介護離職は10年で増えたのか 年10万人と働く介護者365万人の意味
介護・看護を理由に仕事を辞めた人は、2022年の1年間で10万6,000人でした。2012年の10万1,000人から大きく増えたとはいえず、介護離職は10年間ほぼ横ばいです。
ただし、安心できる数字ではありません。同じ期間に、介護をしながら働く人は291万人から364万6,000人へ73万6,000人増えました。離職者数だけでは見えない仕事と介護の両立負担が、より多くの職場に広がっています。
この記事で押さえる点は次の4つです。
- 介護離職者は2012年10万1,000人、2017年9万9,000人、2022年10万6,000人
- 働きながら介護する人は10年間で25.3%増加
- 2022年の介護離職者の75.5%は女性
- 次に確認できる全国値は、原則5年ごとの就業構造基本調査が中心となる
使用データと比較条件
比較の軸は、総務省統計局「就業構造基本調査」の2012年、2017年、2022年です。 同じ基幹統計の数値を使うことで、長期的な変化を追いやすくしています。
就業構造基本調査は、1982年以降は5年ごとに実施されています。2022年調査は全国約54万世帯、そこに普段住む15歳以上の約108万人を対象とした標本調査です。
今回見る指標は、似ているようで意味が異なります。
- 介護離職者数:調査直前の1年間に「介護・看護のため」に前職を辞めた人
- 介護をしている有業者数:調査時点で、普段仕事を持ちながら家族などを介護している人
- 介護をしている人の総数:有業者と無業者を合わせた人数
「介護をしている人」には、介護保険の要介護認定を受けていない家族や、別居している家族を介護する人も含まれます。一方、一時的な病気で寝ている人への世話は含みません。
介護離職は減っていないが、急増もしていない
過去10年間の介護離職者数は、年10万人前後で推移しています。 2017年にいったん減った後、2022年は増加へ転じました。
| 調査年 | 対象となる離職期間 | 介護・看護による離職者 | 前回比 |
|---|---|---|---|
| 2012年 | 2011年10月~2012年9月 | 10万1,000人 | ― |
| 2017年 | 2016年10月~2017年9月 | 9万9,000人 | 2,000人減 |
| 2022年 | 2021年10月~2022年9月 | 10万6,000人 | 7,000人増 |
2012年から2022年までの増加は5,000人、率にすると約5%です。標本調査であることや、万人単位に丸めた公表値を踏まえると、「介護離職が急増した」と評価する材料にはなりません。
しかし、10年間で減少していないことも明確です。政府が掲げてきた介護離職防止という観点では、毎年およそ10万人が仕事を辞める状態が続いています。
2022年は離職後に無業となった人が増えた
2022年の10万6,000人を調査時点の就業状態で分けると、次のようになります。
- 有業者:2万3,000人(2017年比2,000人減)
- 無業者:8万3,000人(同8,000人増)
介護のために辞めた後、別の仕事に就いていた人は約22%にとどまります。残る約78%は調査時点で仕事を持っていませんでした。
ここで分かるのは離職後の就業状態までです。再就職しなかった理由や、希望する仕事が見つからなかったのかどうかまでは、この集計だけでは判断できません。
働きながら介護する人は73万6,000人増えた
介護離職者数より大きく動いたのは、仕事を続けながら介護する人の数です。 2012年の291万人から、2022年には364万6,000人へ増えました。
| 調査年 | 介護をしている人 | うち有業者 | 有業者の割合 |
|---|---|---|---|
| 2012年 | 557万4,000人 | 291万0,000人 | 52.2% |
| 2017年 | 627万6,000人 | 346万3,000人 | 55.2% |
| 2022年 | 628万8,000人 | 364万6,000人 | 58.0% |
10年間の変化を計算すると、働く介護者は73万6,000人、25.3%増えています。介護をしている人全体の増加は71万4,000人、12.8%でした。
つまり、介護者全体が増えただけではありません。介護をする人のうち、仕事を持つ人の割合も52.2%から58.0%へ5.8ポイント上昇しました。
ここがポイント: 介護離職は年10万人前後で横ばいですが、その外側では365万人近くが仕事を続けながら介護しています。両立支援の対象は、すでに離職した人だけではありません。
2017年以降は「介護者総数」と「有業者数」の動きが違う
2017年から2022年にかけて、介護をしている人の総数は627万6,000人から628万8,000人へ、ほぼ横ばいでした。一方、有業者は18万3,000人増えています。
同じ期間に無業の介護者は281万3,000人から264万2,000人へ17万1,000人減りました。調査結果は個人を追跡したものではないため、「無業者がそのまま就職した」とは断定できません。それでも、介護を担う人の中で就業者の比重が高まったことは確認できます。
この変化には、高齢者や女性の就業拡大、人口構成、企業の両立支援など複数の要因が関係し得ます。就業構造基本調査だけで、一つの制度や社会変化の効果に結び付けることはできません。
離職の負担は女性と50代後半に偏る
2022年の介護離職者10万6,000人のうち、女性は8万人でした。 男性は2万6,000人で、女性が全体の75.5%を占めます。
2017年と比べると、女性は7万5,000人から5,000人増え、男性も2万4,000人から2,000人増えました。介護離職が女性に偏る構図は変わっていません。
離職した人を調査時点の状態で分けると、男女差はさらに具体的になります。
- 女性の介護離職者8万人のうち、無業者は6万2,000人
- 男性の介護離職者2万6,000人のうち、無業者は2万1,000人
- 離職後に有業だった人は、女性1万8,000人、男性5,000人
年齢別では55~64歳の割合が高い
2022年に過去5年間で前職を辞めた人のうち、介護・看護を理由とした割合は全国で2.4%でした。年齢別では55~64歳が6.0%で最も高く、45~54歳は3.1%です。
女性に限ると、55~64歳は8.8%、65歳以上は5.8%、45~54歳は3.9%でした。親の介護が現実になりやすい年代と、職業生活の後半が重なることが数字に表れています。
ただし、この割合は「その年齢層の全人口に占める介護離職者の割合」ではありません。過去5年間に前職を辞めた人を分母とし、そのうち介護・看護を理由に挙げた人の割合です。
都道府県ランキングは人口より「離職者に占める割合」を見る
地域差を見る際、介護離職者の実数だけを並べると人口の多い都道府県が上位になりやすいため、割合との併用が欠かせません。
2022年に過去1年間で前職を辞めた人のうち、介護・看護を理由とした割合は全国で1.9%でした。都道府県別では、山梨県3.6%、島根県2.9%、山口県2.7%など、全国値を上回る地域があります。
一方、山梨県の該当者は推計1,100人、島根県は700人です。母数が小さい地域では、人数のわずかな変化で割合や順位が動きやすくなります。
地域ランキングは、介護サービスの充実度を直接示すものでもありません。地域差を検討するなら、少なくとも次の情報を組み合わせる必要があります。
- 年齢構成と高齢者人口
- 家族の同居・別居状況
- 女性や高齢者の就業率
- 介護サービスの利用可能性
- 調査値の標本誤差
都道府県の順位だけから「介護しやすい地域」「離職しやすい地域」と評価するのは早計です。
数字から言えること、言えないこと
確実に言えるのは、介護離職が減らないまま、働く介護者が増えたことです。 そこから先は、統計の範囲を意識して読み分ける必要があります。
データから確認できる事実
- 介護離職者は2012~2022年を通じて年10万人前後
- 2017年から2022年にかけては7,000人増加
- 働く介護者は10年間で73万6,000人増加
- 介護者に占める有業者の割合は5.8ポイント上昇
- 2022年の介護離職者は女性が約4分の3
このデータだけでは判断できないこと
- 在宅勤務や介護休業制度が離職を何人防いだか
- 介護サービス不足が離職に与えた影響の大きさ
- 就業を続ける人の労働時間、所得、心身の負担
- 国別の制度差をそろえた介護離職率の比較
働き続けていることは、必ずしも無理なく両立できていることを意味しません。反対に、離職者数が横ばいだから支援策に効果がなかった、と断定することもできません。高齢化や就業者の増加で介護に直面する労働者が増えるなか、離職者数が抑えられた可能性もありますが、反実仮想を示すデータが必要です。
2025年の制度改正後、何を見るべきか
次の焦点は、制度の周知が利用と就業継続につながったかです。 2025年4月から、介護離職防止に関する事業主の義務が強化されました。
主な変更は次の通りです。
- 介護に直面したと申し出た労働者への制度の個別周知と利用意向の確認
- 40歳など介護に直面する前の段階での情報提供
- 研修、相談窓口、利用事例の提供など、利用しやすい職場環境の整備
ただし、今回示した最新の就業構造基本調査は2022年時点です。したがって、2025年施行の改正が介護離職者数に与えた影響はまだ読み取れません。
次回以降の統計で見るべきなのは、単純な離職者数だけではありません。
- 年間10万人前後の介護離職が明確に減るか
- 働く介護者の増加に制度利用が追いつくか
- 女性や55~64歳への偏りが縮小するか
- 離職後に無業となる人の割合が下がるか
- 都道府県差が単年の振れではなく継続的に表れるか
現時点の数字が示す課題は具体的です。離職した10万6,000人への対応と同時に、仕事を続ける364万6,000人が辞めずに済む職場をつくれるか。 次の統計で問われるのは、この大きな母集団に制度が実際に届いたかどうかです。
