日本の医師数は人口千人に2.6人――主要国比較で見える「少なさ」と不足の違い
日本の人口あたり医師数は、OECDの2025年版比較で人口1,000人につき2.6人。OECD平均の3.9人を下回り、米国、カナダ、韓国の2.7人に近い水準です。加盟国の掲載値ではトルコの2.4人、コロンビアの2.5人がさらに低くなっています。
ただし、この数字だけで「医師が最も不足している国」は決まりません。人口に対して医師が少ないことと、必要な診療を受けられないことは、分けて確かめる必要があります。
この記事では、2023年または直近年を対象とするOECDの国際比較から、次の3点を読み解きます。
- 日本と主要国の人口あたり医師数は、どの程度違うのか。
- 医師の人数が増えても、不足が解消したとは限らないのはなぜか。
- 国別の数字を、予約の取りやすさや地域の診療体制とどう結びつけて読むか。
使用データは2025年公表、比較対象は2023年または直近年
この比較は、2026年の医師配置をそのまま示すものではなく、OECDが公表した各国の統計を共通の尺度で並べたものです。
中心に使うのは、OECDが2025年11月13日に公表した『Health at a Glance 2025』の図8.4です。執筆時点の2026年10月8日に確認した同シリーズの最新刊で、元データは「OECD Health Statistics 2025」です。OECDの医師数・分布の解説から、図と定義を確認できます。
比較条件は次のとおりです。
- 単位:人口1,000人あたりの医師数。
- 対象時期:2023年、または各国で利用できる直近年。図には2021~2022年の値を使う国もあります。
- 基本の対象:患者に直接診療を提供する医師。多くの国では研修医も含みます。
- 対象地域:OECD加盟国を中心とする国際比較。世界の全国家を網羅したランキングではありません。
出版年、統計の対象年、ウェブ上で確認した日は別です。また、同じ図に掲載されていても、各国の集計範囲が完全に一致するわけではありません。
人口あたりの数値は、国の大きさを調整して比較できる点が長所です。人口が多い国の医師総数が大きくても、住民一人あたりの配置が厚いとは限りません。
日本は平均を下回り、米国・カナダ・韓国と近い水準
主要国を並べると、日本と北米・韓国の値は近く、ドイツなどとの差が大きいことが分かります。
以下は図8.4の掲載値から抜粋した比較です。表示値は小数第1位に丸められており、差もその表示値から計算しています。
| 国・比較基準 | 人口1,000人あたり医師数 |
|---|---|
| オーストリア | 5.5人 |
| ドイツ | 4.7人 |
| オーストラリア | 4.2人 |
| OECD平均 | 3.9人 |
| 英国 | 3.4人 |
| 米国 | 2.7人 |
| カナダ | 2.7人 |
| 韓国 | 2.7人 |
| 日本 | 2.6人 |
| コロンビア※ | 2.5人 |
| トルコ※ | 2.4人 |
※コロンビアとトルコは、直接診療をしない医療分野の就業医師も含むため、基本の定義より広い集計です。全行とも「2023年または直近年」の比較であり、厳密な同一年ランキングではありません。出典:OECD『Health at a Glance 2025』図8.4。
平均との差は1.3人、約33%
日本の2.6人とOECD平均の3.9人との差は、人口1,000人あたり1.3人です。日本の値は平均の約3分の2で、平均を約33%下回ります。
同じ人口10万人に換算すると、日本は260人、平均は390人。差は130人です。ただし、これは国際比較の丸められた値を換算したもので、国内の詳細統計から求める人口10万人あたり医師数とは区別して扱います。
この差を、そのまま日本に必要な追加医師数へ置き換えることはできません。 OECD平均は各国の状況をまとめた比較基準で、必要人数を定める目標値ではないからです。
小さな数値差を順位に変えすぎない
日本と米国、カナダ、韓国との差は0.1人です。一方、日本とドイツとの差は2.1人あります。
この比較でまず注目したいのは、小さな差による順位より、国ごとの配置水準の開きです。小数第1位まで同じ2.7人でも、集計年や丸める前の値まで同じとは限りません。
さらに、ギリシャやポルトガルなどは、現在診療している人に限らず、診療資格を持つ医師を集計しています。こうした値を単純に上位へ並べると、実際の診療を担う人数との差が隠れます。
医師が増えても「不足が解消した」とは限らない
人口あたり医師数の上昇は、受診しやすさの改善を保証しません。
OECD平均は、2013年の人口1,000人あたり3.3人から、2023年には3.9人へ上昇しました。表示値で0.6人、約18%の増加です。一方、OECDは、人口の高齢化などによって医療需要も増えるため、人数の増加だけでは不足の縮小を判断できないと説明しています。
ここには、二つの異なる問いがあります。
- 供給の問い:人口に対して医師が何人いるか。
- 需要の問い:住民が、どの診療を、どれだけ必要としているか。
医師数が同じでも、継続的な診療を必要とする住民が増えれば、対応すべき仕事は増えます。人口だけを分母にする指標は、この違いを調整していません。
人数と働ける時間も違う
医師数は、人を数える指標です。診療に使える時間を直接数えるものではありません。
仮に10人がそれぞれ週40時間働く場合と、週20時間働く場合では、人数は同じでも合計時間は2倍違います。これは指標の違いを示す計算例で、特定の国の実態を表したものではありません。
実際の体制を確かめるには、人数に加えて勤務時間や常勤換算人数を見る必要があります。常勤換算とは、働く時間を基準に人数を換算する考え方です。長時間勤務で診療量を支えている場合には、その勤務を続けられるかも別の課題になります。
ここがポイント: 人口あたり医師数は、国全体の配置を比べる入口です。不足を判断するには、必要な診療の量、勤務時間、地域と診療科の配置まで確かめます。
国全体の平均では、必要な医師が近くにいるか分からない
住民にとって重要なのは、国の平均値と、自分が使える診療体制の両方です。
平均が高くても、医師が特定の場所や診療分野へ集中すれば、別の地域や診療科には空白が残り得ます。逆に、平均が低いというだけで、すべての地域のすべての診療科が同じ程度に不足しているとは判断できません。
この違いは、暮らしの中では次のような問いになります。
- 通院を続ける人が、必要な間隔で予約を取れるか。
- 夜間や休日に、必要な診療を受けられるか。
- 専門的な治療のために、どこまで移動する必要があるか。
いずれも医師数と関係する可能性はありますが、今回の国別比較だけでは答えが出ません。待ち時間、診療時間、移動距離などの別データが必要です。
診療科の比較にも定義の壁がある
医師総数から一歩進んで「かかりつけ医が足りるか」を調べると、国ごとの分類の違いが問題になります。
OECDによると、2023年または直近年の一般医・家庭医に相当するGPは、加盟国平均で医師の約21%です。ただし、米国などでは他国のGPに近い役割を担う一般内科医が、専門医として分類されます。OECDの診療分野別解説は、この比較上の違いを示しています。
つまり、「専門医が多い」「一般医が少ない」という数字も、名称だけでは読めません。その医師が、患者の最初の相談先になるのか、紹介を受けて専門治療を担うのか。実際の役割をそろえて比較する必要があります。
「医師不足の国」を判断するために追加したいデータ
不足の程度を比べるには、医師の人数と、診療を受けられなかった結果を組み合わせる必要があります。
今回の統計から確認できるのは、日本の人口あたり医師数がOECD平均を下回ることです。世界で最も医師が不足している国や、医療の質が低い国を特定することはできません。
また、受診しやすさには人数以外の条件も関わります。費用負担や紹介の仕組みが異なる国を、医師密度だけで評価すると、患者が実際に直面する障壁を取り落とします。
比較を深める際は、次の指標を追加すると論点がはっきりします。
- 未充足の医療ニーズ:必要な診療を受けられなかった人の割合と、その理由。
- 待ち時間:外来予約、専門医への紹介、手術など、対象をそろえた期間。
- 勤務体制:常勤換算人数、勤務時間、夜間・休日の対応。
- 配置:地域別・診療科別の人数と、住民の移動距離。
これらを重ねれば、「医師が少ない国」と「受診の障壁が大きい国」が一致するか、確かめられます。一致しなければ、その違いを生む診療体制や費用の条件を調べる段階に進みます。
次に見るべきなのは、人数の増加がどこへ届くか
医師数の改善を暮らしの変化につなげて読むには、増えた人数の配置と、患者側の変化を追うことが重要です。
人口あたりの数字が上がったときには、まず医師総数と人口を分けて確認します。人口が減れば、医師数が横ばいでも比率は上昇します。その場合、比率の改善を診療体制の拡充と同一視できません。
そのうえで、増加の中身に応じて見るデータを変えます。
- 必要な地域・診療科で増えた場合:予約の待ち時間や診療の空白が縮まったか。
- 限られた地域・診療科で増えた場合:他の地域や分野との差が残っていないか。
- 人数は増えても勤務時間が減った場合:診療に使える時間の合計がどう変わったか。
日本の2.6人という数字は、国際比較で配置の少なさを確認する出発点です。次の確認先は、増えた医師がどこで何を担い、必要な診療までの時間や距離が実際に縮まったかです。
