東名・名神の交通量は増えたのか――半世紀の推移と「別ルートへの移動」を読む
東名・名神の平均交通量は、1970年代に比べれば増えています。ただし、2010年度と2023年度を比べると東名は約28%、名神は約9%少なく、右肩上がりが続いているわけではありません。
ここで大切なのは、一本の道路を走る車が減っても、地域を通る車全体が減ったとは限らないことです。新しい並行路線に車が移れば、既存路線の交通量は下がります。長期推移は、道路網の変化と一緒に読む必要があります。
この記事では、国土交通省の年度別統計で東名・名神・中央道を比較し、新名神と東名阪道の資料で交通の分散を確かめます。
- 長期比較では、東名・名神の増加が続いた時期と、その後の減少を分ける。
- 2019年度との比較では、2023年度の回復状況が路線によって異なる。
- 利用回数を数える「利用交通量」と、道路を通過する「断面交通量」を区別する。
- 並行路線の開通後は、旧路線だけでなく同じ地域を横切る交通量も見る。
使用データ――長期推移と直近の数字は、対象範囲をそろえて読む
長期分析の中心は、国土交通省「道路データブック2025」に掲載された1971〜2023年度の系列です。
対象は東名、名神、中央道です。ただし中央道は、1979年度以降の表に示された八王子〜河口湖間を使います。中央道全体や、大月から長野・岐阜方面へ向かう区間の数字ではありません。国土交通省「15-3 自動車交通」
資料の版年とデータの対象年も異なります。「2025」という名称でも、この長期表の末尾は2023年度です。以下では年度を明記し、2026年の交通量として扱いません。
補助資料には、次の公開データを使います。確認日は2026年10月8日です。
- NEXCO中日本の2025年版データ集:2022〜2024年度の路線別断面交通量と利用交通量。直近の変化と指標の違いを確認する。
- NEXCO中日本の2023年度事後評価資料:2018〜2022年の新名神・東名阪道の断面交通量。並行ルートへの分散を確認する。
- NEXCO3社などの2026年ゴールデンウィーク資料:特定区間の直近の交通状況。年間平均とは分けて扱う。
新しい短期資料があっても、それを年度平均の末尾に継ぎ足すことはできません。長期表、年度別データ、連休中の観測値は、それぞれ別の比較に使います。
半世紀の変化――東名・名神は増加した後、以前より低い水準へ
東名・名神は1970〜1980年代に交通量を伸ばしましたが、近年の数字は2000年代から2010年前後の水準を下回っています。
下表は長期系列から節目の年度を抜き出したものです。単位は台/日で、路線・対象区間の平均交通量を示します。年間の利用台数や、特定の料金所の取扱台数ではありません。
| 年度 | 東名 | 名神 | 中央道※ |
|---|---|---|---|
| 1980 | 52,225 | 48,595 | 21,080 |
| 1990 | 73,269 | 69,522 | 42,114 |
| 2000 | 77,637 | 73,110 | 40,708 |
| 2010 | 80,543 | 66,987 | 45,555 |
| 2019 | 58,706 | 62,694 | 39,805 |
| 2020 | 49,694 | 53,069 | 31,761 |
| 2023 | 57,653 | 60,755 | 42,045 |
※中央道は八王子〜河口湖間。出典:国土交通省「道路データブック2025」。
1980年度から2023年度までの増減率を計算すると、東名は10.4%増、名神は25.0%増、中央道は99.5%増です。一方、2010年度を起点にすると、順に28.4%減、9.3%減、7.7%減となります。
つまり「昔より増えた」と「この十数年で減った」は両立します。比較の起点を示さない増減の説明では、この違いが消えてしまいます。
さらに、東名の低下をすべて外出需要の縮小で説明するのも早計です。並行路線が増えた道路網では、同じ出発地・目的地の移動でも、走る道路が変わります。
2020年度からの回復――中央道は2019年度を上回った
2023年度までの回復は、東名・名神と中央道で異なります。
2019年度を基準にした2023年度の増減率は、次の通りです。割合は掲載値から計算し、小数第1位に丸めました。
- 東名:1.8%減
- 名神:3.1%減
- 中央道・八王子〜河口湖:5.6%増
3路線とも2020年度に落ち込み、その後は増加しています。しかし、落ち込みからの増加と、2019年度の水準を超えたかどうかは別の問いです。
中央道の対象区間では2019年度を上回っていますが、この結果を中央道全線や全国の高速道路に広げることはできません。また、この表だけでは、観光、通勤、物流のどの利用が増えたかも分かりません。用途を説明するには車種別や曜日別の資料が必要です。
東名阪道の減少――並行する新名神を足すと見え方が変わる
既存路線の減少が交通需要全体の減少を意味しないことは、三重県内の新名神・東名阪道で具体的に確認できます。
NEXCO中日本の事後評価資料は、東名阪道の四日市IC〜鈴鹿ICと、並行する新名神の菰野IC〜鈴鹿PAスマートICを比較しています。新名神高速道路の事後評価資料
単位は千台/日。資料の丸められた値をそのまま掲載しています。
| 年 | 東名阪道 | 新名神 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 2018 | 98 | 未開通 | 98 |
| 2019 | 59 | 43 | 102 |
| 2020 | 51 | 37 | 88 |
| 2021 | 55 | 41 | 96 |
| 2022 | 58 | 44 | 102 |
2018年から2022年にかけて、東名阪道は約9万8,000台から約5万8,000台へ減りました。旧路線だけを見ると約41%減です。
ところが、並行する新名神を加えると約10万2,000台で、開通前より約4,000台、約4%多くなっています。旧路線の大幅減と、並行2路線の合計増が同時に起きています。
合計すればよいのは、対応する区間だけ
この比較が有効なのは、同じ地域を横切る並行区間を対応させているからです。東名全線と新東名全線の平均値を無条件に足しても、長さや接続区間の違いが残ります。
また、上表は通過した車の台数です。地域の住民数や、重複のない利用者数ではありません。新名神の開通が合計約4%増のすべてを生んだと断定することもできず、移動需要の変化や他ルートからの転換を分ける追加分析が必要です。
車が移ると、接続先では増える場合もある
分散の効果は、周辺のすべての区間に同じように現れません。
2009年のNEXCO西日本の発表では、新名神開通後、並行する東名・名神で交通が減る一方、接続する東名阪道や名神の一部では交通量の増加と渋滞の悪化が報告されています。新名神・亀山JCT〜草津田上ICの交通状況と整備効果
通勤や配送への影響を知りたいときは、路線全体の増減だけでなく、利用するIC間と合流先まで見る必要があります。
「利用台数」と「混み具合」――同じ台/日でも指標が違う
高速道路の利用が増えたかを調べる際は、何を1台と数えているかが重要です。
NEXCO中日本のデータ集は、二つの指標を区別しています。
- 断面交通量:区間ごとに通過した台数の平均値。
- 利用交通量:料金所を通過した台数の平均値で、1回の利用につき1台と数える。
2024年度の東名・東京〜小牧では、断面交通量は5万8,188台/日、利用交通量は42万5,502台/日です。これは数字の食い違いではなく、異なる地点から出入りする利用をどう数えるかの違いです。NEXCO中日本「2025年版データ集」
直近の利用回数は増えている
同じデータ集で2022年度と2024年度を比べると、対象区間の利用交通量は次のように変わっています。
- 東名・東京〜小牧:41万5,435台から42万5,502台へ、2.4%増。
- 名神・小牧〜八日市:7万5,423台から7万6,616台へ、1.6%増。
- 中央道・八王子〜河口湖:4万8,671台から5万30台へ、2.8%増。
この3区間では、直近の利用回数は増加しています。ただし名神はNEXCO中日本の管理区間であり、長期表の名神と範囲が異なります。二つの表をつないで「名神全線の2024年度」とすることはできません。
渋滞は年間平均だけでは分からない
年間平均は、交通の多い時間帯と少ない時間帯をならします。平均が下がっても、休日の帰宅時間や合流部に車が集中すれば、利用者が遭遇する混雑は残り得ます。
混み具合を知るには、交通量に加えて、時間帯別の速度、渋滞時間、車線数、工事規制を見る必要があります。利用回数の増減だけで、所要時間の変化を判断することはできません。
2026年の観測――同じ東名でも区間差は大きい
直近の区間別資料も、路線平均だけでは見えない差を示しています。
2026年5月8日公表のゴールデンウィーク資料では、4月25日〜5月6日の平均交通量は以下の通りでした。各区間の全車種合計で、年間平均ではありません。NEXCO3社など「2026年GWの交通状況」
- 東名・秦野中井〜大井松田:11万2,800台/日、前年同期比99%。
- 東名・静岡〜焼津:4万5,100台/日、同99%。
- 新東名・新静岡〜静岡SAスマート:7万1,800台/日、同102%。
東名の二つの区間だけでも約2.5倍の差があります。「東名は減った」という路線平均の説明が、どの区間にも同じように当てはまるわけではありません。
一方、この連休の数字から2026年度全体の増減は判断できません。休日の並び、天候、規制などの条件も異なるため、前年同期比はその期間の比較として読むのが適切です。
暮らしへの意味――見るべきなのは、自分が通る区間と並行ルート
交通量の長期推移から分かるのは、既存の主要路線の増減と、高速道路網全体の利用の変化を分ける必要があることです。
東名・名神は、長期的に増え続けてはいません。しかし、並行道路への移動を含めずに「高速道路離れ」と結論づけることもできません。東名阪道の例では、旧路線の交通量が大幅に減っても、並行2路線の合計は増えていました。
今後の数字は、次の三つに分けると読みやすくなります。
- 旧路線が減り、並行路線を含む合計が横ばいなら、ルートの分散を確認する。
- 並行路線を含む合計も減るなら、車種別・平休日別にどの利用が減ったかを調べる。
- 合計が増え、特定区間の速度が下がるなら、交通量が集まる合流部や時間帯を確認する。
通勤、帰省、配送の所要時間を考えるうえで、全国の総台数だけでは情報が足りません。次に確認したいのは、使うIC間の交通量、並行ルートへの分散、そして出発する時間帯の混雑です。
