免許返納は増え続けていない 2025年は43.5万件、ピークから約28%減
運転免許の自主返納は、長期で見れば2010年代後半に急増しました。しかし、増え続けているわけではありません。警察庁の最新公表値では、2025年の自主返納は43万5,067件。過去最多だった2019年の60万1,022件から約27.6%減っています。
75歳以上も同じです。2019年の35万428件を頂点に減少し、2025年は26万915件でした。直近では全体がわずかに増えた一方、75歳以上は減っており、返納者の年齢構成にも変化が見えます。
この記事で分かること
- 2025年の自主返納は43万5,067件で、2019年のピークより約16万6,000件少ない
- 75歳以上は26万915件。ピーク比では約25.5%減った
- 2024年から2025年に全体は1.7%増えたが、75歳以上は1.5%減った
- 件数だけでは、返納のしやすさや地域の移動環境まで評価できない
使用データと比較条件
この記事の結論は、警察庁が2026年6月に公表した「運転免許の申請取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移」に基づきます。
比較条件は次の通りです。
- 対象期間:2016~2025年
- 対象地域:全国
- 指標:運転免許の申請取消、いわゆる自主返納の件数
- 年齢区分:全年齢の合計と、そのうち75歳以上
- 単位:件
- 集計範囲:すべての免許を取り消す「全部取消」
ここでいう自主返納は、運転免許証を窓口へ返す行為だけを数えたものではありません。本人の申請により、保有するすべての運転免許を取り消した件数です。
また、警察庁によると、行政処分中の人や取消処分の基準などに該当する人は自主返納できません。病気や認知機能を理由とする行政上の取消し、更新せずに期限が切れた「失効」も、この件数とは別です。
10年間の推移――急増、ピーク、減少、そして小幅反発
自主返納の流れは、2019年を境に明確に変わりました。 2016年から2019年までは増加し、その後は4年連続で減少。2024年に反発した後、2025年も小幅に増えています。
| 年 | 自主返納合計 | うち75歳以上 | 75歳以上の割合 |
|---|---|---|---|
| 2016年 | 345,313件 | 162,341件 | 47.0% |
| 2017年 | 423,800件 | 253,937件 | 59.9% |
| 2018年 | 421,190件 | 292,089件 | 69.3% |
| 2019年 | 601,022件 | 350,428件 | 58.3% |
| 2020年 | 552,381件 | 297,452件 | 53.8% |
| 2021年 | 517,040件 | 278,785件 | 53.9% |
| 2022年 | 448,476件 | 273,206件 | 60.9% |
| 2023年 | 382,957件 | 261,569件 | 68.3% |
| 2024年 | 427,914件 | 264,916件 | 61.9% |
| 2025年 | 435,067件 | 260,915件 | 60.0% |
2016年から2019年に約25.6万件増加
2016年の34万5,313件から、2019年には60万1,022件へ増えました。3年間の増加は25万5,709件、率にすると約74.1%です。
75歳以上は、同じ期間に16万2,341件から35万428件へ増加しました。増加率は約115.9%で、全体より大きく伸びています。2010年代後半の急増は、特に75歳以上の動きが支えていたことが分かります。
ただし、この数字だけから「高齢者の運転能力が急に低下した」とは判断できません。対象人口の増加、制度の周知、家族からの働きかけ、相次いだ高齢運転者事故への社会的関心など、複数の要素が重なり得るためです。
2019年のピークから2023年まで4年連続減少
最多だった2019年から2023年までに、全体は21万8,065件減りました。減少率は約36.3%です。
75歳以上も同期間に8万8,859件減り、約25.4%の減少となりました。新型コロナウイルス流行期を含むため、窓口利用や外出行動の変化が件数に影響した可能性はあります。しかし、減少は2022年、2023年にも続いており、感染症だけで全期間を説明することはできません。
2024年以降は「全体」と「75歳以上」が別の動き
2024年の全体件数は42万7,914件で、前年より4万4,957件、約11.7%増えました。2025年も43万5,067件となり、さらに7,153件、約1.7%増えています。
一方、75歳以上は2024年の26万4,916件から2025年の26万915件へ4,001件減少しました。減少率は約1.5%です。
つまり、2025年の小幅な増加を「高齢者の返納が再び増えた」と読むのは正確ではありません。75歳未満を計算すると、2024年の16万2,998件から2025年は17万4,152件へ増えています。全体の増加は、75歳未満の増加によるものです。
ここがポイント: 自主返納は2019年を頂点に大きく減少した後、全体では2年連続で増えました。ただし、2025年の75歳以上は前年を下回っています。「返納者全体」と「高齢返納者」を分けて見る必要があります。
2025年は65歳以上が全体の約95%
自主返納は全年齢が利用できる制度ですが、実際には高齢層が大半を占めます。 警察庁の都道府県別・月別資料から、2025年の年齢層をさらに分けると次のようになります。
- 全年齢:43万5,067件
- 65歳以上:41万3,330件(全体の約95.0%)
- 75歳以上:26万915件(同約60.0%)
- 80歳以上:16万9,022件(同約38.8%)
65歳未満は差し引き2万1,737件です。制度上は若い世代も返納できますが、件数の中心が65歳以上であることは明瞭です。
一方で、75歳以上だけを「高齢者全体」とみなすと、65~74歳の動きを取りこぼします。2025年は、65歳以上の返納のうち約36.9%に当たる15万2,415件が65~74歳でした。
年齢の境界には制度上の意味がある
75歳は単なる集計上の区切りではありません。75歳以上の運転者は免許更新時に認知機能検査を受け、一定の違反歴がある場合は運転技能検査も必要になります。
ただし、検査制度と自主返納件数が同時に変化していても、それだけで因果関係は証明できません。返納は本人の申請による選択であり、検査後の行政処分や免許失効とは異なるからです。
なぜ「件数が減った=返納意識が低下した」ではないのか
自主返納件数は人々の選択を示しますが、返納の必要性や意識を直接測る指標ではありません。 分母と、返納後の生活条件を併せて見る必要があります。
分母となる免許保有者数が変化する
返納件数が同じでも、高齢の免許保有者が増えていれば返納率は下がります。反対に、保有者が減っていれば件数が少なくても返納率は高くなる可能性があります。
今回の長期表は「何件返納されたか」を比較するものです。「75歳以上の免許保有者100人当たり何人が返納したか」ではありません。人口構成の影響を除くには、各年末の年齢別免許保有者数を分母にした率の計算が別途必要です。
返納しないことと、運転を続けることは同じではない
免許証を有効なまま保有していても、日常的に運転しているとは限りません。家族の運転に切り替えた人、車を処分したものの身分証明書として免許を残している人も考えられます。
反対に、自主返納の統計には更新せず失効した人が入りません。実際に運転をやめた人数を知りたい場合、自主返納だけを数えると過小評価になります。
返納後に移動できるかが地域で違う
鉄道や路線バスが多い都市部と、自家用車が通院や買い物に欠かせない地域では、免許を手放す負担が違います。返納後の選択肢には、次のようなものがあります。
- 路線バスや鉄道
- 自治体のコミュニティバス
- 予約型の乗合交通
- タクシーや福祉輸送
- 家族・知人による送迎
- 食品や医薬品の宅配
自主返納者への支援は、自治体や事業者が地域の実情に応じて実施しています。支援内容が全国一律ではないため、都道府県別の生の件数だけで「返納しやすい地域」を順位付けするのは危険です。
運転経歴証明書の交付は返納件数と一致しない
自主返納と運転経歴証明書は関係しますが、同じ指標ではありません。 2025年の自主返納は43万5,067件、運転経歴証明書の交付は29万7,359件でした。
運転経歴証明書は、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として利用できます。2012年4月1日以降に交付されたものが対象です。現在は自主返納者だけでなく、免許を更新せず失効した人も一定の条件で申請できます。
そのため、両者には次のずれがあります。
- 自主返納しても運転経歴証明書を申請しない人がいる
- 免許失効後に運転経歴証明書を申請する人がいる
- 自主返納と証明書交付の時期が同じ年とは限らない
- 2025年の交付件数には、マイナンバーカードへ運転経歴情報を記録した件数も含まれる
2025年の運転経歴証明書交付は、2019年の51万9,188件から約42.7%減りました。これは自主返納の減少率より大きいものの、定義が異なるため、単純に「証明書を取る割合が低下した」とは断定できません。
データから言えること、言えないこと
確実に言えるのは、全国の自主返納が2019年に最多となり、その水準には戻っていないことです。 最新年だけを見て「増加中」と結論づけるのも、ピーク後だけを見て「減少し続けている」とするのも不十分です。
数字から確認できる事実
- 2016年から2025年まででは、全体は約26.0%増えた
- 2019年から2025年まででは、全体は約27.6%減った
- 75歳以上は2016年比で約60.7%多いが、2019年比では約25.5%少ない
- 2025年の全体件数は前年比で増加した
- 2025年の75歳以上は前年比で減少した
- 2025年は65歳以上が全体の約95%を占めた
この統計だけでは決められないこと
- 高齢運転者の何%が自主返納したか
- 返納件数の増減を生んだ単一の原因
- 返納した人が直前までどれほど運転していたか
- 失効を含め、実際に運転をやめた人の総数
- 返納後に買い物や通院がどれほど不便になったか
- 件数の多い地域ほど制度や交通支援が充実しているか
国際比較にも注意が必要です。免許制度、更新制度、年齢区分、取消しと失効の扱いが国ごとに違うため、日本の「申請による全部取消」と同じ定義の数字をそろえない限り、件数や人口比の単純比較はできません。
今後は「何件返したか」だけでなく、返納後の移動を見る
次に見るべきなのは、自主返納の件数と地域の移動手段を結び付けたデータです。 免許を返すかどうかは交通安全だけでなく、通院、買い物、仕事、家族の送迎負担に直結します。
今後の注目点は次の4つです。
- 2024年から始まった全体件数の反発が、2026年以降も続くか
- 75歳以上の減少が一時的なものか、長期的な傾向になるか
- 高齢免許保有者数を分母にした返納率がどう変化するか
- 自主返納、免許失効、公共交通、事故件数を地域別に組み合わせると何が見えるか
2025年の数字は、自主返納が再び一律に増加しているとは示していません。全体は増え、75歳以上は減りました。次の焦点は、この分岐が続くのか、そして免許を手放した後も移動できる地域の仕組みが整っているかです。
