方で寄港先の数が減った、という二つの動きが重なっています。全国の回復を「より多くの港へ均等に広がった」と表現するのは正確ではありません。
2025年の外国船社の寄港は、上位3港の長崎・博多・那覇で572回。全国2,352回の24.3%を占めます。一方、年間1回の寄港にとどまる地点もあります。93港という広がりの中に、繰り返し寄港を受ける港と、まだ頻度が低い港が共存しています。
自治体が受け入れ設備を考える際も、この違いは大切です。年間回数だけでなく、複数の船が同日に来るか、どの季節に集中するかを確認しなければ、バスや案内スタッフの必要量は見積もれません。
ここがポイント: 寄港回数は「船を何回受け入れたか」、訪日旅客数は「クルーズ船で何人が入国したか」を示します。地域の観光効果を見るには、その先の上陸者数、滞在時間、消費額まで追う必要があります。
地域の暮らしへの影響は、年間回数だけでは測れない
寄港の増加は受け入れ機会の増加を示しますが、混雑や商店の売上が同じ割合で増えることを意味しません。
生活との接点を確かめるには、年間の順位から一段細かいデータへ進む必要があります。
- 交通への影響:寄港日と入出港時刻、上陸者数、バス・タクシー利用を確認する。年間回数が少なくても、特定の時間帯に移動が集中する可能性があります。
- 商店への影響:上陸後の訪問先、自由行動の時間、買い物や飲食の支出を確認する。旅客が増えても、市街地を訪れる人数が同じとは限りません。
- 受け入れ費用:岸壁や通船、案内、清掃などにかかる費用を確認する。経済効果を評価するには、収入側と費用側の両方が必要です。
これらは今回の全国統計から直接測れない項目です。だからこそ、寄港順位をそのまま「地域が潤った順位」に読み替えず、港湾管理者や自治体が公開する旅客・消費・交通の資料と組み合わせることが重要になります。
次に見るべきは、寄港の増加が人数と地域消費につながるか
2025年の回復は、船の受け入れ回数では進みましたが、旅客数と寄港先の広がりには課題が残っています。
政府が掲げた2025年目標は、訪日クルーズ旅客250万人、外国クルーズ船の寄港2,000回超、寄港先100港でした。実績はそれぞれ176.7万人、2,352回、93港で、回数の目標を達成した一方、旅客と港数は届きませんでした。国土交通省の発表も、課題の分析を進めるとしています。
今後の公表で確認したい点は、三つあります。
- カジュアルクラスの寄港回復が進み、入国者数の増加も続くか。
- 寄港回数の増加が主要港だけでなく、頻度の低い港にも広がるか。
- 港別の上陸者数や消費額が、受け入れ費用や交通負荷に見合う形で増えるか。
地元の港で寄港が増えたとき、まず確かめたいのは、外国船社・日本船社の内訳と、寄港日ごとの上陸者数です。全国の3,117回という回復を、その街の移動や商いの変化へ結び付けるには、そこまで数字を下ろして見る必要があります。
