持ち家率9割の国と6割の日本――住宅所有の国際比較で見落としやすい違い
持ち家に住む人の割合が高い国として、EUではルーマニア、スロバキア、ハンガリーが挙がり、2024年はいずれも9割を超えた。日本の持ち家住宅率は2023年に60.9%で、米国の直近値65.0%、カナダの2021年値66.5%より低い。
ただし、欧州の数字は主に「人」、日本・米国・カナダの数字は「住宅や世帯」を数えている。数値をそのまま並べて、日本の世界順位や購入のしやすさを判断することはできない。
この記事では、同じ条件で比べられる欧州内の差を先に確認し、日本と北米の数値、長期推移、集計方法の違いを読み解く。
- EUでは、持ち家に住む人口の割合に4割台から9割台までの差がある。
- 日本は約30年間、持ち家住宅率がほぼ6割で推移してきた。
- 持ち家率には住宅ローン返済中の住宅も含まれる。
- 高い持ち家率は、若い世代が家を買いやすいことや、住環境の良さを直接示さない。
使用データ:欧州内の比較と、日本・北米の比較を分ける
比較の条件をそろえられる範囲と、参考値として見る範囲を分けることが、この数字を読む出発点になる。
2026年10月8日時点で確認できた公表資料を使った。対象は各国・地域の全国値で、都市だけを比べたものではない。
使用した統計の条件は次のとおりだ。
- 欧州: Eurostat「Housing in Europe — 2025 edition」の2024年値。世帯に属する人口のうち、持ち家に住む人の割合。資料に掲載された整数の概数で比較する。
- 日本: 総務省統計局「2023年住宅・土地統計調査」。2023年10月1日現在の、居住世帯のある住宅に占める持ち家の割合。基本集計の確報は2024年9月25日公表。
- 米国: 米国国勢調査局「Housing Vacancies and Homeownership」の2026年第2四半期値。居住されている住宅に占める所有者居住住宅の割合。2026年7月28日公表。
- カナダ: カナダ統計局の2021年国勢調査。自らの住居を所有する世帯の割合。住宅に関する結果は2022年9月21日公表。
カナダの数字は古く見えるが、国勢調査による全国比較に使える公表値として採用した。米国の四半期値と同じ時点の数字ではない。
所有区分の読み方には、OECDの住宅所有形態の解説も用いた。このリンク先は2024年4月16日更新版であり、以下の最新数値の出典とは分けて扱う。
欧州の差:9割を超える国がある一方、賃貸が多数の国もある
EU内では、ルーマニアなどの高い所有割合と、賃貸が多い国との差が大きい。
Eurostatの2025年版住宅統計に掲載された2024年値を、同じ人口ベースで並べると次のようになる。
| 国・地域 | 持ち家に住む人口の割合 |
|---|---|
| ルーマニア | 約94% |
| スロバキア | 約93% |
| ハンガリー | 約92% |
| クロアチア | 約91% |
| EU全体 | 約68% |
| デンマーク | 約61% |
| オーストリア | 約54% |
| ドイツ | 約47% |
表はEU全加盟国のランキングではなく、高い国と低い国を抜き出した比較だ。デンマーク、オーストリア、ドイツの所有割合は、資料の賃貸割合を100%から差し引いた概数である。
ルーマニアとドイツの差は約47ポイント。前者では持ち家に住む人が大多数を占め、後者では賃貸に住む人が過半数を占める。同じ欧州でも、住まいを確保する方法は一様ではない。
「94%が所有」は、94%が自分名義の家を持つという意味ではない
人口ベースの指標は、住んでいる住宅を世帯が所有しているかで分類する。
たとえば、親が所有する家に親子4人で暮らしていれば、4人とも「持ち家に住む人口」に入る。子どもが住宅を購入したわけではない。
この違いは、若者の住宅取得を考えるときに大きい。親の家で暮らす若者が多くても、人口ベースの所有割合は高くなり得る。知りたいことが「独立して家を買えるか」なら、年齢別の所有割合だけでなく、親との同居や世帯形成も見る必要がある。
日本と北米:日本は6割だが、同時点の順位ではない
日本の持ち家住宅率は、米国・カナダの掲載値より低いものの、調査年と方法が異なるため差の大きさは参考として読む必要がある。
欧州の人口ベースとは分け、住宅・世帯ベースの数値をまとめた。
| 国 | 所有割合 | 対象時点 | 集計単位 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 60.9% | 2023年10月1日 | 居住世帯のある住宅 |
| 米国 | 65.0% | 2026年第2四半期 | 居住されている住宅 |
| カナダ | 66.5% | 2021年 | 世帯 |
数値上、日本との差は米国が4.1ポイント、カナダが5.6ポイントとなる。ただし、これは同一年・同一調査で測った差ではない。日本を「世界で何位」と位置づけるための表でもない。
日本の60.9%の分母には、所有関係が不詳の住宅も含まれる。そのため、残り39.1%をすべて借家と読むのも誤りだ。
また、米国の65.0%は、前年同期の65.0%とほぼ同じで、前四半期の65.3%とも統計的に有意な差がないと公表されている。0.3ポイントの動きだけで「持ち家離れが進んだ」と判断することはできない。米国国勢調査局の公表資料
推移を見ると、日本は「持ち家が増えても率は下がる」
日本では持ち家の戸数が増えている一方、持ち家住宅率は近年わずかに低下している。
住宅・土地統計調査の確報にある全国の持ち家住宅率は、次のように推移した。
- 1993年:59.8%
- 2003年:61.2%
- 2013年:61.7%
- 2018年:61.2%
- 2023年:60.9%
約30年間を通すと、おおむね6割で推移している。2013年から2023年の低下幅は0.8ポイントであり、長期の数字から急激な変化とは読めない。
一方、持ち家は2018年の3280万2千戸から、2023年の3387万6千戸へ107万4千戸増えた。居住世帯のある住宅全体も増え、その増加率が持ち家を上回ったため、所有割合は0.3ポイント下がった。
割合の低下と、持ち家の戸数の減少は別の現象だ。 住宅購入が減ったのか、借家世帯が増えたのか、世帯構成が変わったのかを調べるには、割合と実数を一緒に確認する必要がある。
カナダでは10年間で2.5ポイント低下
カナダは2011年の69.0%から2021年の66.5%へ低下した。カナダ統計局は、北西準州を除くすべての州・準州で所有割合が下がったと報告している。カナダ統計局の比較資料
この動きは、日本の「おおむね6割」という長期推移とは異なる。ただし、所有割合だけから、価格上昇、人口移動、賃貸住宅の供給などの寄与を切り分けることはできない。
購入しにくくなったという見方を検証するなら、住宅価格と所得の関係、年齢別の所有割合、借り入れ条件を追加する。所有割合の低下は、その検証の入口になる数字だ。
国による差は、現在の所得だけでは説明できない
高い持ち家率には、過去に住宅を誰へ、どのように売却したかという制度の履歴も残る。
OECDは、中東欧でローンのない持ち家世帯が多い背景として、社会主義体制の崩壊後に、多くの入居者が住んでいた住宅を低価格で購入できたことを挙げている。
これは、今日の若い世代が市場価格で買う場面とは違う。以前に取得した家を引き継ぐ世帯と、今から頭金を用意する世帯では、同じ「持ち家」に到達するまでの条件が異なる。
したがって、所有割合の高い国を見て「所得が高いから」「住宅が安いから」と一つの理由に結びつけるのは早い。購入、相続、家族からの援助、過去の住宅売却政策を分けて考える必要がある。
ローン返済中と、ローンのない所有を分ける
住宅を所有していても、毎月の返済が続く世帯と、返済がない世帯では家計の条件が違う。
OECDの標準的な所有区分では、次を分けている。
- 住宅ローン残高のない持ち家
- 住宅ローン返済中の持ち家
- 市場家賃の賃貸
- 補助などにより家賃が低い賃貸
- 無償提供など、その他の居住形態
所有割合が同じでも、この内訳が違えば、金利の変化を受ける世帯の多さも変わる。ただし、各国の統計では一部の区分が統合されるなど、分類上の制約がある。
ここがポイント: 持ち家率が示すのは、主に「今の住居を所有しているか」。これから買えるか、ローン負担が軽いか、長く安心して住めるかは、別のデータで確かめる。
誤読しやすい点:所有割合だけでは暮らしの良さを測れない
持ち家率を生活の評価に使うなら、住居の広さや世帯構成を重ねて見る必要がある。
まず、持ち家には分譲マンションなども含まれる。「持ち家率」は「一戸建て率」ではない。また、賃貸住宅の建物にも所有者はいるが、この指標が見ているのは、原則として住んでいる世帯がその住居を所有しているかどうかだ。
所有していても、手狭な住宅に暮らす場合がある
Eurostatの2024年データでは、持ち家に住む割合が約94%のルーマニアで、過密居住の割合も約41%だった。過密居住は、世帯人数や年齢構成などに照らして部屋数が足りるかで判定する指標である。
高い所有割合と、十分な広さは同じではない。家を所有しているかに加え、同居人数に対して部屋が足りるかを見ることで、住宅の実際の使われ方が分かる。
逆に、賃貸が多い国についても、それだけで生活が不安定とは判断できない。契約期間、家賃改定のルール、住み替え先の選択肢などを確認して初めて、借りて暮らす条件を比較できる。
人口ベースと世帯ベースでは、同じ住宅市場でも率が変わる
仮に、持ち家の4人世帯が1組、賃貸の単身世帯が1組だけあるとする。
- 世帯ベースの所有割合:2世帯中1世帯で50%
- 人口ベースの所有割合:5人中4人で80%
これは集計方法を説明する仮定例で、実際の国の数値ではない。持ち家世帯と賃貸世帯で人数が違えば、同じ居住状況でも結果が変わることを示している。
EUの約68%と日本の60.9%を引き算しても、その差には住宅市場の違いと集計単位の違いが混ざる。厳密な日欧比較には、人口か世帯のどちらかにそろえたデータが必要だ。
次に見る数字:若者の住宅取得か、既存の持ち家の維持か
国全体の持ち家率を知った後は、知りたい生活上の問題に合わせて指標を選ぶとよい。
新しく住まいを確保する人の条件を知りたいなら、全国平均よりも、年齢別・所得別の所有割合や新規の取得状況が役に立つ。すでに所有する世帯の暮らしを知りたいなら、ローン残高や住宅の維持状況を見る。
確認する順序は、次のように整理できる。
- 若者が家を買えるか: 年齢別の所有割合、親との同居、住宅価格と所得の関係。
- 購入後の負担が続くか: ローン返済の有無、残高、維持・修繕費。
- 賃貸で住み続けられるか: 契約条件、家賃改定、利用できる住宅の種類。
- 住環境が十分か: 部屋数、世帯人数、住宅の設備や状態。
日本の60.9%は、全国の居住形態をつかむ入口になる。次に確かめたいのは、同じ6割の中で「新しく所有できる世帯」と「すでに所有する住宅を維持する世帯」がどう変わっているかだ。次回の統計を見る際も、所有割合だけでなく、持ち家の戸数と年齢・所得別の内訳を並べたい。
