健康寿命トップはシンガポール73.7年 日本は73.4年、平均寿命との差を読む
WHOの2021年推計では、健康寿命が最も長い国はシンガポールの73.7年です。日本は73.4年で2位。韓国が72.5年で続き、上位3か国を東アジアが占めました。
ただし、平均寿命から健康寿命を引くと、日本には約11年の差があります。長生きできる国と、健康上の制約が生じる期間を短く抑えられる国は、必ずしも同じではありません。
この記事の要点は次の4つです。
- 2021年の健康寿命はシンガポールが73.7年で世界首位
- 日本は73.4年、平均寿命84.5年との差は11.1年
- 米国は健康寿命63.9年で、日本より9.5年短い
- 「平均寿命との差」は、介護が必要な期間や寝たきり期間を直接示す数字ではない
使用したデータと比較条件
今回の比較には、世界保健機関(WHO)の「Global Health Estimates 2021」を使います。WHOの健康寿命データは2024年8月に更新された公式推計で、現時点で国際比較に利用できる最新年は2021年です。
比較条件は次のように統一しました。
- 指標:出生時の平均寿命と健康寿命(HALE)
- 対象年:2021年
- 対象:男女計
- 単位:年
- 地域:WHO加盟国のうち、上位国と主要国を抜粋
- 差:平均寿命-健康寿命(小数第1位で計算)
WHOは健康寿命を、病気やけがによって「完全な健康状態ではない」期間を、その重さに応じて調整したうえで、出生時点から何年を健康に過ごせるか示す指標と定義しています。
つまり、死亡年齢だけを見る平均寿命に、病気や障害による生活上の制約を組み込んだ推計です。
健康寿命が最も長いのはシンガポール
2021年の首位はシンガポールで、健康寿命は73.7年でした。日本の73.4年との差は0.3年、約4か月です。
WHOのランキング上位10か国は次の通りです。数値は男女計の出生時健康寿命で、同じ推計方法によって比較されています。
| 順位 | 国 | 健康寿命 |
|---|---|---|
| 1 | シンガポール | 73.7年 |
| 2 | 日本 | 73.4年 |
| 3 | 韓国 | 72.5年 |
| 4 | アイスランド | 71.4年 |
| 5 | ルクセンブルク | 71.2年 |
| 6 | ノルウェー | 71.2年 |
| 7 | スイス | 71.1年 |
| 8 | スウェーデン | 71.1年 |
| 9 | スペイン | 71.1年 |
| 10 | イスラエル | 70.8年 |
小数第1位で同じ国があるため、わずかな順位差を実質的な優劣とみなすべきではありません。それでも、シンガポール、日本、韓国の3か国が72年以上となり、欧州の上位国より長いことは明確です。
上位国に共通するのは「死亡の遅さ」だけではない
健康寿命が長くなる経路は一つではありません。若年・中年期の死亡が少ないことに加え、高齢期の病気や障害による負担が軽いほどHALEは伸びます。
国ごとの差に関係し得る背景には、次のような要素があります。
- 医療へのアクセスと予防接種、健診などの予防サービス
- 心血管疾患、がん、糖尿病など非感染性疾患の発生と管理
- 喫煙、飲酒、食事、身体活動といった生活習慣
- 交通事故、自殺、薬物関連死など若い年代の死亡
- 所得、教育、住宅、労働環境など健康を左右する社会条件
- 高齢化によって増える認知症や運動機能低下への対応
ただし、順位表だけから「この制度が健康寿命を延ばした」と因果関係を決めることはできません。人口構成、疾病構造、感染症流行、統計の基礎資料も国ごとに異なるためです。
平均寿命との差は日本で11.1年
健康寿命だけでなく、平均寿命との差を見ると、長寿国が抱える別の課題が見えてきます。
主要6か国と世界平均を同じ2021年のWHO推計で比べました。
| 国・地域 | 平均寿命 | 健康寿命 | 差 |
|---|---|---|---|
| シンガポール | 約83.9年 | 73.7年 | 約10.2年 |
| 日本 | 84.5年 | 73.4年 | 11.1年 |
| 韓国 | 約83.7年 | 72.5年 | 約11.2年 |
| スイス | 83.3年 | 71.1年 | 12.2年 |
| スペイン | 約83.0年 | 71.1年 | 約11.9年 |
| 米国 | 76.4年 | 63.9年 | 12.5年 |
| 世界 | 71.4年 | 61.9年 | 9.5年 |
表から分かるのは、健康寿命の長さと「差」の小ささは別の評価軸だということです。
日本の健康寿命は世界2位ですが、平均寿命との差は11.1年あります。世界平均の差は9.5年なので、日本のほうが1.6年長くなっています。
これは、日本では健康を損なった後に長く生きる人が多い、という単純な意味ではありません。若年死亡が少なく、高齢まで生存する人が多い国では、加齢に伴う病気や障害を経験する人数も増えます。その負担を人口全体で調整した結果が、平均寿命とHALEの差に表れます。
ここがポイント: 平均寿命が長いだけでは、健康寿命との差は自動的に縮まりません。死亡を減らす取り組みに加え、慢性疾患や障害の重さを抑える対策が必要です。
米国は平均寿命と健康寿命の両方が低い
米国の2021年の健康寿命は63.9年で、日本より9.5年短い水準でした。平均寿命も76.4年で、日本との差は8.1年です。
米国は平均寿命と健康寿命の差が12.5年あり、比較した国の中では大きい側に位置します。2021年は新型コロナウイルス感染症の影響を強く受けた年であるため、平時の医療制度や生活習慣だけで説明することはできません。
WHOによると、2019年から2021年にかけて、米国を含む米州地域では平均寿命が約3年、健康寿命が約2.5年低下しました。同じ感染症危機でも、死亡率や医療への負荷が地域ごとに異なり、2021年の国際差を広げています。
2000年以降、世界は長寿化したが「差」は縮まらなかった
長期推移で最も重要なのは、パンデミック前まで健康寿命が延びた一方、平均寿命との差が縮まらなかったことです。
世界の推移を3時点で整理すると、次のようになります。
- 2000年:平均寿命66.8年、健康寿命58.1年、差8.7年
- 2019年:平均寿命73.1年、健康寿命63.5年、差9.6年
- 2021年:平均寿命71.4年、健康寿命61.9年、差9.5年
2000年から2019年までに、平均寿命は6.3年延びました。一方、健康寿命の伸びは5.4年です。健康寿命も改善しましたが、伸び幅は平均寿命に届かず、差は0.9年広がりました。
WHOは、この時期のHALE改善について、障害を抱えて暮らす年数そのものが大幅に減ったというより、死亡率の低下による部分が大きいと説明しています。
パンデミックで約10年分の進歩が後退
2019年から2021年には状況が逆転しました。
世界の平均寿命は1.8年減って71.4年、健康寿命は1.5年減って61.9年となりました。いずれも2012年ごろの水準まで後退しています。
この変化は、2021年のランキングを読むうえで欠かせません。感染拡大の時期、超過死亡の規模、年齢構成は国によって異なります。2021年だけの順位には、長期的な健康状態に加えてパンデミック対応の差も含まれています。
一方、2000年から2021年までの改善幅を見ると、韓国の健康寿命は66.6年から72.5年へ5.9年伸びました。スイスは68.4年から71.1年へ2.8年の伸びです。2021年の水準だけでなく、出発点と改善速度を併せて見ると、国ごとの変化をより正確に捉えられます。
「差の年数」を介護期間と読み替えてはいけない
平均寿命と健康寿命の差は分かりやすい数字ですが、個人の晩年をそのまま表すものではありません。
11.1年間ずっと不健康という意味ではない
HALEは、病気や障害がある年をすべて1年ずつ差し引く指標ではありません。健康状態の重さに応じて調整します。
例えば、比較的軽い制約のある状態を長く経験する場合と、重い障害のある状態を短期間経験する場合では、健康寿命への反映のされ方が異なります。したがって、日本の11.1年を「平均して11.1年間寝たきりになる」「11.1年間介護が必要になる」と解釈するのは誤りです。
日本国内で公表される健康寿命とは定義が違う
日本の厚生労働省が国内政策で使う健康寿命は、国民生活基礎調査の「日常生活に制限のない期間の平均」などを基に計算します。本人の回答を使う指標で、WHOのHALEとは算定方法が違います。
そのため、国内統計の健康寿命とWHOの73.4年を横に並べ、増減や男女差を直接比較することはできません。国際比較ではWHO、都道府県比較では厚生労働省というように、目的に合う同一系列のデータを使う必要があります。
推計には不確実性がある
死亡登録や疾病データの整備状況は国ごとに異なります。WHOは、不完全なデータを補うためモデル推計を用いており、各数値には不確実性の幅があります。
また、2021年版は疾病推計や計算方法が改訂されています。WHOは、以前に公表した旧系列のHALEと現在の2000~2021年系列を直接比較しないよう注意を促しています。
順位が0.1~0.3年しか違わない国同士について、「明確に健康状態が優れている」と断定できないのはこのためです。
健康寿命を生活の数字として見るには
国際順位より実生活に近い問いは、「健康上の制約が生じたとき、どの負担が本人や家族に及ぶか」です。
平均寿命と健康寿命の差が大きい社会では、次の需要が長期化しやすくなります。
- 通院や服薬を続けながら働ける職場環境
- 住宅の段差解消や移動を支える公共交通
- 訪問診療、リハビリ、介護サービスへのアクセス
- 家族介護者の休業・離職を防ぐ支援
- 認知症や複数の慢性疾患を抱える人への継続的なケア
ただし、HALEだけでは、こうしたサービスが十分かどうかは判断できません。医療費、要介護率、疾病別の負担、所得階層や地域別の格差を組み合わせて見る必要があります。
今後の注目点は、次回のWHO推計で2021年以降の回復がどう表れるかです。
- 平均寿命だけが先に戻るのか
- 健康寿命も同じ速度で回復するのか
- シンガポール、日本、韓国の上位3か国が順位を維持するのか
- 各国内の所得・地域・男女による格差が縮まるのか
世界首位の73.7年という数字は到達点ではありません。次に見るべきなのは、長寿国が約10~12年ある平均寿命との差を縮められるか、そして健康上の制約があっても生活を続けやすい社会をつくれるかです。
