貯蓄平均2059万円でも安心とは限らない——中央値と負債で読む家計の余裕
日本の家計の貯蓄は、全国の二人以上の世帯で見ると増えている。2025年の平均貯蓄額は2059万円となり、前年から75万円増えた。ただし、貯蓄ゼロの世帯も含めた中央値は1167万円で、平均額の増加を、そのまま多くの家庭の余裕の増加とは受け取れない。
平均と中央値は、どちらか一方が正しいという関係ではない。家計全体の水準を見る平均に、分布の中央を見る中央値、借入残高、使える資金の種類を重ねると、数字の意味が変わってくる。出典:総務省統計局「家計資産」
この記事では、次の3点を確認する。
- 貯蓄の増加は、平均だけでなく中央値にも表れているか。
- 貯蓄ゼロの世帯を含めるかどうかで、比較はどう変わるか。
- 年齢、負債、資金の使いやすさを加えると、家計の見え方はどう変わるか。
使用データは2025年の全国・二人以上の世帯
ここで検証するのは、日本の全世帯ではなく、家計調査の「二人以上の世帯」の貯蓄である。
主な資料は、総務省統計局の「家計調査(貯蓄・負債編)2025年平均結果」。2026年5月19日に公表され、2025年の年報は同年9月4日に掲載された。2026年10月8日時点で確認できる最新の年平均結果を使い、過去の年平均と比較する。2026年1~3月期の結果も公表されているが、四半期と年間を混ぜて増減を判定しない。出典:調査結果一覧、家計調査の更新情報
比較条件は次のとおり。
- 対象地域: 全国。
- 対象世帯: 二人以上の世帯。単身世帯は含まない。
- 金額の単位: 1世帯当たり、万円。物価調整前の名目額。
- 集計範囲: 貯蓄・負債が不詳の世帯を除く。
- 時間の意味: 年平均の残高。1年間に新たに貯めた金額ではない。
「貯蓄」は銀行預金だけを指さない。預貯金、生命保険など、有価証券などを含むため、全額が今日すぐ使える現金というわけでもない。出典:2025年平均結果の概要
平均も中央値も増えたが、増え方は同じではない
貯蓄増加は平均だけの現象ではないが、中央値が毎年上がってきたわけでもない。
同じ調査の年平均を抜き出すと、次の推移になる。
| 年 | 平均貯蓄額 | 貯蓄保有世帯の中央値 |
|---|---|---|
| 2016年 | 1820万円 | 1064万円 |
| 2018年 | 1752万円 | 1036万円 |
| 2020年 | 1791万円 | 1061万円 |
| 2022年 | 1901万円 | 1168万円 |
| 2023年 | 1904万円 | 1107万円 |
| 2024年 | 1984万円 | 1189万円 |
| 2025年 | 2059万円 | 1264万円 |
出典は総務省統計局「2025年平均結果の概要」。平均は貯蓄ゼロを含み、この表の中央値は貯蓄ゼロを除く。
2016年から2025年にかけて、平均は239万円、約13.1%増えた。貯蓄保有世帯の中央値も200万円、約18.8%増えている。増減率は公表額から計算した。
一方、2022年から2023年には、平均が3万円増えたのに中央値は61万円減った。全体の平均残高が増えても、分布の中央が同じ方向に動くとは限らないことが分かる。
2025年は両方とも前年から75万円増えた。増加率は平均が約3.8%、貯蓄保有世帯の中央値が約6.3%である。したがって、2025年の増加を「高額の貯蓄を持つ世帯だけの話」と片付けるのも正確ではない。
ただし、この調査は同じ家庭の残高を長期間追い続けた記録ではない。「中央の世帯が75万円を貯めた」とは読めず、各年の世帯分布の中央が動いたと理解する必要がある。
平均との差を読む前に、中央値の対象をそろえる
家計全体の中央を知りたいなら、貯蓄ゼロを含めた中央値を見る必要がある。
2025年には、次の3つの数字が公表されている。
- 平均貯蓄額:2059万円。貯蓄ゼロの世帯を含む。
- 貯蓄保有世帯の中央値:1264万円。貯蓄ゼロの世帯を除く。
- ゼロを含む中央値:1167万円。参考値として公表。
よく使われる1264万円は、貯蓄を持つ世帯の中での中央である。ゼロを含めると97万円低くなる。出典:総務省統計局「家計資産」
平均2059万円は「普通の家庭」の目安ではない
平均は、全世帯の貯蓄額を合計して世帯数で割る。高額の貯蓄を持つ世帯がいると、その金額も反映して上がる。中央値は少ない順に並べた中央を見るため、上位の金額の大きさに左右されにくい。
対象をそろえて比べると、平均2059万円はゼロを含む中央値1167万円の約1.76倍。差は892万円ある。実際、平均を下回る世帯は66.1%に達する。出典:2025年平均結果の要約
平均未満であることは、それだけで家計が例外的に苦しいことを意味しない。貯蓄額の分布では、平均未満の側に多数の世帯がいる。
中央値にも「十分な余裕」の答えはない
中央値は分布上の位置を示す数字であり、必要資金の基準ではない。
同じ残高でも、住宅ローンの有無、扶養する人数、毎月の支出、収入が途切れた場合の備えによって意味が変わる。中央値以上だから安心、以下だから危険、と個々の家庭を判定することはできない。
また、平均と中央値の差だけでは、格差が拡大したかどうかも確定しない。ゼロの割合や下位・上位の分布がどう動いたかを、同じ定義で確認する必要がある。
年齢と負債を加えると、全国平均の見え方が変わる
家計の余裕を読むには、貯蓄残高と借入残高を同じ世帯区分で見ることが欠かせない。
2025年の世帯主の年齢別平均では、40歳未満は貯蓄994万円に対して負債1882万円。60~69歳は貯蓄2843万円に対して負債234万円だった。出典:2025年平均結果の概要・世帯主の年齢階級別
全国平均2059万円には、こうした年齢別の違いが一緒に入っている。若い世帯の家計を見るときに、そのまま全国平均を目標額として置くと、比較相手がずれる。
貯蓄から負債を引いても、資産全体にはならない
貯蓄994万円から負債1882万円を引くと、40歳未満の平均差額はマイナス888万円になる。しかし、この差額だけで「資産がマイナス」とは断定できない。
住宅取得の借入がある場合、対応する住宅・土地の価値まで計算に入れなければ、資産全体の差し引きにはならない。また、住宅を保有していても、その価値をそのまま日々の生活費に使えるわけではない。
ここでは、次の問いを分けると誤読が減る。
- 資産と負債を差し引いた保有状況はどうか。
- 毎月の収入で支出と返済を賄えているか。
- 急な出費に使える資金はどの程度あるか。
この3つは、貯蓄残高ひとつでは答えられない。
年齢差は、同じ人の将来を示すものではない
年齢別の数字は、2025年に異なる年齢層を比べた結果である。今の若い世帯が年齢を重ねれば、必ず現在の60代と同じ残高になるという予測ではない。
住宅取得の時期、働き方、退職までの収入、相続などの条件が世代によって異なる可能性がある。年齢別比較は全国平均の内訳を理解する材料であり、個人の将来残高を約束する数字ではない。
貯蓄が増えても、すぐ使えるお金が同じだけ増えたとは限らない
貯蓄総額の増加を生活の余裕につなげて読むには、内訳と物価を確認する必要がある。
2025年の有価証券残高は平均440万円で、前年から63万円増えた。普通預金などの通貨性預貯金は710万円で18万円増加している。出典:2025年平均結果の要約
預貯金と有価証券では、価格の変動や換金の条件が違う。残高が増えたという情報だけでは、新たな積立、売買、評価額の変化をどの程度反映したのかは切り分けられない。「平均で75万円増えた」を「平均で75万円を生活費から取り分けた」と読み替えることはできない。
物価についても同じである。ここで示した金額は名目額なので、過去より残高が大きくても、それで買える商品やサービスが同じ割合で増えたとは限らない。
ただし、一般的な物価指数で調整すれば、あらゆる家庭の余裕が正確に測れるわけでもない。食費に多く使う世帯、家賃負担の大きい世帯、教育費がかかる世帯では、支出の組み合わせが異なる。貯蓄残高の実質的な価値と、毎月の家計収支は分けて確認したい。
別の調査と比べるときは、数字より先に定義を見る
「貯蓄」や「金融資産」という似た名称でも、調査対象と含める資産が違えば、平均や中央値は直接つながらない。
別の資料でより小さい中央値を見つけても、それだけでどちらかが誤っているとはいえない。まず以下を確認する必要がある。
- 単身世帯か、二人以上の世帯か。
- 日常の出し入れに使う預金をどう扱っているか。
- 資産ゼロの世帯を含めているか。
- 1世帯当たりか、1人当たりか。
- 年平均か、特定の調査時点か。
今回の家計調査は、貯蓄・負債編の対象を二人以上の世帯としている。出典:2025年家計調査年報
したがって、この記事の1167万円を単身者の「一般的な貯蓄額」として使うことはできない。全国の世帯全体を検証するには、単身世帯も扱う資料を加え、定義をそろえる作業が必要になる。
次に見るべきは、平均の記録更新より中央と下位の変化
2025年は平均と貯蓄保有世帯の中央値がともに増えたが、家計の余裕が広がったかを判断するには、まだ分布の確認が必要である。
今後の公表で注目したいのは、次の3点だ。
- ゼロを含む中央値: 平均が上がる一方で中央が下がっていないか。同じ対象で年ごとに比べる。
- 少額・ゼロの世帯の割合: 中央が上がっても、資金の薄い世帯が増えていないかを見る。
- 年齢別の貯蓄と負債: 全国平均の増加が、住宅取得期など負担の大きい層にも表れているかを確かめる。
「平均2059万円」は家計全体の残高を把握する入口になる。しかし、自分の暮らしに引きつけるときは、対象が近い世帯区分、毎月の返済、急な支出に使える資金へと確認を進めたい。平均との距離だけでは、来月の家計が耐えられるかは分からない。
