男女の賃金差、ベルギーは0.9%・日本は20.1%――OECD比較で見える差と落とし穴
男女の賃金差がゼロに近い国として、OECD統計ではベルギーやコロンビアが挙がります。フルタイム雇用者の賃金中央値で見ると、確認できた最新値はベルギーが0.9%、コロンビアが2.6%。日本は20.1%で、女性の中央値は男性の約8割です。
ただし、各国の最新値は同じ年ではありません。さらに、差が小さくても、女性が働く機会や年間収入まで男女同等とは限りません。賃金差の数字と、その数字に入っている働き手を一緒に見ることが、国際比較の出発点です。
この記事では、次の点を整理します。
- 最新値の比較では、どの国の賃金差が小さいか。
- 2024年にそろえると、主要国の差はどの程度か。
- 過去10年で何が変わり、何が数字の外に残るか。
使用データ――比較するのはフルタイム雇用者の「中央値」
今回の指標は、同じ条件の男女を一人ずつ比べた賃金差ではなく、男女それぞれの賃金分布の中央を比べたものです。
使用したのは、OECDの「Gender wage gap」の中央値系列です。2026年10月8日に公開データを確認し、主要国と賃金差の小さい国を比較しました。対象年は最新値で2022~2025年、同一年比較では2024年です。OECDの補足資料「Family Database LMF1.5」は2026年9月更新版を参照しています。
OECDの指標定義では、基本的にフルタイム雇用者の調整前の総賃金を使い、次のように計算します。
賃金差(%)=(男性の中央値-女性の中央値)÷男性の中央値×100
中央値とは、賃金の低い順に並べたときの真ん中の値です。全員の賃金を足して人数で割る平均値とは異なり、一部の高額報酬の影響を受けにくい特徴があります。
ここでいう「調整前」は、職種、年齢、勤続年数、役職などの違いを統計的に取り除いていないという意味です。国全体で働き手がどの仕事や賃金帯に分かれているかを映しますが、同じ仕事に対する待遇差だけを測るものではありません。
最新値ではベルギーがゼロに近い――負の値にも注意
確認した国のうち、男女の中央値が特に近いのはベルギーですが、同じ年の順位として読むことはできません。
下表は、OECD公開系列で確認できた各国の最新値です。主要国に、差の小さい国を加えています。全加盟国のランキングではありません。
| 国 | 対象年 | 賃金差 |
|---|---|---|
| ベルギー | 2022年 | 0.9% |
| コロンビア | 2025年 | 2.6% |
| ニュージーランド | 2025年 | 2.7% |
| デンマーク | 2024年 | 3.3% |
| ノルウェー | 2025年 | 5.1% |
| フランス | 2024年 | 7.0% |
| イタリア | 2024年 | 7.0% |
| 英国 | 2025年 | 12.9% |
| ドイツ | 2024年 | 13.5% |
| カナダ | 2025年 | 14.5% |
| 日本 | 2025年 | 20.1% |
| 韓国 | 2025年 | 27.8% |
出典:OECD Data Explorer・男女賃金差の中央値系列。単位は男性の賃金中央値に対する%。数値は小数第1位まで。
「数値が最も低い」と「差が最も小さい」は違う
ルクセンブルクは2022年にマイナス8.4%です。計算上、女性の中央値が男性を上回っています。
しかし、ゼロからの距離は8.4ポイントあります。「女性の賃金が男性より低い程度」が最小の国と、「男女の中央値が最も近い国」は、問いが違います。負の値をそのまま最上位に置くと、この違いが見えなくなります。
また、中央値で女性が上回っても、年間の収入まで上回るとは限りません。OECDの2026年報告書は、ルクセンブルクについて、男性の一部に集中する高額賞与や女性のパートタイム就業が、年間収入の男女差を読むうえで重要だと指摘しています。
2024年にそろえても、日本と韓国の差は大きい
同じ年の値がある国に絞っても、日本と韓国は比較対象の中で大きな差を示します。
2024年の中央値系列では、次のようになります。ベルギーとルクセンブルクは、この年の値が確認できないため含めていません。
| 国 | 2024年の賃金差 | 男性の中央値を100とした女性の中央値 |
|---|---|---|
| コロンビア | 0.6% | 99.4 |
| ニュージーランド | 3.1% | 96.9 |
| デンマーク | 3.3% | 96.7 |
| フランス | 7.0% | 93.0 |
| イタリア | 7.0% | 93.0 |
| 英国 | 13.1% | 86.9 |
| ドイツ | 13.5% | 86.5 |
| カナダ | 16.5% | 83.5 |
| 日本 | 20.7% | 79.3 |
| 韓国 | 29.0% | 71.0 |
出典:前掲のOECD Data Explorer。右列は「100-賃金差」で算出した指数です。
日本とデンマークの差は17.4ポイント。男性の中央値を100とした女性の中央値で見ると、日本は79.3、デンマークは96.7となります。
これは通貨換算した賃金額の比較ではありません。両国で男女の賃金がどれだけ離れているかを比べています。賃金水準や物価が異なるため、この表だけで女性の購買力が高い国を決めることもできません。
コロンビアは2024年の0.6%から2025年の2.6%へ変わっています。差が小さい国でも毎年同じ位置にとどまるわけではなく、単年の順位に加えて推移を確かめる必要があります。
過去10年では縮小――改善と残る差を分けて読む
日本と韓国の賃金差は縮小していますが、縮小した幅と現在の差の大きさは別の情報です。
2015年と2025年の両方の値がある国を比較すると、次の変化が確認できます。
- 日本:25.7%から20.1%へ、5.6ポイント縮小。
- 韓国:37.2%から27.8%へ、9.4ポイント縮小。
- 英国:17.1%から12.9%へ、4.2ポイント縮小。
- カナダ:18.7%から14.5%へ、4.2ポイント縮小。
- ニュージーランド:7.9%から2.7%へ、5.2ポイント縮小。
出典:前掲のOECD Data Explorer。増減幅は公表値から算出しています。
韓国はこの比較で縮小幅が大きいものの、2025年にも27.8%の差が残ります。一方、ニュージーランドは縮小幅が日本に近く、到達した水準は大きく異なります。
したがって、「大きく改善した国」と「現在の差が小さい国」を同じ意味で使うことはできません。出発点と到達点の両方が必要です。
また、日本の値は2022年の21.3%から2023年に22.0%へ一度拡大し、その後縮小しました。10年間の両端だけでは、途中の上下動は分かりません。調査方法の変更も確認しながら、複数年で判断するのが適切です。
小さい賃金差の背景は、国によって違う
賃金差が小さくなる経路には、賃金全体のばらつきが小さい場合と、統計に入る女性が限られる場合があります。
この違いは、政策や暮らしの変化を読むうえで重要です。同じ数値でも、働く機会が広がった結果なのか、働き続けられる人が偏った結果なのかで評価が変わります。
ベルギーやデンマーク――賃金全体の幅が狭い
OECDのFamily Database・2026年9月更新版は、ベルギーやデンマークの小さい賃金差について、賃金分布が圧縮され、賃金全体の不平等が比較的小さいことを背景に挙げています。
高い賃金と低い賃金の距離が狭ければ、男女が異なる職種や役職に分かれていても、賃金差が大きくなりにくくなります。ただし、それだけで採用や昇進の機会まで同等だと判断することはできません。
コロンビア――働き手の選ばれ方も数値を動かす
同資料は、コロンビアやコスタリカでは、より高い資格・技能を持つ女性が測定対象の労働市場に残りやすい「選択効果」が、小さい賃金差の背景にあると説明しています。
低賃金になりやすい女性が就業していなかったり、測定範囲の外で働いていたりすると、記録される女性の中央値は高くなります。ここで必要なのは、賃金差だけでなく女性の就業率や統計の対象範囲を確認することです。
さらに、仮に低賃金の仕事から就業を始める女性が増えれば、女性の中央値が下がり、賃金差が拡大する場合もあります。これは統計上起こり得る例であり、今回のコロンビアの年次変化の原因を示したものではありません。
ここがポイント: 賃金差が小さいという事実は、測定対象の男女の賃金が近いことを示します。女性がどれだけ働けるか、何時間働くか、昇進できるかは、別のデータで確かめる必要があります。
平均・時給・年収を混ぜると、比較の意味が変わる
「男女の賃金差」という同じ名前でも、指標が違えば答えている問いが変わります。
読み分ける軸は、主に次の四つです。
- 中央値か平均値か:真ん中の働き手の差を見るのか、高額報酬も含む全体の差を見るのか。
- 時給か月額・年額か:時間当たりの賃金を見るのか、働く時間や期間を含む収入を見るのか。
- フルタイムだけか、パートタイムも含むか:どの働き手を対象にしているのか。
- 調整前か調整後か:職種や年齢などの違いを含む差か、それらを統計的に考慮した差か。
同じ国でも、中央値と平均値は一致しない
OECD系列では、デンマークの2024年の差は中央値で3.3%、平均値で7.9%です。ニュージーランドの2025年も、中央値の2.7%に対して平均値は7.0%となっています。OECDの中央値・平均値などの比較系列
中央値が近くても、賃金分布全体が同じとは限りません。平均値との開きは、高い賃金帯なども調べる必要があることを示します。この開きだけで原因までは特定できません。
ベルギーの「0.7%」は別の指標
ベルギー統計局Statbelは、2023年の男女差を0.7%と公表しています。こちらは欧州共通方式による平均時給の差で、フルタイムとパートタイムの双方を含みます。OECDの2022年の中央値0.9%とは、対象年も集計方法も異なります。Statbelの公表資料
Statbelは、学校の授業時間を労働時間として扱う方法が結果に影響することも説明しています。2022年の値は、労働時間の扱いを調整すると4ポイント高い4.7%になります。
この例が示すのは、指標の選び方で数字が動くということです。各国の見栄えのよい数値を集めるのではなく、同じ系列を使い、定義の違いを残したまま説明する必要があります。
国際比較には、同一年でも残る限界がある
対象年をそろえても、国ごとの賃金の測り方やフルタイムの定義まで完全に一致するわけではありません。
OECDの補足資料によると、例えばデンマークとニュージーランドは時給、英国とカナダは週給、日本や韓国、フランス、ドイツなどは月額を使います。フルタイムの区分も各国の定義に基づきます。
月額や週給では、フルタイムの中に残る労働時間の違いも数値に入ります。そのため、2024年の表も「全員を完全に同じ時間・仕事で比べた結果」とは読めません。
もう一つ注意したいのは、資料の公表時点です。2026年春のOECD報告書と、その後に更新された公開系列では数値が異なる場合があります。本記事の比較表は、10月8日に確認したData Explorerの値を使っています。春の報告書は背景説明に用い、表の数値と混ぜていません。
また、調整後の賃金差を使っても、残った差がすべて差別だと断定できるわけではありません。反対に、職種や役職の違いで説明される部分も、採用や昇進の機会がどう分かれてきたかという検討課題を残します。
暮らしへの影響を見るなら、賃金差に三つのデータを足す
家計が使えるお金や将来の年金を考えるには、フルタイムの中央値だけでは足りません。
同じ国について、次の情報を併せて確認すると、数字の意味が具体的になります。
- 男女の就業率:賃金統計に入る前の段階で、働く機会にどれほど差があるか。
- パートタイム比率と労働時間:時給が近くても、年間に受け取る収入が離れていないか。
- 役職別・年齢別の賃金:差がキャリアのどの段階で広がるか。
例えば、時給差が縮小しても、女性の労働時間が短くなれば年間収入の差は縮まらないことがあります。逆に、女性の就業が広がる過程で賃金中央値の差が一時的に大きくなる場合もあります。賃金指標と就業の指標が同じ方向に動くとは限らないのです。
日本の2025年の20.1%は、フルタイム雇用者の男女の中央値がなお大きく離れていることを示します。次に確かめたいのは、差の縮小がどの年齢・役職で進んだのか、パートタイムを含む年間収入でも改善しているのか、そして女性の就業機会も広がっているのかという三点です。
